聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第24話

 胸に埋め込まれた欠片は色を失っている。体調は万全、魔力に変化なし。

 結果、異常なしというのが、ノックスに対して下したフリードとクルスの診断結果だった。

 

「いや異常なしなわけなくねぇか?」

「異常はあるけど異常なしって感じかな」

 

 あの後。

 

 洋館を出た一行はフリードの転移魔法で街へと戻り、宿を取っていた。男女で部屋を分け、『私も女の子なんですけど』と訳の分からないことを言ったルキノスを黙らせる形で、部屋にはノックス、クルス、アスト、ルキノスがいる。

 話題はもちろんノックスの胸に埋め込まれた、魔王の魔力を持っている欠片のこと。今現在、紫色だった欠片は灰色になっており、魔力も一切感じない。『私が打ち消してるとかですかね?』と言ったルキノスを手放してみても、色が戻ることはなく魔力を感じることもなかった。

 

「気になるのは、あの欠片は魔物か魔族かにしか適合しないはずっていうところなんだけど……」

「俺は人間だぞ? なんだよ、魔力がねぇからって人間扱いすらしてもらえねぇのか!」

『あんまりですよ! むしろ、魔族ならば猶更魔力を持っていなければおかしいでしょう!』

「でも、疑わなきゃいけないところだとは思うんだ。自分が魔族じゃないって思っていても、本当は魔族かもしれないし」

「神に誓ってもいい! 俺は魔族じゃない!」

「どっちでもいいだろう。人間でも魔族でも、ノックスはノックスだ」

 

 駄々をこねるように騒いでいるノックスを鎮めたのは、武器の手入れをしながらノックスに視線も向けず放ったアストの一言だった。

 いや、そういうこと言ってるんじゃないんだけどと言おうとしたクルスは、「そうだよな! アストはやっぱりいいやつだ!」『アストは最高ですね!』と大盛り上がりし始めたノックスたちを見て、この話はもうやめにしようと布団を被る。

 

「そんなんだからアルメイヤにフラれるんだ」

「言いやがったなテメェ!!!!」

 

 いともたやすくノックスの地雷を踏み抜いた結果、男子部屋で枕殴り大会が開催された。勝者はもちろんアストであった。

 ノックスとクルスの言い争いにまったく関係ないアストだが、戦闘となれば参加して当たり前なのがこの男である。

 

 

 

 

 

 一行は、フリードがハンドルを握る魔導四輪に乗り込み、クーロイ火山へ向かって大地を爆走していた。

 魔導四輪。取り付けられているタンクに搭載された魔力を動力として、最高時速200kmを突破する優れもの。タンク内の魔力が尽きても、運転席の者の魔力を使用して動かすことができる。

 運転席にはフリード、助手席にはアルメイヤ、二列目にはクルスとアスト、三列目にはノックスとステラ、ライラが並んで座っている。三列目にノックスがぶち込まれたのは完全にクルスの嫌がらせであり、魔導四輪にクルスがアストを引っ張っていち早く乗り込み、「土地勘ある人が前の方がいいよね」とアルメイヤを助手席へ誘導し、「女の子一人と男二人にするわけにはいかないから」ともっともらしい理由をつけて思春期であるノックスを女の子二人と並んで座らせた。

 

「おー! 見ろルキノス! 窓の景色がものすごい速さで変わっていくぞ!」

『人類はここまで進歩しましたか……! しかし結構揺れますね、少し酔いそうです』

「剣が酔うってどういう感覚だよそれ」

 

 しかしそんなことを気にしていたのは乗って数分間だけ。田舎者であるノックスと千年前の時点で外の知識が止まっているルキノスは、初めての魔導四輪におおはしゃぎ。それがなんだか可愛くて、隣に座っているステラはくすくすと二人にバレないよう控えめに笑っていた。

 

「ほんとに気をつけなさいよ。山道だから結構揺れるでしょうし」

「酔いそうなら私がなんとかできるよ!」

「酔い止めの魔法まであんの? 魔法ってすげぇ!」

『田舎者で魔法の知識もない。ノックスってこの中で一番遅れているのではぁ?』

「でもルキノス、街でクレープ見た時に『食べたい! ずるい!』って言ってたじゃねぇか」

『それ今関係ないでしょうが!!』

 

 クーロイ火山へ向かう前、街での出来事。旅に必要な物の買い出しの最中、クレープがルキノスの目に留まった。『ノックスが気になるなら、あのクレープというものを見に行ってもいいですよ?』と素直になれない子どものようなセリフを吐き、食えもしねぇのに食い意地張ってんなぁとデリカシーのないことを考えながらクレープを購入したノックスは、ずるいと騒ぎたてるルキノスにクレープを塗りたくる暴挙に出たのである。

 

『まったく、そもそもノックスは私を雑に扱いすぎです! 聖剣なのですよ、私は!』

「だって剣なのに周り見えてるし、酔いそうとか言ってたし、味もわかるかなって思ったんだよ。ごめんな」

『私、最近気づいたんですよ。そうやって私に罪悪感与えてうやむやにしようとしているんですよね』

「おう」

『清々しい……』

 

 バレちまったら仕方がねぇと開き直ったノックスに、逆に毒気を抜かれたルキノスはおとなしくなった。自分に対する扱いは悪いが、それが遠慮のない関係を表しているような気がして悪くないと思っているのはルキノスだけの秘密かと思いきや、ノックスとアスト、そして関わって日の浅いアルメイヤ以外の全員にバレている。

 

 筋肉バカと戦闘バカはやはり唐変木であった。

 

「もうすぐ着くぞ」

 

 ちらりと後部座席の愉快な生徒たちへ視線を向けて告げたフリードの言葉に、ノックスは前を見た。

 

 ごつごつとした岩を積み立てて造られた柱に、『クーロイの里』と刻まれた岩の板が取り付けられている。武骨なアーチのその奥には、それとは打って変わってキノコを模した建物が点々と並んでおり、階段などもキノコのかさを模して造られている。

 

『変わらずファンシーですね』

「そっか。ルキノスはきたことあんのか」

『えぇ。私の記憶に間違いがなければ、ここに聖拳があるはずです』

 

 魔導四輪を下りて、フリードが格納魔法により別次元へ格納した後、岩のアーチをくぐってクーロイの里へ入る。

 

 里へ入れば、人の姿も見えた。火山の麓にある里であるため鉱業が盛んなこの里での仕事と言えば採掘及び農業くらいのものであり、後は火山の魔物を狩って素材を街へと売りに行くくらいのもの。そのため、一生をこんな田舎で過ごしてたまるかと若者が里を出ていくため、若者の姿は極端に少ない。

 

「ルキノス」

『聖拳は火山にあるはずです。入山許可がいるので、里長に話を通す必要がありますが』

「すんません、旅の人っすか?」

 

 『入山許可』あたりで、他より高い位置にある建物にどうせ里長がいるだろうと歩き始めたフリードは、かけられた声に足を止めた。

 

 金の髪に燃えるようなオレンジの瞳を持つ端正な顔立ちの青年。その背には鉱石の積まれた籠を背負っており、露出している肌が黒く汚れ、それどころか衣服が焦げてボロボロになっている。

 

「あぁ。入山許可がほしくてな」

「お、そんなら案内するっすよ! あの高いキノコん中にじいちゃんがいるんで!」

「助かる」

『おい待てルディ!! 旅のもんを何の警戒もせず里長のとこ上げようとしてんじゃねぇ!!』

 

 ルディ以外の全員が、聞こえてきた声に周囲を見る。しかし声の主と思われる人物はいない。

 とんでもなく小さいやつがどこかにいるのかとバカなことをノックスが考えていると、ルディが「うるせぁなぁ」と言いながら籠から煤けた聖拳を取り出した。

 

『つか俺を籠に入れんじゃねぇよ!!』

「だって重ぇんだもんよ。つけてたら採掘しにくいし」

『いいか!? 俺がいなかったらあのクソ守り神に殺されてたんだぞテメェ!! ならそれ相応の扱いってもんがあるだろうが!!』

 

 目の前でぎゃーぎゃーと騒ぎ始めたルディと呼ばれた青年と、青年をルディと呼んだガントレット。その場にいる全員が目を点にして、まさかなと首を横に振る中、ノックスの一言によりそのまさかが判明した。

 

「ルキノス。あれ聖拳?」

『えぇ。まさしく聖拳アルゴです。……思っていた再会とは違いますが』

『ア!? テメェルキノス!! なんでこんなところにいやがる!!』

『お久しぶりですアルゴ。それについてお話があるので、少しお時間いいですか?』

 

 こうして。

 

 劇的でもなんでもなく、今代の聖武具の使い手二人が出会った。

 

 

 

 

 

「魔族討伐かぁ」

 

 あの後。ルディとアルゴは魔族討伐のために聖武具の使い手を探していると説明を受け、難しいことはよくわからないルディは「とりあえず旅面白そうだしオッケー!」と快諾。あっという間に里長へ報告し、「旅に出るのはいいけど、その分働いてから行け」と最後まで若者をこき使う意思を見せた。

 そしてルディは同じ聖武具の使い手であるノックス、鍛錬になるからとついてきたアスト、距離を取られていることが気になって、ノックスが行くならとついてきたアルメイヤを引き連れて、再度火山へ採掘にきていた。

 

「俺会ったことねぇから実感わかねぇんだよなぁ」

「できることなら会わないのが正解なのですが……」

「あんなに強い相手と会わないのはもったいないだろう。アルメイヤは魔法だけではなく冗談もうまいんだな」

「アストは戦闘以外本当ダメだな」

「力仕事ならできるぞ」

 

 そう言ったアストは鉱石を採掘するどころか、粉々に砕いて力仕事ができることではなくその力を証明した。

 

「ふん。鉱石がこれほど軟弱とは」

「テメェの不器用を鉱石のせいにすんじゃねぇよ」

「ならノックスもやってみろ。ノックスがちゃんと採掘できたら謝罪してやる」

「は? 見とけよ」

 

 つるはしを振りかぶり、鉱石が埋まっている岩壁に振り下ろす。そして、強烈な破壊音とともに転がってきたのは、鉱石の破片だった。

 

「ワリィアスト。確かにこれは鉱石が軟弱だわ」

「だろう」

「すげぇな二人とも! 力持ちじゃん!」

『怒れよルディ。こいつら仕事の邪魔しかしてねぇぞ』

『アルゴは相変わらずですね。ノックスの可愛い努力を邪魔などと言うとは』

『キモ。千年以上生きたババアが母親気どりかよ』

『……言ってはならないことを言いましたね? いきなさいノックス! あのデリカシーのない唐変木を叩き斬りましょう!』

「俺か?」

「おとなしくしててください。アストさん」

 

 デリカシーのない唐変木という言葉にあまりにも覚えがあったアストが自分のことかと剣を抜くが、これ以上場をぐちゃぐちゃにするわけにはいかないと正常な判断を下したアルメイヤに鎮められた。せっかく戦闘できると思ったのに止められたアストは、再度鉱石を粉々にし、再度力を見せつけた。

 

『……あぁ、そういやルキノス。お前知ってるか? 魔王の魔力を持った魔物がいやがったんだ』

『アルゴも見たのですか? 私たちもここにくる道中討伐してきたところです』

「あ! 思い出した! 旅してたんならさ、この鉱石が何か教えてくんね? なんか守り神様ぶっ飛ばしたらでてきたんだけどよ」

『ノックス! 離れてください!』

 

 ポケットをまさぐってルディが取り出したのは、ノックスたちが見た欠片と同じ、紫色の欠片。ノックスが近づいた瞬間、ノックスの胸へ埋め込まれた正体不明のもの。

 

 それは、ルディのポケットから取り出された瞬間強い光を放ち、一瞬で周囲を包み込んだ。

 あ、遅かったみてぇだわ。諦めに似た言葉がノックスの口から漏れたのは、光が収まった瞬間であり。

 

 周囲の景色が火山から、荒野へと変わった瞬間であった。

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