聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第21話

「呪いだ」

「呪い?」

 

 未だ眠る少女の治療は、完全回復とはいかなかった。

 その身に受けている傷は治療できたものの、どうやっても目を覚まさない。不思議に思ったクルスが『解析』をかけ続けた結果、少女の身を侵しているものが呪いだと判明した。

 

 『呪い』。人類が使用する魔法とは体系の異なる呪法と呼ばれるものにより引き起こされる、受けた者を蝕むタチの悪い毒のようなもの。解呪方法は術者を倒す以外に解明されておらず、『解析』を持つクルスであっても、『魔法での解呪は不可能である』ことしかわからなかった。

 

「この子が目を覚まさないとこの村で何があったかを聞けないんだけど……探査魔法飛ばして周囲を確認してみても、特に怪しそうなのは見つからないし」

「『解析』も続けろ。幻影魔法で隠れている可能性もある。このままここを離れるわけにはいかんから、今日はここで野宿だな」

 

 幸い食糧はある。言いながらフリードは四角い小さな箱を懐から取り出した。それにフリードが魔力を込めると、一瞬の光の後にテントや寝袋、水や缶詰などの食糧がその場に出現する。

 

「えぇ!? なんすかこれ!!?」

「格納魔法。あの箱の中にいろんなものがちっさくなって入ってるって感じかな?」

『メジャーな魔法ですよ。それこそ千年前にもありましたし』

「俺も欲しい!」

「ちなみに使うのに魔力がいるわよ」

 

 上がっていたノックスのテンションは、ライラの無慈悲な一言により急降下した。ルキノスを抱いて「いいもん……」と拗ねるノックスに、「体力仕事ならできるでしょ?」とクルスから更に無慈悲な一言をぶつけられ、テントの設営を命じられた。隣に立ったアストとステラが「誰が一番うまくペグ打ちできるか、勝負だ」「負けないよー!」と盛り上げていなければ、今頃ノックスは泣き喚いてフリードから「うるさい」と沈められていたことだろう。

 ノックスはルキノスでペグ打ちし、『なっ、せっ、聖剣をなんてことに使ってるんですか!』と文句を言ってきたルキノスに「これも立派な仕事だろ。差別するなよ」ともっともらしいかと思いきやむちゃくちゃな暴論をぶつけて黙らせて、「相変わらずいい太刀筋だ。やるか?」というアストの挑発に乗っかり、「こらー!」と二人してステラに怒られて。

 

 わちゃわちゃとした時間を過ごす中で、ノックスは一つの気づきを得た。

 

「ルキノス、そういえばさ」

『何ですか?』

「呪いって、ルキノスの力でなんとかなんねぇの?」

『……なんでそれを早く言わないんですか!』

「なんでそれに早く気付かねぇんだよ!」

 

 戦闘の余波でぐちゃぐちゃになったテントをアストとステラに任せ、少女のもとに走るノックス。俺もペグ打ち以外で役に立てるんだ! 意気揚々と少女の前に立ってルキノスを振り下ろそうとしたノックスは、ライラに思いきり殴られて止められた。

 

「殺す気か!!」

「いや、違うんだよ! ルキノスの力で呪いってやつをどうにかできねぇかって!」

「『封魔の界』があるでしょ! 寝てる女の子に剣振り下ろすバカがどこにいんのよ!」

「ごめんって言ってんだろ!」

「今初めて聞いたわよ!!」

「どうでもいいから早くやってみろ」

 

 あ、はい。フリードの言葉に弱弱しく頷いたノックスは、『封魔の界』を使用する。灰色の境界がノックスと少女を包み込み、小さな隔たりが生まれた。

 

「あれは……?」

「『封魔の界』。ルキノスの力で、あの中だと魔力をうまく練れないんだ」

 

 初見のアルメイヤは興味深そうに『封魔の界』を見つめ、知的好奇心の塊でありもしかするとノックスよりも『封魔の界』について詳しいかもしれないクルスが得意気に答える。アルメイヤは未知の力に好奇心をくすぐられ、そっと『封魔の界』に手を伸ばすが、「普通に気分が悪いからやめた方がいいよ」というクルスの助言にそっと手を下ろした。それを聞いていたノックスとルキノスはひっそり傷ついた。

 

 『封魔の界』を使用して数分。テントを建て直したアストとステラも合流して変化を見守っていると、それは訪れた。

 

 少女の体から、深い紫の霧が徐々に漏れ出していく。それは『封魔の界』の中で霧散していき、霧が漏れ出なくなり、『封魔の界』を解除した瞬間。

 

 少女が目を覚ました。

 

「……っ」

「水」

「持ってきてます!」

 

 ゆっくりねー、と優しく声をかけながら少女に水を飲ませるステラに、ノックスはなぜだかぐっときて他に仲間がいないかとクルスとアストに目を向けるも、二人とも少女の無事を喜んでいるのみだということがわかりノックスは己を恥じた。

 

「ありぁと、ござぃあす」

 

 まだうまく舌が回らないのか、舌足らずながらもお礼を言った少女に、フリードが流石にタバコの火を消して話しかける。

 

「いい。それより起きたばかりで悪いが、ここで何があった?」

「……ぇと、ま、もの、に、ぉそあえて」

「まどろっこしいな。クルス。『解析』でぱっぱと話させることはできないか?」

「フリードさんに人の血が通っていないことが『解析』を使わずともわかりました」

 

 おとなしくご飯の準備でもしておいてくださいとクルスに突き放されたフリードは、首を傾げながらも「まぁクルスがいるなら必要なことは聞きだせるだろう」と頷いて、タバコに火をつけながらその場から去っていった。唯一の大人がゴミすぎて幸先が不安になる一同であったが、それよりも不安そうな少女を放っておけるわけがなく、一番人当たりがよさそうなステラが率先して少女に話しかけた。

 

「ごめんね。えっと、魔物に襲われたの?」

「あい」

「村のみんなは?」

 

 わかんない。首を横に振る少女に、クルスは「どこかに連れていかれたのかもね」と少女に聞こえないようにアストに言って、アストは「消し炭にするほどの実力者だった可能性があるな」と少女にも聞こえるように言って、ライラに殴られてから引きずられてこの場から去っていった。戦闘狂の大馬鹿野郎に、未知なる敵への興味を抑えろというのは無理な話であった。

 

「そっか。ありがとね、話してくれて」

「僕からもいいかな? 村を襲ってきた魔物に、翼は生えてた?」

 

 少女が首を横に振る。村を襲ったものが魔族である可能性を考えていたクルスは、ひとまずは確率が下がったことに安心して「でもどうしようか」と頭を悩ませた。

 

 いまだに探査魔法でそれらしいものは引っかかっておらず、『解析』に引っかかるものもない。少女の村を襲った元凶をどうにかしたいと思ってはいても、打てる手が今のところない。

 

「なぁ。ステラ、クルス、アルメイヤ。あっちの方から何か変な感じしねぇ?」

 

 その現状を動かしたのは、ノックスの一言だった。先ほどの違和感がどうしても気になって三人に聞くも、返ってきたのは「しない」という否定の言葉。やっぱり気のせいかと片付けようとしたノックスに待ったをかけたのは、人でなしの烙印を押されてご飯の準備をしていたフリード。

 

「行ってみるか」

「え、いや、ほんと気のせいなんで大丈夫っすよ?」

「聖剣を持っているノックスにしかわからないことがあってもおかしくはない。少女は私が王都まで送り届けよう。そうと決まればすぐに出発の準備だ」

「えっ、もう夜っすよ? 危なくないスか」

「その『変な感じ』が明日まである保証がどこにある? 相手が村一つ壊滅させている以上、のんびりしている暇はない。別の街にも被害が出る可能性もある。わかったら準備」

 

 嵐のようにやってきて嵐のように言葉をぶつけ、嵐のように少女をかっさらって嵐のように転移魔法で消えて、嵐のように「まだ準備してないのか」と戻ってきた。

 

『やはりまともではありませんね、フリードさんは』

「俺まだ何するかわかってねぇよ」

「ノックスは私たちを『変な感じ』がする方へ案内してくれ。クルスは探査魔法を周囲に展開しつつ、違和感があれば『解析』を怠るな。最後尾には私が立つ。他はクルスを合図に周囲の事象に対応しろ」

「えっ、いつの間にか僕が重要な役割になってる」

「クルスならできるよ! がんばろー!」

「何かよくわからんが、戦闘がありそうなことだけはわかった」

「あんた、ほんと単純で羨ましいわね」

 

 かくして。突如、何があるかもわからない『変な感じ』がする方へ向かっての行軍が始まった。

 

 

 

 

 

「千年前に魔族と戦ってた?」

『おうよ! テメェの先祖であるアリエス・クロードと一緒にな!』

「ほーん。そんで?」

『テメェがこの場に引き寄せられたっつーことは、また魔族との戦いが迫ってるっつーこった! ならやるべきことはわかったろ!』

「あ! 俺鉱石取りに来たんだった!」

『ちげぇわアホ!! 魔族と戦うつってんだよ!!』

 

 などと言いつつも、いざ採掘を始めると『おい! そっちにもあるぞ!』『バカ、鉱石を傷つけねぇようにもっと繊細にやりやがれ!』と協力姿勢を見せるアルゴに気をよくしたのか、ルディは「で、魔族ってなんなん?」と歩み寄りを見せた。

 

『知らねぇのか? 人間が人に魔力を宿してるもんだとすんなら、魔族は魔力が人の形を成したものとほぼ同義。つっても比喩だけどな。そんぐれぇ純粋な魔力量に差がある。まァわかりやすく言やァ敵だな』

「ほーん。でも俺あんま戦い得意じゃねぇぞ?」

『んなもん俺がいればなんとかなるに決まってんだろうが!!』

「そっか! なら安心だな!」

 

 戦いが得意ではないと言っているルディだが、強さだけで言えば相当なものがある。東の大陸は魔物の強さが全大陸で一番弱い。しかしルディのいるクーロイ火山に出現する魔物は、そもそもが劣悪な環境であるためかその環境に耐えうる魔物が生息する。つまり生物としてそもそも強く、更に食べるものも飲むものもほとんどないことから、魔物同士の争いも日常茶飯事である。

 そのような強い魔物を日々相手にしているルディが弱いわけがない。アルゴも体の動かし方からそれを見抜いており、先ほどから『俺を装備しろ!』と口酸っぱく言っているのだが、「採掘の邪魔!」と突っぱねられてブチギレていた。

 

「おっ、と。こっちはダメだ」

『あ? なんでだ』

 

 アルゴと会話しながら火山を歩き回っていたルディは、思い出したように立ち止まって引き返す。その行動に疑問を持ったアルゴが問うと、ルディは自信なさげに、

 

「いや、なんかあっちの奥行くと守り神様がいるらしくてさ。火山のエネルギー蓄えて、噴火を抑えてくれてるみてぇな?」

『ハー、とんでもない神様がいんだなァ。……ちょっと見てみたくねぇか?』

「……行ってみるか!」

 

 ルディ・クロード。幼い頃から守ってきた掟を聖拳とともに容易く破る。見に行ってはいけない理由も『何か粗相があって守り神様がお怒りになってはいけない』というものであり、「仲良くなりゃいいだろ」と楽観的に考えているルディは無敵であった。

 

 そして辿り憑いた先には、守り神がいた。

 

 紅蓮を思わせる緋色の堅牢な鱗に覆われた体躯。蒼穹を翔る姿を幻視させる勇猛な両翼。大空のような雄大さを感じさせる瞳。

 

「……俺、ドラゴンって初めて見たわ」

『千年前にはいたぜ。このサイズは滅多に見ねぇけど』

 

 全長およそ15メートル。息一吹きで人間を蹴散らせてしまえそうな存在が、ルディとアルゴの目の前にあった。

 そして、守り神の視界がルディを捉えた瞬間。

 

 守り神の目が、闇を思わせる暗い紫へと変色した。

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