「なぁ、一刀。最近賊が多すぎやしないか?」
ある日の昼下がり、忙しなく一刀と秋蘭が政務をこなしている間、一通り軍の訓練を終え、暇をもてあました春蘭の何気ない一言で二人の作業がとまってしまった。
「おい姉者、軍議には出席していただろ。報告を聞いてなかったのか?」
「それにしょっちゅう賊討伐に先導して行ってたのに。はぁ、もういいよ。流石は春蘭だな」
ここしばらくはなにかと賊が発生し、討伐しに行っては事後処理の政務と繰り返しの作業が日常化しつつあり、実際、二人が政務に追われているのはこれが原因であった。
「そ、そうか。まぁ私に任せておけば、賊の千や二千など一捻りだ。えへへ」
しかし、呆れるほど単純で戦闘民族なのが春蘭という人間。
おそらく賊討伐の回数が増えていたのを気にせず、ただ戦闘ができるという楽しみだけ動いていたに違いないと二人はあきれ返ってしまっていた。
「そういえば秋欄。今回は結構な遠征なんだろ、その時に使う兵糧の資料はどこにあるんだ?」
「そんなものは担当者に任せておけば良いのではないか?」
適当に春蘭をあしらいつつ、目の前の仕事をこなす一刀は行軍の要である兵糧の資料がないことに疑問を抱いき、今まで担当していた秋蘭にたずねてが、さすがに忙しくもあり現状、人手不足もあってその辺は担当者に任せているようだ。
「そうかもしれないなけどさ、俺がさらに管理してより効率的になるかもしれないだろ?」
「むぅ、確かにお前の言うとおりだが、それ以上に優先すべきことが多すぎてな。さすがにそこまでの余裕はないぞ」
「分かってるけどさ、華琳ならそんな妥協は絶対にしない筈だろ?」
「!・・・ふふっ華琳様の誇りのためか。分かった、なら直ぐに持ってこよう」
「ああ、ありがとな秋蘭」
一刀が目指す覇道。先代の華琳なら例えどんなに手が回らない忙しい状況だろうと、自らの覇道に対して必要なことには一切の妥協はしなかった。
それをしっかりと受け継ぎ、目指す一刀の姿勢に秋蘭は嬉しくなり、今までの作業を一旦止め、資料を取りに部屋を出て行った。
(なんか秋欄は嬉しそうに出て行ったな)
「えへへ~一刀に褒められたぁ~」
(そして、なんで姉妹なのにここまで違うのかなぁ)
どうでもいいことを思いつつも、自分まで作業を中断しては意味がないので一刀は黙々と再開し、春蘭は一人惚けていた。
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(最近の一刀はだんだん様になってきたな。時折見せる覇気や状勢を見極める能力を含めて五年前に初めて出逢った時の非力さなど微塵も感じないな。あの頃の一刀は覇気もましてやそこらの賊にすら殺されてしまうような奴だったが、それから三年足らずで私や姉者と対等に打ち合えるようになった頃も私は一刀がこんな風に成るとは思わなかったが華琳様は最初から確信していたのかも知れないな)
すっかり先代の雰囲気に近づき、主君としての手腕を発揮し始めた一刀の姿を見て、秋蘭はまるで弟の成長を嬉しく思う姉のような感情を抱いてた。
「おい、そこのお前」
そんなこと思いつつ、ようやく兵糧庫の近くに着いたが準備中のさまざまな人材が忙しなく動いており、人が多くて誰か判別がつかない。
「か、夏候淵将軍!こんなところまで何用でしょうか?」
「別にそんなに畏まらなくても良いさ。それより北郷が準備中の兵糧資料を確認したいと言ったもんでな。その担当者は誰だ?」
「はい、あの小屋の前にいる新人の役人です」
秋蘭が尋ねた兵士の指した方向を見ると、兵糧庫の前で資料を握り締め、怒鳴りながら他の兵士に指示を出している小柄な女がいた。
「もっときびきび動きなさいよ!!まったくこれだから男は使えないんだから。でもこの陳留の街を治める北郷様はきっと聡明で素敵な御仁でしょうね。フフフ、何としても今回の遠征は成功させて北郷様に認めさせてもらうんだから」
(むぅ、さっきから怒鳴り散らしてるかと思えば今度は顔がニヤけてる。あいつで本当に大丈夫なのか?)
管理している役人にしては少々感情的に指示しているようなので、もしかしたら間違いかもしれないと思った秋蘭はその他、数人に確認してみたが、どうやら間違いないらしい。
「おい、お前が兵糧関係の担当者か?」
(ああ、北郷様ぁ~そんなに~・・・て、誰よ。大事な策を練ってる最中に)
すでにほぼ仕事を終えた役人はぶつぶつと独り言を言いながら自分の世界に入っているようで少しの間、秋蘭を無視してしまった。
(夏候淵将軍!!?ど、どしうて私なんかに声を・・・はっ、まさか北郷様が私のことを見抜いたのかしら、えぇきっとそうよ、そうにちがいないわ)
「おい、聞いているのか?兵糧の資料は何処にある?」
しかし、役人にとっては予想を遥かに超えた大物が尋ねてきたので言葉とっさに出てこず、固まって返事を返さない役人に対し、時間もないので珍しくイラついていた。
「え、あ、す、すみません。兵糧の資料ですね。此方になります」
(いけない、いけないもうそ・・・じゃなくて策を練りすぎて過ぎて無視しかけてたわ)
「・・・ふむ。お前、本当にこれを北郷に見せてもいいのか?」
資料を受け取った秋蘭は軽く資料に目を通した後、有無を言わせない雰囲気で脅すように役人に尋ねた。
「はい、この軍ならそれで十分です」
「そうか、なら期待して待つがいい。おそらく直に呼ばれるだろう」
(あれは多分、私の意図に気付いたわね。予定より少し早いけど策は順調に進んでる。後はこのまま北郷様に会ってそれから私の有能振りを見せれば。私を馬鹿にした挙げ句、自分の非をを認めようとしないあの南皮でふんぞり返ってる金髪女の鼻をへし折ってやるんですから。フッフッフッ見てなさいよ。絶対に私を敵に回したのを後悔させてやるんだから!!)