怠惰の鬼   作:堕落の鬼

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プロローグ

 

鬼、人を食する血の災厄。陽光を浴びる以外では死なないという不老不死に限りなく近い肉体を持ち、異能を開花させる個体もいる、悲嘆と怨嗟の声を生み続ける人間の天敵。

 

 鬼殺隊、惡鬼滅殺の下、古より闇に紛れて人喰い鬼の手から只人を護り続けて来た鬼を狩る者。鍛練で超人的な技を身に付け、智慧・業・力を以て鬼に立ち向かう政府非公認の組織。

 彼ら彼女らの戦いは、鬼の始祖たる鬼舞辻無惨を滅ぼすその時まで続く。

 

そんな戦いの裏で、1匹の鬼が生まれる。

その鬼は人を喰らわないがとても面倒くさがり屋で、自分の気が乗らなければ誰の命令にも従わないが、人を気まぐれに助ける…ちょっと変な鬼。

 

そんな鬼がどう生まれたのか、それは9年程前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

その鬼……名を古井 流浪(ふるい るら)という者は元は華族という身分の高い家柄で、三人兄弟の末っ子として生まれた。しかし兄二人よりも5年遅く産まれたせいか、家督の話や他の名家への養子の話は一切回って来なかった、しかし本人は「面倒な事が無くなったから楽だ」等と言って料理をしたり、畑を耕したりとのんびりしていた。

 末っ子がそんな風に過ごしていれば兄達や両親が怒るかと思われたが、最低限の自立…畑で作った野菜を料理店へ卸したり、不定期に屋台を開いて金銭を得る等はしていた上、兄達から可愛がられたため家を追い出されずに済んでいた。

 

 そしてある日、血の匂いと共に幸せは崩れた。

 

 

「……ん?」

 

 ある夜、物音が聞こえた為、流浪は物音が聞こえた場所へと向かう。

 何故外に出たかと言えば深夜1時でありながら余りにもうるさかったからだ。

 

「ちょっと、今何時だと思って―」

 

 騒いでいた家を見つけ一喝しようとした流浪は、放心状態になった。

 その家居間が殺人現場と化していたのだ。

 壁だけでなく天井にも血飛沫が染みつき、両親や兄達の遺体が横たわっていたのだ。そんな惨劇の中央に立つ、紅梅色の瞳と縦長の瞳孔を持つ見知らぬ男に流浪は釘付けとなった。

 

「……まだ誰かいたのか」

 

 地を這うような、相手の恐怖心を煽るような声に震え上がった。

 アレは人間じゃない。本物の化け物だ。

 身の危険を察知し、すぐさま逃げようとしたが、男の動きは早く、あっという間に片手で流浪の首を掴み持ち上げてしまう。

 

「ちょうどいい、貴様は鬼にしてやろう」

 

 鋭く尖った爪を首に突き刺し、男は自らの血を注ぎこんだ。

 その瞬間、流浪は声にならない悲鳴を上げて手足を振り回して暴れ始め、床に落とされてのたうち回った。

 

 男……鬼舞辻無惨は、この家が薬師の遠い家系と知り、「青い彼岸花」という植物の情報を聞きに訪れていた。しかし家主は何も知らないと言い、さらにその妻が「具合悪そう」と心配そうに言ったことで激昂し、皆殺しにしたのだ。

 そしてその現場を流浪目撃したため、口封じと証拠隠滅も兼ねて血を注いで鬼に仕立て上げたのだ。

 

 暫くして、のたうち回っていた流浪はゆっくりと起き上がった。

 瞳孔は猫のように細くなり、犬歯が牙のように鋭くなっていた。

 古井流浪は、鬼となったのだ。

 

「お前に命じる。あの肉片を残さず喰らえ。鬼になったばかりで腹も空いたろう」

 

 ここまでは、鬼舞辻無惨にとっていつも通りだった。

 が、ここで想定外の事態が起こった。

 

「……」

「何だその気持ち悪いものを見るような目は!!」

 

 ピキピキと顔中に血管を浮かばせ、無惨は怒った。

 絶対的支配者の命令に、流浪は露骨にイヤそうな顔を浮かべていたのだ。

 

「っ……もう一度言う。あの肉片を喰って片づけろ」

 

 無惨は改めて命じた。

 人間から鬼への変異直後は、激しい意識の混濁・退行がある。こいつの場合はその影響が強すぎて、会話についていけてないのだ。そう必死に自分に言い聞かせながら。

 が、流浪はその斜め上を行く返答をした。

 

「別に穴でも掘って死体を埋めればいいじゃん…なんでわざわざ食べる必要があるの…」

 

(なぜだ? なぜ私の命令を拒む!? 私は絶対的存在だぞ!? なぜこんな何処にでも居そうな者が限りなく完璧な私を……!!)

 

 無惨は混乱していた。

 そもそも無惨の血で鬼になった者は、その時点で強い闘争本能や無惨への忠誠心といった「呪い」を植え付けられる。それは無惨に反逆できないよう肉体・意識の両面で絶対の制約をかけられている状態で、この呪いを外すことは鬼の最高位である「十二鬼月」でも、余程奇跡的な要因が重ならない限り不可能なのだ。現に無惨自身、自らの呪いから外れた存在は逃れ者となった珠世以外知らない。

 

 しかし、無惨はある部分を見落としていた。

 いや、そもそも思いつくことも気づくこともなかったのだろう。

 自分の血がもたらす影響が、必ず同じとは限らないということを。

 

 流浪は気まぐれな性格かつ信条として『楽して生きたい』という物があった。その気まぐれ具合は野菜を料理店に卸す日に「気が乗らないから」という理由でその日に卸さなかった。その日のうちに料理店の店主がカンカンになって家に来た時は「体調不良気味だったのでそのまま卸しに行けばお店良くないと思ったので」と平然と言うほどなのだ。

 そんな流浪に、鬼舞辻無惨の血が注がれた。彼の血を受けて鬼になった者は、剥き出しの本能のまま人を襲うようになる。鬼の本能は人喰いという「食欲」で、無惨の支配の下、より多くの人を喰らい強くなることを目的として行動するのだが…流浪の場合、鬼の本能よりも『楽をして生きたい』という欲と『この人の命令は聞きたくない』という気持ちが爆発的に肥大化し、人肉や血に対する激しい飢餓や無惨の《呪い》をも捻じ伏せてしまう異常事態となったのである。

 

「……」

 無惨は思った。この鬼は人を喰らう事がどういう事を己にもたらすのか理解していないのだと、ならば自分がこの鬼に説明すれば喰らうようになるだろう。

 

「いいか?よく聞け、人を喰らえば貴様は力を得る事が出来る。そしてそれを繰り返せばいずれ常軌を逸した力を得られるのだ。その為にもまず、そこの死体を食え」

 

「やだ」

 

即答であった。

その後も鬼の特性ついての説明をした上で私の盾になれ、役に立てと言っても「嫌だ」とという返答が返ってくるのみであった。無惨は自分の思い通りにならないというのは大嫌いである。

 

鳴女(なきめ)っ!!」

 

 無惨が苛立つように叫ぶと、ベベンッとどこからともなく琵琶の音が鳴り響き、襖が現れた。

 あんな者と二度と関わるものかと、襖を通じて拠点に戻った。

 

1人ぽつんと取り残された流浪は目の前で放置された死体を見つめていた。

 

(鬼は…陽の光を浴びると消えるんだったなぁ…)

 

ちらりと外を見るがまだ日の出ではない。

そのまま周りに聞き耳を立てた…何者かが走ってきているのが分かる。

流浪はその場から退散する事を選んだ。

 

家の壁を拳一つでぶち破り、そのまま山の方へと駆け出す。

 

山の中をひたすら走る中、朽ちた寺を見つけた流浪はそのままその寺の中へ入り一休みする事にした。

 

そしてここから9年間、流浪はこの朽ちた寺を拠点として様々な実験や他の鬼と戦闘を繰り返した後に変装をして活動し始めた。

 

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