聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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東の大陸 - プロキオン
第19話 


 王都国軍基地、転送ルーム。

 

「あれ、俺が一番乗りか」

『旅行を楽しみにしている子どもみたいで可愛いですね』

「おいルキノス。俺たちは世界を救うための旅に出るんだぞ、茶化すな」

『ムカついたからって正論っぽいこと言わないでください』

「ぶぅ」

 

 ルキノスにバカにされてムカついて頬を膨らませムカつく音を立てたノックスと、そんなノックスにムカついて静かに怒りを燃やすルキノスがいるのは、各国と行き来できる転送魔法が組まれた、物々しい装置のある部屋。

 先日フリードから「旅に出るぞ」と言われたノックスは、「なんかよくわかんねぇけどフリードさんが言うんだったら間違いじゃねぇだろ」と思考放棄して今に至る。旅の目的は『魔族に対抗するための戦力確保のために、各国にある聖武具の使い手を探す』ことなのだが、道中魔族に襲われたらどうするのか、王都の守りが手薄になるのでは、そういった疑問も何も持たずこの場にいるのは流石ノックスであった。

 

 ちなみに、その質問はノックスがルキノスをフリードに預けて筋トレしている間にしている。もっとも、「私が転移魔法使えるから逃げられるし、王都が襲われれば国同士でカバーもできる」と簡単に答えられ、確実に安心できるものではなかったのだが。

 

「でもあれだよな。あいつらに会えなかったのが心残りだ」

『私の力が回復魔法に影響があるといけないからと、第5部隊隊舎には近づかせてもらえませんでしたから』

 

 ステラ、アスト、クルス、ライラ。ノックスが友だちだと信じている4人と旅に出る前に挨拶を済ませたかったノックスは、第5部隊隊長であるリリー・マラドゥーナから立ち入り禁止を言い渡されていた。ちなみに言い渡されている間にフリードはノックスの横を通ってノックスを一瞥もせずに隊舎へと入っていった。フリードには人の心がわからぬ。

 

「でも誰来るんだろうな?」

『七将星クラスでなければ交戦するでしょうから、ある程度の戦力は必要なはずです。ただ、本来の目的は捜索ですから、そちらの方面に長けている者、あとは回復魔法を使える方でしょうか』

「……」

『嫌そうな顔の理由は聞かないでおきますね』

 

 ノックスが想像したのはリリー・マラドゥーナの顔であり、「旅が強制的に濃くなりそうで嫌だな」という気持ちが前面に押し出した表情を浮かべた。ルキノスもそれに同意であったため、深くは聞かず沈黙を保つ。

 

 そうして訪れた静寂の中で、転送ルームの扉が開かれた。初対面の相手への挨拶を考えてくるの忘れた、と今更ながら焦ったノックスは、フリードの登場を期待して恐る恐る振り向くと、

 

「ん、もうきていたのか」

「フリードさん。大好きです」

「私も君は興味深いと思っているよ」

『研究対象への言い方してません?』

「あぁ」

「冗談うまいっすねフリードさん。俺みたいな筋肉だけのでくの坊、研究しても面白くないっすよ」

「だろうな」

『あの、ノックス。卑屈ジョークが肯定されたからといって、泣きそうな顔をしないでください』

 

 こんなに優しくない現実ならもしかして魔法にかかっているのではないかとルキノスを振ろうとするノックスに、「転送装置が壊れたらどうする? 考えて行動しろ」と冷静な言葉をぶつけられ、ノックスは今度こそ涙を流した。

 

「フリードさん。他には誰がくるんっすか」

「あぁ、もうすぐくるはずだ」

 

 その言葉と同時に、足音が聞こえてくる。ノックスが鋭い聴覚で拾った限りでは、4つ。初対面の人が4人もいたら怖いなと震えたノックスだったが、この場にはフリードがいることを思い出して胸を撫でおろした。その姿を見て『情けないですね』と言わないのはルキノスの優しさである。

 

 やがて、その4人が転送ルームに姿を現した。

 

「……え?」

「やぁ、ノックス」

「ノックス! 元気そうでよかった!」

「腹に穴が空いたと聞いたが、大丈夫か?」

「どう考えても大丈夫じゃなかったあんたが大丈夫なんだから、聞くまでもないでしょ」

 

 呆けるノックスの目には、笑って手をひらひら振っているクルスと、ノックスを見るなり飛びついてきてノックスをドギマギさせているステラと、かなりの重傷を負っていたはずなのにピンピンしているアストと、そのアストに呆れているライラの姿があった。

 

「は? え? とりあえずステラ、いい匂いしてドギマギしちゃうから離れてくれ」

「キモっ。あんた人づきあいに関してはほんと終わってるわね」

「だが戦闘に関しては見事だ。あのサタンをフリードさんとシオンさんとともに退けたと聞いている。それに初めは1人で戦っていたとも。俺が認めたライバルとして誇ら」

「いや喋りすぎだろ。え? なんでアストは平気そうな顔してんの? 死にかけてなかったかお前」

「私が何とか回復させろと言ってなんとかさせた」

「私も頑張りました!」

 

 ベエルゼとの戦闘及び自身の未完成の魔法により重傷を負っていたアストは、フリードの「こいつ連れていくから回復しろ」というフリードの無茶ぶりと第5部隊の頑張りにより復活した。とはいえまだ完全に回復しているわけではなく、魔法を使用すると痛みが走る後遺症が残っている。ただし、アスト本人は「魔力にも成長痛があるのか……」と後遺症の説明を受けたうえで勘違いしていた。

 

「ていうか、なんでこの4人を? 俺は嬉しいっすけど……」

「私たちの実力以上の魔族と接敵した場合はすぐに逃げること、魔族との戦いに備えるのであれば下を叩き上げる必要があること、王都の戦力を最大限削ぎたくないこと。以上」

『本当に旅行みたくなりましたね、ノックス』

「おう! ちょっとわくわくしてきたわ」

『ノックス。私たちは世界を救うために旅をするんですよ? 気を引き締めてください』

「テメェ!」

「さ、行くか」

 

 喧嘩を始めたノックスとルキノスを素通りし、近場にあったコンソールから転送装置を起動する。すると部屋の中央にあった台座が淡く光を放ち、何の説明もなくフリードはそこに乗った。

 どうやら乗れということらしいと気づいたクルス、ステラ、ライラは台座に乗り、ノックスはみんなが乗ったからとりあえず乗って、アストはどんな強力な魔法が放たれるのかわくわくしていたところを、呆れたライラに引っ張られて台座に乗せられる。

 

 そして直後。転送ルーム全体を光が包み込んで6人は姿を消した。

 

 

 

 

 

「ようこそプロキオンへ! 私はプロキオン国王、ブッチャイだ!」

 

 転送されたのは、四つに分かれた大陸の東側、プロキオン。同じくその王都にある転送ルームに飛んだ6人は、現在プロキオンの国王であるスキンヘッドに筋骨隆々、更に上半身裸で口元が隠れるほど立派なお鬚を蓄えているブッチャイに謁見していた。

 

「何かの冗談ですか?」

「ノックス。王の前だぞ」

「構わんさ! これから魔族の討伐に向けて力を合わせようというのに、言葉遣い一つで目くじらを立てたりせん!」

 

 流石にあの姿で国王はないだろうと無礼にも指を指して言ったノックス。いつもならルキノスが注意するところだったが、あまりにもノックスと同意見すぎて反応が遅れてしまっていた。

 

「そうだぞノックス。あんなに強そうなお方が国王でないわけがない」

「その強さで物事を判断するクセやめろよ」

「でもいつも的外れにはならないから厄介なんだよねー」

「あんたたち……無礼を気にしないって言われたとしても、王の前でぺちゃくちゃ喋んじゃないわよ」

「構わんさ! これから魔族の討伐に向けて力を合わせようというのに、ぺちゃくちゃ喋られただけで目くじらを立てたりせん!」

「会話のフォーマットがあるのかな……?」

 

 結構な無礼をやらかしているのにも関わらず、周りにいる軍も嫌な顔をしていないことから本当に『別にいい』のだろうとクルスは判断して、少し姿勢を崩した。ちなみにかしこまっていたのはクルスとステラとライラだけであり、6人の中で一番上の立場であるフリードは自然体で、アストは強そうな人を探していて、ノックスは礼儀を知らなかった。ひっそりとルキノスの中で礼儀作法を叩きこもうと決意した瞬間である。

 

「話は聞いている。なんでもうちにある聖拳、その使い手を探そうということらしいな」

「はい。こちらには聖剣のルキノスがいます。彼女には心当たりがあるとのことですから、そう時間はかからないかと」

「とはいっても、我がプロキオンの大陸には明るくないだろう? そこで案内人をつけようと思ってな。アルメイヤ!」

 

 無駄に大きな声で呼ばれて現れたのは、つばの広い三角帽子にマントを羽織った、ピンク色の髪の少女。瞳は緑で、少し幼さが残るが一目見て「美人だな」と感想を抱くほどには容姿が整っている。

 

「強いぞ」

 

 一人だけ容姿の評価を飛び越して実力を評価しているアホもいる。

 

「彼女はアルメイヤ・ジンジャールール。属性魔法をすべて使えるが、得意なのは炎と風を組み合わせた爆破魔法だ」

「う、うわああああああ!!!」

『の、ノックスが溢れ出る魔法の才能を前にしてアレルギー反応を起こしている!』

 

 俺と同い年くらいかな、と思っていたノックスに魔法の才能を見せつけた結果、ノックスは頭を抱えて悲鳴をあげた。アストとステラはまだ事前情報があって「すごいんだろうな」と思っていたからこそ耐えられたが、こうもいきなり魔法の才能を見せつけられてはノックスがもたない。

 しかし、悲鳴をあげるノックスにすかさずアルメイヤが追い打ちをかける。

 

「アルメイヤ・ジンジャールールです。年齢は15歳です」

「……」

「まずい、ノックスが死ぬ! ステラ、回復魔法を心に!」

「や、やったことないけどやってみる!」

 

 同い年という残酷な情報に、ノックスは気絶した。慌ててクルスとステラが駆け寄って心に回復魔法をかけるが、それで治るほどノックスの心の傷は浅くない。

 

「えっと、な、なにか失礼なことをしてしまったのでしょうか……」

「あぁ気にするな。ノックスは魔力が全然なくてコンプレックスなだけだ」

「ウワァアアアアアン!!」

『あんまりですよフリードさん! ノックスがガチ泣きしちゃったじゃないですか!』

「大丈夫だよノックス! ノックスは強い! ノックスはすごい!」

『そうですよノックス! それに私を使えるのはノックスしかいないんですから!』

「アルメイヤと言ったな。俺と戦わないか?」

「え?」

「あぁもう! 収拾つかないから一旦全員黙りなさい!!」

 

 ガチ泣きするノックス、慰めるルキノスとステラ、なんだかおもしろくなって笑うクルス、アルメイヤの強さに興味津々なアスト。あぁ、このメンバーだと私がしっかりしないといけないんだな、となんだか悲しくなったライラは激高した。

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