怠惰の鬼   作:堕落の鬼

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山にある蜘蛛の巣はだいぶウザい

 

那田蜘蛛山の麓。ここには鎹鴉により緊急指令が伝えられた炭治郎、善逸、伊之助の3人が来ていた。そして中に入ろうとしたときに善逸が2人に声をかける。

 

「待ってくれ!!ちょっと待ってくれないか!怖いんだ!!目的地が近づいてきてとても怖い!!」

 

善逸の怖がりが発動して地面に座り込んでしまった。それを見た伊之助にドン引きする。

 

「なに座ってんだこいつ、気持ち悪い奴だな・・」

 

「お前に言われたくねーよ猪頭!!」

 

ぎゃあぎゃあと言い合いをする2人を苦笑しながら見ていた炭治郎は不意に匂いを感じた。

 

(…!前の方から恐怖の匂い…後ろから強い鉄の匂いがする…!)

 

炭治郎が前をよく見つめれば、ひとりの鬼殺隊員が地面に寝そべっていた。炭治郎が何故寝そべっているのか理由を聞こうと駆け出して伊之助が後を追う。

 

「たす……助けて……」

 

「隊服を着てる!!鬼殺隊員だ…何かあったんだ!大丈夫か!どうした!!」

 

そのとき寝そべっていた鬼殺隊員は何かに引っ張られるように宙を舞い、山の中腹へと引きずり込まれていった。

 

「アアアア!繋がっていたのか!俺にも!!たすけてくれぇ!!」

 

鬼殺隊員が引きずり込まれていき、ヤバい雰囲気を感じた炭治郎と善逸と伊之助。しかしその重い空気を絶ちきったのは鉄の音だった。

 

ガシャン…ガシャン…

 

炭治郎はハッとして後ろを振り返る。

ちょうど善逸の真後ろに鉄の鎧のような物で全身を覆い、天蓋を被った僧侶がジッと蹲る善逸を見ていた。

 

「ヒィッ!?な、なんだよぉ!」

 

悲鳴と共に飛び上がり、目にも止まらぬ速さで炭治郎の後ろに隠れる善逸。

 

しかし僧侶は何も言わず、ペコリと会釈をし炭治郎達の横を通って進み始める。

 

「あの、待ってください!ここから先の山は危険です!鬼が、鬼が出ているんです!」

 

鬼、という単語を聞いた僧侶は立ち止まるとチラリと炭治郎達を見た。

 

「その鬼に用がある」

 

重く響くような声で僧侶はキッパリと言った。

その言葉に炭治郎が少し驚くも、僧侶は続けて言い放つ。

 

「童よ、その背の羽織は鬼殺隊…という組織の物だろう。悪い事は言わぬ、そのような覚悟で山に入るのはやめておけ…お主らがいくら足掻いたとて鬼は狩れぬ」

 

そう言うと僧侶は鉄が打ち合う音を響かせながら、山の方へと歩いて行った。

数秒、炭治郎は放心するも覚悟を決めた顔で僧侶の歩いて行った山を見つめながら言った。

 

「…俺は行く。」

 

「いいや、俺が先に行く!!お前はガクガク震えながら後ろをついてきな!!腹が減るぜ!!」

 

「伊之助…」

 

「腕が鳴るだろ…」

 

善逸は震えながらも的確に突っ込みを入れたつつ、立ち上がった。

 

「あの僧侶は、多分鬼だ…鉄の音に混じって、僅かにだけど鬼の音もした」

 

その言葉に炭治郎は僅かに驚くも、昼間の事を思い出す。

 

(確かに…あの僧侶…昼間にすれ違った時に僅かに鬼の匂いがした……警戒しておいた方がいいかもしれない。)

 

「それに、あんな僧侶と鬼がいる山に禰豆子ちゃんと炭治郎達だけじゃ不安だしな」

 

真面目な顔でそう言った善逸の頭を、伊之助が思いっきり叩いた。

 

 

 

 

そのまま3人は山の中に入ったものの、至るところに蜘蛛の巣があり、先頭を行く伊之助は悉く引っ掛かり苛立っていた。

 

「チッ蜘蛛の巣だらけじゃねーか!邪魔くせぇ!!」

 

「そうだな……伊之助、善逸」

 

「何の用だ!!」

 

「たっ炭治郎…なんだ?」

 

食い気味に言い返す伊之助と、先程の威勢が山に入った途端に消えてしまった善逸が炭治郎を見る

 

「ありがとう。2人とも来てくれてとても心強いよ。山の中からきた捩れたような……禍々しい匂いに俺は少し体がすくんだんだ。ありがとう。」

 

「…ぬぁぁぁ!なんかムズムズしやがる!」

 

「お、俺は…禰豆子ちゃんが心配なだけだし…」

 

炭治郎のお礼にそれぞれ反応を示した矢先、炭治郎が尻餅を着いている隊員を見つけた。

 

その隊員の名は村田という。そのまま近寄り状況を聞こうとするも相当怯えているのか、炭治郎達の気配を感じるとすぐさま振り返り、刀に手をやった。炭治郎は安心させるために、自分の名前と階級を告げた。

 

「応援に来ました。階級・癸、竈門炭治郎です。」

 

「癸……癸!?なんで柱じゃないんだ…!!癸なんて何人来ても同じだ!意味がない!!」

 

しかし、3人の階級が癸であるとわかった瞬間、悲鳴のような声で炭治郎達の応援を無意味だと言った。それを聞いた伊之助は村田の顔を殴った。

 

「伊之助!!」

 

「うるせぇ!意味のあるなしで言ったらお前の存在自体意味がねぇんだよ!さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が!!」

 

村田の方が先輩であるはずなのに髪を掴んでずけずけとものを言うのは、流石伊之助と言ったところだろうか。そして伊之助に催促された村田はビビりながら説明した。

 

「かっ、鴉から…!!指令が入って十人の隊員がここに来た!!山に入ってしばらくしたら、隊員が…隊員同士で…斬り合いになって…!!」

 

説明してる村田と炭治郎達の視線の先には口から血を流しながら、不気味にゆらりと立ち上がる別の隊員が震える足取りで近付いていた。

 

 

 

その頃鬼殺隊の本部の屋敷では、縁側に座る一人の男性の膝に息を切らした鴉が状況を報告していた。

 

「よく頑張って戻ってきたね。私の剣士たちは殆どやられてしまったのか。そこには十二鬼月がいるかもしれない。柱を行かせなくてはならないようだ。義勇、しのぶ。」

 

「「御意。」」

 

返事をしたのは、かつて炭治郎と禰豆子と遭遇し、禰豆子を人を襲わない鬼と判断した男性、冨岡義勇と蝶の羽の模様を模した羽織と髪飾りを着けた女性、胡蝶しのぶである。

 

「人も鬼もみんな仲良くすればいいのに。冨岡さんもそう思いません?」

 

「無理な話だ。鬼が人を喰らう限りは。」

 

少しの言い合いの後、2人は常人を軽く超えるスピードで那田蜘蛛山へ向かった。

 

 

場所は戻り、那田蜘蛛山。炭治郎達は襲ってくる隊員の攻撃を防いでいた。善逸は血を吐き不気味に動く隊員を見て怯えて震えてしまい戦力外だが、その前を2人が引き付けていた。

 

「アハハハハ!!こいつらみんな馬鹿だぜ!!隊員同士でやり合うのが御法度だって知らねぇんだ!」

 

「いや違う!!明らかに動きがおかしい!何かに操られている!!」

 

「よしじゃあぶった斬ってやるぜ!!」

 

「駄目だ!!生きてる!!まだ生きてる人も混じってる!それに仲間の亡骸を傷つけるわけにはいかない!!」

 

「否定ばっかするんじゃねぇ!!」

 

炭治郎に否定されまくる伊之助は怒り、炭治郎に頭突きをする。

その時、炭治郎は隊員の背後にキラリと光る何かを見つけた。

 

「…!せいっ!」

 

炭治郎は伊之助を踏み越えて、動きがおかしい隊員の背後に刀を振るうと、ブチブチと音がなり、隊員が地面に倒れこむ。それを見た炭治郎は操ってる何かを見破った。

 

「糸だ!!糸で操られてる!!糸を斬れ!!」

 

「お前より俺が先に気づいてたね!!」

 

そう言う炭治郎に伊之助が吠えるように言い返す

 

(敵はどこだ?操ってる鬼の位置!!)

 

炭治郎は辺りを見渡す、視界の端に白い何かを見つけた。

 

「炭治郎が見ている方と……その上に…鬼の音がする…!」

 

そう言う善逸の言葉に炭治郎と伊之助は操られる隊員達の糸を切断しながら警戒する。

 

炭治郎が顔を向けた方向には、善逸が言った通り、隊員達を糸で操ってる女性の鬼がいた。この鬼は那田蜘蛛山に住んでいる母親の鬼である。母鬼は沢山の糸を手で操りながら、一人言を言った。

 

「ウフフ。ウフフフフ。さぁ私の可愛い人形たち、手足がもげるまで躍り狂ってね。」

 

そして2人は同時に上を見上げる。するとそこには、子供の姿をした鬼の少年が張り巡らした蜘蛛の糸の上に立っていた。この少年は累という名であり鬼舞辻無惨の配下、十二鬼月の一人である。累は炭治郎達を見て邪魔臭そうに言った。

 

「キャアアア!!ちゃんと居たぁぁ!!」

 

「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな。お前らなんてすぐに、母さんが殺すから。」

 

それだけ言うと、累はその場を去っていった。伊之助が斬りつけようと、隊員の背中を踏み台にして斬りかかるが、後少しのところで届かず落下した。受け身の取り方を知らない伊之助はそのまま地面に叩きつけられた。

 

一刻も早く鬼を倒さなければならないが、他の操られた隊員達が壁を作るように行き先を塞ごうとしていた。

しかしそんな状況の中、1人の男が吠えた。

 

「大丈夫だ!ここは俺に任せて君達も先に行け!!」

 

「えっ・・」

 

「小便漏らしが何言ってんだ!」

 

「誰が漏らしたこのクソ猪!!テメェに話しかけてねぇわ黙っとけ!!情けない姿を見せたが、俺も鬼殺隊の剣士だ!!ここで操られているやつらの動きは単純だ!無力化するには糸を斬ればいい!鬼の近くにはもっと強力に操られている者もいるはずだ!ここは俺が何とかするから3人で先に行ってくれ!!」

 

「……わかりました!!感謝します!!」

 

炭治郎は村田に殴りかかろうとする伊之助と動こうとしない善逸を無理矢理引っ張り、山の中を駆け抜けた。

 

「まずテメェを一発殴ってからな!!誰がクソ猪だ!!戻ってきたら絶対殴るからな!」

 

「イヤアアア!!また出る!!また鬼が出るからぁぁ!!俺今度こそ死ぬ!!行かない!!行きたくないよぉぉ!!」

 

 

しばらく走っていくと、3人は再び何かを感じてそっちを見た。

 

「駄目……こっちに来ないで…!」

 

そこには鬼の糸によって操られている女の剣士がいた。彼女は意識があり、片腕に人間の首を刺した日輪刀、もう片腕にはすでに亡骸になった剣士の髪を鷲掴みにしながら炭治郎達に自分の方に来ないように泣きながら懇願する。

 

「階級が上の人を連れてきて!!そうじゃないとみんな殺してしまう!!お願い……お願い!!」

 

そしてその剣士達を操っている元凶の母鬼は岩に座り、手の指先から出ている糸で操っていた。

 

「ウフフ。私に近づく程糸は太く強くなり、お人形も強くなるのよ。」

 

「母さん。」

 

「…っ!?」

 

そこに累がやって来た。すると母鬼はガタガタと震えていた、怯えているのだ。

 

「累…」

 

「このまま勝てるよね?ちょっと、時間がかかりすぎじゃない?」

 

返答に困っている母鬼に対し、累は続けて言う。

 

「早くしないと、父さんに言いつけるからね。」

 

『父さん』…累がその言葉を口にした瞬間、母鬼の震えが更に大きくなり取り乱しながら累に懇願した。

 

「大丈夫よ!!母さんはやれるわ!!必ず貴方を守るから!!父さんはやめて!!父さんはっ…!!」

 

「だったら、早くして。」

 

累は母鬼が震えているのは無視して淡々と早く始末するように促し、姿を消した。

取り残された母鬼は息が荒く、冷や汗を大量にかいていた。そして切羽詰まった表情で糸を動かし、隊員を再び操り始める。

 

「はぁ…はぁ…ううぅぅ…!!死ね!!死ね!!さっさと死ね!!でないと私が…ひどい目にあう……!!」

 

母鬼の操る糸は女の剣士にも影響し、本人の意思に関係なく体が勝手に動かされ、日輪刀を振り回し始めた。

 

「逃げてぇ!!」

 

彼女の本来の身体能力を上回る動きで炭治郎達に襲いかかってきた。鬼に無理矢理動かされているからである。動きが全く違うのだ。

 

(速い!!)

 

彼女の動きは炭治郎を最初に切り捨てようとしていた。炭治郎が咄嗟に刀を構え、防御の構えを取る。

 

「それじゃあ駄目!!逃げてぇ!!」

 

そのまま無慈悲に刃が振り下ろされた。

 

しかし、鳴ったのは刀の打ち合う音ではなく。

 

 

ガキィン…

 

 

鉄に刃がぶつかる音だった。

 

「だから入るなと言ったのだ、童」

 

そこには僧侶が居た。

片腕で刀を受け止め、女の剣士に繋がった後を錫杖で絡め取っている。

 

ブチブチという音と共に、女の剣士は崩れるように倒れ伏した。

しかしピクリとも動かない、糸で無理矢理動かされていたため、全身の骨が折れていたのだ。それでいて、とても一人で動ける様子ではなかった。

 

「そのような身では満足に動けまい、どれ…少しばかり(まじな)いを唱えてやろう」

 

そう言うと、僧侶はぶつぶつと何かを唱える。

 

すると女の剣士の四肢がピクリと動き、ゆっくりと立ち上がった。

 

「え…?嘘…なんで…動けるようになったの…!?」

 

動くようになった己の肉体に驚く女剣士に対して、僧侶はサラリと言う。

 

「汝の生きたいという願いを仏が聞き受け、慈悲を与えなさったのだ」

 

「そう…なのね…?ともかく…ありがとう…!」

 

そう言うと残りの軽傷で済んでいる隊員達を折れた日輪刀の柄の部分で糸を斬っていき、数人で山を降りていった。炭治郎達は僧侶の方を見て驚いていたが、自身に向かってくる重傷の隊員達が目の前に迫っており、すぐに現実に引き戻された。

 

重傷の隊員が操られ、炭治郎達に斬りかかってくる中、1人の隊員が炭治郎に悲願した。

 

「こ、殺してくれ…手足も…骨が……内蔵に刺さって…るんだ…動かされると……激痛で…耐えられない…どのみち…もう死ぬ…」

 

「!!」

 

「助けてくれ…止めを…刺してくれ…!!」

 

隊員が口にしたのは炭治郎に止めを刺すように催促した願いだった。当然、心優しい少年である炭治郎にそんなことはできない。しかし、伊之助は言葉通り隊員に斬りかかろうとしていた。

 

「よしわかったぁ!!」 

 

「待ってくれ!!なんとか助ける方法を・・」

 

「うるせぇえぇ!!お前うるせぇえぇ!!本人が殺せって言ってんだろうがよ!!こいつら早えからモタモタしてるとこっちがやられるぞ!!」

 

「考えるから待ってくれ!!」

 

そして何かをひらめいた炭治郎は走りだし、操られている隊員は追撃するために追いかけさせられる。それを見た伊之助は怒り、炭治郎に怒鳴った。

 

(よし、ついて来る!!)

 

「テメっ…なーにをグルグルと逃げ回ってんだぁ!!ふざけんじゃねぇ!!」

 

炭治郎はある地点に止まると、振り返ってから隊員を鷲掴みにすると、呼吸を使って木の上に放り投げたのだ。うまく糸が絡まり、隊員が宙吊りになった。

 

(よし!!うまく絡まった!!)

 

「な、なんじゃああそれぇぇ!!俺もやりてぇぇ!!」

 

炭治郎の動作を一部始終見ていた伊之助とは驚き、伊之助は同じ事をするために他の隊員を引き寄せに行った。僧侶はその場を動かず炭治郎の作戦と…腰を抜かしたままの善逸を見ていた。

 

「ウハハハハ!!サーッどらぁ!!イヤーッハァー!!」

 

伊之助は木に絡めることに成功して雄叫びと歓喜の笑い声をあげると炭治郎に振り返り、自慢気に言った。

 

「見たかよ!!お前にできることは俺にもできるんだぜ!!」

 

しかし、炭治郎は別の隊員の相手をしていたため、伊之助の動作を見ることができなかった。

 

「すまない!!ちょっと見てなかった!!」

 

「なァーにィー!!」

 

「状況が状況だから!!」

 

見てなかったことを言われて怒った伊之助はもう一度同じ事をするので見るように炭治郎に忠告する。

 

「よしあと一人!俺がもう一回やるからちゃんと見とけ!!」

 

「わかったそれでいい!!とにかく乱暴するな!」

 

隊員達を無力化させる中、僧侶は善逸に問いかける。

 

「童よ、この者らを操る鬼は何処に居る」

 

「ヒッ!?…た、多分…む、向こう…!向こうに居るからぁ…!」

 

善逸が怯えながら母鬼が居る方向を指すと、僧侶はただ「そうか」と言い残しその方向へ歩いて行った。

 

 

その頃、母鬼は炭治郎達により逃がされたり、木に絡められて操ることができなくなったことを知って自暴自棄なった。

 

「私の人形達が・・うまく操れなく・・もう脆い人間の人形は必要ないわ!!役立たず!!あの人形を出すしかないわね・・!!」

 

母鬼が無理矢理糸を動かすと、操られていた重傷の隊員達の首が勢いよくあらぬ方向へと曲げられ、バキッボキッと骨が折れる音がなった。その音はとても禍々しく、今操られていた隊員全員が一瞬で命が奪われたことが明らかだった。

 

「ひぃっ!?」

 

「あーっ!!畜生!!みんな殺られたじゃねーかよ」

 

「………」(ブワッ)

 

炭治郎の放った殺気は背後からでも気配がビシビシと伝わり、伊之助は言葉を失った。

 

「…行こう。」

 

「……そうだな。」

 

「うん…」(えっ何…?炭治郎怖っ…!)

 

3人は母蜘蛛鬼のいる方向へと駆け出していった。しばらく進むと、二体の鬼の気配を感じた。母鬼とその十八番の人形である。

 

「こっちだ!!かなり近づいてるぜぇ!!」

 

(風向きが変わって鼻も利くようになってきたぞ、匂いはあと二つ・・)

 

 

 

そして3人の前に現れたのは、両腕が刃物になっている首がない鬼の人形であった。

 

(!…これは……!!)

 

「首が無ェェェ!!アイツ急所が無ぇぞ!無いものは斬れねぇ!!どうすんだどうすんだ!」

 

日輪刀で鬼を殺すには首を斬る必要があるが、この鬼はその頸がないのだ。伊之助は倒せないと思い動揺していた。

 

そんな3人へ首無し鬼が刃になった腕を振り上げる。

 

「首がないのなら、潰せば良い」

 

上から声がした。

 

3人がハッとして見上げるのと、上から降って来た僧侶が首無し鬼を潰すのは同時だった。

 

ぐちゃり、という生々しい音を立てて、首無し鬼の胴体は真っ二つに裂けた。

 

僧侶は鬼の胴体を真っ二つにした錫杖を軽く払って血を払うとそのままズカズカと奥へと歩いていった。

 

炭治郎達はしばらく呆然としていたが、数分後に我に帰って後を追った。

 

その後ろで、首のない鬼がサラサラと崩れ去るのを3人は見ていなかった。

 

一方母鬼は、取って置きの人形を倒されて焦っていた。

 

(やられた…!!やられた!!あの人形が一番速くて強いのに…!!そもそも累が脅しに来たのが悪いのよ!!それで焦って、焦って…)

 

「汝は悪鬼か?それとも、哀しき一匹の小鬼か?」

 

その言葉を聞いて不意に前を見ると、真っ直ぐとこちらを見つめる天蓋を被り、鎧に身を固めた図体の良い僧侶が見えた。その姿は母鬼から見て父鬼と重なって見えたのか、身体が震え出していた。その原因は、この山に住む蜘蛛鬼一家の生活の中にあった。

 

母鬼は何かあれば父鬼からの理不尽な暴力を受け、それを見ている兄鬼からの嘲笑う姿、姉鬼の無関心な表情、能面の様な顔で浴びせられる累の心ない言葉、それらを全て受けてきた母鬼にとって、僧侶のその姿は一つのトラウマの対象になっていたのだ。

 

そのままズカズカと近寄る僧侶に母鬼は震えながらも、悟った。

 

(ああ、私は殺されるんだ…でも…死ねば…もうあんな辛い思いをしなくて済む…解放されるんだ…)

 

そう思い、母鬼は抵抗する事を辞めた。

そしてその姿を見た僧侶は目の前に来てぽつりと呟く

 

「汝は、その身に有り余る程の不条理な目に遭ったのだな…安心せよ。今から、その苦しみから逃れる事が出来る」

 

(ああ、殺されるのね…)

 

母鬼は自らの首を切られるのを想像したが…

不意に、僧侶の腹がパカっと開く。

 

「え?」

 

不可思議な出来事に、母鬼は目を丸くして開いた腹の中を見た。

 

腹の中には累よりも背が少し高い少年が胡座をかいて座っており、にこやかに手を振っていた。母鬼はその姿を見て更に混乱する。

 

(え、え!?お腹の中に人!?どういう事!?)

 

「うん、色々言いたい事はあるだろうけど話は後々に、早く入りなよ」

 

先程聞いていた重く響くような声ではなく、少年特有の少し高い声で話しながらちょいちょいと手招きをした。

 

「あっ、えっ…は、はい…」

 

驚き過ぎて変化すら解けている事に気付かないまま、母鬼は腹の中へと入った。

 

それと同時に開いていた腹は閉じられた。

 

その数分後、炭治郎達が追いつく。

 

(鬼の匂いはするけど…姿がない…!)

 

「おい、テメェ!ここに鬼が居なかったかぁ!」

 

「汝らか、鬼なら既に殺した。早く他へと向かえ」

 

「…いや、この僧侶は…嘘を付いてる…それに鬼の音が前より強い…!」

 

善逸のその言葉に、炭治郎と伊之助が臨戦体制を取る。

 

「ふむ、奇抜な髪の童よ。汝は素晴らしい才能があるようだな」

 

唐突に褒められた善逸は呆けた顔を晒す。

 

(え、何で褒めたの?というか…鬼の音に混じって…優しい音もするんだけど…)

 

「てめぇ、やっぱり鬼か!?」

 

(確かに、前よりも鬼の匂いが濃い…もしかしたら…本当に鬼かもしれない…)

 

威嚇する伊之助と、匂いから冷静に判断しようとする炭治郎。

 

その姿を見た僧侶は錫杖を地面に突き刺して言い放つ。

 

「疑問を投げかけようと、答えはせぬ。汝らの力を持って我を鎮めてみせよ。さすれば答えは分かるだろう」

 

「おもしれぇ!やってやる!」

 

「っ、伊之助!待て!」

 

「っ…あぁもう!やってやるよぉ!」

 

果敢に前に出る伊之助、それを止めようとする炭治郎、自暴自棄気味に後を追う善逸。

 

そんな3人を前にして、僧侶は静かに突き刺した錫杖を抜いた。

 

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