シン・陰流の麒麟児   作:シン・陰流師範代

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 ―――憧憬。

 それは、ヒトをヒトたらしめる感情の一つ。


1話 

 

 

 

 

 

 出会いは、劇的で―――。 

 

 襲い掛かってくる化物から守るように現れた一人の男性と後ろで怯える男の子(じぶん)。静かに立っている男の姿は、まるで日曜の朝8時にやっていたテレビ番組のヒーローのようでカッコよかった。何よりも安心した。この人がいるから大丈夫だと無条件に感じた。

 

 そして、それはすぐに証明された。

 

 手に持った刀を腰に持っていくと同時に放たれた銀閃と真っ二つになった化物。声を上げる暇も与えない神速で放たれた一刀とブレずにそこにある男の背中。

 

 そんな男の後ろ姿と煌めく刀身に魅せられた。

 

 

 

 

 「―――坊主、剣術に興味あるか?」

 

 

 

 

 出会いは、劇的で―――何よりも美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――シン・陰流

 

 蘆屋貞綱が考案した弱者が強者から身を守るための(すべ)。呪術全盛期において、凶悪な呪詛師や呪霊から門弟を守るために編み出した技であり、過去から現在まで伝え生き抜いてきた弱者(きょうしゃ)の武器。

 

 その正体は、門外不出を縛りとした一門相伝の技術。結界術を元に、自分の中に0から術式を構築して発動させる呪術である。術者を中心に半径2.21mの結界を展開する技術。その名も「簡易領域」。

 

 その簡易領域を基礎とした剣術を総じて――シン・陰流――と呼ぶ。

 

 

 

 

 そんな弱者の技は昔から『生得術式を持たない負け犬の遊び』と嘲笑の対象にされてきた。

 

 それが、呪術界において長らく語られてきた通説。術式を持たないということは、即ち呪術師ではないということ。呪力を持ちながら、術式を持たない出来損ない。そんな不出来で欠けた存在である負け犬が強者から逃げ隠れるために覚えてたのが、生得術式の欠けた未完成の領域(簡易領域)

 

 ―――欠けた存在に相応しい出来損ないの証明。

 

 そう嗤われ続けてきた。

 

 

 

 

 そんな歴史の中で1人の弱者(きょうしゃ)が名を上げた。

 

 齢13歳にして、現最高師範から次代の最高師範に任命された少年。名を「佐々木四郎」。現代では珍しい呪霊が見えるほどの呪力を持って生まれた元一般人。シン・陰流との出会いは、小学校1年生の頃、日下部師範と出会ったことで師事を仰ぎ学び始める。

 

 そこから、シン・陰流を学び始めて3年でシン・陰流の奥義まで修め、5年で師範の資格を得る。7年目にして最高師範と御前仕合を行い勝利。その際に、最高師範から次代の最高師範に任命され、それと同時に特別一級呪術師として認められるという偉業を達成する。

 

 その破竹の勢いから、【シン・陰流の麒麟児】として名を馳せている。

 

 

 そして現在、彼は京都府立呪術高等専門学校1年生の一級呪術師として学生をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――2018年10月19日:某所

 

とある呪霊と人間が地形を変えるほどの戦闘を起こしていた。

 

 「チャージ一年ッ! 焼き払えメカ丸大祓砲(ウルトラキャノン)!!!!」

 「ははっ、アッぶなーいなぁ」

 

 一見すると人間VS巨大ロボというパワーバランスが崩れた無謀な戦闘に見えるが、よく見てみると人間が人間ではなく呪霊だということが分かる。人間から魚、人の腕から鳥の翼など異形に変化していく様がソレが人間ではないことを証明してくれる。

 

 「すぐにソコから引きずり出してあげるよ人間!」

 「チッ! 今度は、チャージ二年!二重大祓砲(ミラクルキャノン)!!!」

 

 はじめこそ巨大ロボが優勢に見えていた戦いも時間が進めば進むごとに劣勢になっていることに気付く。巨大ロボの放つ拳や蹴り、ビーム、その全てを華麗に避ける呪霊と一方的に攻撃を受ける巨大ロボ。

 

 ただ、その戦いにも転機が訪れる。

 

 『―――術式装填』

 

 「喰らえッ! メカ丸!!!!」

 「はっ、意味ないって……え?」

 

 巨大ロボの放った弾丸が呪霊の翼を奪う。

 

 今までダメージの入っていなかったその体に初めて傷がつく。ソレを知覚した呪霊は、何をされたか理解できなかったが、一瞬でその状況を受け入れる。自信を傷つけることが出来ないと思っていた、雑魚だと思って警戒していなかった目の前の存在を敵として認識する。

 

 「このまま行くぞメカ丸! 追尾弾(ビジョン)五重奏(ヴィオラ)ッ!!!」

 「チッ! ウザったいなぁア!!」

 

 巨大ロボから放たれたレーザーを上手く避ける呪霊だったが、攻撃はソレだけではなかった。意識外から襲い掛かる巨大ロボの拳戟。考える時間を与えない攻撃と為すすべなく受けてしまう呪霊。

 

 『もう一度、簡易領域を使うとしたらこの瞬間!いけるッ!!』

 

 一瞬の攻防の中、トドメを刺すことを考えた与幸吉は決断した。残り3発のうち2発(・・・・・・・)をここで使うことを…。

 

 『―――術式装填』

 

 「いけええええ! メカ丸ッ!!!」

 「―――残念。領域展開(りょういきてんかい)自閉円頓裹(じへいえんどんか)

 

 術式の最終奥義にして呪術戦における極致―――領域展開。

 

 術師の所有している生得領域を現実に持ってくる呪術師の最高到達点にして、最強の術。その効果は、『必中必殺』の絶対領域の顕現。ソレを事もなげに発動させる呪霊。その格は、まさに特級。

 

 理不尽の化身としての片鱗を確かに見せていた。

 

 

 

 呪術戦において相手の領域内に入るということは、事実上の敗北。そこから覆すには、自身も領域展開をすることで領域の綱引きを行うしかない。ただ、その綱引きに勝つには術者の力量―――どちらの領域が洗練されているかや呪力量など―――に左右される。

 

 もし、領域を展開することが出来るなら可能性はまだある……が、与幸吉は領域展開をできるほどの技量がない。

 

 つまり、この先に待っているのは『死』である。

 

 

 

 ソレを領域展開後に感じ取っていた呪霊は、自身の勝利を確信していた。

 

 「はい、お終い。無為転変(むいてんぺん)

 

 倒れる巨大ロボと鎮座する呪霊。ここに勝負は決した。そう確信した呪霊は、自信満々に、まるで自分の持っている玩具をひけらかす子どものように、得意げに語り始めた。

 

 「オマエの装甲は、俺の術式と相性が悪い。でも、直接触れられないのなら領域に入れちゃえば良い。ソレは、オマエもわかってたろ? 領域展開できることを知ってたはずだ。まぁ、その上でハロウィンまで呪力を温存すると見てたんだろうけど……甘いよ。こんなの10日も休めば全快する」

 

 

 

 

 「オマエの敗因は、未来に期待しすぎたこと。戦いに夢とか希望とか持ち込むなよ。哀れ過ぎて表情に困っちゃうからさ」

 

 

 

 「―――え?」

 

 「喰らえ―――シン・陰流【簡易領域】

 

 呪霊を貫く巨大ロボの刺突。瞬間、呪霊は理解した。自身を突き刺しているコレには、先ほど自分を傷つけた呪術が込められていることを。

 

 「アッアッ嗚呼アァああ゛ア゛!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 与幸吉は、戦いに夢や希望を持ち込んではいなかった。

 

 呪霊が、領域展開する可能性をしっかり計画に入れていた。それもかなり綿密に組み込んだいた。これまで見てきた呪霊の行動や性格、癖。ソレを細部に至るまで読み込み、呪霊が領域展開をきるタイミングを読み切っていた。

 

 『真人(オマエ)は、俺が勝ちを確信した瞬間にこそ領域を展開する』

 

 その瞬間を狙え。真人(アイツ)がソレを確信する瞬間を誘え。その一瞬に俺の勝機がある。だから、これ見よがしに切り札を切れ。その本質を理解される前、簡易領域を悟られる前に領域を展開させろ!!!

 

 

 

 

 

 

 「夢や希望なんてモノは、この躰で生まれたときに捨ててきた」

 

 俺の簡易領域弾は、4発しかない有限の切り札。

 

 だからこそ、ソレを見せるタイミングが重要だった。1発目は、コレが脅威であることを認識させるための誘い札。2発目は、領域展開を誘うため且つ3発目の効果が発揮した後の決め札。そして、3発目は領域展開から逃れるための逃げ札。

 

 「コレが、呪術師の戦いだクソ呪霊。そして、次はアンタだ! 夏油ッ!!!」

 

 呪力チャージ9年分に簡易領域弾1発。これなら殺れるッ! みんなに会える!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だから、言ってるだろ。夢と希望を戦いに持ち込むなよ」

 

 瞬間、破壊される装甲。砕けるメカ丸の隙間から見える真人の顔。その顔は、不気味なほどに口が裂け此方を嘲笑っていた。

 

 『真人(オマエ)は、俺が勝ちを確信した瞬間にこそ領域を展開する』

 

 解かっていたはずだった。コイツは、簡単に死ぬはずがないと。

 

 「クッソがああぁぁあぁぁああ!!!」

 

 ブチ込む! この最後の簡易領域弾をブチ込めば勝てる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、お終い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「シン・陰流【簡易領域】―――抜刀

 

 諦めていた、あり得る筈の無い増援。誰かが裏切っているクソ野郎のことを気にかけて、最後まで仲間だと信じて助けに来てくれる可能性。ソレは、夢や希望なんてモノではなく、言わば妄想の域。そんなものは、存在しない幻想。

 

 ―――だと思っていた。

 

 「さ、佐々木……ッ! なんでお前が此処にいるんだ!!!」

 「それは、先輩を助けるためですよ」

 

 

 

 

 

 

 一瞬で躰を両断された真人は、夏油の元まで急いで戻る。

 

 真人には、躰を斬られたあの一瞬。何が起きたのか解からなかった。いつ、あの場に来たのか。いつ、自分が斬られたのか。

 

 アレは、いつからこの帳の中にいた?

 

 「ねぇ、夏油。―――アレは、ナニ?」

 「……アレは、【シン・陰流の麒麟児】佐々木四郎。世界最強の剣士だ」

 

 

 

 

 

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