「行くぞ、凪!」
「はい、よろしくお願いします!!」
まだ、太陽が昇り始める前の薄暗い時間帯に城の練兵場で一刀様と共に朝の鍛練を行っている最中だ
少し軽く体をほぐした後、ここに来て、もはや最近の日課と成りつつある一刀様直々の模擬戦を始めようとしていた
「では、行きます!」
かけ声と共に私は最速の攻撃を仕掛け、それを受け止めようとした一刀様の懐に素早く入り込み、そのまま腹部に打ち込もうとしたが、相変わらずの体さばきと訓練用の模擬刀で軽くいなされてしまった
「前よりさらに速度を増したようだけど、その後の動きが目で追って直線的過ぎる。凪は一撃必殺を狙ってるようだが、そんな単純な攻撃は自分より強い相手には通用しない。相手に反撃の隙を与えない攻撃をしろ」
「は、はい!」
相手に反撃されないような攻撃か……ならば……
「これならどうです!」
私はさっきより更に接近して突きと蹴りを連続で打ち込みを繰り出したけれど
「手数が増えただけでさっきと一緒だ」
その一刀様は僅かに移動しながら体を反らすだけで避け、指摘までしてくる
「どうした、それだけか凪?」
「く……まだまだぁっ!!」
次々に自分なりに考えて打ち込んで見たが、当たりそうで当たらない
そのじれったさが私を焦らせ、手数を増やして無我夢中で攻撃をする状態がしばらく続き、私は疲れ始めていたころ
「凪、さっきから動きが単調でがむしゃらすぎる。そんなんじゃ絶対に当たらない」
「わ、わかっているのですが、考えてもこれ以上の手は……」
「ならさ、逆に一回、頭であれこれ考えないで流れに任せてみたらどうだ?」
「はぁはぁ、流れにですか?」
「そうだ。できるか?」
「とりあえずやってみます」
考えるなと言われた通りにできるだけ考えないつもりで仕掛けてみたが、やはり当たらず、むしろ返しに蹴りを貰ってしまった
「うぐっ」
「凪、相手の動きを目で追って反応とするんじゃなくてなんとなく感覚で感じるんだ。そしたら普段から鍛えてる凪なら自然と体も付いてくれるさ」
「……わ、分かりました」
目の前にいるのは私の主であり、師でもある一刀様は私の欠点である部分を的確に指導してくれる
きっと以前の私ならこんな事を聞き入れなくてただ単純な強さのみを求め、人の意見など聞き入れなかっただろう
けど今の私は素直にそれを受け入れることができる。あの時、守れなかった二人に顔向け出来るぐらいの本当の強さを手に入れるために……
「私はまだまだ強くならなければいけない」
だらけ始めた自分に気合いを入れ直し、今度こそ考えるのを止め、精神を一度だけ落ち着かせ、それから自然と一刀様の隙がある場所にそのまま流れまかせて打ち込みに行った
まず自身が出せる最高の速度でその場所に蹴り放った
「甘いぞ、凪!」
だが、一刀様は模擬刀を私の脛にあて蹴りの威力を殺さずきれいに受け流す
けれど一刀様が木刀で受け流されることは最初から分かり切っていた
一刀様は攻撃の受け流しが人の何倍も上手い、だから私はその流れにさ変わらず受け入れ、その勢いに任せ更に逆の足で無理をせずに蹴りを仕掛けた
木刀は未だに片方の足にある。これならいける!?
「はは、やるな凪。けどなもう一手、足りないな」
「え!?……がはっ」
一瞬、何が起きたのかよく分かなかった。気が付いたら私は仰向けに倒れ、木刀が首の隣に突き刺さっていた
「今日はここまでかな。立てるか凪?」
「う、はい、ありがとうございます」
一刀様がそう言うと私に手を差し伸べて笑っていた。そして頭が段々と冷静になっていきさっきの状況を理解した
あの時、確実に決まったと思ったが、そこから一刀様は体をさらに回転させ腹部を狙った蹴りを己の体で回転を利用し、受け流してそのまま私の足首を掴み、地面に叩きつけた
その結果、不意に来た衝撃に体の中の空気がすべて出ていったような感覚に陥り、無様な声を出してしまった
「さ、流石です。一刀様」
「まぁ、そう落ち込む必要は全くないと思うぞ。さっきの攻撃は正直焦ったからな。凪は前より確実に成長してるよ」
そう言うと一刀様は私の頭をいつものように撫で始めた。日もまだそれほど高く昇っていなく、未だに訓練場には私達以外には誰も居ないけど妙に恥ずかしい
「そうでしょうか、一刀様や春蘭様を見てるととてもそうは思えませんが……」
一ヶ月くらい前の出来事だ
一刀様と共にこの鍛錬をしているとき、たまたま早起きした春蘭様がその時は珍しく加わり、間近でその時の二人の模擬戦を観戦していたが、自分よりも遥かな高みを感じてしまい、自分の未熟さを思い知らされてしまった
「そう言うけどな、昔の俺なんて全然たいしたことなかったぞ」
「え、どういうことですか?」
「そうだな。わかりやすく言えば春蘭達と初めて出会った五年くらい前の頃なんてその辺の一般兵より弱かったからな」
「う、嘘ですよね?」
私はそれを聞いてさすがにあり得ないと思った、何故なら、たかが五年程度で一般兵より弱いと豪語する人がそんな短期間で武の極みと言っても過言ではない春蘭様の高さに到達するはずがない
そんなの信じませんという思いの冷ややかな視線で一刀様に訴えると
「ほ、本当だって、修行をし始めた頃の三年間は武将レベ……ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……」
ふと何かを思い出した一刀様はみるみるうちに顔が真っ青になり、物凄い勢いで誰かに謝り始めた。どうやら知らず知らずの内に何かの傷を抉ってしまったようだ
「か、一刀様、しっかりして下さい!?」
突然の挙動不審に陥りひたすら謝罪し続ける一刀様の肩を持ち揺らし続ける状況がしばらく続き、ようやくその本人は我に返ってくれた
「はっ!……だ、大丈夫だよな。もうあの地獄は越えたんだから……ははっ」
苦笑いを浮かべたまま、まるで忘れるかのようにしばらく体を動かし、半刻を過ぎた頃、一刀様は「そろそろ朝議があるからといい」訓練場を去っていった
あの一刀様が恐怖するほどの人物って一体、どんな化物なんだ?
この疑問はしばらく私の中にとどまり続けていた
ーーーー
一刀様との鍛錬が終わり私は任された街の警邏の仕事を始めていた
最近の街の状況は黄巾の残党もすっかり減り、警邏で扱う件もただの武装兵にも満たない盗賊の処理やここに初めて訪れた人々の道案内ぐらいのもので、前のような荒事は殆どなくなってしまった
「本当、平和になったな」
ただここ最近は領内で賊の残党や危惧すべき噂も流れてはいないのに一刀様はどうして兵の鍛錬や郡の拡大等をますます強化しているだろうか
「あの~、すいません。ちょっといいでしょうか?」
「はい、どうしました?」
「いえ、ちょっとおしえて欲しい場所があるんですが?」
などと考え事をしている最中にいつものように道に困っている旅人らしき人に尋ねられた
駄目だ駄目だ。今は仕事中、余計なこと考えないで集中しなければ、自分を信用して街の警邏の隊長にしてくれた一刀様に失礼だ
「それでどこでしょうか?」
「えっと、お城……」
「の前に、お腹空いたから旨い料理屋を教えてくれよ」
道案内を頼んできた藍色の髪をした女の人の言葉を遮り、青緑色の髪をした女の人がその声を遮る大きさで前に出てきてた
「ちょっと、文ちゃん、違うでしょう!?」
「いいんじゃんか。あんな城、いつでも行けるんだし、それより斗詩もほら長旅でお腹空いてるだろう?」
「はぁ~もう、しょうがないなぁ。すみませんさっきの変更で取り敢えず美味しい料理のお店を紹介を」
「料理屋が沢山ある場所!」
「もう、また……」
またも文ちゃんと呼ばれる人が言葉を遮り斗詩と呼ばれる人は諦めたような、疲れたような顔をして溜め息をつき始めた
「分かりました、料理街ですね。案内します」
しばらく歩くとその名に恥じることのない屋台が立ち並ぶ通りにその二人を案内し、所狭しと並んだ周りの屋台からは食欲をそそる匂いと昼時もあってかなり人が行き渡り、賑わっていた
「それじゃ、自分はこの辺で、また困った事があれば声を掛けて下さい」
案内が済んだ私は巡回が終わっていない警邏の仕事に戻ろうとしたが
「なんだよ姉ちゃんも一緒に食べていきなよ。どうせ昼飯まだ食ってないんだろ?道案内の礼にご飯奢るからさぁ」
「まぁ確かに、まだ食べていませんが、自分には我が主に警邏という仕事を任されているのであまりゆっくりとしている時間はないので」
「なんだよ、あたいの奢りが食べられないていうつもりかい?」
「ちょっと、文ちゃん。その言い方はよくないよ」
と、断ろうとしても、目の前の人は頑に引かず、隣の人が止めようとしてもまったく聞かない
「はぁ~分かりました。そこまで言うのなら……」
恐らく、このまま断っても埒があかない部類の人な感じがし、それならいっそ誘いに乗ったほうが効率的だおもって仕方なく折れることにした
「なら決まり、どっかオススメのガッツリ食える店を教えてくれよ!」
「ガッツリ食える店ですか」
目の前の人にあう店でなおかつ大量に料理を出せる店となると
と、自分の知り限りでどこか心当たりのある店を考えていると
「季衣のばかーーーー!!」
「流琉に言われたくないよ!!」
近くの店から仲間である季衣の叫び声がし、私は反射的に飛び出してその店の中に入った
「季衣、どうした!?」
「あ、凪ちゃん、何でもないよぉ!ただ流琉が連絡をくれなかっただけで」
「連絡先も書いてないのにどう連絡しろっていうのよぉっ!?」
「そんなの手紙をくれた人に聞けばいいじゃんか!!」
「そんなこと思い付くわけないでしょう!?」
そのふたりは周りの人に構わず、どんどん口喧嘩が激しくなり遂に店の中で暴れ始め、さすがにまずいと思った私が二人を止めようとした瞬間、後ろにいた二人組が動いた
「ほーら、二人とも、ご飯の時は行儀よくしないと……なぁ、斗詩?」
「うん、それに店の中で暴れちゃ迷惑ですから駄目ですよ?」
!あの二人は何者だ。いくら暴れて隙だらけの状態でもあの季衣を簡単に止めるなんて
「あなた達は一体、何者なんですか?」
「え、えっと違います!別に私達はやり合うために来たんじゃ「なぁんだ?喧嘩ならいつでも買うぜぇ?」文ちゃん!!いい加減にして!!」
私が只者ではないしり、臨戦態勢とさっきをぶつけたら急に焦りだし、連れの人を黙らせると身の潔白を証明するためか自己紹介を始めた
「あの私は顔良と申します。実はこの地の北郷殿に用があって来ました」
「一刀様に?」
そして、この二人の訪問で平和に思えた今の世が一気に乱世の幕開けとなってしまった