聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第27話

 東の大陸と南の大陸を遮る山脈、『ヴェーヌ山脈』。本来であれば大陸間を移動するために作られた関所を通れば山を登る必要もないのだが、むしろ山を登る必要がある一行は、荒れたごつごつとした岩肌が露出する山道を登っていた。

 周囲に森林はなく、荒れた大地が広がっている。道という道がなく、急な傾斜も多数存在し、一歩足を踏み外せばそのまま転げ落ちてしまいそうな山を。

 

「おーい、大丈夫かお前ら!」

「きつそうだなー。背負っていこうと思ったけど俺もきついか?」

「鍛え方が足りんな。軟弱だ」

 

 クルスを除く男連中は疲れを見せず、楽々登り進めていた。他の面々はといえば、軍に所属しているフリードも涼し気で、ステラはいつも咲かせている笑顔が控えめになっており、アルメイヤは一言も言葉を発さず、クルスとライラはもはや下を向いていた。

 

「はぁっ……う、うるさいな……僕は、探査魔法飛ばしながらなんだから、そもそも、労力が違うんだよっ……!」

「ん? クルスー!! なんか言ったかー!?」

「クルス、集中しなさい。あの、バカ、体力だけでどうにかなる場所で、調子に、乗ってるから……これ以上……調子に、乗らせちゃだめよ……!」

 

 息も絶え絶えなライラの言う通り、ノックスはこれでもかと調子に乗っていた。クルスとライラが息を切らしているのとは対照的に、ノックスは息一つ上がっていない。それどころか一度足を踏み外したライラの手を掴み、「大丈夫か? 足元気をつけろよ」と気遣う余裕さえ見せた。

 そして自身の宿主の功績は自分のものでもあると、ザミリエルも『ふはは! やはり一般の域を出ん人間にはこの程度も乗り越えられんらしい!』と調子に乗っている。

 

「マジできついなら言えよー!! どっか休めるところ探してくるから!!」

「お、そんなら先にその場所見つけた方の勝ちってのはどうよ?」

「乗った」

『よっしゃルディ!! 山ん中ずっと入ってた実力を見せてやれ!!』

『待ちなさいバカども! こんなところで勝負なんてやめなさい!』

「あぁ。それに、もう見つけてるから効率的じゃない」

 

 頭上の飛び出ている岩を掴みながら、フリードが上を指す。すぐ近くにいたノックスたちも、後方を登っていたクルスたちも、フリードの動きにつられて上を見た。

 

 そこには、今までの傾斜など話にならないほどの断崖絶壁。ところどころにあるくぼみや傾斜を利用して登る必要があるその先に探査魔法を飛ばしたクルスは、そこが平地であることを確認した。

 

「クルスの反応を見る限り、勝負は私の勝ちのようだな」

「未熟……っ!!」

 

 マジでこういうときはバカが羨ましいわ。そんな言葉を発する元気も、ライラには残されていなかった。

 

「安心、してください、ライラさん」

「え?」

 

 少し前方を登っていたアルメイヤから掠れた声が発せられた。かと思えば、アルメイヤ、ステラ、クルス、ライラの四人が淡い光に包まれて、宙に浮く。

 飛行魔法。精密な魔力操作を必要とし、制御を間違えれば彼方まで飛んで行ってしまうそれをアルメイヤが行使し、眼下の脳筋とフリードを置き去りにして断崖絶壁を越えた。

 

「もっと初めから使えればよかったのですが、平地のないところで使うのは不安でしたので」

「本当にありがとう……!」

「あのバカが調子に乗ってるのが苦痛で……!」

「あ、山登りがではなく」

 

 もちろん山登りも苦痛であったが、クルスとライラが耐えきれなかったのはノックスの調子に乗ったにやけ面。そりゃあノックスのフィジカルの強さは短い期間ではあったが同じクラスの二人は認めている。しかし、認めてもムカつくのは事実であり、その苦痛から解放された二人は思わず涙した。いつもならフォローをするステラも流石に思うところがあったのか、あははと苦笑している。

 

 そんな二人と困惑するアルメイヤの元に、転移魔法でフリードと脳筋三人が現れた。ノックスは泣いているクルスとライラを見てうんうんと頷いている。この男、まさか自分の鬱陶しさから解放された涙だとは微塵も思っておらず、きつい山登りから解放された涙だと信じて疑っていない。

 

「大丈夫か? 普段登り慣れてねぇときついよなぁ」

「ありがとうルディ。ちょっと、呼吸を整えたいかな」

「あんた、すごいのね。守り神様を一人で倒した、って言ってたし、もしかしてめちゃくちゃ強い?」

『ったりめぇだろ! この俺の使い手だぜ? こんぐれぇ屁でもねぇ!』

 

 水の入った魔法瓶を手渡してお礼を受けたルディは「気にすんな!」と白い歯を見せた。ノックスも「同じクラスである俺の労いが必要だろうな」と調子に乗って、座り込むクルスとライラに合わせしゃがみこむ。

 

「よく頑張ったな、二人とも」

「僕に話しかけるな」

「ぶっ飛ばされたいの?」

『ふ、二人とも! ノックスに悪気があったわけではないんです!』

『気にするな器よ。臣下の不敬を広い心で受け止めてやるのもまた上に立つ者の務めだ』

『ザミリエルは黙ってなさい! あなたは敬ってくれる者がいなかったからそうするしかなかっただけでしょう!』

『なにおう!?』

「みんな元気だねぇ」

「つまりここで一勝負か」

「アストさん。おとなしくしてください」

 

 久しぶりの平地に気が抜けたのか、一行が騒ぎ出す。それを横目に、フリードは一人その場から離れて、一人南の大陸を見下ろした。

 

 南の大陸、『サザンローズ』。他の大陸と比べ干ばつが見られ、そのせいか火山と同じく厳しい環境で生き抜ける魔物が多く生息する。有名な場所としては歴史の町『シェアト』、神聖なる魔法を行使する民が住む『流星の里』があげられる。

 

「次に向かうのは、シェアトだな。流星の里へ向かう途中にあるから、そこを拠点にしよう」

『拠点?』

「あぁ。シェアトは普段なら外部の人間は絶対に入れない、歴史を自分たちのものにしようとしているかなりイカレた集団。だからこそ隠れ蓑にはちょうどいい」

「でも、それじゃあ僕らも入れ……あぁ」

 

 『僕らも入れないんじゃないですか?』と言おうとしたクルスは、ルキノスとアルゴを見て納得し、苦笑した。

 要は、ルキノスとアルゴという『歴史』を対価にしようという話。それを全員に伝えると、『なっ、私は聖剣ですよ!』とルキノスがぷんぷん怒り始め、『俺らの存在だけでひとまずの安全が手に入んだぞ。文句言ってんじゃねェ』とアルゴに黙らされていた。

 

『ノックス。私、傷物にされてしまいます……』

「剣なら当たり前だろ?」

 

 そしてノックスはいつも通りノンデリを披露した。

 

 

 

 

 

 流星の里。干ばつの多い南の大陸の恵みである『流星の滝』、その上に位置する神聖な魔法を扱う民が住む里。白を基調としたローブを身に纏い、足元は下にいくにつれ水色とピンクが混ざった鱗のような装飾が施されていることから、流星の民は人魚のようだと称される。

 

 その流星の里に、南の王都、その国軍の姿があった。

 

 国軍先頭に立つ、真っ白な髪を首の後ろまで無造作に伸ばした、目にある隈が陰鬱な印象を与える、全身真っ黒な服を纏っている長身の男、ジオ・アーノルド。

 ジオの前に立っているのは、齢80は超えるであろう皺と立派な髭を蓄えた、流星の里の里長。

 

「聖杖を捜索に、ですか」

「えぇ。あなた方なら既にご存知だとは思いますが、四つの大陸で魔族の姿が確認されました。つきましては、聖武具の使い手を探し、魔族を討つその時に備えようということです」

 

 ジオは笑顔を貼り付けて、里長は、髭を撫でながら、真意を読み取ろうと目を細めて。言葉以上に込められた様々な意味に空気が張り詰める。

 

 その張り詰めた空気をぶち壊したのは、流星の里その深奥。流星の民として一人前となるために存在する、試練の神殿から放たれた、天へ延びる光の柱だった。

 

「あの神聖な光は、聖杖の力そのものではないですか?」

「さて、私も長年生きてきて見たことがありませんでな。しかしまぁ気になさっているところ申し訳ございませんが、今は里の若者が試練の途中でして」

「通せないと?」

「話が早くて助かります」

 

 ジオの足元から影が伸び、里長のローブが弾け飛んで巨大化し、岩のような筋肉が露になる。

 

「それが神聖な魔法ですか?」

「喰らえばわかるじゃろうて、若造が」

 

 

 

 

 

「……???」

 

 試練の神殿、その最奥にある、天から差す光を受けた祭壇。そこにいたのは、腰まで届く新雪のような輝きと優麗さを持つ髪。母なる海や雄大な空を思わせる、透き通るような蒼の瞳。人魚のようだと称される流星の民であることを証明するローブを身に纏った、今日12歳になった少女、ナイン・エーテルロード。えっちらおっちら試練を乗り越えて辿り着いた祭壇にあった自分の身長と同じ長さの綺麗な杖に引き寄せられて、それを手にした瞬間祭壇を包むように光の柱が天へ延びた。

 

 急な出来事に目をぱちぱち瞬かせ、ナインの思考はそこで止まった。

 

『ナイン。ナイン・エーテルロード!!』

「え!? は、はい!!」

『我が名は聖杖リオン! 魔を討ち払うため、貴様の力となろう!』

「な、なぜわたしの名前を」

『星から導きを受けた、それだけのこと! ナイン、ここには我と貴様を狙う愚か者どもが攻め入っている。本来であればこの手で蹴散らしてやりたいところだが、今は貴様の無事が優先だ。飛ぶぞ!!』

「え、あ、ひゃああああああ!!???」

 

 わけもわからないままに、聖杖リオンが動き出し、リオンを握っていたナインはそれに引っ張られ、悲鳴を上げながら宙を踊る。

 

「ど、どこに行くんですかぁ!?」

『さぁな! 一つ断言できるのは、我ら聖武具はひかれあうということだ! 一見意味のない行動であっても、必ず出会うようになっている! すべては星の導きの下に!』

「わっ」

 

 ハイテンションなセリフを吐きながら、リオンがナインの股の間に入り、リオンに跨る形で飛行する。絵本で見た魔女っ娘のような姿に、困惑していた頭は興奮へと変わっていった。

 

『さぁ行くぞ! 我が冒険はここから始まる!』

「おー!」

 

 その日。南の大陸で、昼に流星を見たという目撃情報が多発した。

 

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