聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第1話

 訓練校には、自由に使用できる訓練スペースがある。そこでは訓練校の生徒が集まって、意見を交換しながら魔法の熟練度向上に勤しんでいる姿がよく見られ、そこで新たな友情が生まれるということも多々あることだった。

 しかし、入校から二週間。筋肉に魂を捧げたノックス・デッカードにまだその縁は訪れていなかった。

 

『私の特性を考えれば、普通の剣とは扱い方が少し変わってきます』

「大振りよりも小振りを多めに、とにかく『魔法に当てる』のを優先だっけ」

『えぇ。幸い、ノックスの筋力であれば少し動かすだけで威力は出ます。ですので、当てることができればある程度の魔法であれば斬ることはできるかと』

 

 剣にレクチャーを受けるというそこそこおかしな光景を作り出しているのは、ノックスとルキノス。遠巻きにその様子を興味本位で見る者はいるが、近くにくる者はいない。

 その原因は、ノックスの配属されたクラスにあった。

 

 クラスはAからFまで存在し、基本的には入校して初めにDクラスに配属される。Eクラスに配属されるのはよっぽど魔法に慣れていないか、そもそも魔法のなんたるかを理解していない者。

 そして、Fクラスは訓練校の歴史上配属された者は誰一人存在しない。ここにいるノックスを除いて。

 

 つまり、なんかヤバそうだから事故に巻き込まれるのも嫌だし、人となりもわからないから近寄るのはやめておこうということである。

 

「お、やってるな」

「フリードさん!」

『お疲れ様です。フリードさん』

 

 もう一つの原因が、フリード・ガーベラ。Fクラスに配属されたノックスの担任が、”あの”フリード・ガーベラというのがノックスに誰も近寄らない要因の一つであった。

 

 フリード・ガーベラ。アルデバラン王国第3部隊隊長。年齢は19歳で、訓練校を一年で卒業し、そのまま戦果をあげ隊長の地位まで上り詰めた誰もが知る天才。訓練校の生徒であればフリードに見てもらいたいとほとんどが思っているが、フリードは『筋肉で聖剣を引き抜いたノックス』にしか今のところ興味を持っておらず、話しかけても「そうか」と適当に返す始末。

 

 こうしてノックスは面白いくらいに孤立していった。ノックス本人からすればまったく面白くない。

 

「聖剣の扱いには慣れたか?」

「少しは慣れたんじゃないですかね? つっても、まだちゃんと戦ったことないんではっきりとはわかんないすけど」

『ノックスは運動神経に優れていますから。剣を振るうということに関しては問題ないかと思いますよ』

「ふむ、そうか。それなら対人戦をやってみよう」

「え」

 

 それを聞いて、ノックスは隠すことなく嫌そうに口角をひくつかせた。

 

 入校して初日。ひとまず今どれくらいできるか見ておきたいというフリードの言葉で、ノックスとフリードは模擬戦を行った。

 結果は、ノックスの大敗。開始と同時無数の魔力弾に視界を埋め尽くされ、気づけばルキノスを握りながら倒れ伏していた。がむしゃらにルキノスを振るって魔力弾をいくつか消せただけ褒めてくれとノックスは思ったが、「全然だな」というダメだしを受け「俺は全然なんだ……」と自信を喪失。

 

 つまり、ノックスはフリードのしごきに少しばかりの恐怖心を覚えていた。手加減してくれていたとはいえ、普通なら死んでもおかしくない攻撃を受けたのだからそれはそうである。

 

「まさかまたフリードさんと……」

「あぁいや、私じゃない。聖剣に斬られても問題ないやつを連れてきた」

「連れてきた?」

 

 ノックスが首を傾げると、肩に誰かの腕が回された。感じたのは、しなやかな筋肉と華の香り。ノックスに肩を組んできたのは、燃えるような赤い髪をポニーテールでまとめた、ギラつく金の瞳の女性。

 

「よう、ノックス・デッカード! 私はアルデバラン王国第3部隊副隊長、シオン・グレイハートだ! よろしく!」

「失礼ですが、第3部隊は暇なんですか?」

「本当に失礼だな。安心しろ。聖剣の使い手の面倒を見るともなれば、優先すべきことだと上もわかってくれている」

「ハハ! いいね、はっきりモノ言うやつは嫌いじゃねぇ!」

「え、告白?」

「いいぜ、一回寝てみるか?」

「シオン」

「冗談だよフリード。ガキに手は出さねぇさ」

 

 降参と言わんばかりに両手を上げて、ノックスにウィンクを一つ。そしてノックスは直感した。

 

 フリード・ガーベラにシオン・グレイハート。第3部隊の隊長と副隊長に育てられた自分が情けないところを見せればつまり、二人の評判も落ちるのでは?

 

 実際のところは『魔法が使えない』というのはかなり珍しく、更に下に見られてもおかしくないことなので、ノックスが情けなくとも「まぁ仕方ないよね」で済まされるレベルではあるのだが、こう見えて責任感の強いノックスは二人に恥をかかせるわけにはいかないと一層奮起した。

 

「お願いします! シオンさん!」

「おう。遠慮なく斬っていいぜ」

「そういう趣味ですか……?」

『ノックス。思ったことを何でも言わないように』

「ハハ! いいって別に。気にしてねぇよ」

 

 明るく笑ってノックスから距離をとる。「え、気にしてるじゃん」と一瞬思ったノックスは、あぁそういえば今から模擬戦をするんだったと一人でバカなことを考え、フリードの合図を待った。

 

「それでは、始め」

 

 淡々と告げられた開始の合図と同時に、ノックスはルキノスを正面に構える。何も考えず動き出すだろうと思っていたシオンは「へぇ」と面白そうに声を漏らし、口角を吊り上げた。

 

 ノックスの基本は、『待ち』。魔法に触れてこなかったからか魔法に対する知識に乏しく、反射神経だけに頼ってつっこむにはリスクが大きすぎる。そのため、ルキノスは『基本的に相手の動きを待ち、それに合わせて剣を振るう』スタイルをノックスに教え込んだ。

 それは実際にノックスに合っている戦法であり、ノックスは魔法の才能に恵まれなかったが、身体能力の才能には恵まれていた。聖剣を筋肉だけで引き抜いたことがその証明であり、それは反射神経、視神経の良さにも同じことが言える。これは、初めフリードの視界を埋め尽くすほどの魔力弾を、何もできず受けるのではなく反射神経で打ち消したことがその証明となる。

 

『いいですよ、ノックス。戦いとは情報をどれだけ握れるかが勝利の鍵となります。距離を保っていれば基本的には相手は近づくか、遠距離から魔法を使うかの二択。魔法を使われれば打ち消し相手の実力を測る基準値とし、近接であればあなたに分があります』

「素人相手なら、だろ」

『えぇ。ですから、副隊長であるシオンさんにはあまり通用しないとは思いますが、であれば”これ”がどれほど通用するかの尺度ともなり得ます。胸をお借りする気持ちでいきましょう』

「残念。私にはフリードほど胸はねぇんだ」

「見たらわかります」

「言ってくれんじゃねぇか、テメェ」

 

 え、そっちから言ってきたじゃん。ときょとんとするノックスに、デリカシーという概念は備わっていなかった。

 

 そんなノンデリカシーノックスを粉砕するために、シオンが動き出す。全身に魔力を巡らせて身体能力を強化させ、およそ常人では目で追うことが困難なほどの速さでノックスに肉薄した。

 そう、常人では目で追うことが困難なほどの速さで。

 

「はっや!」

「!」

 

 魔力によって強化された拳を、ノックスは咄嗟にルキノスの腹で受ける。そのまま殴ってきた勢いを利用しルキノスを引いて一瞬バランスを崩させ、容赦なくシオンの腹に蹴りを入れた。身体能力強化により肉体的な耐久も上がってはいるが、鍛え上げられた脚の一閃に顔を苦痛に歪め、たまらず地面を蹴って距離をとる。

 

「っ、やんじゃねぇか、案外よ!」

「一対一なら、なんとか!」

『数による暴力には無力です』

「よろしくお願いします」

「息もピッタリときた。こりゃ舐めてかかるわけにはいかなそうだな」

 

 男勝りな口調で言ってから、苦痛に歪んだ表情を歓喜による笑みへと変える。

 

(クッソくだらねぇやつだったら即行片付けて帰ろうと思ってたが、いい掘り出しモンだ)

「まずは舐めてかかったことを詫びさせてくれ」

「いや、いいっすよ別に。俺も魔力持ってねぇやつを舐めねぇ自信ねぇっすもん」

『道理ですからね。我々は気にしません』

「ありがとよ。こっからはちゃんと魔法使うから、ついてこいよ」

 

 ノックスに魔力を感じ取る力があれば、シオンの魔力が膨れ上がったことが知覚できただろう。しかしノックスにそんな力はなく、ただシオンがやる気を出したと直感することしかできなかった。

 だから、対処が遅れた。シオンが消えたと思ったその時には、ノックスの懐にシオンが潜り込んでおり、地を蹴った勢いを乗せた蹴りがノックスの腹に突き刺さる。

 

(見えなかった!)

「さっきのお返しだ」

 

 口の端から血を垂らしながら笑みを浮かべるシオン。その肌には、血管が浮き出ている。

 

『身体能力強化には、上限が明確には存在していません。自分の限界を越えれば、たちまち体が悲鳴を上げる。ですから、上限が存在しないと言っても限界を超える人はいません』

「見た感じ、超えてるっぽいけど」

『ですね』

「お喋りしてる暇があんのか!?」

 

 ノックスの視界からシオンが消えた。それと同時に、ノックスはルキノスを振り下ろす。見えないなら、自分の感覚と予測でとりあえず剣を振るう。当たればラッキー。何もできないまま終わる無力感を知っているノックスは、『抗うこと』の重要さをよく理解していた。

 

 そしてその抗いはシオンの行動を一瞬抑制した。先ほどと同様ノックスの正面へと踏み込んでいたシオンは、ノックスがルキノスを振り下ろしたのを見て瞬時に体を捻る。無理な動きに体が悲鳴を上げるが、知ったことかとその回転の勢いを利用して、裏拳をノックスの肩へと放った。

 

 その威力は、ノックスが左へと跳躍したことで軽減される。シオンの拳が速すぎたためか避けきることは敵わなかったが、それでもモロに直撃することからは免れた。

 

「ハハ! ノックスお前、見えたのか!」

「いや、シオンさんの姿は見えてなかったっす。ただ、()()()()()()のは見えました」

 

 それは、シオンが体を捻った時。正面に立とうと踏み出した脚を軸にして体を回転させたときに生まれた焦げ跡。その焦げ方を見て、ノックスは瞬時に攻撃が来る方向を予測し、跳躍して軽減してみせた。

 

「なんだ。才能がねぇって聞いてたけど、十分バケモンじゃねぇの」

「”これしかなかった”を鍛え続けたんで、むしろ帳尻はあってんじゃねぇっすかね」

『いえ、あなたのこの才能は誇っていいですよ、ノックス』

 

 ノックスの動きを見て、シオンはより一層笑みを深めた。

 

(コケにされた気分だぜ、ったくよ)

 

 限界を超えた身体能力強化に体が悲鳴を上げる。時間が経過するごとに血が湧き、内出血が広がっていた。

 

(つまりなんだ、限界を超えた身体能力強化になんとかついてこれるってのか?)

「おもしれぇ。おいノックス!」

「なんすか!」

「お前がフィジカル見せてくれんなら、私は魔法を見せてやるよ」

 

 言葉と同時に、それは現れた。

 

 限界を超えたことにより生まれた傷から、真っ赤な炎が顕現する。それとともに、シオンの傷がじわじわと塞がっていくのが見えた。

 

「これが私の固有魔法(オンリーワン)。その名を不死の炎(アンデッド・レッド)。多少の火傷は勘弁してくれよ」

「……多少で済ませてくれんすか?」

「それはお前次第だな、ノックス」

『ノックス、構えて!!』

 

 焦りを帯びたルキノスが叫んだ直後、何をも焼き尽くす炎がノックスへ放たれた。

 

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