ゼロの使い魔〜赤い仮面と命のベルト〜   作:D-ケンタ

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長くなっちゃいました。


第六話 発動ロープアーム!

フーケの襲撃により、トリステイン魔法学院は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

夜中ではなく、白昼堂々とした犯行であった為生徒達の混乱も大きく、当然今日一日の授業は全て休講。生徒達は自室待機を命じられた。

そして現場となった宝物庫には教師陣が集まっており、口々に責任の所在を問うようなことを言っている。

その様子に、オスマン学院長はため息を吐くと、コルベールへと向き直った。

 

「それで、犯行現場に居合わせたのが?」

「はい。こちらの五人です」

 

コルベールが自分の後ろに控えていたシンジ達を指した。

 

「成程、君達か。詳しい説明をしたまえ」

 

オスマンがそう言うと、ルイズが一歩前に出て、事件当時のことを述べた。

それを聞き終えたオスマンは髭を撫でると、コルベールに尋ねた。

 

「ところで、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその、事件の前から姿が見えませんで」

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

「どこなんでしょう?」

 

そんな風にオスマンとコルベールが話しているのを聞いたシンジは、彼女も事件に巻き込まれたのではと心配になった。

ロングビルとは知らぬ仲ではなく、先日にはデストロンに襲われたこともあり、最悪な考えが頭をよぎる。

そんな時、ふとコルベールが持っているものがシンジの視界に入った。

 

「……ん?コルベール先生、そのカードは?」

「これですか?これはフーケが現場に残していったカードです。フーケの犯行声明が書いてあるもので、特に手掛かりはありませんが」

「ちょっと見せてもらってもいいですか」

 

そう言ってコルベールからカードを受け取ると、ジッと観察する。

確かに特に手掛かりは書いていない。しかし、裏の面を見たとき、シンジは目をカッと見開き、カードを持つ手を震わせた。

 

「これは……!」

「どうしたんですか?」

「裏面に、俺の故郷の字が書いてある」

「なんですと!?」

 

シンジの言葉を聞き、コルベールだけでなくオスマンやルイズ達も彼の近くにより、カードを見つめる。

 

「本当だ……日本語が書いてある」

「して、何と書いてあるのかね?」

 

オスマンに問われ、シンジはカードに書いてある内容を読み上げる。

 

「……『朝火シンジ、この女は人質だ。助けたければ我々の指示に従え。 デストロン』」

 

その場にいた全員が絶句した。

フーケの犯行と思っていたところに、まさかのデストロンの名前が出てきたのだ。驚かないはずがない。

しかも『この女』とは、恐らく今姿が見えないロングビルのことだろう。

 

「な、何ということだ……」

「またデストロンが……これはもう、王室に報告し、兵隊を差し向けてもらはなくては!」

 

コルベールが叫ぶが、シンジは首を振り、静かに告げた。

 

「いや。奴らの狙いは俺です。失礼かもしれないが、この世界の兵隊が向かったところで、返り討ちにされておしまいでしょう」

「しかし、それでは君が!」

「いいんです。それが俺の役目ですから」

 

シンジはそう言いながら、優しく微笑んだ。それによりコルベールは言葉を詰まらせ、オスマンが彼の肩に手を乗せると、続けてシンジへと頭を下げた。

 

「すまぬな、シンジ君。またしても君に頼ってしまう」

「頭を上げてください、オスマン学院長。デストロンが俺を指名するなら、俺は行きます」

「……すまぬ」

 

オスマンはシンジの手をガッチリと握り、シンジもそれを握り返した。

置いてけぼりを食らったルイズ達は目の前のやり取りをただ見ており、才人もぼーっとしていた。

唯一キュルケだけがやり取りの内容を聞いて、悲しげな視線をシンジへと送っていた。

 

「しかし、デストロンの連中指示に従えとあったが、どうやって指示をするつもりなんだ?」

 

そう思って、ふと空いた穴から外を見る。学生達の姿こそないものの、外にはいつもどおりの光景が広がっていた。

視線を巡らせると、一台の馬車が学院の外に出ていくのが目に入った。それだけならなんてことないが、ちらりと見えた御者の服装、それに描かれた模様を確認した時、シンジは驚きのあまり目を見開いた。

 

「デストロン……!」

 

そう呟いたシンジはオスマンに向き直る。様子の変わったシンジを怪訝に思ったオスマンが尋ねると、シンジはオスマンにだけ聞こえるように話した。

 

「外にデストロンの馬車が見えました」

「何じゃと……!」

「恐らく付いて来いと誘っているんでしょう。俺は今から奴らを追います」

「分かった。気をつけるのだぞ」

 

オスマンの言葉に頷き、シンジは急ぎ足で宝物庫を後にした。

彼を見送ったオスマンの側にコルベールが寄り、周りに聞こえないように尋ねてきた。

 

「学院長、彼は」

「ああ。奴らが絡んでいる以上、彼に任せる他ない。儂らは儂らに出来ることをするとしよう」

「そうですな……あれ?」

 

急に素っ頓狂な声を出したコルベールに、何事かと思ったオスマンだが、彼の視線の先を見て、その理由に気付いた。

そこには先程までルイズ達が居た筈なのだが、そこには誰の姿もなかった。

 

「まさか……彼について行ったのでは!?」

「い、いかん!すぐに連れ戻すのじゃ!」

「は、はい!」

 

言われてすぐにコルベールが彼女達の後を追うが、既にその姿は学園にはなかった。

 

 

鬱蒼とした森の中。馬の蹄や、鳥の羽ばたきとは全く違う異質な轟音が響いていた。

その音の主はシンジが呼んだハリケーンであり、ブォンブォンと激しいエンジン音を鳴らしながら、シンジを乗せて森の中を疾走していた。

 

「む、あれは!」

 

しばらく走らせた先で、追跡していた馬車が停車しているのを見つけた。

ハリケーンから降りて馬車を観察するが、デストロンの影も形も見当たらない。

 

「一体どこに……むっ!?」

 

突然感じた気配に反射的に振り向くと、木の上から戦闘員が複数体飛び降りてシンジを囲った。

 

「現れたなデストロン。ロングビルさんはどこだ!?」

「キキィーッ!」

 

当然、シンジの質問に答える筈もなく、戦闘員達はシンジへと襲いかかってきた。

 

「ふん!とうっ!」

 

突然の交戦ではあったが、シンジは慌てず徒手空拳で対応していく。

改造人間の力で振るわれる拳や蹴りは強烈で、変身していなくとも戦闘員を倒していく。

 

「フラーイ!朝火シンジ、そこまでだ!」

「貴様はっ!?」

 

新たに現れたデストロンの怪人が、シンジの目の前に降りてきた。

 

「俺様はテレビバエ。朝火シンジ、貴様の首を貰うぞ!」

「させるか!ふん!」

 

そのまま襲いかかってきたテレビバエと交戦を開始。しかしやはり怪人相手では分が悪く、徐々に押されていく。

 

「フラーイ!」

「うおっ!?」

 

テレビバエに捕まったシンジはそのまま投げ飛ばされるが、空中で身体を翻し、見事に着地した。

 

「こうなったら……むんっ!」

 

シンジは両腕を右に伸ばし、円を描くように左側に回転させる。そして勢いよく右肘を腰まで引き、左拳を腰に添えると同時に交差させるように右腕を左斜上に付き出した。

 

「変身……V3ャアアアッ!!」

 

掛け声とともに大ジャンプすると、ダブルタイフーンの風車が大回転し、シンジの体が仮面ライダーV3へと変身した!

 

「覚悟しろテレビバエ!トゥッ!」

 

V3はテレビバエに肉薄すると、強烈な打撃をお見舞いする。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「グゥッ!何の、行くぞ!」

 

しかしテレビバエもやられっぱなしではない。V3に反撃してそのまま掴みかかると、近くの木にV3の頭を打ち付ける。

 

「ぐぁっ!?」

「くたばれ、V3!」

 

何度も木に叩きつけると、今度は木に押し付けたままV3の首を絞める。

 

「ぐぅぅっ……トゥッ!」

「ヌゥオ!?」

 

V3はテレビバエの腹を蹴り飛ばして拘束から脱出。その勢いでテレビバエに連続パンチを浴びせる。

 

「グゥア!?」

 

V3は攻める手を緩めず、今度はV3がテレビバエを押さえ付ける。

 

「言え!ロングビルさんは何処だ!?」

「フラーイ。ライダーV3よ、あの女に助ける価値が、果たしてあるかな」

「どういう意味だ!」

「あの女はお前を、学院の人間を騙していた女だ」

「デタラメを言うな!」

 

しかし僅かに動揺してしまったのか、テレビバエを拘束しているV3の手が緩み、それを好機とみたのかテレビバエはV3を突き飛ばした。

 

「ウォッ!?」

「形勢逆転だな、ライダーV3」

 

そして倒れたV3に馬乗りになると、テレビバエは頭部のテレビ画面をV3の眼前に持ってきた。

 

「改良された俺の殺人電波で、貴様の電子頭脳を狂わせてやる!フラーイ!」

「ぐぅぅっ!?」

 

テレビバエの殺人電波を喰らい、苦悶の声を上げるV3。電子頭脳に干渉されているため、脱出するための力がうまく出せない。

万事休すかと思われたその時、空から火の玉が降ってきて、テレビバエへと直撃した。

 

「ウワアッ!?」

「い、今のは……まさか!?」

 

空を見上げると、上空から降下してくるドラゴン―シルフィードの姿と、その背中に乗るキュルケ達の姿が目に入った。

 

「皆、ついてきていたのか……!」

「クソッ!邪魔が入った、勝負は預けたぞ!」

 

そう言い放ちテレビバエは飛び上がるとどこかへと逃げていった。

 

「逃がすか、V3ホッパー!」

 

V3は腰にある筒状の装備を取り出し、頭上に掲げるとその先端から探査装置『V3ホッパー』を打ち上げる。

打ち上げられたV3ホッパーは逃走しているテレビバエの姿を捉え、森の奥の小屋に逃げ込む映像をV3は受信した。

 

「まさか、あそこにロングビルさんが……」

 

目的地が判明したところで、上空を飛んでいたシルフィードがV3の側に着地し、背中からキュルケ達が降りてきた。

 

「V3!大丈夫だった!?」

「ああ。君達のおかげで助かった、ありがとう」

 

素直に礼を言うV3に、キュルケは口元を綻ばせ、才人は「ライダーにお礼を言われた」と呟きながらニマニマとややだらしのない笑みを浮かべていた。

 

「奴はこの先の小屋に逃げた。ここからは私に任せて、君達は学院に戻りなさい」

「嫌よ!学院が襲われた以上、貴族として黙っているなんてできないわ!」

「今回ばかりは私もルイズに賛成よ。ここまで来て、引き下がれないわ」

 

V3の警告にルイズはいつもどおり強気で返し、キュルケやタバサも引くつもりは無いようで、ジッとV3を見つめている。

 

「こうなったら聞かねえんだよな……V3、俺達にも手伝わせてくれよ」

「……分かった。だが無理はするなよ」

 

結局V3が折れることになったが、正直なところ彼女達の参戦は心強い。ロングビルを救出したとして、彼女を守りながらデストロンと戦うのは骨が折れる。

 

「ここからその小屋まではかなり距離がある。私がハリケーンで先導するから、付いてきてくれ」

 

そう言ってハリケーンに跨りエンジンを掛けようとするが、後ろに誰かが乗った感覚に振り向くと、キュルケがハリケーンのシートに座っていた。

 

「折角だし、後ろに乗せて頂戴。それにこっちのが速いでしょ?」

「……仕方ない。振り落とされないよう、しっかり掴まっていろ」

 

キュルケがV3に掴まったのを確認すると、V3は今度こそハリケーンのエンジンを掛け、デストロンの潜む小屋に向けて発進する。

その後ろ姿を、才人が羨ましそうな視線を送っていたが、ルイズに引っ張られてシルフィードに乗り、三人と一匹はV3の後を追い始めた。

 

 

「ねえシンジ……今はV3って呼んだ方がいいかしら?」

「いや、どちらでも構わない。この距離なら、ルイズ達には会話は聞こえないだろうからな」

 

そう言ったV3が視線を後方に向けると、かなり離されているがなんとかついてきているシルフィードの姿が目に入る。

 

「じゃあシンジ。一つ聞きたいんだけど、あなたはフーケのことどう考えているの?」

「どういう意味だ?」

「あの時のゴーレム、あれは確実に土くれのフーケが作ったものよ。状況から考えて、デストロンに与しているのは間違いないわ」

 

キュルケの言うとおり、今回の件はデストロンだけではない。土くれのフーケという存在がある。

 

「確かにフーケの事は気になる。だが巷の噂を聞く限り、フーケがデストロンと手を結ぶとは考えられん。勿論、やっていることを肯定することはできないがな」

 

この世界に来てから、当然フーケの噂はV3の耳にも入っていた。しかしその噂を聞く限りでは、彼はフーケを完全な悪人だとは思えない。

それゆえ今回の件は何か裏があるだろうと読んでいた。

 

「先程の怪人、テレビバエは他者の洗脳を得意としている。もしかすると」

「フーケはデストロンに洗脳されている、ってこと?」

「恐らくな」

 

V3の返事を聞いたキュルケは少し考え込み、そして浮かんだ疑問をV3に尋ねた。

 

「ねえ、もし本当にフーケが洗脳されているとしたら、どうするの?」

「勿論助けるさ」

 

迷う様子もなく言ったV3。キュルケ自身も、V3ならばそう言うだろうと予想していた為か、ただ笑みを浮かべていた。

 

 

「そろそろ着くぞ」

 

気付けばV3ホッパーで捉えた森小屋まであと少しという所まで来ていた。

V3はハリケーンを停車させると、小屋の様子を窺いながら才人達が来るのを待った。

少し経って、V3とキュルケから更に離れた位置に着地したシルフィードから降りた才人達が合流し、V3が彼らへと作戦を指示する。

 

「まず私が小屋の中を偵察する。君達はここで待っていなさい」

 

そう言ってV3は素早く、しかし警戒は怠らずに小屋へと近づく。

 

「罠は無いようだな……」

 

慎重にドアを開き、中を確認する。すると小屋の中央辺りに人が倒れているのを発見した。うつ伏せで倒れているため顔はわからないが、背格好からロングビル女史に間違いない。

 

「ロングビルさん!大丈夫ですか!?」

 

駆け寄ったV3がロングビルを抱え起こすが、彼女は気絶しているようで反応を見せない。

 

「呼吸はしている。一先ず、ここから離れなくては……っ!?」

 

彼女を抱えて立ち上がった瞬間、小屋の床が震え始めた。

 

「これは、まさかここを爆破する気か!?」

 

危険を感じたV3は急いで小屋を脱出すると、その直後に小屋が大爆発を起こして吹き飛んだ。まさに間一髪のところであった。

 

「V3っ!?」

 

心配したキュルケ達がV3へと駆け寄ってきた。

 

「大丈夫だ。ロングビルさんも無事だ」

「よかった……しかしデストロン、恐ろしいことをするわね」

 

爆発した小屋の跡を見れば、辺りに残骸が散らばり、もはや見る影もない。

 

「だけど、盗まれた秘宝は何処に……?」

「フラーイッ!やはり生きていたか、ライダーV3ッ!」

 

突如聞こえてきた声に、全員が振り向くと、そこにはテレビバエが戦闘員を引き連れて現れていた。

 

「テレビバエ!ロングビルさんは返してもらった、あとは貴様を倒すだけだ!」

「ほざくなライダーV3!貴様はここで、俺が引導を渡してくれる。やれぇ!」

 

テレビバエの掛け声で戦闘員がV3達へと襲いかかる。

 

「望むところだ!皆、ロングビルさんを頼む」

「ああ、任せてくれ!」

「V3、あんな奴らやっちゃって!」

 

コクリと頷き、V3は飛び上がると戦闘員へと接近し、戦闘を開始する。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「キーッ!?」

 

次々と戦闘員を倒していくV3。やはり戦闘員ではV3の相手にはならず、しびれを切らしたテレビバエがV3へと襲いかかる。

 

「フラーイッ!俺が相手だ、ライダーV3っ!」

「来い、テレビバエ!トゥッ!」

 

テレビバエと戦うV3は強力な打撃で応戦する。テレビバエもその剛腕で反撃してくる。

 

「頑張れ!V3っ!」

「そんなハエの怪人なんてやっつけちゃいなさい!」

「煩わしいガキ共だ。戦闘員、アイツらを黙らせろ!」

 

テレビバエの指示により戦闘員達がキュルケ達に向かう。V3と彼女達の間にはテレビバエが立ちはだかり、V3とキュルケ達を分断している。

 

「大丈夫よ、V3!」

「……問題ない」

 

然し彼女達も二度のデストロン襲撃を経験しており、対応は素早かった。

キュルケとタバサが魔法を放ち、戦闘員を寄せ付けない。

 

「戦闘員くらいなら、俺だって!」

 

才人も負けじと背負った長剣を抜き、向かってくる戦闘員を切り払う。

 

「ルイズ!今のうちにロングビルさんを安全なところへ!」

「使い魔が主人に命令するなんて……後で覚えてなさいよ!」

「忘れてなかったら覚えてるよ!」

 

いつものようにキツイ口調ではあるが、ルイズは才人の言ったことに従い、ロングビルを連れてこの場所から離れる。

素直に退いたルイズにキュルケは意外に思いながらも、ルイズも成長したってことね、と思いながら戦闘員へと火球をぶつけていた。

 

 

「ここまでくれば……ミス・ロングビル、大丈夫ですか?」

 

暫く離れたところで、ルイズは未だ気絶しているロングビルへと声をかける。

 

「う、ううん……ここは?」

「気が付かれましたか!」

「ミス・ヴァリエール……?私は、一体……」

「貴女はデストロンに拐われたんです。ですがもう大丈夫です、今V3が戦っています」

「V3……うぅっ!?」

 

しかしどうしたことか、急にロングビルが頭痛でも堪えるかのように頭を抑えてうずくまった。

 

「ミス・ロングビル!?大丈夫ですか!?」

「う、うう……V、3……!」

 

ロングビルを心配するルイズだが、あまりにも彼女の様子がおかしく、肩を掴んでいた手を離して後ずさる。

 

「ミ、ミス・ロングビル……?」

「うぅ……V3っ!」

 

いつの間にかロングビルの手には一振りの杖が握られており、ルイズが気付いた時には、彼女は既に詠唱を終えていた。

 

「きゃあああっ!?」

 

直後、ルイズの目の前に巨大な影が現れ、彼女の体は遥か上空へと持ち上げられた。

 

 

「トゥッ!」

「グウッ!?」

「止めだ!」

 

ロングビルも救出し、戦闘員も軒並み倒し、あとはテレビバエを倒すのみになった。

そしてV3がテレビバエに止めを刺そうとするが、テレビバエはそれを制すると、V3へ向けて言い放った。

 

「待てライダーV3!あれを見ろ」

「何っ?!」

 

そういったテレビバエが指した方向を見たその時、大きな地響きとともに巨大なゴーレムが現れた。

 

「あれは、学院を襲撃したゴーレム!?」

「ということは、フーケが近くに?!」

 

V3達の間に緊張が走る。流石にあのゴーレムの攻撃を掻い潜りながら戦うのは容易ではない。

 

「クックックッ。あのゴーレムの肩を見ろ!」

「何だと?あ、あれはっ!?」

 

見上げた視線の先で、ゴーレムの肩にロングビルが乗っているのが目に入った。

 

「ロングビルさん!?何故ゴーレムに?」

「あの女は俺の催眠光線により、デストロンの手先となったのだ」

「何だと!?ならば貴様を倒し、催眠を解く!」

「待ってV3!ルイズがあのゴーレムに捕まっているわ!?」

 

再びテレビバエへ向かおうとしたV3にキュルケが叫ぶ。反射的にゴーレムの手を見れば、確かにルイズの姿があった。

 

「あの小娘は人質だ。ライダーV3、貴様が妙なことをしたら、あのガキを握り潰す。そしてあの女も自殺する」

「ブ、V3……わたしに構わないで、そいつを――うああっ!?」

 

ルイズの言葉を遮るように、ゴーレムが彼女を握る手に力を込める。

 

「ルイズっ!?卑怯だぞ!」

 

テレビバエの卑劣なやり方に、V3だけでなくキュルケやタバサ、才人も憤慨する。しかしそんなのはどこ吹く風と言わんばかりにテレビバエは笑った。

 

「フラーイ。何とでも言え。もう一ついい情報を教えてやる。貴様らが助けに来たあの女、あいつの正体は『土くれのフーケ』だ!」

「な、何だと!?」

 

衝撃の事実にV3達は動揺し、テレビバエは勝ち誇ったかのようにV3へと言い放った。

 

「さあどうするライダーV3?あの女はお前を騙していた極悪人だ。あの女とガキを殺して俺を倒すか?それともあの女とガキを助けるためにお前が死ぬか?」

「クッ……」

 

二択を迫られたV3は、仮面の奥で強く歯噛みし、その手が震えるほど強く拳を握りしめた。

 

「……好きにしろ!」

 

V3の決断は、彼女達のためにその身を差し出すことだった。それを聞いたルイズはV3へ向けて叫ぶ。

 

「や、やめてV3!あいつはフーケなのよ!?それに、わたしだって覚悟はできている。だからそいつをっ!」

「やかましいガキだ。やれ!」

 

テレビバエの指示により、ロングビル―フーケが操るゴーレムが握る力を強め、再びルイズの悲鳴が周囲に響く。

 

「やめろ!俺のことは好きにしていい。だからあの娘に危害を加えるな!」

「フラーイ!いいだろう。なら望み通り嬲り殺してくれる!」

 

その言葉通り、テレビバエはV3を打撃で嬲るように追い詰めていく。反撃も防御もできず、V3はただテレビバエの攻撃を受け続けた。

 

「ガアッ!?」

「終わりだ、ライダーV3!」

 

そしていよいよテレビバエがV3に止めを刺そうとした。その時だった。

 

「V3!あのゴーレムの腕を破壊してくれ!」

「才人君?分かった、ハリケーン!」

 

才人のそう叫ぶ声がV3へと届き、V3はそれに答えると待機させていたハリケーンを呼び、それに飛び乗りゴーレムの体を駆け上った。

 

「ハリケーンダッシュッ!」

 

そしてその勢いでルイズが捕まっているゴーレムの腕にぶつかり、それを砕いてルイズを開放する。

しかし当然、重力に従いルイズの体は地面へと向けて落下していった。

 

「キャアアアっ!?」

 

このままでは地面に激突してしまう。ハリケーンダッシュの反動で距離ができてしまっているため、V3が彼女をキャッチするのも難しい。

しかし、ヒーローはV3だけではない!

 

「いけっ!ロープアームっ!」

 

才人の叫びと共に、ルイズの体にロープが巻き付き、地面に激突するはずの彼女を才人の元へと引き寄せた。

すかさずタバサが『レビテーション』を唱え勢いを殺し、安全に地面へと下ろす。

しかし握り締められたダメージから倒れそうになるが、それをキュルケが支えた。

 

「大丈夫、ルイズ?」

「……アンタの手を借りるのは癪だけど、今は礼を言うわ。ありがとう」

「そんな口がきけるなら大丈夫ね」

 

普段は犬猿の仲とも言えるような二人だが、今このときはそのような雰囲気はなく、互いに友人に接するような空気であった。

キュルケに肩を借りながら、ルイズは才人の方へと視線を向ける。

 

「あんた、その腕の……」

「ああ、これか?賭けだったけど、何とかなってよかったよ」

 

 

少し前。

 

「V3!くそっ!何か手はないのか!?」

「ルイズさえ助け出せれば……ねえタバサ、あなたのシルフィードで」

「無理。あのサイズ差ではこっちの攻撃は通らない。それに、あの怪人がそれを見過ごすとも思えない」

 

いつもの無表情でそう言ったタバサだが、杖を握るその手に力が入っているのはキュルケは当然、付き合いの短いサイトにも伝わっていた。

どうにかしないと。そう思考を巡らせていた才人の視界が、ある箱を見つけた。

 

「あ、あれは?」

 

才人はその箱に近寄ると、蓋を開けて箱の中身を取り出す。

 

「こ、これは!?」

「何よそれ?」

「……捕縛の義手」

「これが?」

 

才人と同じくそれを目にしたキュルケが、タバサの言葉に眉を顰めた。

学院の秘宝らしいが、見た目はまるで義手とは言えないようなもので、彼女が訝しむのも無理はない。

しかしこれの正体を知っている才人は、興奮を抑えながら二人に言った。

 

「用途としては合っているけど、これの名前は『ロープアーム』。これがあれば、この状況をなんとかできるかもしれない」

「本当!?」

「ああ。だが問題は、俺がこれを使えるか、だ」

 

ある事情により、才人は捕縛の義手―ロープアームに触れたときにその使い方を知ったが、彼の知る限り、これを使うにはあるものが必要であった。

 

(だけど、迷ってる時間はない。頼む!)

 

そう心で祈りながら、才人はロープアームに自身の右手を差し込んだ。

その瞬間!ロープアームの差込口が才人の右腕にフィットし、一体となった感覚が才人の体に走った。

 

「これは……いける、いけるぞ!」

 

ロープアームが使えることを確信した才人は、V3に向かって叫ぶ。

 

「V3!あのゴーレムの腕を破壊してくれ!」

 

 

「と、言うわけだ」

「色々と言いたいことはあるけど、とりあえず後回しにしておくわ。V3!思う存分やっちゃって!」

「分かった!トゥッ!」

 

才人に向かって頷いたV3は跳び上がると、テレビバエへと肉薄し強烈な打撃を食らわせる。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「グオアッ!?」

 

怒りを込めた拳を連続で振るい、テレビバエを追い詰める。

テレビバエも反撃するが、V3はそれを容易く捌き、逆にカウンターを浴びせていく。

 

「ク、クソォ……フーケ!ライダーV3を踏み潰せ!」

 

追い詰められたテレビバエは未だ洗脳状態のフーケへと指示を飛ばす。それを受けたフーケはゴーレムの足でV3を踏み潰そうとする。

 

「甘い!トゥッ!」

 

しかし緩慢な動きのゴーレムがV3を捉えられる筈もなく、難なく躱されてしまう。

V3はゴーレムの攻撃を掻い潜り、再びテレビバエに接近すると一気に組み付いて投げる。

 

「トーゥッ!」

「フラーイッ!」

 

投げ飛ばされたテレビバエは地面に衝突し、フラフラしながら立ち上がるが、その隙をV3は狙っていた。

 

「今だ!トゥッ!」

 

V3は跳び上がると立ち上がったテレビバエへと飛び蹴りを食らわし、その反動で体を反転させ、キックを再び打ち込む。

 

「V3反転キーック!」

 

必殺のキックを受けたテレビバエは大きく吹っ飛び、地面に衝突すると同時に大爆発を起こした。

その光景にキュルケ達は跳ねて喜んでいるが、V3はまだ気を抜いてはいなかった。

テレビバエを倒したということはフーケ……ロングビルの洗脳が解けたということでもある。

その証拠に、テレビバエが彼女に作らせた巨大ゴーレムが崩れ始めた。

 

「いかん!ハリケーン!」

 

V3はハリケーンに飛び乗ると一気に加速して飛び上がり、空中でロングビルをキャッチして離れたところに着地する。

死闘の末、テレビバエを倒したV3。しかし助け出したロングビルの正体は怪盗『土くれのフーケ』。普段の彼女を知る朝火シンジは、何をするつもりなのか。

 

つづく




テレビバエは倒したものの、自身の正体が知られてしまったことにより、自暴自棄になるフーケ。しかし彼女をただの悪人に思えないV3は、彼女を説得するためある決断をする。
そして明かされる、ロープアームの出自とは!?

次回、「フーケの本心」ご期待ください。

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