聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第11話

 国軍はそれぞれの部隊に基地が用意されており、それは王都の各地に存在している。

 研究を担当している第3部隊の基地は、地上にではなく地下に存在していた。国軍の本拠点から数十分歩いた先、王都近くにある山の入り口にその基地へ続く階段があり、それを下った先でノックスたちは第3部隊副隊長、シオン・グレイハートに出迎えられた。

 

「ようノックス、久しぶりだな!!」

「シオンさん! お久しぶりです!」

 

 シオンはノックスの姿を見つけると親しげに近寄って、力強く肩を組んだ。シオンと出会った頃はお姉さんの過剰なスキンシップにドギマギしていた少年ノックスは、もはやボコボコにされすぎて『お姉さん』ではなく『教官』としか見れなくなり、結果密着されても平気になってしまった。

 

「んで、えーっとお前らはあれだよな。アストにステラに、クルスにライラ」

「アストとステラのことは知っててもびっくりしませんけど、僕らのこともご存知なんですね」

「フリードから聞いてたんだよ。ノックスに友だちができたってな」

「豪華な保護者ね」

 

 国軍の部隊長、副隊長に友だちの心配をされるノックス・デッカード。知る人が知ればとんでもなく恵まれた環境にいるのだが、本人はそんなことも知らず「保護者? 俺親いねぇけど」と爆弾を投下してライラを黙らせていた。

 

「……悪かったわよ」

「あっ、いや、こっちこそ悪い。気を遣わせるつもりはなかったんだ」

『ノックスは嘘を言っていませんから、気にしなくていいですよ。そもそも、親がいないことを気にしている者が自分から「親がいない」などと言いません』

「そうだぜ、気にすんな。ノックスの考えなしは今に始まったことじゃねぇよ」

「シオンさん。それじゃあまるで俺が考えなしみたいじゃないですか」

「今私はそう言ったぞ」

 

 あれ? と首を傾げるノックスの頭をがしがしと撫でてから、シオンが五人を引き連れて奥へと進んでいく。

 

 階段を下りた先にあったのは広い廊下だった。床や壁、天井は鉄の板で覆われており、等間隔に光源が配置されている。扉がいくつか見えるがシオンはそれらを無視してどんどん奥へと進んでいった。

 

「……」

「あれ、どうしたの? ライラ」

「いえ、ちょっと……」

「あぁ、もしかして感じちまったか?」

 

 少し進んだところで、顔色が悪くなったライラを気遣って一旦立ち止まる。心配そうにのぞき込むステラに努めて平静を装うとするが、装う前にシオンがライラの側まで歩み寄り、頭をぽんぽん撫でて背中を摩り、「平気か?」と優しく声をかける。

 それに頷いて見せたライラがこうなった原因は、入らずにスルーしてきた部屋で行われている『実験』にあった。

 

「時々モロにくらっちまうんだよな。魔族とか魔物の悲鳴、その魔力の余波。それがでねぇように作ってんだけど、第3部隊の連中はいかれてるから加減を知らずに漏らしちまうことがあるんだよ」

「え?」

「魔力がまったくねぇノックスはもちろん感じなかっただろうが、お前らもちょっとは感じただろ?」

 

 あーはいはいまた俺だけ仲間はずれのやつですね。まぁ慣れたからいいですよと目に見えてむくれたノックスは置いておいて、ステラ、アスト、クルスの三人はシオンの問いに頷きで返す。ステラはライラほどひどくはないが少し憂鬱そうに、アストは平気そうな顔で、クルスはむしろ目を輝かせながら。

 

「あれですよね。魔族や魔物の魔法耐性とか生態とかを知るための実験。で、そう何体も捕らえられないから一体で繰り返し実験を行ってるんでしたっけ」

「勉強熱心だな、クルス。お前は第3部隊に向いてるよ」

「……えっと、褒め言葉ですよね?」

「褒めてねぇよ。私が言うのもなんだけど、第3部隊は死ぬほどおすすめしねぇ」

 

 アルデバラン王国国軍第3部隊。主に魔法の研究・開発を行っており、軍の隊員の魔法を観察し、その運用・応用方法を指導する等の活躍をする裏側で、戦場で捕らえた魔族・魔物を非人道的な方法で実験に使用している。第3部隊の基地である地下施設では、それによる聞きたくもない音や魔力の余波が絶えることはない。

 

 第3部隊に入り、一番最初に捨てるのは倫理観だというのは、軍では有名な話だった。

 

 

 

 

 

「さて、実際の実験現場の見学へ行こうか」

 

 そして、第3部隊の隊長であるフリードに倫理観を期待してはいけないというのも当然の話であった。

 

 廊下を突き進んだ先にあった扉。その先にある部屋にフリードはいた。壁にぴたりとくっついている複数の本棚に、テーブルと椅子が一つずつといった簡素な部屋を居城としているフリードは、シオンと五人が入ってきた瞬間先ほどの提案をぶちかましたのである。

 

 フリードからしてみれば、「せっかく見学にきてくれたんだから、少しでも第3部隊のことを知ってもらおう」というだけのことなのだが、実際には「グロ耐性のない少年少女にこれでもかと悲惨な場面を見せつけよう」と言っていることと同義であり、流石にシオンから待ったがかかった。

 

「おい待てフリード。流石に何の耐性もないやつらに実験を見せんのはきついだろ」

「なら実験に使う予定の魔族と会話でもしてもらうか。魔族との会話などしたこともないだろうから、貴重な経験になるだろう」

「……それくらいなら、まぁ」

 

 実験に使われる前の魔族、という事実があるだけでかなり気は引けるが、第3部隊の中で見せられるものとしては一番マシであるため、シオンは渋々了承した。

 

「僕は別に実験中でも……」

「研究熱心もそこまでいくと引くわよ」

 

 移動を始め、実験中であろう部屋を通り過ぎる度に残念そうにしているのがクルスだった。クルスは元々第3部隊志望というド変態であるため、実験に興味津々。倫理観等は一旦抜きにして、クルスは第3部隊の研究・実験が人類の勝利のために必要なことだと認識しているため、まったく抵抗がなかった。

 

「まぁ流石に私も実験の様子を見せて体調不良になられては困るからな」

「あれ? 最初実験現場に連れて行こうとしてませんでした?」

「しーっ! ノックス、殺されちゃうよ!」

「すみませんガーベラ隊長。ステラは実は失礼なやつなんです」

「気にしないさ。それに、ある程度失礼を働けるような者の方が出世は早い」

「ルキノスルキノス。もしかして俺のことかな?」

『ハハハ』

 

 適当に笑って流した罰として、ノックスはルキノスを抱きしめた。わかりやすい制裁ではなく、新たな角度の制裁にルキノスは困惑し、『ぇ、え? えっと、ノックス? あれ? ほぁ……?』と最終的にマヌケになった。ノックスの制裁が成功した瞬間である。

 

 なんとなくルキノスが可愛くなって撫でまわし、便乗したステラもルキノスを撫でまわし、『ちょ、やめ、やめなさい!』と騒いでいる間に目的地に到着した。ちなみにライラも撫でたそうにしていたのをクルスは見逃していなかったが、それを言わなかったのはクルスの優しさである。

 

「さて、ついたぞ」

「……あの、フリードさん。サタンって書いてるように見えるんですけど」

 

 目の前にあるのは、一つの真っ黒な扉。そこにプレートが掲げられており、簡素な字で『サタン』と刻まれている。

 

「あぁ」

「あっ! 俺でも知ってますよサタン! 確か、そう、強い!」

『その程度で知識のあるアピールをしないでください恥ずかしい』

「しかしルキノス、この世は強いか強くないかだ。つまりノックスは恥ずかしくない」

「第3部隊の基地で暴論振りかざすあんたの方が恥ずかしいことは確かね」

「はい! サタンってあのサタンですか!」

「どのサタンを指しているかわからないが、まぁ認識の通りで間違いない」

 

 サタン。魔族の頂点に君臨する『魔王』、その家臣。中でも最上位の位である『七将星(セブンスロード)』と呼ばれる者の一角がサタンであり、隊長でさえ勝つことは難しいと言われている、のだが。

 

「他の『七将星』と喧嘩してボロボロになっていたところを捕らえた」

「えぇ……」

 

 えらく微妙な理由でそのサタンが捕らえられていた。これには筋肉バカである流石のノックスもあきれ果て、戦闘狂である流石のアストも「え? じゃあサタンと戦える……?」と心躍らせていた。流石アストだった。

 

「よし、入るか」

「え、大丈夫なんですか?」

「もしなんかあったら私たちが守ってやるよ」

「えっ、キュン!」

『ノックス。キショい』

「俺もそう思った」

 

 どうやらノックスは緊張という感覚をどこかへ置き去りにしてきたらしい。アストでさえ緊張しているというのに、ノックスはいつも通りであった。その理由は、拘束具によって抑えつけられているにも関わらず放たれている禍々しい魔力の一切を感じないためであり、ノックス以外の四人はその魔力を受けて体が重くすらなっている。ノックスと他四人との間で緊張感の差があるのは、仕方のないことといえば仕方のないことだった。

 

 フリードがドアに手をかけ、ゆっくりと開く。その先にあったのは、透明な壁を隔てた向こう側で無数の鎖に拘束されている魔族の姿だった。

 

 金の髪に燃えるような赤い瞳。いっそ不健康にみえる真っ白な肌を持つその男の背に生えた一対の赤黒い翼が、人間ではなく魔族であることを証明していた。

 

「気分はどうだ、サタン」

「気分はどうだ、だと?」

 

 フリードの問いに、サタンが口を開く。意識ははっきりしているようで、不機嫌さを隠そうともせずに深く、重たい息を吐いた。

 

「最悪だ。貴様ら人間如きに不覚を取った私自身に腹が立つ。このようなくだらん拘束で私を縛り付けておけると考えている貴様らの浅はかさにも!!」

「拘束して今日で五日目だが」

「えっ嘘っ! ふん。時を待っているだけだ。いくら貴様ら人間が矮小な存在であるとはいえ、ここが貴様らの本拠地であることに変わりはない。ただ闇雲に抜け出し、結果また捕まってしまっては意味がないだろう」

「ルキノス。今あいつ『えっ嘘っ!』って言わなかったか?」

『聞こえました聞こえました。ぷぷ、滑稽ですね』

「ナニィ!? コッケイ!? おい貴様!! このサタン様に対して……え、ルキノス? 今ルキノスと言ったか?」

 

 ルキノス煽りに対して怒りを爆発させ、しかしすぐにおとなしくなる。その目はノックスの持つ剣、ルキノスへ向けられており、そしてノックスを見て、またルキノスを見た。

 

 サタンの表情が笑みへと変わる。

 

「へぇー??? 今代はその方が相棒かぁ??? ハーッハッハッハ!! 恵まれてるなぁお前は、クククっ!!」

『なっ、ノックスに魔力がないからとバカにして!! 許しませんよ!!』

「え? 魔力がないとか一言も言っていないんだが? 千年以上生きていると理不尽に怒ってしまうものなのだな!! 被害妄想甚だしい!!」

『む、むぅうう!!! ノックス!! あなたも何か言ってやってください!!』

「えー? えーっと、じゃあ……サタンだっけ。お前今捕まってるから何言っても面白いだけだぞ」

「ぶっ」

 

 クルスは笑いを堪えて顔を逸らし、アストは確かにと頷いて、ステラは大丈夫かなと心配し、ライラはマジかよと戦慄した。フリードとシオンとルキノスは爆笑している。この場にいる半数の人間性が終わっていることが判明した瞬間であった。

 

「ふっ、まぁ当然、私が捕らえられているのであれば、すぐに助けがくるはずだ。それまでせいぜい優位に立っているつもりでいるがいい」

「なんかさっき自分で脱出するみたいなこと言ってなかったっけ」

「でていけ!!!!!!」

 

 親し気に話すノックスにブチギレたのか、サタンが怒号を飛ばし、これ以上はダメそうだとフリードとシオンに部屋から連れ出された、その直前。

 サタンがノックスを呼び止めた。

 

「そこの、ルキノスを持つ者よ」

「え、俺っすか?」

「お前は、何も持っていないと思い込んでいないか?」

「筋肉があるしルキノスがついてくれてますけど……」

「ふっ、まぁいい。答えは直にわかる」

「アホの俺にわからないような説明するやつって、自分のこと頭いいと勘違いしてるバカだと思うんだよな」

 

 なんとなくムカついたノックスは暴言を吐き散らし、言葉にならない怒号を背にしながら部屋を出た。

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