聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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南の大陸 - サザンローズ
第28話


 歴史の町『シェアト』。通行証は歴史であり、歴史を独占するイカレた町。たとえ国軍であっても歴史を持たなければ立ち入りを許されず、また魔法の歴史も有しているためか、町人全員の実力も高い厄介な存在。

 

 そんな厄介な町に到着したノックスは、その外見に目を剥いた。

 

「え、これ町?」

「すげー!!」

 

 見上げるノックスの隣に立ったルディは目を輝かせて口角を吊り上げる。

 ノックスたちの前にあるのは、大地に根を張る巨木。その幹は視界の端で霞むほどの太さがあり、その高さは雲を突き抜ける。そして正面には巨木に似つかわしくない重厚な鉄作りの門があり、シェアトの入り口はその門のみ。

 

 それを前にした反応は様々で、クルスとアルメイヤは知的探求心を刺激されており、シェアトには強いやつらがいると聞いたアストは戦闘意欲を刺激されており、ステラはいつの間にか巨木を見上げて興奮するノックスとルディの隣で一緒になって騒いでいた。

 

「ピクニックにでもきたみたいね」

「この光景を見て、誰も追われる立場だとは思わないだろうな」

 

 冷静なのはフリードとライラ。巨木の近くでタバコを吸おうとする暴挙をライラが火種を握りつぶすことで静止し、「すまん」とまったく悪く思っていなさそうな謝罪をしたフリードは門へ向かって歩き始めた。

 

「ノックス、ルディ。私の隣に」

「はい!」

「おっす!」

 

 門の前に立ったフリードはノックスとルディを手招きし、隣に立ったのを確認すると、そっと門に触れた。

 瞬間、門が淡く発光する。色は灰。次に、淡く光ったままフリードが触れた箇所を起点として魔法陣が描かれる。

 

「これは」

「何の魔法陣かわかるの?」

「ただ光らせるという魔法を、大げさな魔法陣で出力しているだけに見えます」

『実際そうだな。吾輩から見てもそうにしか見えん』

 

 試しにクルスが『解析』すれば、アルメイヤとザミリエルの言った通り『光らせる』だけの魔法。なるほど、頭がおかしい。クルスは何も見なかったことにして『解析』を解除した。

 

 実際に門が光ることに意味はなく、光ること以外は何も起こらず、門が不快な金属音を鳴らしながらゆっくり開いた。

 

「行くぞ」

「え、入っていいんすか?」

「『探査魔法』が巨木の周りに無数飛ばされている。ルキノスとアルゴを確認したから開いたんだ。入られたくないのなら、遠慮のない魔力砲撃が飛んできているだろうからな」

「俺知らねぇ間に命賭けてたのか……」

「命助かってラッキーだな!」

「確かに!」

「早く入りなさいよ」

 

 門の前ではしゃいでいた二人はライラから冷たい言葉を浴びせられ、わざとらしく拗ねながら門をくぐった。

 

 その先に広がっていたのは、本、本、本。巨木の中身をそのままくりぬいたかのような空間が広がっており、その壁面には本棚。そこにこれでもかと本が敷き詰められていた。本を手に取るための足場が等間隔にあり、宙に浮かんでいる灰色の魔力の板が階段の役割を果たしている。

 家らしき家はなく、そこら中にベッドとテーブルが転がっている。本を保管し、本を読むためだけの場所。町というにはほど遠いその見た目に、ノックスとルディは頭を抱えた。

 

「ここは地獄だ!!」

「頭がイテェ!!」

『清々しいほどにバカなリアクションですね』

『気持ちはわかるぜ。こんだけの量の本、どうやって管理してやがんだ』

「ほっほっほ。今日のお客さんは随分賑やかなようですの」

 

 入った瞬間騒ぎ始めたノックスたちに声がかけられる。声の主は腰が90度曲がっている老人であり、その背中に大量の本を積んでいた。周囲には開かれた本がふよふよ浮いており、視線はノックスたちではなくその本に向けられている。

 

「わしはシェアトの長、スターチス。皆からはブーメランと呼ばれておる」

「強そうですね」

「アスト、どう考えても蔑称だと思う」

 

 武器だから強い。その短絡的な思考は、クルスに腕を引っ張られることによって窘められた。

 シェアトの長、スターチス。その年齢は100を超え、長をやっている理由は『一番年寄りだから』。この町では、歴史の深さ、つまり年齢が高いほど偉い。本ばかりあって頭がよさそうな町の決定方法とは思えないほどバカな理由で選出された長であるスターチスは、本に向けていた視線をルキノス、そしてアルゴに向けた。

 

「聖剣ルキノス、聖拳アルゴ。この目で見るのは初めてじゃ」

『お初にお目にかかります。私は聖剣ルキノス』

『俺は聖拳アルゴ』

『そして吾輩は魔王ザミリエル』

「魔王?」

「バカお前!」

 

 流石のノックスでも、魔王が一緒にいることは伏せた方がいいと理解している。だからこそザミリエルを殴って黙らせようとしたが、殴った後で「あ、俺の胸にいるから俺もいてぇじゃん!」と気づいた。しかも胸に埋め込まれた魔力の欠片を殴ってもザミリエルにダメージが行くはずもなく、『ふはは! バカなことをしおって!』と上機嫌。

 

「スターチスさん。今聞いたことは口外しないようお願いいたします」

「わかっておる。この町に入り口にした言葉は歴史となる。つまりわしらのものじゃ。……ちょうど最後のページまで書き終わったようじゃの」

 

 スターチスの言葉と同時、周囲に浮いていた本が一つ閉じて、スターチスの背へと積みあがる。

 

「それもしかして、周囲の発言を記録しているんですか?」

「言葉に歴史あり。意図せず漏れた言葉が重要な鍵になることがあるからの」

「クルス、迂闊な発言は控えた方がいいぜ」

「それ、君の胸にいる魔王様に言ってくれる?」

『吾輩が迂闊な発言だと? 舐めた口を!』

『ザミリエル。あなたは喋ること自体が迂闊なんですよ』

 

 ザミリエル、首を傾げる。『吾輩の発言のすべては敬われるべきじゃないのか……?』と呟くザミリエルが可愛くなって、ノックスはそっと胸を撫でてから、なんか変態みたいじゃねぇか……? と恥ずかしくなって頬を赤くした結果、より変態っぽくなってしまった。

 

「さて、この町に入ったからには歴史をもらおうかの。ルキノス様、アルゴ様。よろしければお話をお聞かせ願いたい」

「あ、じゃあ俺ルキノス置いていきますね」

「俺もアルゴ置いていきます!」

『あ、ちょっ、ノックス! そんな私を物みたいに!』

『あいつ、使い手としての自覚ねぇのか……!』

「あぁ、こちらからお願いしようとしておりましたので。歴史は我らのもの。ルキノス様とアルゴ様から語られることを聞かれたら困ります。ので、ルキノス様とアルゴ様以外はどっかいけ」

 

 歴史の町シェアト。その町人の人格に難があるという噂は本当だったと、その場にいた全員が確信した。

 

 元より難しい話は聞いていられないと、むしろ喜んでその場を離れたノックスとルディは宙に浮く階段で遊び始め、ステラもそれに混ざりに行き、「一番早く上まで行けたやつの勝ちな!」というルディの言葉に反応したアストが参戦する。「クルス、目ぼしいものを包んでくれ」とフリードはクルスを検索機能扱いし、アルメイヤはいつの間にかかなり上の方で本を読んでいた。

 

「……寝よ」

 

 色々ついていけなくなったライラはぽそりと呟き、一人ベッドへと向かう。

 

 そうして全員がルキノスとアルゴを置いて離れ、『誰も「置いていけるか!」って言ってくれないんですね……』と拗ね始めたところで、歴史に興味津々なスターチスが口を開いた。

 

「さて、お二人にお聞きしたいのは他でもありません」

『千年前の話か?』

「いえ、それよりももっと前の話。あなたたちが聖武具ではなく、『十二星導師(エルブロード)』と呼ばれていた頃の話です」

『……歴史にお詳しいというのは本当のようですね』

『詳しすぎるくれぇだな』

 

 『十二星導師』。ルキノスを手にしたローレン・ルークスが英雄となった千年前よりはるか昔、まだルキノスたちが人であった頃。

 

「星のように未来へ導く英雄の呼称。そして12人の英雄たち、その名前。私が知っているのはそれくらいです」

『参考程度に、それはどこから伝わったものですか?』

「歴史は我らのものですので、答えられません」

『……今から話すことも、歴史は我らのものっつってあいつらに話さねェなら、話してやるよ』

 

 

 

 

 

「あぶねぇ、あぶねぇ!!」

「だ、大丈夫ですか? ノックスさん」

 

 ノックス・デッカード。魔族との戦いでも軍との戦いでもなく、『シェアトの上まで一番早く辿り着けたやつの勝ち!』勝負で命を落としかける。

 

 公正な勝負を保つために定められたルールは『魔法の使用禁止』。魔法がなければフィジカルに自信のあるノックスは、途中まで一位だった。しかし負けず嫌いを発揮したアストに段々距離を詰められ、焦りに焦って落下。飛行魔法を使えるアルメイヤにお姫様抱っこしてもらわなければ、今頃シェアトの床のシミとなっていたことだろう。

 

「おーい! 大丈夫かー!」

「ケガはない!? ノックス!」

「大丈夫だ!!」

『何が大丈夫なものか! 上に立つべきものが女に横抱きなど言語道断!!』

「ご、ごめんね? ザミリエル。でも、臣下が王を守るために動くのは当然だよ」

『然り!!』

「案外簡単だよな、ザミちゃん」

 

 近くの足場へ降り立ったアルメイヤはノックスを解放し、命の危機であまり気にしていなかった『女の子との密着』を今更意識したノックスは、三歩離れてお礼を言った。もちろん密着できたことに対するお礼ではなく、命を助けてもらったことに対するお礼である。

 

「いえ、お気になさらず。シェアトが揺れるほど絶叫していましたので、気づいたら体が動いていただけですので」

「マジ? 恥ずかしいんだけど……てか、アルメイヤ」

「なんでしょう?」

「ザミちゃんに対してめちゃくちゃタメ口だったよな。俺らに対しては敬語なのに」

「……そういえば」

 

 なんででしょう。なんでなんだ? 二人して首を傾げるノックスとアルメイヤ。タメ口をきかれていたザミリエル本人もそのことに気づいておらず、『まぁ、口の利き方一つで目くじら立てるほど小さい器ではないからな』と勝手に言い訳を始めた。

 

「そんならさ! 全員にタメ口でいいんじゃね? そうすりゃ帳尻合うだろ!」

「びっくりした! 急に降ってくんなよルディ!」

「賛成! そっちの方が仲良しみたいで嬉しいし!」

「びっくりした! 急に降ってくんなよステラ!」

「ふっ、俺の勝ちだ!!!!!」

「お前は降って来いよアスト!!!」

 

 楽しそうな話を聞きつけたルディとステラがノックスの側に着地してノックスを驚かせ、勝負に夢中になっていたアストがシェアトのかなり上の方から勝利宣言し、別の意味でノックスを驚かせた。

 

「……うん、わかった。そうするね」

「やった! 可愛い!」

「よっしゃ! これもノックスが落ちてくれたおかげだな! ありがとう!」

「複雑な褒め方しないでくれねぇか」

『ふはは! 流石吾輩の器! すべては計算済みということか!』

 

 なんかもう色々めんどくさくなって、ノックスが「そうだ!」と胸を張ると、ステラとルディから拍手が送られ、そうした方がいいのかな、と遅れてアルメイヤからも拍手が送られる。

 

「あっちに行かなくていいのか?」

「頭がおかしくなりそうなので、遠慮しておきます」

 

 フリードのための検索機能と化しているクルスはツッコミを放棄。「あぁいうのも大事だと思うがな」というフリードに説得力を感じられなかったクルスは、失礼ながらも馬耳東風した。

 

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