聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

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第2話

 結論から言えば、ノックスは敗北した。

 

「ルキノス。どう思う? あれ」

『ただ限界を超えて体に傷を作るわけではないと思っていましたが、まさか傷を燃料に炎を生み出すとは……』

「ずるじゃね? アレ」

 

 シオンの固有魔法、『不死の炎』。自身の傷、病気、体の不調を炎へ変換する魔法。変換するということはつまり元々の傷や病気などはなくなるということであり、どれだけダメージを受けようが、すべて炎になってダメージがなかったことになるということである。故に『不死の炎』。

 更に、炎の扱い方が抜群にうまかった。踏み込もうとした位置に炎の弾丸を放たれたり、近接格闘に炎を織り交ぜ、しかもワンパターンではなく拳を交える度に炎の出力、形を変え、ダメージが無くなり炎が消えるのを待とうかと思っても、炎と同時に限界を超えた身体能力強化で自身に傷を作り続ける。

 

 ノックスは『永久機関』の本当の意味を知った気がした。

 

 そうしてシオンに打ちのめされたノックスは、「これからちょくちょくやろうぜ」というシオンの言葉に軽く絶望しつつ、フリードに治療してもらった後食堂を訪れていた。

 

 食堂は広く、全クラスの生徒でごった返している。学友とともに食事をとっている姿が多く見かけられるが、もちろんノックスは一人寂しく大量のご飯を口へ運んでいた。

 

「やっぱ多いって、これ」

『体を作るのは食事です。辛いかもしれませんがあなたは体を鍛えなければいけませんから』

 

 ノックスの前に広がっているのは大量のパンに大量のおかず。学食は国からの提供の為お金を払わずに食べられるのが魅力的だが、二週間この食事を口にしているノックスにはこれほどの量ともなると魅力的には思えなかった。もはやパンが「俺はお前を苦しめるために生まれてきた」と喋っている幻覚、幻聴さえある。

 

「なんか手軽にカロリー大量摂取できる食べ物とかねぇの?」

『強さに近道はありません。大丈夫です。今までの努力に、更に努力が加わっただけですから』

「キチィよぉ」

「あ、あのー」

「!?」

 

 もう泣きそうになっていたノックスは、突然かけられた声に勢いよく首を回した。それを見た少女は一瞬びくっと肩を震わせた後、「隣、いいかな?」と可愛らしく首を傾げた。その手には食事を乗せたトレーがあり、周りを見ればノックスの周り以外は席が埋まっている。

 

「いいっすよ」

「ありがとう!」

 

 悲しい現実に打ちひしがれながら、努めて笑顔でノックスが承諾すると、少女は明るく笑ってノックスの隣に座った。

 

 瞬間、ノックスは気づく。これは、友だちチャンス?

 

「俺、ノックス・デッカード。Fクラス。君は?」

「えっと、私はステラ・ゼルニール。Aクラスで、今年16かな」

「お、タメか」

「うん、タメだよー」

『Aクラスですか……あ、申し遅れました。私はルキノスと申します』

「ルキノスさんだね。二人ともよろしく」

 

 ノックスは打ちのめされていた。同い年で、Aクラス。自分はFクラス。最高と最低が並んで座っているのは冗談に見えるだろうなと自分を嘲笑い、友だちになんかなってくれやしないだろうなと落胆して、食事の手を進めた。

 

(いや、ここで諦めていいのか?)

 

 いや、よくない。ノックスは再び立ち上がった。ここで諦めたら一生友達なんかできやしない。それに、何を恐れる必要がある。自分には筋肉しかない。失うものなんて初めからなかった。なら、少しでも希望があるなら掴みに行くべきじゃないか!? と。

 

「ゼルニール」

「ステラでいいよ? 私もノックスって呼ぶから」

「好きだ……」

「え?」

 

 きょとん、としたステラに自身の失敗を悟ったノックスは、ルキノスに視線を送ってサポートを依頼する。しかしルキノスはだんまりを決め込んだ。これを「自分でなんとかできなければ相棒に値しない」と前向きに捉え、次の一手を打とうとノックスが謝罪の言葉を口にしようとした瞬間、くすくすとステラが上品に笑い始めた。

 

「ぜ、ステラ?」

「ご、ごめんね、突然笑っちゃって。うん、ノックスって案外面白い人なんだなって」

 

 ふんわりとした金の髪を揺らしながら微笑むステラに、思わずノックスは頬を赤くする。

 

 ノックスは、同年代の女の子と喋ったことがほとんどない。フリードとシオンは同年代と言えば同年代だが、どちらかと言えばお姉さん感が強く、ステラのように完全な同い年の女の子と話したことがないノックスは面白いくらいに女の子への耐性がない。更に、ステラのように容姿が整っている女の子が相手ともなると耐性はゼロに等しかった。

 

「いっつも一人で鬼気迫る! みたいな感じで剣振ってるし、体おっきいし、怖い人なのかなーって思ってた」

「怖いわけねぇだろ。俺魔法使えねぇんだぞ」

『むしろ怖いかと思いますが』

「それどういう意味?」

『ありのまま受け取って頂ければ助かります』

「ふふっ。やっぱり怖くない」

 

 またも恥ずかしくなったノックスは照れを誤魔化すために食事に移った。それを見てまたステラがくすくす笑って、ルキノスも『くすくす』と笑う。ステラはともかくルキノスはなんとなくムカついたノックスは、近くにあったジャムをルキノスに塗った。『あー!! 私聖剣ですよ!! なんてこと!! ローレンにこんなことされたことないのに!!』と騒ぐルキノスは無視。ノックスはこう見えて器が小さい男であった。

 

「ねぇ、今度から会ったら声かけていい?」

「い、いいんですか……!?」

「ふふ、そんな大げさなことじゃないよ?」

『ノックスは女の子と話すのに慣れていませんからね。ノックスにとっては大げさなことなんです』

「トーストにされてぇのか?」

『私が動けないのをいいことに……!!』

 

 そのまま幸せな時間を過ごし、「またね!」と手を振ったステラにぎこちない笑みで手を振り返したノックスは、自分一人しかいない教室にとぼとぼ帰っていた。

 教室に入ればやはり一人。フリードは時間ぴったりにくるため、授業前の時間は完全に一人……厳密にいえばルキノスがいるため一人ではないのだが、見た目一人の寂しい時間が訪れる。先ほどステラと話した分、その寂しさが余計に増してしまっていた。

 

『あの、ジャム拭いてほしいんですが』

「オシャレだぜそのジャム。かわいいかわいい」

『拭かなければノックスが私に欲情しているという噂を流します』

「テメェ!!」

 

 剣に欲情しているという噂を流されてはたまったものではないため、ノックスはジャムをふき取り、ついでに手入れを始めた。そこまで予想していなかったルキノスは『あっ、えっ、ふーん。い、いい心がけですね』と素直にお礼を言えずされるがまま。ノックスは面倒くさい性格をしているが、ルキノスもルキノスであった。

 そこに、授業時間ぴったりでフリードがやってくる。ルキノスを手入れしている珍しい光景に少し目を丸くして、「なにかあったのか?」と興味深そうに尋ねた。

 

「あぁ、さっき食堂で飯食ってたらステラっていうAクラスのやつが話しかけてくれて。それでルキノスにジャム塗ったんです」

「ふむ。私をもってして難しいと判断してしまう話だな。話しかけてくれたこととルキノスにジャムを塗ることにどんな因果関係がある?」

『ノックスは女の子に慣れていないんです』

「なるほど。大方ルキノスがノックスをからかって、腹を立てたノックスが仕返ししたというところか」

「なんでわかるんすか」

「人より頭が回るんだよ、私は」

 

 フリード・ガーベラ。固有魔法は『思考回廊(シナプス・ロード)』。脳内に更に複数の脳があり、それぞれが趣味嗜好を持っていて、得意な魔法分野も異なっている。それぞれの脳で別のことを考えることも可能であり、同じことを複数の脳で考えることも可能。ざっくりいえばすごく頭がいい。

 

「それにしても、ステラ・ゼルニールか」

「あれ、知ってるんですか?」

「あぁ」

 

 ノックスに聞かれて頷き、フリードは懐からタバコを取り出して火をつけた。一口目を肺に入れず、「天才だから覚えていた」と紫煙とともに言葉を吐きだす。

 

「フリードさんがっすか?」

「ステラが、だ。入校時にAクラスはほとんど聞いたことがない。とはいっても、今年は二人いるようだが」

『二人も。今年は随分優秀なんですね』

 

 Fクラスであるノックスは知らないが、入校と同時にAクラスへ配属された二人は訓練生の間では有名人であった。ここでもノックスが人付き合いをできていない弊害が出ているのだが、当のノックスは「へぇーすげぇなぁ」とまったく気づいていない様子。ルキノスは変なところで能天気なノックスに頭を痛めた。

 

「ふむ、ちょうどいいな。違うクラスの話が出たことだし、クラス昇格戦の話でもしようか」

「クラス昇格戦?」

「あぁ。訓練校のクラスがAからFに分かれているだろう? そして、入校と同時にそれぞれの実力に合わせて配属される。ただ、一年間ずっと同じクラスというわけではない」

 

 ここまで聞いて、ノックスはピンときた。ノックスは確かに筋肉ダルマだが、きちんと思考する脳は持っている。少し情報を与えれば、なんとなく答えを探れる程度には。

 

「つまり、その昇格戦ってやつの結果如何で上のクラスに上がれるってことっすか?」

「その通り。ちなみに昇格戦は毎月末必ず行われるが、当人同士の同意があれば別にいつ行っても構わない」

「当人同士の同意?」

『上のクラスに所属する生徒に昇格戦を申し込む、ということでしょうか』

「その認識で問題ない。昇格戦の内容によって配属されるクラスが決められる。だから、Aクラスの生徒に勝ったからと言って、Aクラスに配属されるわけではないということだな」

 

 ここまで聞いて、ノックスはピンときた。ノックスは確かに筋肉ダルマだが、今までが恵まれなさすぎて『嫌な予感』には人一倍敏感なのである。

 与えられた情報は、『昇格戦』と『Aクラス』。普通に聞けば例として『Aクラス』を出しただけと捉えるが、『嫌な予感』に敏感なノックスは違った。

 

「ちなみに、もうAクラスのやつに昇格戦を申し込んである。快く受けてくれたぞ、よかったな」

「ルキノス。遺言頼まれちゃくれねぇか」

『いいですよ』

「引き受けんなや!!」

 

 月末。つまりあと一週間と少し。

 

 きたる昇格戦に向けて、これからノックスは地獄を見ることになる。

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