ーー一刀の私室ーー
Side:一刀
(ふぅ、最近は賊が多すぎだ……おかげで政務が滞ってるな。出陣や遠征が多いせいで、只でさえ秋蘭には武官、文官を両方仕事をやらせてるからな……こう、なんかピリピリとした空気が痛い)
「一刀、言われた資料を持ってきたぞ」
「ああ、ありがとな。そこの机に置いてくれないか。まだこの件が終わってないからさ」
一向に減らない政務を処理している最中、俺の要望通りに秋蘭が兵糧の資料を持ってきてくれた
「うむ、では私も仕事を再開するとするか」
「あ、秋蘭。お前、最近休んでないだろ?今日の分は俺がやっとくから、たまにはゆっくりと羽を伸ばしたらどうだ」
そう言ってまた政務を再開しようとする秋蘭を俺が静止した
「いや、主であるお前にそんな苦労をかけるわけにはいかないよ。私のことなど気にしなくていい……」
「秋蘭……これは命令だ」
(あんまり押さえつけるような真似はしたくないけど、こうでもしないとこういうところは春蘭と同じで頑固だからな)
「ぅ……分かった……今日はゆっくり休ませてもらう」
俺が圧力を掛けると流石に断りづらいのか納得いかない顔をして、力なくドアを開けそのまま部屋を後にした
(不服そうに出ていったなぁ。まったく……)
「これでいいんだろ?春蘭……」
(俺になんか頼まず、素直に自分の口から言えばいいものを)
「すまんな、一刀。最初は私も休めと言ったんだが、なんかすぐにはぐらかされてしまってな……」
俺が呼びかけると春蘭は素直に窓から出てきて、珍しく申し訳なそうに言った
そんな春蘭を見た俺は少し、意地悪したくなり
「だけど俺は出来れば、命令なんて言葉を使いたくないんだけどなぁ?」
「うぅ~最近の一刀はなんか意地悪だ……」
軽く涙目になってすねるように声を絞り出した春蘭は正直、可愛かった
「……ヒドい言いぐさだな。それより秋蘭を追いかけなくていいのか?一緒に町を回るんだろう?」
「おお、そうだった、じゃあな一刀、土産ぐらいは買ってきてやるぞ」
ドガン!!ドドドドーーーーーー
それを聞くやいなや秋蘭を見失うとでも思ったのだろう
思いっきりドアを蹴っ飛ばし、先ほどの秋蘭とは違い、慌ただしく部屋を飛び出していった
(ドアがぁーー!?……春蘭の給金から引いておくか……はぁ~)
ーー秋蘭の私室ーー
Side:秋蘭
私は一刀から部屋を追い出され、休むように言われたが、ここ最近忙しかったせいか、そんな気にはなれずに柄にもなく落ち込んでいた
(……何もあんなに言うことはないじゃないか。私の事を心配してくれるのは嬉しいが、一刀は優しすぎるからな。いつかのその優しさで一刀自身が……ん?誰か走ってくるあれは……姉者か?)
「ハァハァ……よう……秋蘭、奇遇だな……ハァハァ……」
(姉者……奇遇というのは額に汗を流しながら、息切れを起こして、明らかに当人を見つけた!という目をしてる人間が使う言葉ではないんだよ……まぁ、姉者らしくて可愛くはあるが//)
「で、何の用だ。姉者?」
「い、いやぁなに、これから町に出ようと思ってな。秋蘭も一緒にどうだ?」
さすがに我が軍、最強将軍なだけあり、さっきまで疲れて乱れた息はもう治まっていた。そして続く姉者の説明で私は気付いた
(!……ああ、なる程な、先ほどの一刀の命令は姉者の差し金だったか……まったく、こんな事のために一刀を使うのは許せないな……なら少し虐めてみるか)
「せっかくだが、つい先程一刀の命令でゆっくり休めて言われたのでな。今日は大人しく休もうと思うんだ。すまないな姉者。」
「……え?……そ、それは大事だな……でもだな秋蘭、町を見て回るのも、悪くないと思うぞ。」
案の定、姉者は困った顔をして何とか私と町へ行こう誘ってくる……が私はニヤけそうになる顔を堪えて簡単に許さなかった。
「だがな姉者、私は姉者と違って文官もしてるんだ。しかも最近、寝不足だからな。今日はあまり動きたくないのだが……」
「ぁぁ…ぅぅ……し、しかし~」
普段の勇ましい姿はどこにいったのか目尻に涙を滲ませ、今にも鳴きそうな顔をしている。
(ああ、姉者の泣き顔は可愛いなぁ//)
「ふ、まぁそこまで姉者が言うのであれば行こうではないか」
それを聞いた姉者は一変して笑顔になり、私の手を掴むと脱兎の如く城を飛び出した
ーーー陳留、市街ーーー
「……秋蘭、迷った」
ふと気付いた姉者がとんでもない事を言い始めた
「はぁ~目的地があって走ってたんじゃないのか?」
私はてっきり目的地が在るのかと思い、無理やり手を引っ張る姉者に着いていったが、まさか迷うとは考えていなかった
「それは最近できた新しい飲茶の店に行こうと……「すまぬが、最近ここらで新しくできた飲茶の店を知らぬか?」って無視するなぁ!?」
一度迷った者の話を聞くほど私は優しくないので、近くにいた女性に尋ねてみた
「はい、えっとあちらの角を曲がって真っ直ぐ行ったところに在りますよ」
「そうか、感謝する。場所が分かったぞ姉者……?」
「どうせ……私……なんて……」
そこには人目を気にせず何かぶつぶつ呟きながら拗ねている情けない姿の姉者の背中だけが見えていた
「ほらっ姉者、場所も分かったことだし行くぞ」
「…………(コクリ)」
(まったくこれでは気苦労が増えてる気がするな……)
そんな姉者の手を引き、当初の目的地だった場所に向かいながら呆れていたが、先ほどの姉者の子犬みたいな目と仕草はしっかりと焼き付けている
ーーー一刻後ーーー
お茶をすませた後、私達は城に戻り、自分達の部屋に帰る途中に姉者が何かを思い出したかのように……
「そういえば、最初から行く気があるなら何故、最初に断ろうとしたのだ?」
「それはな姉者、今日私と出掛けるために、私を休ませるように一刀に頼んだろう?」
「な、ななな何故わかったのだ!?」
「やはりか……姉者、一刀に何でもかんでも頼むのは良くないぞ?」
一刀の最近の状況ならいつも近くにいる姉者はよく分かっているはずなのにここ数週間は一刀に頼りっきりのような気がしていた
「そんなことを言われてもだな……つい……その……最近の一刀は頼りがいがあると言うか///……」
(なる程、これは重症というわけか。まったく多少素直になったと言っても甘え過ぎじゃないのか?……姉者は不器用故に一刀を華琳様の……)
「それでもな、姉者。一刀は私以上に仕事をこなしているんだ。そこは分かって言ってるか?」
「一刀は無理してるのか?そうは見えなかったのだが……」
私は姉者が一刀の余裕の無さを理解していると思ったがどうやら違ったらしい。
「いや、一刀は今も相当無理をしてる……恐らく華琳様と自分を重ねて焦ってるのかもしれんな」
「……………」
「……………」
何とも言えない沈んだ空気の中、私達は黙りきってしまった。
(……一刀に甘え過ぎなのは姉者だけではなく私なのか?……だとしたらこれ以上、一刀に……)
「キャァァァァァァアァァァアァ………」
「「!!?」」
自分の甘さを振り返っている最中、突然、城のほうから女性の悲鳴が木霊した
「な、なんだ、さっきの悲鳴は!?」
「一刀の部屋の方から聞こえてこなかったか?」
「!!」
一刀の部屋からと姉者が聞いた瞬間、見たこともない速さで走り出していった
「まて姉者!く……」
(とにかく一刀の部屋に行かんとわからんがあの悲鳴……一刀……)
どう考えてもただ事ではない悲鳴に私の心は焦りと不安で満たされていた