聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第17話 

「まァ、想像通りってとこか」

 

 アストたちと対峙していた魔族が、つまらなさそうに呟いた。周囲に転がっているのは、まだ息はあるものの全身傷だらけで満身創痍のアスト、クルス、ステラ、ライラ。

 力の差は歴然だった。最初は魔族が遊びで軽く戦っていたが、すぐに飽きた魔族が少し力を込めただけで壊滅状態。入校間もない四人では荷が重いどころの騒ぎではないのはそれもそのはずで、四人と対峙していたこの魔族は『七将星』の一角、ベエルゼ。その実力だけでいえばサタンを凌駕する化け物。どのような策を講じたところで勝てるはずもない相手、なのだが。

 

 それでは納得しないバカがいた。

 

「まだ、だ」

「あァ?」

「まだ、終わっていない」

 

 痛む体に鞭打って、震える足に喝を入れて立ち上がったのは、アスト。倒れる仲間を横目で見て、守るように三人の前に立った。

 

「もう格付けは済んだだろ。何回やっても同じだろうが」

「俺とお前の勝ち負けの結果は変わらずとも、このままお前を放置するかしないかで他への被害の結果は変わる」

 

 バチッ、と音が弾ける。それはアストから漏れ出る雷の音。荒々しく断続的に弾けるそれは、完全に敗北したにも関わらずなおも戦闘をしようとする、アストの意志の表れでもあった。それを見せられて放置するベエルゼではなく、腕に魔力を込めて迎撃の体勢をとる。

 

「別にもう付き合う道理はねぇんだけどなァ。もうお前らに興味ねぇし」

「そう言うな。どうせ尽きる命なら、まだ実戦レベルに至っていないとっておきを見せてやる。もっとも」

「あ?」

 

 見えればの話だが。挑発的に呟いたそれはベエルゼの耳に届くことはなく、気づけばベエルゼの体は空へ打ちあがっていた。自分が空にいることを理解した直後に襲ってきたのは、燃えるような痛み、そして全身の痺れだった。恐らくとっておきとやらで攻撃されたのだと気づいた時、目の前が真っ白な光で覆われる。次いで、衝撃。暴力的な光に全身を焼かれるベエルゼの視界に映ったのは、ほぼ全身が雷と化しているアストの姿だった。

 

「て、め」

 

 まだ名前もついていないアストのとっておき。それは、意図的な魔力暴走を引き起こし、自身を雷と同化させるもの。数分の使用で体が焼き切れる諸刃の剣。実際に、アストの体は焼け焦げていた。

 

(こんな形でしか足止めできないのは、かなり悔しいが)

 

 襲い来る麻痺に体を動かせないベエルゼに向かって、腕を振り上げた。

 

(生きていたらリベンジ頼む。名も知らない魔族)

 

 そして。

 

 王都に破壊的な雷が落ちた。

 

 

 

 

 

「うわっ、なんだ!? 雷!?」

『アストでしょうか。……アスト? なぜアストが外に?』

「生きていたら説教だな。さて……」

 

 ガツン! とフリードは倒れているサタンの頭を踏みつけて、サタンから漏れる悲鳴に眉一つ動かさずタバコに火をつけた。

 

「お前らの目的は?」

「誰が教えるか! というか勘違いするなよ、私はベエルゼとの喧嘩の傷が癒えていなかったから貴様らに負けただけで、本調子ならこうはいかんぞ!」

「負けた言い訳は聞いていない。あと魔力の枷を嵌めていることを忘れるなよ。今のお前程度なら体の一部分を消し飛ばすことなんて造作もないんだ」

 

 サタンの手と足にはそれぞれ枷が嵌められており、それによって魔力が阻害されていた。なんか枷嵌められて転がってるの似合うなぁと失礼なことを考えているノックスはしかしそれを口には出さず、目の前で第3部隊らしい尋問が行われようとしていることを察してそっと目を逸らした。

 

「ん? ノックス、こっちくるか?」

「これが包容力……」

『私と一緒にいると感じるもののことですね』

「今腹いてぇんだからあんまり面白い冗談言うなよ」

『遺憾』

 

 遺憾の意を表明するルキノスを無視して、少し離れた位置で座り込んでいるシオンのもとへよたよたと歩いていくノックス。

 ノックスの腹に空いた傷は、既に塞がっていた。フリードは大体の魔法なら構造さえ理解すれば行使でき、「あんまり得意ではないが」と言いながらノックスの腹の傷を治療してみせた。あまりの魔法の才能に、自身と比べてしまって泣きそうになったのはノックスだけの秘密である。

 

「平気ですか、シオンさん。とんでもないことになってましたけど」

「久しぶりだったけど大丈夫。魔力はほとんどカラだけどな」

 

 皮膚が剥がれ落ちて左腕を失って、横腹が削り取られるのが久しぶり? 疑問に感じたノックスはもう考えないようにした。そしてあんな傷だらけだったのに炎を放出するだけでほとんど無傷になっているシオンに恐怖を感じた。

 

「まぁ目的は恐らくノックス及びルキノスだということはわかっているからもういい。それよりあのゲートはなんだ? 誰の魔法だ? ここから解析した限りだと少し心当たりはあるが、お前が言ってくれれば犯人捜しをする手間が省ける。ほら、言え」

「言わんわ! フハハハハ! 仲間内に敵がいる恐怖を思い知れ!」

「やはり味方に裏切者がいるらしいぞ、シオン」

「しまった!!!!」

「俺、実はサタンって魔族に騙されてるだけで、本来はこっち側なんじゃないかって思い始めてるんですけど」

「あいつ、千年前もあぁだったのか?」

『千年前もあぁでしたよ。呆れ果てるほどのバカでした』

 

 意図していない自白により、『味方に裏切者がいること』『その裏切り者がゲートを使用したこと』の二つがほぼ確定した。フリードはすぐ司令部に通信を繋げそのことを報告し、「情報提供の礼だ」と魔力弾でサタンの脚を撃ちぬいた。「なぜだ!?」というサタンの叫びにノックスとシオンが頷き、共感の意思を見せる。

 

「さて、困るのはこいつの扱いだな。どこにぶち込んでおこうか」

「研究施設はやられちまったしなぁ。かといって司令部に放り投げるわけにもいかねぇし」

「でしたら、こちらでお預かりいたしましょうか?」

 

 ノックスは弾かれたように飛び上がって、声の方にルキノスを向けた。

 

 ノックスのものでもフリードのものでも、シオンものでもルキノスのものでもましてやサタンのものでもない声の主は、銀の髪を左に流し、薄く鋭い目に藍色の輝きを持つ、スーツを身に纏った細身の男だった。

 

 アルデバラン王国第4部隊隊長、エリカ・ストラウトが、戦場に不釣り合いな笑みを貼り付けてそこに立っていた。

 

「あぁ、エリカか。ちょうどよかった」

「私であれば誰にも見つからず移動が可能ですし、皆さんもお疲れのようですから安全な場所までお送りいたしましょうか?」

「それはお前にとっての安全な場所か?」

 

 エリカの周囲に無数の魔力弾が出現する。それを制御しているのはフリードであり、明らかな攻撃の意思にノックスは混乱した。

 

「え? あれ、え? 味方なんじゃ……」

「あん? ノックス、お前察しがついてたからルキノス構えたんじゃねぇのか」

『この獣が隊長陣の顔と名前を覚えているはずがないでしょう。単純に敵だと思ったからです』

「あぁそうか。ま、私も確信持ってるわけじゃねぇけど、今からフリードがそのあたり証明してくれんだろ」

 

 筋肉にほとんどの魂を売ったノックスはほとんど理解できていなかったが、とりあえずフリードの頭がいいことは知っていたし、フリードとシオンの信頼関係も知っていたためルキノスをそっとおろして、成り行きを眺めることに専念した。ノックスはバカだが、空気が読めないバカではない。

 

「フリードさん、ご冗談を。今はこのようなことをしている場合ではないでしょう?」

「悪い。私も確信を持てているわけじゃない。ただ、現状最も疑わしいのがお前なんだ」

「それはなぜ?」

「あの空に開いているゲートとお前の魔力が似ているから」

「じゃあバレるのも時間の問題ですね」

 

 瞬間、フリードが踏みつけていたサタンの姿が掻き消えた。反射的に魔力弾をエリカへ殺到させるが、既にエリカの姿はなく。

 

 魔力の動きを追って、ノックスは気配を追って空を見上げれば、そこにはサタンをゴミのように抱えてたエリカの姿があった。背後に空のゲートと同じものを携えて。

 

「サタンが思ったよりも雑魚だったので目標は達成できませんでしたが、サタンの回収はできたので一旦よしとしましょう」

「誰が雑魚だ!」

「ベエルゼと喧嘩した上にそのせいで敵に捕まって、逃がしてあげたのに敵に負けて、これのどこが雑魚ではないと言えるんです?」

「……」

「なんてかわいそうなやつなんだ……」

 

 うっかり同情の声を漏らしたノックスを咎めるものはおらず、フリードとシオン、ルキノスは心の中で同意した。三人ともサタンがかわいそうだと感じる要因の一つなのだが、それを棚に上げてしまうほどエリカに責められるサタンがかわいそうに映ってしまったのである。

 

「逃げていいのか? 私とシオンは魔力が切れかけで、ノックスは弱い。絶好のチャンスだと思うが」

「近くにとんでもないやつがきているので、リミットですよ」

 

 それでは、と言ってゲートに身を沈めたと同時、空間をも裂く斬撃が一瞬遅れてゲートのあった箇所を切り裂いた。それとともに暴風が吹き荒れて、ノックスは咄嗟にルキノスを床に突き刺してそれを支えに風圧を耐える。『聖剣! 私聖剣! 扱い雑!』というルキノスの文句は耳に届いておらず、暴風が収まった後に目の前に降り立った人物に意識を奪われる。

 

「フリード、シオン。もしかして俺は遅れたか?」

「完全に。でも助かりました」

「いやほんと助かったぜカゲキさん。もしかしたら死ぬとこだった」

「カゲキ?」

『ほら、第1部隊隊長の』

 

 ルキノスに言われて、そういえばとノックスはなんとなく思い出す。最初国軍の訓練室で説明を受けた時になんか強そうな人がいたな、と。

 

 アルデバラン王国第1部隊隊長、カゲキ・フウライ。最強の名をほしいままにした、アルデバラン王国の最高戦力。

 

「そっちの坊主ははじめましてって言いてぇところだが、そんなこと言える状況でもねぇ。空のゲートは閉じたみたいだが魔物はまだうじゃうじゃいる。少しでも動けんなら手伝え」

「一応言っておきますが、ノックスはまだ訓練生です」

「魔族と戦ったんならもう戦場に出してもいいだろ! ガハハ! 行くぞ!」

「え」

 

 カゲキの太い腕に捕まったノックスを襲った嫌な予感。それはすぐに形となった。

 

 直後、ノックスは風になった。

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