聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第22話

「俺、強い!?」

 

 虫が嫌いな者であれば、一目見た瞬間に裸足で逃げ回ってしまいそうな魔物、全長50cmほどの大ムカデを斬り伏せて、ノックスは叫んだ。

 

 『変な感じ』がする方向へ進む道中。当然魔物が一行を襲ってきたが、大体はノックスが一撃二撃で倒しており、思わず自信が声に出たノックス。そんなノックスの肩に手を置いたのは、ノックスが魔物を斬り伏せる度に面白くなさそうにしているアストだった。

 

「ノックス、そろそろ代われ。お前は違和感を突き止めることを優先するべきだろう」

「いや、待て。俺はルキノスを握って初めて確固たる自信が持てそうなんだ。そうだよな、俺弱くねぇんだよ。周りがおかしいんだって」

「あぁノックスは強い。だから代われ」

「うずいてんじゃねぇよお前。後遺症完治してるわけじゃねぇんだからおとなしく下がってろって」

 

 明らかに調子に乗っているノックスと、明らかに戦闘ができなくて不機嫌そうなアストを見て、クルスは小さく笑った。実はと言えばノックスが魔物を一撃二撃で倒している理由は推測がついており、それは『魔物は魔力により動植物に突然変異が起きた結果生まれたもの』であることから、『魔力を打ち消す性質』を持つルキノスは魔物に対して絶大な威力を持つ、というものだった。

 実際それは正解であるのだが、今ここで言ってノックスのやる気を下げるのはよくないと黙っているのは、クルスが優しい人物であることの証拠である。

 

『まぁ私の力ですけどね!! 私の!!』

 

 しかし、ノックスがあまりにも「俺が強い」というものだから、それを面白くないと感じてしまうものもいた。他でもないルキノスである。

 

『私が魔力を打ち消せるから、魔物に対してものすごく強いんです! それをわかってもらわないと困りますよホント』

「おう、ありがとな。ルキノスがいなきゃ今俺はここにいなかっただろうし、本当に感謝してるんだぜ」

『え? あ、あぁ。それならいいんですよ、それなら……』

「ルキノスさんって可愛いんですね」

「うん、かわいいよー」

 

 口喧嘩をするつもりだったルキノスは想定外の返しに勢いを無くし、それを見ていたアルメイヤがこっそりステラに耳打ち。もはやここにいる全員にとって、ルキノスは『少し子どもっぽくて可愛らしいお姉さん』にしか見えていなかった。

 

「つってもアスト、別に『変な感じ』探るのを疎かにしてたわけじゃねぇぞ。幻影魔法があるってのを前提にそのトリガーになりそうなもんも探してるし」

「別に戦闘くらいやらせてやってもいいんじゃない? そいつ、代わるまでずっとうるさいわよ、どうせ」

「まるで俺がわがままを言っているみたいな言い方はやめてもらおうか」

「言ってるわよ?」

「ちょっと待って」

 

 喧嘩を始めようとしたアストとライラを静止したのはクルス。『解析』を展開しており、全員の注目を集めたクルスはノックスのいるその先を指した。

 その先に広がるのは今までと変わらない景色。夜の暗闇を生い茂る木々が一層暗くしている、自然に囲まれた闇。ただ、よく見れば黄緑色の光がぼんやりと見えており、それはクルスの『解析』に引っかかっていることの証明であった。

 

「多分、結界がある。かなり高度な……『解析』を使っても何かがあるってことくらいしかわからない」

「よし、じゃあぶっ壊してみるか」

『私たちの出番ですね』

 

 ノックスは黄緑の光の前に立ち、ルキノスを振り上げて一気に振り下ろした。見た目だけで言えば空を切るのみであったはずのそれは、堅い感触とひび割れる音に裏切られる。ルキノスが触れた地点を起点として、蜘蛛の巣が広がるように空間がひび割れていき、ガラスが割れるかのような音の後にそれは現れた。

 

 暗い青を基調とした、薄気味悪い洋館。薄暗い森の一部が掻き消えて現れたそれに、ノックスは確信を持って頷く。

 

「ここから変な感じがする」

「当たりみたいだな。中に元凶がいるとすれば、結界を壊したことで気づかれただろう。慎重に行くぞ」

 

 フリードの言葉に全員が頷いて、一歩踏み出した。

 その時、ライラは異臭に眉を顰める。幻影魔法の類かと鼻を塞ぐが、そうではないことを地面から伸ばされてきた腕を見て理解した。

 

 ノックスたちが敷地内に足を踏み入れたことで反応したのか、周囲の地面がボコボコと泡を立てるよう無数に膨れ上がり、そこから血色の悪い腕が伸びてくる。そうして地面から這い上がるようにして現れたのは、全身が爛れ、鼻をつく異臭を放っている魔物。

 

「リビングデッドか」

「随分人気者になったみたいだね」

「余裕かましてるところ悪いけど、顔色悪いわよ」

 

 ノックスたちを囲うようにして現れたリビングデッドに対する反応は様々。フリードの表情は変わらず、アストは好戦的な笑みを浮かべ、クルスとライラ、ステラとアルメイヤは構えつつも悍ましい光景に気分を悪くしていた。

 

 そしてノックスは。

 

「なぁ、気づいちゃったんだけどさ。俺多勢に対して相性悪くね? 一人やってる間に横からやられたら終わりじゃん」

『よく気づきましたね、ノックス。そのためのパーティですよ。ですから私たちはおとなしくしていましょう。別にリビングデッドが苦手だとかそういうわけではなく、あんなのに近づくのが悍ましいだとかそういうわけではなく、ただあなたには人と戦うことを学んでほしいなと思っていまして』

「言わしてもらうけど、千年も生きてる方がリビングデッドよりこえぇぞ」

『人でなし!!』

 

 怖がるルキノスをリビングデッドに向けて暴言を吐き、ルキノスに責められていた。そのいつも通りな姿を見て少し平静を取り戻したアルメイヤは、ステラとクルスにそっと声をかける。

 

「ステラさん、クルスさん」

「ん? どうしたの?」

「私たちの周りに防御魔法張ってください。飛び散っちゃうかもしれませんので」

 

 ステラは首を傾げつつも防御魔法を張り、クルスは意味を正しく理解して顔を青く染めて防御魔法を張った。ドーム状に展開されたそれが二重になったのを見て、アルメイヤは両腕を広げる。

 その手の先に展開されたのは、ピンク色の魔法陣。形は六芒星。それが両手の先に二重に展開され、バラバラに回転し始めた瞬間、アルメイヤのうちにある魔力が膨れ上がる。

 

「『爆炎輪舞(エクス・ロンド)』」

 

 小さく呟いたそれは、無数の爆破となって形を成した。防御魔法の周りを回るように断続的に発生する爆破により、周囲にいるリビングデッドが次々に弾け飛ぶ。その肉片が防御魔法にべちゃりと張り付いたのを見て、流石のアストも目を閉じた。

 

「もう解除していいですよ」

 

 リビングデッドをバラバラにした張本人だとは信じられないほどの可愛らしい声に従って、ステラとクルスは防御魔法を解いた。

 目を閉じていなかったフリード以外が恐る恐る目を開けると、そこには。

 

「……さ、中行こうぜ、みんな」

「あぁ、そうだな」

「そっちは足の踏み場が悪い気がするから、あっちから行きましょう」

「賛成賛成!」

「おぇ……」

 

 あえて目の前に広がっていた光景に触れず歩き出す。しかし探査魔法と『解析』を見たことがない爆破魔法のために発動していたクルスは周囲の光景を誰よりも詳細に理解してしまい、胃から逆流してくる何かを感じた。

 

「……流石にやりすぎてしまいましたね」

「手柄だ。誇っていい」

 

 その様子を見てしゅんとしたアルメイヤにフリードが短く告げて、率先してリビングデッドの肉片をぐちゃぐちゃと踏みしめながら洋館へと突き進んでいく。

 

 この瞬間初めて、「あ、フリードさんって頼りになるんだな」と全員が認識した。

 

 

 

 

 

 ルディは明らかに機嫌の悪そうな守り神のブレスによって歓迎された。

 

『避けろ!』

「もう避けてる!」

 

 人一倍熱に敏感なルディはブレスがくることを直感し、無我夢中で走り出す。そして身を投げるようにして地面に飛び込んだ瞬間に、自身の背後で暴力的な熱が通過していったのを感じた。

 

 色は紫。一見炎に見えるそれは、通常の炎とは違う鈍重な揺らめきを持ってそこに存在している。魔法の知識に関しては素人に近いルディは「不思議な炎だなぁ」くらいに思っていたが、アルゴは違った。

 

『なっ、ありゃあ魔王の魔力じゃねぇか!!』

「は? 魔王の魔力?」

『魔力感知は苦手だから実際に見るまで気づかなかったが、間違いねぇ。一体なんだってここの守り神サマが魔王の魔力使ってんだ!?』

「んな難しいことはわかんねぇけど、どうすりゃいい!? 謝ったら許してくれっかな!」

『話が通じる相手が、最初にブレスお見舞いしてくると思ってんのか!』

「言えてるー!」

 

 明るい言葉を吐きながら、守り神が振り下ろした剛腕を避ける。地面を打った衝撃とともに礫が襲ってくるが、致命傷にはならないと避けもせずその身に受けて、ルディは受け身を取りながら背後を確認した。

 最初のブレスで通ってきた道は紫の炎に包まれている。逃げ場と言えば守り神の奥に道が一つあるくらいで、その他は逃げられそうな場所がない。

 

「どうすっかなぁ」

『チッ、どうするもこうするもやるしかねぇだろ! どのみち守り神サマは様子がおかしい。恐らく魔族になんかやられてる! ならやることは一つ!』

「アルゴを装備してとりあえず守り神をぶっ飛ばす!」

『今度は正解!』

 

 採掘の邪魔だからと装備していなかったアルゴを取り出して装備する。すると、右手の甲に埋め込まれた赤い宝石が淡く光り、ルディを包み込んだ。

 そして、ルディに変化が訪れる。内側に熱い魔力を感じるようになり、皮膚が固くなったと思って肌を見てみれば、赤い鱗で覆われていた。更に体格にも変化があり、筋肉は堅牢に、それに合わせて身長も伸びている。

 

「なんだこれ、カッケェ!!」

『俺は人とドラゴンのハーフ、つまり竜人だ! 俺の使い手であるオメーは俺の力を十全に扱うことができる!』

「つまりどういうこと!?」

『強くてカッケェってこった!!』

 

 しかしテンションの上がっていたルディとアルゴは尻尾の薙ぎ払いに気づかず、思いきり弾き飛ばされて壁に叩きつけられた。

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