聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第18話

 王都、国軍宿舎。

 

 魔族からの侵略を退け、被害の確認と怪我人の治療に国軍が奔走する中、なんとか生きて帰ったノックスは一人、バルコニーで座り込んでいた。

 

「一歩間違えりゃ死んでたんだってよ」

『聞いてましたよ。ノックスがいるところに私もいるんですから』

 

 カゲキに連れられて王都を走り回っている時。ノックスの視界に映ったのは、ボロボロになった街と人。そして、倒れるアストたちだった。クルス、ステラ、ライラの三人はそこまでひどくはなかったがそれでも重傷であり、アストは息をしているのが不思議なほどの重傷で、全身が焼け焦げて皮膚呼吸もままならないほど。訓練生が外にいる異常を察知して医療部隊隊長であるリリーが駆けつけなければ、アストは死んでいた。

 

「いや、なんかさ。あんまこういうこと言うの精神的によくないっぽいけど、俺のせいじゃね?」

『……まぁ、魔族の狙いはノックスと私っぽかったですしね。それを言うなら私のせいでもあります』

 

 ノックスとルキノスは知らないが、四人が外に出たのは外にいるノックスを助け出すためであり、結果としてノックスのせいというのは正しい。普段は能天気なノックスも、今回ばかりは沈み込んで、無意識に拠り所を求めていたのかルキノスに寄りかかるようにして座り込んでいる。

 

『大丈夫ですよノックス。リリー……そういえば第2部隊の隊長もリリーと言うんでしたね。えっと、七色の方のリリーさんはかなり優秀な回復魔法の使い手に見えました。すぐに目は覚まさなくとも、命は助かりますよ』

「それはそうなんだろうけどさぁ。……まぁ、生きててよかったって思うのが正解なんだろうけど」

「それにもしノックスが宿舎にいたままだったら、きっと宿舎が襲撃されていただろう。正解とは言い難いが、少なくともノックスが外にいたのは間違いじゃなかった」

「フリードさん」

 

 相も変わらずタバコを吸いながら、フリードがバルコニーにやってくる。そのままノックスの隣までくると、ゆっくりと腰を下ろして空に向かって煙を吐いた。

 

「会議終わったんすか」

「あぁ」

 

 国軍の隊員が街を走り回っている中、隊長陣は会議を行っていた。ノックスにその詳細は明かされていなかったそれに対して、ルキノスは少し警戒心を抱く。

 警戒しているのは、協議の内容について。ルキノスはこの時代の思想がどのようなものかはわかっていないが、『聖剣使いが狙われた』『聖剣使いは魔力なし』の二つが揃っていれば、『これ以上被害が出ないよう聖剣使いを亡き者にする』と判断されても不思議ではない、と思っている。

 

 そして、その思考は間違いではなかった。

 

「ノックス。さっきの会議で、君の殺害とルキノスの封印が検討された」

 

 死ぬほど能天気なノックスが傷心しているのもフリードは十分理解しているが、フリードに遠慮や配慮などという概念は存在しない。いつでも必要なことを必要なだけ喋って動いて終わらせる。

 

「理由はなんとなくわかるな?」

「はい」

 

 その理由は、ノックスにとって残酷なものである。簡単に言えば、『魔力もなく魔族に対抗できそうにないのであれば、これからの被害を考えればいなくなった方がマシ』だということ。結局のところ、また『魔力がない』ことが原因となってノックスの道が閉ざされようとしている。

 

「で、協議の結果だが」

「ルキノスの封印ってとこだけ、なんとかなりませんかね」

『え?』

 

 続きを話そうとしたフリードにノックスが被せて、フリードが口を閉じる。続きを言えということだと捉えたノックスは、そのまま自分では動くことすらできないルキノスが、なんとなく暴れそうな気がして、手で押さえながら続けた。

 

「こいつ、千年も田舎の洞窟にずっと刺さってたんです。俺魔法使えねぇから封印がどういうもんかもわかんねぇっすけど、多分こいつにとっちゃ寂しくて、すげぇ苦しいことなんだっていうのはわかる。だから、ルキノスの封印はなしにできませんか?」

「どうやって」

「バカなんで思いつかないです」

「話にならん。ルキノスをそのまま置いておけば、魔族に利用されるリスクにつながる」

『あの』

「それなら、封印したって同じじゃないですか? その封印を解ける魔族がいたら、どっちにしろルキノスは狙われる」

『ストップ!!!!!』

 

 気づけば抱きしめるようにして抱え込んでいたルキノスからの叫びに肩が跳ね、ノックスはルキノスを見た。

 ルキノスに表情はない。見た目は剣で、魔力のないノックスにとってはルキノスが持っている魔力も感じられず、見た目からは何かを感じ取ることはできない。

 

 にもかかわらず、ノックスはルキノスが怒っていると感じた。

 

『こんのアホノックス!! さっきから聞いてればなんですか、自分は死んでもいいってことですか? それなのに私の封印はやめてくれって? ハー!! 呆れ果てるほどのバカですね!! それに死ぬほど嘘つき!! 英雄になるって息巻いてたのはどこのどいつですか!!』

「いや、あんときと今とでは状況が」

『一緒です!! 言いましたよね、険しい道になると!!』

「っ、でも俺がいると被害が出るんだよ! 今回以上にひどいことになるかもしれねぇ! それなら俺はいなくなった方が」

『私が嫌です!!!!』

「んだとコラ!! わがまま言うな!!」

『べー!!』

「このっ、バーカ!! 千歳超え!!」

『あー!! 言ってはならないことを言いましたね!!』

「落ち着け」

 

 二人に煙を吐いてフリードが睨みつけると、ヒートアップしていた二人がせき込んで黙り込む。ルキノスがせき込んだことに(感覚があるのか?)と知的好奇心を刺激されながらも、今はその話をするときではないと抑え込んだ。

 

「そもそも検討されただけで、その案は却下された」

 

 え、とノックスとルキノスから間抜けな声が漏れる。言い方がややこしかったかと少し申し訳なくなったフリードは「すまん」と適当に謝ってから、何か恥ずかしそうにしている二人の雰囲気を感じ取って目を逸らした。

 

「ルキノスなら知っていると思うが、東西南北に分かれた四つの国で、それぞれ選ばれた者しか扱えない武具がある」

『は、はい。えっと、私と、えーっと、聖杖と聖弓と聖拳ですね』

 

 四大国にはそれぞれルキノスと同じように『聖』を冠する武具がある。これまたルキノスと同じく千年間使い手が現れておらず、もはや武具というよりは各国のシンボルとして機能していたもの。

 今このタイミングでその話をしたことに、ルキノスは『もしかして』と声を漏らした。それにフリードが頷いて、

 

「魔族が現れたのはアルデバランだけじゃない。他の国にも現れたそうだ。幸い、奪われるようなことはなかったみたいだが」

『どうせ狙われるなら、使い手を探して戦力を補強しようみたいなことですか?』

「あぁ。四大国一丸となって、魔族に対抗しようということらしい。まだ各国に伝えてはいないが、元々いがみ合っていたわけでもないからな。それぞれの国で出た被害を考えれば、頷いてくれるはずだ」

「でもどうやって探すんですか?」

 

 勘違いで大喧嘩していた恥ずかしさからようやく復帰したノックスの質問に、フリードはルキノスへ視線を向けた。

 

「ルキノス。心当たりはないか?」

『……普通にあります』

「よし。なら決まりだ」

 

 床で適当にタバコをもみ消して炎の魔法でタバコを灰にしたフリードは、そのまま立ち上がっていつもと変わらないクールな表情でなんでもないように告げた。

 

「旅に出るぞ」

「……え?」

『え?』

 

 突拍子もないことを言った時ですら表情が変わらなかったフリードは、呆けた二人を見て少しだけ口角が上がった。

 

 

 

 

 

 南の大陸。王都から外れた場所にあるクーロイ火山。

 

 金の髪に燃えるようなオレンジの瞳。端正な顔立ちの青年ルディ・クロードはクーロイ火山麓にあるクーロイの里で育ち、周辺にいる魔物を狩り、街まで出て素材を売って生計を立てていた。

 それに加えて、火山で採掘した鉱石も収入源。今日も採掘を行おうと火山の熱に耐えるための環境適応の魔法を行使して、奥へ奥へと進んでいく。

 

 その途中で、声が聞こえた気がした。なんとなく声の方へ足を向けて警戒も何もせず突き進んだルディの目の前に現れたのは、火山に不釣り合いな扉。ルディでは読み解けない魔法の式が刻まれており、そもそも感覚で魔法を行使していたルディはそれが魔法の式だということに気づかずまたもや無警戒で扉に手をかけた。

 

 ギィ、と不愉快な音を立てて扉が開く。

 

『やァっときやがったか!! おっせぇんだってのバカ野郎が!! オメーがちんたらしてるせいで魔族ぶっ飛ばすチャンス一回逃しちまっただろうが!!』

 

 扉の先には台座が一つあり、その上にガントレットが一組鎮座していた。赤と金の配色のそれは炎を思わせ、右手の甲の部分に埋め込まれた赤い宝石がちかちかと輝いている。

 

「お、なんか俺のせいっぽい感じ?」

『ハーン! 俺がここでおとなしくしてる間に世界は随分平和ボケしちまったみてぇだなァ! 名を名乗れ!!』

「ルディ・クロード」

『俺の名はアルゴ!! 聖拳アルゴつった方がわかりやすいか!!』

「しらね!」

『ハァァアアアア!!!!??』

 

 こうして、王都から離れた場所で平和に暮らす青年が聖拳を手にした。そしてこの時からしばらく後。

 

 聖剣の使い手(暫定)と聖拳の使い手(本物)が出会う。

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