聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第14話

「貴様、本当に聖剣を扱う器か?」

「今実際にルキノス握って振るってんだろ。目ぇついてねぇのか?」

「いや……ローレン・ルークスとは随分違うなと思ってな。しかし確かにルキノスを振るっていることに間違いはない……」

 

 サタンと戦っていた、いや、もはや戦っていたという表現ができないほど一方的に蹂躙されたノックスの体は、すでにボロボロだった。『殺すつもりはない』と言ったサタンは本当にそのつもりだったためか致命傷となり得る傷はないが、それでも誰が見ても一目で『負けている』とわかるほどの傷を負っている。

 もっとも、殺されないのはいいことだとしても、あまりにもダメージが少ないと首を傾げているのがルキノスだった。

 

(確かにサタンは手加減をしている……ですが、それでも普通の人間ならとっくに骨が何本か折れていてもいいはず。というより、今動けていることの方が異常です)

 

 樹齢を重ねた大木の如きサタンの腕にそっとルキノスを添え、重心を移動させながらわざと弾き飛ばされるようにして攻撃を受け流すノックスの異常に気付いているのはルキノスだけだった。サタンは「まぁ、聖剣の使い手にしては弱いけどそういうこともあるか」と適当に納得し、蹂躙を続ける。

 そして、数分交戦を続けたところでノックスも自身に違和感を持った。いや、戦えすぎじゃね? と。

 

 普段の戦闘では、ノックスはルキノスの指示を聞いて動いている。もちろん動くたびに指示を聞いているわけではなく、ルキノスの指示を聞いてから動く比率が高いだけだが、今回に限ってはほぼそれがない。サタンの攻撃に合わせ自身で判断、というよりは体が勝手に反応し、手加減しているサタンの猛攻を凌ぐことができている。

 

「ルキノス! 俺才能あんのかもしんねぇ!」

『それはないです』

「それはないです???」

「ハッハッハ! いや、誇りに思っていいぞルキノスの使い手よ! 手加減しているとはいえ、この私と戦ってまだ立っていられるのだからな!」

「なんかやりやすいから、そんなに誇れることでもねぇかも」

「なんだと!!!!???」

 

 ルキノスに褒めてもらえなかったノックスはへそを曲げ、サタンに八つ当たりした。そしてサタンは『憤怒』を冠する『七将星』であり、『怒り』が増せば魔法の威力も自身の力も増す。戦闘が始まってすぐルキノスからそれを伝えられたノックスは、「自分で感情コントロールできねぇとか、幹部っぽくないな」と悪気なく口を滑らせてサタンをブチギレさせた。

 ちょうど今もブチギレさせたところであり、ノックスでさえ肌で感じられるほどの魔力がサタンから迸り、赤黒いそれが膨張したサタンの腕へと集約される。

 

「貴様は私を怒らせるのが随分うまいようだな」

「お前がキレるのがうまいだけじゃねぇの?」

『まぁ、元来魔族は自身の欲や感情などに正直なものですからね。それにしても七将星はそれが顕著すぎて魔王が哀れになりましたが』

「魔王様を討った貴様が、魔王様を語るな! ルキノス!!」

『おっと、申し訳ございません。あまりにも討った感覚がなかったものですから、てっきり生きているものかと』

「貴様、魔王様を愚弄するのであれば容赦はせんぞ!!」

『敵相手に容赦する余裕が、いえ、理由があるのですか?』

「……べ、別に!?」

 

 ノックスがダメージをあまり負っていないことの他に、ルキノスはもう一つ違和感を持っていることがあった。

 それは、サタンが手加減をしているということ。『聖剣が使えるから利用価値がある』と言って手加減をしているが、ルキノスの知るサタンは例え目的があろうとも、途中でブチギレて「ええい!! もう知らん!!」と癇癪を起すタイプだった。だからこそ、途中で手加減をしている自分と中々倒れないノックスにブチギレて全力で殺しに来ると思っていたのだが、それがない。つまり、サタンが自身の怒りを抑えてまで手加減する理由が—

 

「あの、ルキノス。サタン」

『なんでしょう、ノックス』

「なんだ、ルキノスの使い手」

「魔王って、倒したの?」

『えぇ、はい』

「……この私に、それを口にさせる気か」

『さっき自分の口で言ってましたよ』

「えっ」

 

 まさか自分がそんなことを、と驚愕しているサタンと同じく、ノックスはぽかんと口を開けて間抜け面を晒した。

 ノックスはてっきり、まだ魔王がいると思っていた。訓練校でも度々生徒が魔王の話をしていたし(もちろんノックスは会話に混ざっていたわけではなく、他の人が話しているのを聞いただけ)、魔族との戦いが終わっていないということはもう魔王がいるものだと思っていた。

 そんな中での『魔王はもう倒された』という事実に、一瞬ノックスの思考が停止する。

 

「え、いや、えぇ? じゃあ今魔王はいねぇの?」

『どうなんでしょうね。今も戦いが続いているということは、代わりの者がトップにいるのだと思いますが……どうなんですか? サタン』

「ふん、私がわざわざ敵に情報を与えると思うか?」

「なるほど、確かに内情伝えたら不利になって負けちまうもんな」

「内情を伝えたところで我らが負けるはずがないだろう!! 今は不本意ながら『七将星』であったルシフェルが指揮を執っている!!」

 

 バカだな、バカですね。言葉にせずともノックスとルキノスの思考は通じ合った。

 

 『七将星』ルシフェル。『傲慢』を冠する魔族であり、この世のすべてを見下しているクソ問題児。ルキノスが記憶している限りでは、魔族が滅ぼした街を魔族への嫌がらせのために復活させたり、他の『七将星』と喧嘩して魔王領を焼野原にしたり、他の『七将星』と喧嘩して魔王城を壊滅させたりとやりたい放題。

 

『あのルシフェルが……』

「忌々しいことに、やつが一番強いことに変わりはないからな。……さて、もういいだろう。私は昔話をしにきたわけではない。ルキノスの使い手を連れていくことが目的なのだ」

「もしかして俺って魔族なのかな。モテモテじゃね?」

『今のところ相手はサタンだけですので、モテモテかどうかは』

「なんで魔族は否定しねぇんだ、よっ!?」

 

 いつもの調子でルキノスと話していたノックスに、魔力を込められた巨腕が振り下ろされる。振り下ろされる直前、なんとなく嫌な予感がしたノックスが地面を蹴り回避行動に移れたため直撃は免れたが、砕かれた地面の破片が礫となってノックスの体に突き刺さる。

 

『ノックス!』

「わかってる。仲良しこよししにきたわけじゃねぇもんな」

 

 筋肉を収縮させ礫の食い込みを防ぐという頭のおかしいことをやってのけたノックスは乱暴に礫を引き抜いてサタンへと投擲する。当然サタンにそれが通用するはずもなく、鬱陶しそうにただの礫に赤黒い魔力をぶつけて消滅させた。

 その隙に、ノックスがサタンに向かって走り出す。明らかな格上相手に距離を詰める自殺行為にサタンは一瞬何か策があるのかと思考するが、すぐに「舐めやがって!!」と憤慨し巨腕を横なぎに振るった。

 

 それと同時に、ノックスが跳躍する。格上相手に空中で無防備を晒す、二度目の自殺行為、重ねた愚行。それを見て『何もない』と判断できるほど、サタンは傲慢ではなかった。冠する『憤怒』は一瞬なりを潜め、ノックス、正確に言えばルキノスを注視する。

 

「……な、んだ?」

 

 瞬間、サタンは平衡感覚を失った。それとともに、体全体へと流していた魔力が乱れ、腕が元に戻っていく。

 サタンは、その感覚を知っていた。まさしくルキノスを相手にしていた時に感じる、忌々しい感覚。自身の魔力が乱され、魔族の特性を嘲笑うかのような魔法。

 

「俺ばっか見てて、気づかなかったろ」

「『封魔の界』か」

「本当にそんな名前だったんだな」

 

 魔力が練りにくくなろうとも、本来のルキノスの力に遠く及ばない『封魔の界』の中でクソザコになるほどサタンは弱くはなく、振るわれたルキノスを目で見て回避し、視線を周囲へと投げる。

 二人を囲うようにして展開されている、灰色の壁。ご丁寧に広く展開されており、サタンが抜け出そうとすればノックスが逃げだすであろうことは容易に想像できた。

 

「……本来のルキノス相手であればここから抜けだすことを優先しただろうが、貴様が相手ではその必要もなさそうだな」

 

 当時の感覚よりも断然練りやすい魔力。それは『封魔の界』を抜け出さずノックスと交戦する選択を取るのに十分な材料だった。

 そして、その選択を手伝ったのはノックスの状態にもある。

 

 『封魔の界』。内側にいる者の魔力を練りにくくし、魔力そのものを鈍重化させるルキノスの魔法。当然生物が持つ魔力にも影響を与え、それはミソッカス魔力であるノックスも例外ではない。

 魔力とは第二の心臓と言ってもいい。魔力を失えば体の動きが鈍り、呼吸が乱れ、身体の機能が低下する。今まさに、ノックスを襲っているのがそれだった。

 

「その程度の魔力しか持っていないのにも関わらず『封魔の界』とは。魔力だけではなく脳も足りていないらしい」

「テメェはカルシウム足りてねぇんじゃねぇの? 小魚食えよ、雑魚らしく」

「貴様ァ!! 減らず口叩いたことを後悔させてやる!!」

 

 魔族は人間よりも純粋な魔力を持つ。そのため『封魔の界』が人間より効きやすいが、元々の魔力に対するスペックが違うため、弱りやすいが人間より『封魔の界』で魔法が扱えるというちぐはぐな存在である。

 そして魔族としてほぼ頂点に君臨しているサタンが不完全な『封魔の界』の中で魔法を使うことなど、造作もないことだった。『憤怒』を力に変え、赤黒い魔力が渦を巻き暴力となってサタンの頭上へと現れる。

 

「今思ったが、息さえあれば治療できるからボロッボロにしてもいいのだ!! 覚悟しろ、貴様!!」

 

 ノックスはその暴力を見上げ、ルキノスを構えて。

 

 薄く笑って、『封魔の界』を解除した。

 

「なっ」

 

 マズい。『封魔の界』が解除された瞬間、感じた魔力にサタンはその場から離れようとした。しかし行動に移すにはすでに遅く。

 

 大量の魔力弾と炎の柱がサタンへと叩きつけられた。

 

 その魔法の主は、魔法の余波を受ける位置にいたノックスを抱え上げ、一瞬で距離を離したタバコの似合うフリード・ガーベラと、体中に傷を作ってその傷から炎を漏らしているシオン・グレイハート。

 

「死んでいると思っていたが、無事だったか」

「よーくやったなノックス。あとは私らに任せとけ」

「カッコいいぜ姉御たち!!」

『ノックス。一応確認しますけど、英雄になるって言った人と同一人物ですか?』

 

 助けに現れたフリードとシオンに、下っ端全開になったノックスを見てルキノスはおや? と首を傾げる。確かこのノックスという筋肉は「英雄になる」とカッコつけていたはずでは? と。

 

「バカ言え。一人でなんでもやっちまう英雄なんて願い下げだっての。んな傲慢野郎、友だちできなさそうでいやじゃん」

「……そのセリフ、ルシフェルに聞かせてやりたいものだな」

 

 炎の中から聞こえてきた声に、フリードとシオンが構える。

 

「『封魔の界』。そういえば、外の魔力も感じづらくなるのだったか。千年ぶりで忘れていた。おかげで、つくはずのなかった傷がついてしまった」

「へっ、強がり言ってられんのも今のうち--」

 

 放たれるのは、魔力の波。殺傷能力を持たないそれはその場にいる全員をその場に縫い付ける。

 純然たる”差”を思い知らせるほどの威圧。魔力を感じづらいノックスでさえ、自身の体が震えていることに少ししてから気が付いた。

 

「貴様らには、手加減する必要がないからな。殺させてもらおう」

「ワリィな。そう簡単に死なねぇんだ、私は」

「ノックス。離れたら守りにくいから、離れるなよ」

「……っす」

『ノックス』

 

 気遣わし気に呼ばれた名前に、ノックスはルキノスを撫でることで応えた。

 

 完全に手加減していたサタン相手ですら、簡単に敗北した。そしてすぐに差を見せつけられた。これで英雄になるなど滑稽だと笑う者もいるだろう。

 

「こりゃ、鍛え甲斐があるな」

 

 ノックスは、笑う側だった。

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