そろそろ物語が動き始めるはず
アクア騎士団。ウィンターローズでも最強と言われるこの騎士団を、一人の女性が訪ねていた。
派手な紫色の長髪に、身長180cmは優に超えるであろう長身。何より目を引くのは、異様に発達した胸部装甲……所謂おっぱいである。
「どなたですか」
研修生の見習い団長、クロが扉を開けた。
「アクアを訪ねてきたのだけど」
「すみません。アクア団長とソヨゴ副団長は今留守でして」
「あらあら、それは残念ね」
そう言いながらクロの身体を舐め回すように見つめる。
(アクアの前に、若い娘をつまみ食いするのもいいかもね……♡)
ゆらりとクロに近付き、その平たい胸を一揉み。
「なっ……この!」
顔を真っ赤にしながら拳を振るうクロだったが、その攻撃は軽々と避けられ、女に背後に回り込まれてしまった。
「この触り心地はAカップね♡ 身長155cm、体重51kg、体脂肪率15%ってところかしら」
「離せ変態女ぁ!」
その時、もう一人の研修生、シロ団長が通り掛かった。
「クロ、何を騒いで……っ!?」
「シロ、誰か呼んできてくれ! こいつ不審者だ!」
「あらあら、不審者とは心外ね。私はセクハラーよ」
「セクハラーって何……ふぁぁ♡」
そのテクニックに腰を抜かされるクロ。若い身体を堪能した女は次の標的をシロに定めた。
「ちょ……止め……」
「止めなさい!」
そこに現れたのは、
「バニラさん……」
「あら、花騎士ね。随分と可愛いじゃない♡」
「お客さん、それ以上やるんなら力ずくでも出ていって貰いますよ」
「ふふ、そうやって虚勢を張ってるところも可愛いわ」
「虚勢……? このバニラちゃんがですか?」
バニラの右足が一歩踏み出されると、その周辺の空気がぐにゃりと歪む程の威圧感が発せられる。しかし女は涼しい顔をして彼女の前に立っていた。構えも見せずに。
「「はっ!」」
一瞬の出来事だった。二人の拳が互いの頬にヒットした。その騎士団中に鳴り響くような衝撃音に、新米二人はただただ茫然とするしかない。
「へぇ……中々やるのね」
「あなたこそ……ぺっ!」
コロンと音を立て、バニラの歯が床に転がる。
(凄い速さの打撃でした……バニラちゃんでも反応するのがやっとだった……)
「ふっ! はっ!」
「とりゃぁっ!」
互角。互角に打ち合っている。
(何者なんだあの変態女……何で花騎士と互角に戦えるんだよ……)
「「とぁぁっ!!」」
打撃と同時に距離を取る。二人とも顔面は血塗れながらもまだまだ余裕そうな表情が見て取れる。
「名前を聞いておこうかしら、花騎士のお嬢さん?」
「そう言う時は自分から名乗るのがマナーですよ」
「ふふ……それもそうね。私はムラサキ。アクアの姉でセクハラーよ」
「団長さんの……お姉さん!? なるほど、それならその強さも変態性も納得出来ますね……」
ここにアクアが居たら「納得しないで!」と突っ込んでいたことだろう。
「アタシはバニラちゃんです」
「バニラちゃんね……それじゃあ名前も聞いたことだし、そろそろ終わらせましょうか」
ムラサキの言葉と共に異様な威圧感が放たれ、バニラの額に冷や汗が伝った。
(はったり……じゃなさそうですね。それならば……!)
「だりゃぁっ!」
先に仕掛けたのバニラだった。左足で踏み込んでの高速ジャブがムラサキの顔面に直撃する。
鼻がひしゃげ、血が噴き出す。しかし、
「ふふ……」
何故かムラサキは余裕の笑みを浮かべていた。
「な、何を笑ってるんですか……?」
「ふふ、バニラちゃん、この世で一番強力な毒は何だと思う?」
「毒……? っ!?」
いつの間にかバニラの身体はふらついていた。視界は狭まり、体温が上昇している。
「こ、これは……」
「私の血を浴びたからね……私の血は媚薬よ」
「なっ!」
「はぁ……はぁ……」
「バニラさん!」
最早立っているのもやっとだった。そんなバニラにムラサキが一歩、また一歩と距離を縮めていく。
「ふふ、それじゃあ可愛がってあげましょう」
「や、止めろ~~~!」
その小さな身体をおっぱいが挟んだその時だった。
「バニラさん、伏せて!」
電撃だ。巨大な稲妻の柱がムラサキを襲った。
「不審者撃退用カラクリ……遠雷最終Ver」
そのカラクリの主は……花騎士の技術者、ガンライコウだった。
「正直このカラクリは使いたくなかった……パワーアップする団長さんに対抗するために強化を重ねた代物だから、普通の人間だと即死するわ」
(そんなの室内で使ったんか……)
「とにかくこの変態不審者を回収……っ!?」
ガンライコウもその場に居た者も全員戦慄した。電撃が直撃したはずのムラサキの身体が動き始めたのだ。
「そ、そんな……普通の人間が耐えられるわけ……」
「私を見くびったわね。私は『アクア側』の人間よ。この程度で死ぬわけがないわ」
取り押さえようと動く花騎士達だったが、ムラサキはそれを高速で回避。最後に自身の血を浴びせたのだった。
「今日はこれで失礼するわ。今度会ったら可愛がってあげるからね。アデュー」
敵が消えて残されたのは、発情した二人の花騎士だけだった。
「大丈夫ですか、バニラさん、ガンライコウさん!」
「今医師を呼んできます!」
「はぁ……はぁ……くぅ♡」
「この恨み、何倍にもして返してやるわ……んあぁ♡」
二人の悶々とした声は夜中まで続いたとか。
所変わり、ここはアクアの母、雪中の聖女の城。春庭を裏から動かすハーレム女王の城だけあって、その警備は世界最高峰を誇る。
彼女の娘含め、格闘技のスペシャリストが数千人、警備員として招集されているのだ。
そんな城に、ある女が足を踏み入れた。目深に被った帽子から銀色の長い髪が覗いている。
「失礼。入場許可証をお見せください」
「ありませんよ。母に会うのに許可証が必要ですかね」
「母……? あなた、ちょっと事務室におごぉっ!」
軽く顔を撫でただけのように見えた。だがそれは大の大人を数十m吹き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
「な、何ですかこのサイレンは!」
けたたましく鳴り響く警報音にアクア達三人は動揺を隠せない。ただ一人平穏を保っている聖女がゆっくりと口を開いた。
「……遂に来たわね、セクハラ六人衆!」
ここから物語が大きく動くようなそうでもないような、そんな感じです
ここまで読んで頂き、ありがとうございました