聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第26話

「さて、作戦会議だ」

 

 ノックスたちは家……正確に言えば、『魔導四輪デラックスエディション』という死ぬほどセンスのない乗り物の中で顔を突き合わせていた。

 

 魔導四輪DX。見た目は運転席と助手席、後ろが荷物を積むコンテナになっているが、コンテナの中には魔法によって作られた家のような空間があり、風呂トイレ、キッチンにベッドまであり、自動運転機能つき。部屋はなく、風呂とトイレが外から見えないようになっているのみだが、旅を快適に彩る魔法アイテムの登場にノックスとルディの二人は目を輝かせ、作戦会議をするというのにそわそわしていた。

 

「恐らくまだ抹殺命令は出ていないが、しばらくすれば各地に通達されるだろう。そして私たちの目的は変わらず聖武具の回収及び使い手の捜索。となれば、向こうも聖武具の回収に動き出すだろう」

「待ち伏せが考えられそうですね」

 

 クルスの言葉に、フリードが頷きで返す。

 

 一行の目的は聖武具の回収と使い手の捜索。ノックスを狙うのであれば、聖武具のある場所で待ち伏せするというのが効率的であることは火を見るよりも明らか。更にノックスは魔族に狙われているため、戦力の増強という意味でもこちらが聖武具の回収をやめるわけにもいかない。

 

「それなら一刻も早く回収しないといけませんね」

「あぁ。幸い、聖弓は国で管理されているが、次に回収へ向かう聖杖の詳細な場所は把握されていない。だからこそ先に見つけられ、待ち伏せの体制が整いきる前に回収しに行きたい。ただ、大陸の移動が問題だ」

 

 フリードが続けたのは、大陸を移動する方法。「クルス」とフリードが名前を呼ぶと、クルスが壁にあるボタンを押した。それにより現れたのは、空中に浮かぶ世界地図。

 

「お前たちも知っている通り、この大陸は東西南北を区切るように山脈が聳え立ち、海に囲まれている。大陸間を移動するには転移か航路か、山脈を超えるしかない」

『転移はまずダメでしょうね。王都を利用する必要がありますから』

 

 大陸間を移動できる転移装置は、王都を利用する必要がある。つまりそれは敵陣に飛び込むようなもので、移動手段としては期待できない。

 

「航路も避けたいわね。その間に各国へノックスの抹殺が通達されたら、港でお出迎えされるでしょうし」

「望むところだ」

「バカは黙ってなさい」

 

 航路も似たようなもので、大陸間を移動するには時間がかかる。その間に港へ戦力が集結し、嬉しくもない歓迎をされることは想像に難くない。

 

「ってことは」

「山脈?」

 

 聖武具の使い手、ノックスとルディはこの話にはついていけたようで、二人そろって首を傾げると、フリードが頷いた。

 

「ただし、整備された道は同じく待ち伏せの可能性を考えると使えない。つまり、整備されていない、危険が前提の道を通って山脈を越える。もちろんそんなところでは魔導四輪は使えないから、徒歩でな」

「俺の筋肉の見せどころってことっすね!」

「俺も採掘ばっかやってたから、体力には自信あるぜ!」

 

 ガハハ! と肩を組んで笑うノックスとルディ。そして「俺もだ」と言って案外ノリのいいアストが加わり、三人が小躍りし始めた。ザミリエルもなんだか楽しくなって『わはは!』と一緒になって騒ぎはじめ、ステラも楽しそうだからとやはり一緒になって騒ぎ始める。

 

 フリードは一瞬止めようかと思案したが、あれの対処に時間を使うのは無駄だと判断し、真面目に話を聞いてくれるクルス、ライラ、アルメイヤを集め、一言。

 

「山脈を越える間、あいつらが迷子にならないように目を光らせておいてくれ」

「「「了解」」」

 

 ついてきたのは失敗だったかしら、とライラが後悔し始めたところで、作戦会議は終了した。

 

 

 

 

 

「風呂だー!!」

「一番、ルディ・クロード! 行きます!」

「ルディ。体を洗ってからにしなよ」

「ノックスもだ」

 

 魔導四輪DX、その浴場はかなり広い。魔法で作られた空間の中に、さらに魔法で作られた空間が搭載されており、その広さは10人入ってもまだ余裕のある浴槽と、シャワーが10並んでいる。

 その広さにテンションが上がって飛び込もうとしたノックスとルディを注意したのは、腰にタオルを巻いたクルスと、男らしく何も隠していないアストだった。

 

「ワリィ! 女性陣が入ってる間待ちきれなかったから、テンション上がっちまった!」

「そうか! いつも一人で入ってたから、マナーなんて気にしたことなかったぜ」

『器。貴様さては、友人がいなかったな?』

「あぁそうだよ。なんだ? やんのかコラ」

「気にするなノックス。今は俺たちがいるだろう」

 

 ノックスはアストの言葉に感動し、目を潤ませながらアストを見る。

 そして、気づいた。ノックスはあまりの衝撃に「は? デカ」と呟いて、己の敗北を悟る。何がとは言わないが、アストのそれは本人の強さを象徴するような大きさを誇っていた。

 

「うぉ、マジだデケェ!! 俺も結構自信あったのによぉチクショー!」

「そういや誰かと比べたことなかったな……俺は、弱い……!!」

『ふはは! 器よ、案ずるな! デカさは強さ。つまり強くなればそれに比例してデカくなる!』

「な、なにー!!?」

「早くシャワー浴びろ」

 

 バカなことで騒ぐノックスとルディの頭に、威力を極限まで弱めたクルスの魔力弾がヒットする。なんか心労がすごいなと思ったクルスは、武具だからと風呂場へ持ち込まなかったルキノスとアルゴがいないからだと気づき、これから先ゆっくりお風呂に入れないことに絶望した。

 

 クルスの制裁を受けたノックスとルディはおとなしくシャワーを速攻で浴びて、湯船を前に『どちらが水しぶきを高く上げられるか』の勝負を開始。勝負と聞いてもちろん黙っていられないアストも参加して、やはりアストが勝利したところでやっと落ち着ける時間がやってきた。

 

 四人並んで肩までつかり、気の抜けた息を吐く。クルスだけは「やっと落ち着いた」という安堵からくるものだったが、そんなことは迷惑をかけている本人たちが察するわけもなかった。

 

「なんかいいよなぁ風呂って。全部をさらけ出してる気分になる」

「裸の付き合いって言葉があるくらいだしね」

「何? 少し待て、剣を持ってくる」

「ルキノスも持ってきてくれ」

「俺は正拳だな!」

「交際の方だよ。お風呂でそんな殺伐とするわけないだろ」

 

 クルスのもっともな注意に、バカ三人は「初めからそう言えよ」と不満げだった。それによりお風呂と関係なくクルスの体温が上昇する。その原因は怒り。しかしこの三人と比べて比較的大人であるクルスは、「ごめんね」と謝る大人の対応を見せた。

 

「そういうことなら、なんかプライベートな話でもするか」

「おっ、じゃあ好きなタイプとか教えてくれよ!」

 

 その時、緊張が走る。

 一人は、ノックス。女の子への体制がないノックスは、女の子のタイプなど考えたことがなかった。更に友だちとそういうことを話したこともない。だからこういう話をするときの正解がまったくわからない。実際には正解などないのだが、友だちとのコミュニケーションが初めての連続であるノックスは、一度たりともコミュニケーションを失敗したくなかった。

 もう一人は、ザミリエル。律儀にも答えようとしているこの魔王は、『どんな答えであれば威厳を保てるか』と脳をフル回転させている。そもそも喋り始めて一日経っていない今でさえ間抜けな印象が目立っており威厳もクソもないのだが、自分が魔王であることにプライドを持っているザミリエルは、まだ威厳を保てていると信じて疑わなかった。

 

「強いやつ」

「頭がいい人」

「予想通りの答えサンキューな! 俺は一緒にいて楽しいやつ……あ、っつーか一緒に旅してる女の子の中で一番タイプな子にしねぇ? そっちの方が盛り上がりそうだし!」

((何っ!?))

 

 次は自分の番かと怯えていたノックスとザミリエルは、新たなルディの提案に驚愕した。ただでさえ好きなタイプを答えるのが難しいのに、これから一緒に旅をする女の子で一番タイプな子を答えるなど、ノックスにはハードルが高すぎて、ザミリエルには難易度が高かった。

 

(一番タイプ!? マズい、俺のことは俺が一番よくわかってる! そういう風に思ってなくても、ここで誰かの名前を出せば、変に意識しちまう!)

 

「俺はライラだな。あれは伸びしろがある」

「へー以外。てっきり一番強いからフリードさんかと思った」

「フリードさんは完成されているからな。興味で言えばライラが勝る」

「なるほどな! 確かライラって『収束』だっけ? すげーパワーの魔法使うんだろ? かっけーよな!」

 

(好きなタイプならまだしも、旅をしている女からだと!? 吾輩は魔王、魔族の頂点! それが人間の女をタイプなどと口にすれば、威厳が消えてなくなる!)

 

「僕はアルメイヤかな。フリードさんはなんか、凄すぎて身近に感じられない」

「なんかちょくちょく難しい話してるよなぁ」

 

(ステラ……いや、ダメだ。起きて目の前にいただけであんなに動揺したんだ。ここで名前を出したら余計意識しちまう。ライラ……気安い関係だからこそ一番意識しちまいそうだ。アルメイヤは一回不本意な形でフラれてるから名前を出しにくいし、フリードさんは尊敬してるからしっくりこない……)

 

「俺はステラかなー。めっちゃノリいいし、明るくていいやつだよな!」

「今日も一緒になって踊ってたしね」

「ステラは強くていいやつだ。そして強い」

「強さでしか人を測れないの?」

 

(一番違和感がないのはフリードという女か? あれはそこそこやる。あくまでも上から「奴はなかなかやりそうだからな」と言えば威厳を保てるか? いや、それでは吾輩がやつにビビっているみたいにならないか? 上からいってもよく、ビビっていると思われても違和感がない者……)

 

 ノックスとザミリエルを除いた三人が話している間に、混乱と言っていいほど思考を巡らせた二人は、まともに働かなくなった脳が導き出した結論を同時に口にした。

 

「『ルキノスだ!』」

「『え!!?』」

 

 

 

 

 

『ノックス、おかえりなさい』

「お、おう。ただいま」

『う、うむ。今帰った』

『……? 何か様子がおかしくないですか?』

「いや、そんなことはないぞ!」

『あぁ! さぁ器よ、吾輩が魔法というものを教えてやろう!』

「おう! 助かるぜ! これは助かるなぁ!」

 

 こうして、ノックスはザミリエルがルキノスのことを好きだと勘違いし、ザミリエルは自分の宿主であるノックスが剣に恋する上級者だと勘違いした。この勘違いは、何かを察したルキノスが『はっ、さては私のこと好きですね!?』と言って二人を冷めさせるまで続いた。

 

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