聖剣が筋肉で抜けた   作:酉柄レイム

4 / 29
第3話

 ノックス・デッカードは友だちがいない。正確には一人いるのだが、あまりにもクラスが離れすぎていて会う機会がほとんどない。ステラが食堂でノックスを見かけた際は話しかけてはいるが、すぐに他の友だちがやってきて「Fクラスがうつるよ!」と引き離される。

 

「Fクラスって感染すんのか……」

『バカ』

 

 寂しすぎておかしくなり始めたノックスは、剣にすら二文字で罵倒された。

 

 ノックスは何も、寂しさだけで頭がおかしくなり始めたわけではない。

 その原因は、昇格戦にある。フリードの一存によってAクラスとの昇格戦をセッティングされたノックスは、昇格戦前日に至る今日まで血の滲むどころか滲む血がなくなるほどの努力をしていた。

 

 朝起きて訓練場に行きフリードかシオンに叩き潰され、大量のご飯を食べ、フリードかシオンに叩き潰され、大量のご飯を食べ、フリードかシオンに叩き潰され、フリードかシオンに叩き潰され、フリードかシオンに叩き潰され。

 そのせいで、ノックスは自分の頭を触るのがクセになってしまっていた。自分が原型を留めているかどうかが不安になっての行動である。

 

 そんな叩き潰され続けたノックスは今、訓練場にいた。それはフリードから「明日が昇格戦だから夜くらいは休んでおけ」と言われ、さぁどうしようかと悩んでいたら訓練場にきてしまっていたからである。つまりは訓練場にくるのもクセになってしまっていた。

 

 ただ、休めと言われれば休んだ方がいいのだろうと、ノックスは大の字になって寝転がった。

 

「そういや自分から寝転がるのは初めてだな」

『いつも転がされてばかりですからね』

 

 クマの子が見ているかくれんぼの歌にノックスが登場していれば、間違いなく一等賞を取れるほどノックスは訓練場の床の味を知っていた。

 

「なぁルキノス。俺、明日勝てると思うか?」

『戦いになるかどうかも怪しいですね』

「だよなぁ。でも、無様だけは晒せねぇよな」

 

 ノックスは思い出していた。約一か月過ごしてきた日々を。聖剣ルキノスに触れ、フリードとシオンに師事され、時々ステラと言葉を交わした日々を。

 

「俺を育てたことが無駄だって言わせたくない。俺が負けることであの人たちに不都合が起きて欲しくない。だから、力貸してくれ、ルキノス」

『……あなたらしいですね』

「え、そう? 今のカッコよかった?」

『あなたらしいですね』

 

 ちなみに、この後いつの間にか寝てしまっていて、様子を見に来たフリードに蹴り起こされた。

 

 

 

 

 

「おはよーノックス!」

「おわっ、ステラ!?」

『おはようございます、ステラ』

「おはよー! ルキノスさん!」

 

 翌日。

 

 フリードに「特別戦技場」と単語だけ告げられて、「特別戦技場ってところで昇格戦があるんだな」と理解したノックスが校内の廊下を歩いて向かっていると、勢いよく走ってきたステラがノックスに追いつき、大声で挨拶。緊張やらなんやらで他にあまり意識が回っていなかったノックスが肩を跳ねさせて驚き、戦場という戦場を切り抜けてきたルキノスは落ち着きを持って挨拶を返す。そんな対照的な二人の様子にステラが笑うと、ノックスは自身の中にあった緊張がある程度ほぐれていくのを感じた。

 

「今日だね、昇格戦!」

「今日だな、昇格戦」

「やっぱり緊張する?」

「そりゃあな。俺はもうクラス下がんねぇけど、この昇格戦が今までの努力の証明になるからな」

 

 ノックスの言葉を聞いて、ステラは心の中で「頑張れ」とエールを送った。

 

 ノックスの評価は、本人と交流を持つ者とそうでない者でかなりの差がある。

 ノックスは友だちはいないが、人付き合いが死ぬほど苦手というわけではない。冗談も言える、目上の人にもある程度失礼を働ける。更に当たり前のように思える恩に報いるということを大事にしている。故に、ノックスと交流がある人間からは好印象。

 

 対して、ノックスと交流を持たない者からの評価は一言で言えば偏見。Fクラス、ミソッカスの魔力、毎日狂気じみた勢いで訓練場で暴れ回る。更に、鍛え上げた筋肉によって得体の知れなさが増幅され、『触れてはいけない存在』としてノックスは扱われている。

 

 それが、ステラは気に入らなかった。元来性根が真っすぐであるステラは、ノックスという努力家で、友だち一人に一喜一憂して、女の子と話すとき緊張してしまう、普通の男の子を偏見の目で見られていることが、かなり。

 

(見返してあげて、ノックス)

 

 心の中でまたエールを送り、ノックスの背を叩く。訳が分からなさそうに目を白黒させるノックスに、ステラは笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 特別戦技場。コロシアムのようになっているそこに、ノックスは立っていた。観客席は人で埋め尽くされ、もしかして自分を見に来てくれたのかと一瞬錯覚してしまったノックスだが、電光掲示板に表示された文字を見てその錯覚は跡形もなく消え去った。

 

「そういや、同じ学年に二人Aクラスがいるってフリードさん言ってたなぁ」

 

 電光掲示板には、『1-A アスト・アウリエ VS 1-F ノックス・デッカード』と表示されている。

 

『怖気づきましたか?』

「怖気づくほどの力がねぇよ」

『私相手に一本取ってどうするんですか?』

「一本取られてんじゃねぇよ。励ませ。あなたには誇れる力がありますと励ませ」

『ないものねだりをしても仕方ありません。ないものはないんです。ですから、あるもので戦いましょう。大丈夫。けちょんけちょんに負けても努力が無駄だったということには絶対になりません。大体、努力が無駄になったなどと言いますが、それは努力を"無駄にした"だけのこと。ノックスは、無駄にする気はありますか?』

「ねぇよ。あんがとな」

 

 付き合いの短い相棒の気遣いに短く礼を言って、気づく。

 

 ノックスは目の前、登場ゲートを見た。魔力を持たないノックスでもわかる、肌に刺さる気迫。正面に立った相手をその場に縫い付けるようなそれを携えて、アスト・アウリエは現れた。

 

 質の固そうな銀に輝く髪を攻撃的に逆立たせ、それが月のように静かな美しさを持つ黄色の瞳を際立たせている。腰には剣があり、その佇まいは一年ながらにして風格と貫禄を感じさせる。

 

「あれがアスト・アウリエか」

「あの一年坊主可哀そうにな……あの才能を真正面から受けるなんてよ」

「いや、それが目的なんだろ。真正面からお前には才能がないからやめろなんて言いにくいだろ?」

「いつも訓練場で暴れ回ってよ。無駄な努力ご苦労様って感じ」

 

 アストが登場ゲートから現れると同時、観客席がざわめきたつ。それのほとんどがノックスに向けられる誹謗中傷。聞こえないようにという配慮は一切なく、むしろ聞こえるように発せられたそれはもちろんノックスにも届いているが、ノックスは「あーあ。これじゃ友だちできそうにもねぇなぁ」と呑気に考えていた。

 

「周りがうるさいな」

「別に気にしねぇよ。もう慣れた」

 

 話しかけてきたことに驚きつつ、強がるわけでもなくいつもの調子でノックスが答える。

 

(これで実力で黙らせるって言えりゃあカッコ付くんだけどなぁ)

 

 ノックスはいやなところで現実主義であり、自分にそんな実力がないことを理解している。このままみっともなく転がされて、カッコ悪く戦って誹謗中傷が増えるんだろうな、と周りの声を聞きながら友だちを作ることを諦めかけていた、その時。

 

「──黙れ」

 

 叫んだわけでもないアストのその声に、特別戦技場全体が静まり返る。

 

「黙って聞いていれば憶測でべらべらと鬱陶しい。貴様らからは他者へのリスペクトが欠片も感じられん。可哀そう? 同情してくれとノックスが言ったか? 無駄な努力? なぜ外野の貴様らがノックスの努力を"無駄"だと決めつける。他人の努力を笑うな。ノックスの努力を笑う権利はノックスにしかない」

 

 アストが洗練された動作で剣を抜く。

 

「──それに、どうせ俺より弱いんだろ、お前ら。ザコは黙って見てろ。……ノックス」

「ん」

「悪いな。お前は気にしないと言ったが、俺が気になった」

 

 この瞬間、ノックスは心に誓った。

 絶対にアストと友だちになろう、と。

 

「いいのかよ、あんな言い方して。敵増やしちまうぞ?」

「あの程度のやつら、敵にもならん。だから問題ないな」

「俺もいつか言うわ、そのセリフ」

「なんなら今俺を倒して言ってもいいぞ」

「あ、いいなそれ。じゃあご協力願えるか?」

「死んでも嫌だ」

 

 言葉を交わし、二人が笑って。

 

 直後、二人の剣がぶつかり合った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。