花騎士とレズ団長とセクハラ六人衆   作:イッチー団長

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最近総合格闘技にハマってるので、今回のお話にはそんな要素が随所に見られます。
影響されやすいんですよ、私って……


ベルガモットバレー 真紅

 ボクシング。現在春庭でも人気のある、己の拳のみで戦う格闘技である。そして今、ベルガモットバレーに春庭最大級のボクシングジムが設立された。

 

「どうですかな、ブリオニアさん。活きのいい若手が揃ってるでしょう」

「うん。レベルが高いね、ここの選手は」

 ジム新設記念のゲストとして呼ばれたのは花騎士のブリオニアだった。戦術を学んでいる彼女にとっては、格闘技を学ぶこともその一環なのだ。

 

「流石春庭ボクシング界の頂点、『害虫殺しのタイタン』のジムだね」

「はは……いやぁ、ブリオニアさんからそう言われるとお恥ずかしいですな」

 ジムの創設者はそう言ってはにかむ。

 そう、何を隠そう彼女こそが春庭ボクシングのヘビー級王者。つまり春庭一のボクサーなのだ。

 

 

 

 二人は応接間に場所を移した。

「それにしても本当に立派なジムだね」

「このジムは私の夢ですからね……」

 タイタンの瞳は遠くを見つめる。

 

「私は貧しい村で生まれ育ちました。その頃の私には夢など無かった……その日の飢えや乾きを凌ぐことで精一杯でした」

 害虫の脅威が和らいだ現代春庭でも、まだまだ安定した生活というものには程遠い。特に地域間での貧富の差というものは、決して見過ごすことの出来ない社会問題として認識されている。

「しかし私は運が良かった。子供の頃、村を襲った害虫を必死で殴り殺したのを、今の私のトレーナーが偶然目撃しました。それがボクシングを始めるきっかけになったのです」

 

「でも運だけじゃないよね。最強の階級ヘビー級でチャンピオンになれたのは、あなたのたゆまぬ努力があったから。あなたのファイトを見てると良く分かる」

 そう言われると、タイタンは恥ずかしそうに目を逸らした。

「それを否定はしませんが……しかし世の中には努力する機会すら与えられない子供が大勢いる。そんな子供達に夢を見せてあげることが、今の私の目標なのです」

 

 ブリオニアの視線は応接間に飾ってある黄金のチャンピオンベルトに向けられる。

(ヘビー級チャンピオンはボクシング界の顔って言われるけど……この人は正にボクシングの代表者なんだね。強さだけじゃなく、勤勉さも優しさも全てを兼ね揃えている)

 

 

 


「さて、これから公開スパーリングをご覧頂きます。ランキングに入った選手もいますし、ブリオニアさんも満足出来るかと思いますよ」

 そう言ってトレーニングルームの扉を開けると、そこには思いもよらない光景が広がっていた。

 

「うっ……ぐぅ……」

 傷だらけでうずくまる門下生達。唯一無傷で立っていたのは、

「やぁ。待ちくたびれたよ」

 赤髪のポニーテールの女だった。

 

 

 

「あなたは一体……」

「私は真紅。まぁ所謂道場破りだ」

 真紅と言う名にいの一番に反応したのはブリオニアだった。

 

「真紅……聞いたことがある。各地の格闘家に戦いを挑んでいる武芸者。彼女に壊された格闘家は数百人に登ると言われている……」

「ブリオニアさんに名前を知られているとは光栄だね」

 

「それで……その武芸者が何の用かね?」

 選手達を傷付けられた怒りを必死に抑え、何とか穏やかな声色を取り繕うタイタン。

「私は君と戦いたいんだよ、チャンプ。こんな弱者を何人倒したところで満足出来ないからねぇ」

「あなた……言葉には気を付けた方がいいよ……」

 先にキレたのはブリオニアだった。真紅を睨め付けながら距離を詰めていく。しかしタイタンはそれを手で制す。

 

「下がっていて下さい、ブリオニアさん。こんな野試合にお客さんの手を煩わせることは無い」

 そう言って試合用の10オンスのグローブを手に嵌め、ウォーミングアップを始めた。

 

「いいのかね、10オンスで。私としては6オンスだろうとベアナックルだろうと構わないよ。何たってこれはルール無用、何でもありのストリートファイトだからね」

「ふふ……何故ボクサーがグローブを嵌めるか分かるかい?」

「?」

 不思議そうな顔の真紅をよそに、タイタンはサンドバックの前に立つ。

 

「それはね……フンッ!」

 衝撃音がズシンとジム全体に響き渡る。タイタンの目の前にあったサンドバックは金具が外れ、数m前方まで吹っ飛んでいた。

(あのサンドバック、サイズから見て100kgはありそうなのに……)

 

「私のパンチ力は5tを超える。もし素手なら相手を殺しかねないからね」

「ふむ……良いパンチだ。害虫を殺せたのも頷ける」

 

 

 


 リングで向かい合う二人。

 

 タイタン 身長208cm 体重124kg

 真紅 身長175cm 体重70kg

 ボクシングでは決して戦うことのない体格差の二人の対決は、ゴングの音を聞くまでもなく開始された。最初に突っかけたのはタイタンだった。

 

「シュッ! シュッ!」

(凄まじい速さの左ジャブ。トップクラスの花騎士でもあれを避けるのは難しいと思う。でも……)

 それでも真紅はすんでのところでジャブをかわしていた。

 

(凄い反射神経……それに……)

 タイタンが右ストレートを打つと、真紅はそれを回避しつつ鋭い蹴りをタイタンのふくらはぎ目掛けて浴びせていった。

 

「カーフキック! あの人、ボクサーとの戦い方を熟知してる……」

 近年総合格闘技で主流となりつつある技、カーフキック。ふくらはぎを狙うこの技が何故脅威かと言うと、ふくらはぎは太ももに比べて筋肉量が遥かに少ないからである。更にふくらはぎのダメージが蓄積すると、打撃を放つ際の踏み込みにも影響が出てくる。

 

(カーフキックは脛でガードするのが基本だけど……足技に慣れていないボクサーじゃ、あの鋭いキックを裁くのはほぼ不可能。このままじゃ……)

 

「足への打撃はボクサーにはキツかったか。どうだいチャンプ、今の気分は?」

「ふふ……」

 笑っている。足へのダメージは相当なもののはずだが、タイタンは何故か清々しい顔で笑っていた。

 

「懐かしいな、この痛み。幼少期、よくチンピラに囲まれて全身ボコボコにされていたものだ。ボクサーになってからは忘れていたがね……」

「……」

「感謝する、真紅さん!」

 

 

 

 それから何度かキックを受けたが、タイタンが倒れることはない。そんな攻防が30分程続くと、いつの間にか門下生達が意識を取り戻していた。

「チャンプ……」

「もう止めて下さい! あなたは1試合10億ゴールドを稼ぐ女、こんな野試合で負傷したら……」

「はぁ……はぁ……止めないさ。私はボクシングという競技を代表してここに立っている。ここで諦めたら、春庭中のボクサーに示しがつかない!」

 

(これだけ蹴りを受けても、飽くまでボクシングを貫くか……見事!)

「だがこれで終わりにしようか、チャンプ!」

 膝の皿への蹴りがタイタンを襲う。だが彼女もただそれを受けただけでは無かった。

 

「ぐっ……おぉぉぉ!」

 膝が折れ、バランスを崩しながらも右ストレートを放つ。そのパンチはかろうじて真紅の顎に……届いた。

 

「がぁぁっ!」

 鼻血を吹き出し、ダウンを取られる真紅。しかし膝の皿が割れたタイタンも同時に倒れ込む。

 

「はぁ……はぁ……ふんっ!」

 真紅はその隙を見逃さず、すかさずタイタンの背後に回り込み、首を締め上げた。所謂スリーパーホールドだ。

 

「ぐぅぅぅ!」

「ギブアップしろ! 窒息するぞ!」

「チャンプ!」

 だがタイタンの手が真紅の腕を叩くことは無かった。彼女の意識が失くなると同時に、試合の幕は下りたのだった。

 

「はぁ……はぁ……もしもベアナックルでの試合なら、最後の一撃で私は失神していたかも知れない……だが結局は私が勝ったんだ。それだけが全てだ」

 それだけ言い残し、真紅はリングを降りた。

「ブリオニアさん、いずれ君とも戦いたい」

「……」

 真紅は寂しげな背を向けてジムを後にしたのだった。

 

 

 


「負けてしまいましたな……」

 病室のベッドの上、目を覚ましたタイタンがポツリと呟く。

 

「ナイスファイトだったよ、チャンプ。仇は私が必ず取る」

「いえ……ブリオニアさんには彼女を救ってもらいたいのです」

「救う?」

 その意外な言葉にブリオニアは目を丸くした。

 

「はい。手合わせして分かった……彼女の戦いへの愛情、ひたむきな努力。だからこそ、あんなに寂しそうに戦い続ける彼女を見るのは辛い」

「……彼女にとっては強い相手と戦うことが全てなのかも知れないね。それなら、彼女に勝たなければその渇きを埋めることは出来ない……ってことか」

「そう思います。だからブリオニアさん、必ず勝って下さい」

 

 ブリオニアはタイタンの大きな拳にそっと手を添えた。

「分かった……約束するよ、チャンプ」




(ヤバい、真紅さんにセクハラ要素が無い……)

春庭にボクシングというスポーツがあるのか分かりませんが、まぁ今後もプロレスラーとか出ると思うので、細かいことは気にしちゃいけないw

ここまで読んで頂き、ありがとうございました
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