聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第12話

 課外授業一日目、夜。

 

 夕食を食べたノックスは同室のアストとクルスに散歩してくると伝え、ルキノスを背に王都を歩いていた。時間が時間だからか王都とはいっても人通りは少なく、今外に出ているのは一仕事を終え家路へついている者、酒場へ向かう者、警備に目を光らせる国軍のみだった。

「案外、訓練生って真面目なんだな。もっと遊び歩くかと思ってた」

『そういう気持ちもなくはないでしょうけど、国軍がいますからね。悪印象を与えたくない、という気持ちの方が大きいのでしょう』

「でももったいなくね? せっかく王都にきてんのに」

『とは言っても遊べるところはありませんよ?』

「ただ歩いてるだけでいいんだよ。なんか、うまく言えねぇけど結構違うんだよ。その地域によって空気とか、その場にいる感覚? みてぇなの」

『ふむ、魔力がない分そのあたりの感覚が鋭敏なのでしょうか』

「じゃあ魔力みてぇなもんか」

『?』

 

 純粋な疑問をルキノスから感じ取ったノックスは、ルキノスを引き抜いて尻の前にかざし、屁をぶちかましてから背に戻した。かわいそうなくらい咳き込んでいるルキノスを無視して、静かな王都を闊歩する。

 

 ルキノスの言うとおり、ノックスは感覚が鋭敏だった。ある意味生物としての進化を最適な形で行っている、と言ってもいい。

 視覚や聴覚など、戦闘や日常生活などで役立たせる感覚は本来魔法によって強化することが通常であり、だからこそ高速で飛来する魔法にも対応することができる。感覚の強化、身体強化は魔導師にとっての基本であるのだが、ノックスはそれすらできない。代わりに、そのまま感覚が鋭敏になった。更に、反射神経も鋭い。

 

 生物は必要のない機能は進化の過程で置き去りにしていくが、必要のある機能は当然身につけようとする。ノックスは単純、『必要だったから』身についた。とは簡単に言うが、そこには人に言えないような努力があったことは語るまでもない。

 

『……それにしても、結構な化け物ですよね』

「俺が? 魔法使えねぇけど」

『むしろ、魔法が普通でノックスのフィジカルが異常に見えてくるものですよ。魔法が当たり前となった今となっては』

 

 言われてふとノックスは思い返してみると、確かにフィジカルを見て化け物と言われることが多かった。ノックスとしては魔法が使えないからそっちを鍛えるしかなく、全員やればここまで鍛えられるけどやる意味がないからやっていないだけだと思っているため、やはり魔法が使えた方がすごいというのに変わりはない。事実、ノックスはフィジカル方面で才能があることに違いはないが、人間ある程度鍛えればノックスまでとは行かないが近いところまで鍛え上げることはできる。

 

「自分にとっての普通に当てはまんなかったら総じて化け物に見えるもんか」

『そういうことです。誰しもが自分にとって普通であり、誰かにとって異常なのですから』

 

 じゃあ結局俺以外は俺からすりゃ異常だな、とノックスの中で証明が完了し、謎の満足感に満たされたところで広場についた。

 昼間であれば空を突くように上がっている噴水も、日が落ちればおとなしくなっている。広場には静かな夜にそっと添うように清涼感のある水の音が流れていた。

 

 その広場にあるベンチにルキノスを抱えて腰を下ろす。思いのほか大事にされたからか一瞬びっくりしたルキノスは、『い、いい心がけですね』となぜか上から目線の言葉を発してしまった後、思い直して素直に『ありがとうございます』とお礼を言った。

 

「よし、ここら辺でいいか」

『ノックス?』

 

 ノックスが改めるかのようにそっと息を吐いて、意味深な発言。そこでルキノスは気づいた。もしや、誰にもできない相談があるのでは、と。そして同時に喜んでしまった。ノックスに引き抜かれてから約一ヶ月半。ついに相談をしてくれるほどの信頼関係を築くことができたのか、と。初めは魔力を持っていない筋肉に引き抜かれた時はどうしようかと思っていたが、ノックスとともに過ごした今ではルキノスにとってノックスは放っておけない息子のような存在であり、相棒である。そんな相棒から頼られることがかなり嬉しい。

 

 なにか悩みがあるであろうノックスに申し訳ないと思いつつも、ルキノスはうきうき気分でノックスの次の言葉を待った。

 

「ルキノス」

『はい!』

「必殺技がほしい」

 

 あぁ、やっぱりノックスはノックスだな。安心とともに落胆したルキノスであった。

 

『必殺技』

「そう。なんかあの、魔力解放して灰色の空間出すやつあるじゃん? あれにも名前とかほしいんだよな」

『ルキノススペシャルとかどうですか?』

「俺はいいけど、いいのか? あれ使う度にルキノススペシャルって俺が叫ぶんだぞ。ルキノスが恥ずかしいだろ」

『真面目に考えましょう』

「よし」

 

 あまりにも悩み事がノックスだったため適当になってしまっていたルキノスは気を引き締めた。このままでは自分も恥ずかしくなってしまう可能性がある。そもそも必殺技も恥ずかしくないかという説はルキノスの中には存在しなかった。

 というのも、名前というのはバカにならない。ただの魔法一つにおいても、名前をつけることで発動しやすくなったり威力が増したりすることが確認されている。要は、イメージのしやすさに起因するのだ。ルキノスの魔力解放も突き詰めれば魔法の一種であることから、同様の効果がある可能性がある。

 

『シンプルな方がわかりやすくていいですね。『封魔の界』などはどうでしょう』

「採用!」

『爆速』

「まぁルキノスの力だし、ルキノスがつけてくれた名前使うのが一番自然かなって」

『そんなにすぐ決めるのならここでしなくていい相談だったのでは……?』

 

 やはり友人の前で必殺技どうこう言うのは恥ずかしいのだろうか、とルキノスは心の中で首を傾げた。あの四人であればアストとクルスとステラはノリノリで一緒に考えるし、ライラはノリノリとは行かずとも面倒見がいいため一緒に考えてはくれる。バカにすることは絶対にしないのだが、ノックスが今ルキノスに必殺技のことを言った理由は別のところにあった。

 

 本題に移る前のジャブである。

 

「アー、その、なんだ。ルキノス」

『? なんでしょう』

「俺、魔族みんな倒した方がいい?」

 

 それは、今日の昼にサタンと会ってかららしくもなくノックスがずっと考えていたことだった。

 

 サタンはルキノスのことを知っていた。つまりそれは千年前にもサタンはいたということであり、千年前に打ち倒せなかった魔族であるということ。千年前にどのような戦いがあったかノックスは知らないが、サタンのように打ち倒せなかった魔族がまだ存在するというのは容易に想像できた。

 そして、ルキノスは聖剣と呼ばれている。これもまたノックスはわからないが、魔力を持っていれば見るだけでルキノスが聖剣とわかるほどすごい代物らしい。そんな聖剣を持っている自分が何の目的もなく、ただ魔導師の鼻を明かしたいからという理由で聖剣を振るっていいのかという疑問が、ノックスの中に生まれていた。

 

『……んー。ノックス、思い出してみてください』

「何を」

『私を引き抜いた日のことです。まだ何者かになれるかもしれないと、あなたはそう言いました。何者かになれるかもしれないから力を貸してくれと。私はそのために存在するだけです。あなたが進みたい道を切り開く剣、それが私です』

「いや、でもさ」

『もちろん! ローレンとともに私が為し得なかった本来の意味での人類の平和を、この手でつかみ取りたいというのが本音です! ですが、ノックスの命はノックスのもので、ノックスの意志はノックスのものですから。ノックスのやりたいことをやってください』

「でもルキノスは自分で動けねぇだろ? ルキノスのやりたいことはどうやってやるんだよ」

『えっと』

「無理だろ? だったらルキノスを握って振るえる俺がやるしかねぇじゃん」

 

 そして、疑問が生まれた瞬間ノックスの答えは決まっていた。

 

 ルキノスは、訓練校への道を切り開いてくれた。魔導師と戦える力をくれた。何者かになれる可能性をくれた。生まれた疑問は、ルキノスに恩を返せるチャンスだと納得した。

 

「ルキノス。俺、英雄になるわ」

『……言葉にするのは簡単ですが、その道はかなり険しいですよ』

「なんかできる気がしてるんだよ、俺」

『あ、あの、本当に、本当に険しいですからね? 気持ちだけではなんともなりませんからね?』

「気持ちだけじゃねぇよ。ルキノスがいるし、鍛えた体もある」

『あっ、へっ、ふ、ふーん』

 

 鍛えた体より私が先なんだ、とルキノスは心の中で小躍りした。

 

『そ、そうと決まればより強くならなくてはなりませんよ。ノックスは人よりできることが少ないのですから、できることを極めていかねば』

「だなぁ。ちょうどいい機会だし、魔族のことも教えてくれよ。千年前の魔族のこと知ってるやつなんて早々いないだろうし」

『仕方ありませんね。しっかり聞いていてくださいよ?』

「星が綺麗だなぁ」

『あの、あのあの』

 

 冗談だって、と笑って謝ろうとしたノックスはふと空に違和感を持つ。濃紺の空が、少し歪んでいるように見えた。一瞬気のせいかと思い視線を外してもう一度見てみると、その歪みは大きく渦を巻き、明らかな異常として視認できるようになっている。

 

 そこから現れたのは、無数の異形。動物が魔力を持ち進化を重ねた、人に害をなす生物、魔物。

 

「ルキノス。逃げるか戦うか!」

『幸い街には軍の警備があります! 軍の方との合流を最優先に』

「さっきぶりだな、ルキノス、人間」

 

 背後からかけられた声に、ノックスは振り向かず前へ跳び、転がって受け身を取ってからルキノスを構えた。何かされる前に動く、というルキノスの教えを守って行ったそれは無意味に終わり、ノックスへ声をかけた存在は攻撃も仕掛けず愉快そうに笑っている。

 

「我が名は『憤怒』を冠する『七将星』が一、サタン! 交戦は無意味と知れ。貴様ではどう足掻いても私には勝てん」

「じゃあ逃げてもいいんですかね」

「無論、逃げることもできんだろうな」

「それじゃあテメェが死ね」

「威勢はいいな、羽虫めが」

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