秋蘭の闇
ーー城内、書物庫ーー
side:秋蘭
「そういえば前から聞きたい事があったけど、あんた達姉妹と一刀様はどんな関係なの?」
黄巾党が滅び、前ほど政務に追われなくなり始めた頃
城の書物庫に私用で本を探しに来ていた際に政務で扱っていたであろう資料の整理をしているであろう桂花がいた
邪魔しては悪いと思いしばらく吟味したあと、いくつかの本を手に取り彼女の横を横切るとふと思い出したかのように桂花がさきほどの質問をしてきた
「むぅ、どんなと言われても桂花と同じよう、主従の関係だと思うのだが?」
私は当たり前のようにそう答えたが、その答えに桂花は満足してはないようで、さっきとは違いより具体的な質問をしてきた
「違うわよ!私が聞きたいのはそういう意味じゃなくて、本当にただの主従関係ならどうして敬ったりしてないのよ。はっきり言って一刀様とあんた達姉妹は主従関係というよりもっと深い盟友のような感じがするからこそ疑問に思っているのよ」
「どうしてそう思う?」
「簡単な事よ。普段のあなたや春蘭の様子を一刀様の隣でずっと見ていたら馬鹿でも気づくわよ」
そう言う桂花の目は真剣そのものでただじっと私を見ていた
確かに桂花の言うとおりだな
私達の関係は出会った頃から何も変わってないし、むしろ深まるばかりだ
だからこそ普通こんな関係は対等な立場でないと気が付くのだろう
「まぁお前の言うとおり一刀と私達はいまさら主従なんて関係は無理だろうむしろ昔は逆の立場だったからな。お前の言うとおり、一刀とは同じ人を尊敬し、今はその人の意志を受け継ぐ盟友といってもいいかもな」
それを聞いた桂花は一瞬、寂しそうな顔をしたが、同時になんとなくだが分かっていたようだ
だが、その表情を殺し、さらに私に問いかけた
「じゃあ理由を教えてもらえない?時々、一刀様が酷く傷付いた表情で出掛けたりするから」
桂花の危惧している事は恐らく一刀の性格だ
一刀は普段こそはあんな感じだが負の感情なものは自分の中に閉じ込め、そのくせお節介過ぎるほど他人の苦しみまで背負い込んでしまう類の人間だ
いくら桂花が一刀を慕っているとはいえ、それは一個人の話で、この軍全体の話ではない
この軍はそういった一刀の器質に引かれた者も少なくはない
もし何らかの事で一刀が討たれてしまったり、それでなくとも私たちの誰かを亡くしてしまったら一刀は無気力になるかもしれない
そうなったらこの軍は崩壊するそう桂花は確信している
「一刀には聞いたのか?」
「もちろん聞いたわよ。でも「お前はそんな事気にしなくていいよ」って感じではぐらかされて結局、教えてもらえなかったからもっとも近くにいる秋蘭に聞いているの」
やはり一刀はそういう奴だな
私は桂花が腰掛けている机に対面になるように座った
「桂花、お前には悪いがあまりその手の話題はやめてくれないか?」
「ど、どうしてよ!?」
「お前が一刀を慕い、そしてこの軍のことも気にかけてくれて正直、私は嬉しい」
「だったら」
「だがな、私はすでに一刀のものだ。一刀が気にしなくていいと言ったなら話すわけにはいかない」
「それでも私は一刀様の軍師として、いざとなったら支えてあげれるように事情を知っておきたいの!」
桂花は私の否定の言葉に対し、落胆するどころかさらに強く迫ってきた
「……なぜ、お前はそこまで一刀のことを慕う。男は嫌いだったんじゃないのか?」
「それは私のことを初めて認めてくれた人だったから……」
桂花は頷き、照れているのか分からないがこいつの一刀を想う想いの深さは十分に分かってしまった
まったく、桂花はすごいな。まだ一刀と出会って日も浅いというのに私たちがここまで慕うの何年もかかったというのにこいつは
「ふっ」
「な、何がおかしいのよ!?」
「いや、そこまで一刀を慕っているのなら最後までお前がそばに居てやってくれ」
「え、ど、どう言う意味よ」
「では邪魔したな」
「ちょ、ちょっとはぐらかさないで待ちなさいよ。秋蘭!!」
妙な安心感を桂花から感じた私は政務の書類にと疑問に埋もれる桂花の呼び止める声を無視して書物庫を出て行き
「桂花のような奴がいれば」
いつのまにか外は雨が降り始めていて、そのせいか余計にあの時のことを鮮明に思い出してしまった
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その日は雨や風が強く打ち付ける嵐のような日だった。まだ一刀が私達の主では無かった頃のこの城の一室、そこには一目で弱りきっているのが分かる私たちの元主である曹操様が寝台で眠っていた
そしてその周りには私と姉者が看病に付き添っており、今も油断が出来ない状況が続いていた
『華琳様』
『く、こんな時に一刀はどこに行っているのだ』
普段なら一刀はこのような状態になられた時からずっと華琳様のそばについていたが何故かその日に限ってはいなかった
そしてそのまま時だけが過ぎていき、私と姉者は互いに無言の状態を貫いていたが、その沈黙を破ったのは華琳様が目を覚ました弱々しいの声だった
『ぅ……ここは……あ、春蘭に秋蘭』
こんなにも弱り切っているのに華琳様は政務を無理してこなした結果、いつの間にか倒れていて私に発見され、現在の状況に至る
『ここは華琳様の自室です。水でも持ってきましょうか?』
『ええ、お願いするわ。ねぇ秋蘭、一刀は……どこに居るの?』
『か、一刀ですか?正直わかりません今日はどこかに出かけたままで』
だが、そう返事した瞬間に扉が開き
『大丈夫か、華琳』
と一刀の声が背後からしたので、私は振り返って一刀の姿を見て驚いた。体中が濡れていることから今まで外にいたのだろう
しかしこんな嵐に何をしてきたのだろうか
私は少し疑問を持ちつつも、一刀に体を拭くように、促した
『一刀、取り敢えず、体を拭いたらどうだ。そのままでは体に響くぞ?』
『ああ、分かってる。その前に華琳、お前にあいつらからの伝言とこれを』
そういうと、一刀が懐から取り出したのは、銀と真紅で飾られた首飾りだったそしてそれを華琳様の手に乗せ、自らの手を重ねた
『ありがとう。それで一刀。伝言は?』
『ああ『あの時に交わした約束を果たすことができなくて、ごめんなさい』だ』
『そう、ならあの子達は大丈夫だったのね?』
あの子達?いったい誰のこと指しているのだろうか
私はただ事情の分かないまま一刀と華琳様の話をただ聞くことしかできなかった
『華琳、すまない。俺のせいだ。あの時、華琳の言うとおりにしておけば、お前やあいつ等まで巻き込むことは『一刀!!』か、華琳?』
『それから先は言っては駄目よ。またあなたが壊れるのを私は見たくないから』
華琳様は涙を流している一刀をギュッと抱きしめ、華琳様は私の方を向いて
『ごめんなさい秋蘭。少しだけ二人で話をさせて』
そう華琳様に言われたので苦しむ一刀を残し、不本意ながら部屋を出たところにちょうど姉者が水を持って帰ってきた
『秋蘭、どうしたんだ部屋から出て?』
『いや、ただ華琳様が帰ってきた一刀と二人で話したいと仰ったので出ただけだ。入るなよ姉者』
それからだいぶ時間がたったあとに一刀だけが部屋から出て、『華琳は寝ているから後は頼む』と言った一刀の顔は沈んでおり、私達の返事を聞かぬまま、その場を後にした
私達は疑問に思ったがその時は華琳様が心配だったので追いかけることなく再び部屋に入った。その部屋には今も苦しそうに眠る華琳様が居る
『まだ、華琳様は苦しんでおられるな』
『医者の話ではやはり、あの時の傷口から僅かに毒があったらしい。そのせいで体力が落ちてしまってさらにそこから何らかの病を患ってしまったことだそうだ』
『くっあの時、一刀は華琳様と共に行動していた筈だ。だがどうして一刀は華琳様を守ってやれなかったのだ!?』
華琳様がこのような状態になられたのはある日の賊が二つの離れた場所で発生し、私と姉者、華琳様と一刀で討伐した時、私達の方はすぐに鎮圧することができ、そのまま城に戻ったが、華琳様達はそれから二日過ぎた辺りで帰ってきた。そして帰ってきた華琳様達を見たときに絶句した
千は居たはずの兵は数人しか残っておらずその数人も瀕死の重体だった
そのなかで一刀だけはほぼ無傷だったが、華琳様は腹部と右肩に裂傷した後が残っており、すぐに城の医者に見せたが、あれから1ヶ月ほど過ぎた現在も病状は悪化しただけで何一つ良くなってはいない
『一つだけ腑に落ちない事があるが、姉者は気付いているか?』
『何がだ?』
『何故、生き残った兵も一刀も華琳様もあの日の事を誰も話さない。不思議に思わないか?』
『そんな事は知らん……要は一刀が華琳様を守れなかったというだけではないか』
『姉者。華琳様は一刀を責めるなと言われたことを忘れたのか?』
『分かっておる』
姉者はばつの悪そうな顔をして俯き、華琳様が起きる朝までお互いに会話を交わすことはなかった
そして、その数日後に華琳様は亡くなってしまった
もし一刀が隠してあることに姉者の言うとおり、本当に一刀が原因で亡くなってしまったのならいくら今の自分でも
「一刀を殺してしまうかもしれないな」
この恐ろしい感情だけは雨とともに流して無くして欲しいと本心からそう願っていた