指揮官様は愛する御子息の為にお世継ぎ探しに難儀しています・改   作:evengel

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第一話

駆け足で移動する事数分。神威と二人で足を踏み入れた瞬間、食堂中の視線が一斉に俺達親子に向けられる。

 

「…あっ!やっと来た!」

 

「おはよー指揮官!」

 

「指揮官〜!遅いぞ〜!」

 

「指揮官様〜♡」

 

「はいはい、皆お待たせ!ちょっと静かに!」

 

既に配膳と着座も完了してしまっており、俺が来るのを今か今かと待ち侘びていたKAN-SEN達による指揮官コールを神威に宥めてもらいつつ、早速朝の挨拶を始める事にした。

 

「では改めて…おはよう諸君。今朝は完全に寝坊してしまった、遅くなってすまない」

 

「本日の出撃・委託・待機メンバーはシフト通りです。各員順守のほど宜しくお願い致します…変更申請は本日マルハチサンマルまで」

 

「ありがとう神威。それでは早速腹ごしらえといこうか」

 

「はい皆、手を合わせてー!」

 

「いただきます!」

 

「「「いただきまーす!!!!」」」

 

俺の号令を合図に各々が朝食に有り付いたのを確認してから、俺は神威を連れて自分達の朝食を取りに調理場へと向かう。

 

「鳳翔君、いるかな?」

 

艦隊全員分の料理を作る為に増築を重ねた調理場の奥に声を掛けると、間も無くしてその主が料理を乗せたトレイを持ってやってきた。

 

「はーい、おはようございます旦那様、若旦那様〜♪」

 

艶やかな着物の上から割烹着を羽織り、普段に増して和やかに微笑む鳳翔。世界初の空母として設計されたカンレキを持つ彼女は文字通り艦隊のオカンであり、隠居の身となってからはたった一人で毎日全員分の食事を用意してくれているのだ。ちなみに今朝の俺達のメニューは炊き立てのご飯とベーコンエッグ、ワカメのみそ汁、さんまの塩焼き、山盛りのキャベツ…ごきげんな朝飯だ。

 

「鳳翔さん、おはようございます!…ごめんなさい、お父さん中々起きなくて」

 

「ふふっ、旦那様がお寝坊なんて珍しい事もあるんですね〜」

 

「面目無い…しかし今日も美味そうだな…鳳翔君、毎日いつも本当にありがとう」

 

普通なら怒られたり寝坊した原因を探られたりするものかもしれないが、珍しいの一言だけで穏便に済ませてくれた事も含めて俺は心からの感謝を伝えた。

 

「いいえ〜愛する旦那様と若旦那様の為ですからね〜♡」

 

この艦隊で俺か神威、あるいは双方に好意を寄せてくれているKAN-SENはだいぶ多いが、それでも俺達を旦那様とまで呼ぶのは彼女だけだ。しかも恐ろしい事に最近は慣れてきたどころか、むしろそう呼ばれないと違和感すら覚えるようになってきている。

 

「きゃーっ♪なんだかヒューヒューです♪」

 

「やめないか…というか懐かしいフレーズだな」

 

…そんな彼女の夢は「戦いが終わったら愛する人と旅館を営む」ことだと、以前二人きりになった時に一度だけ語ってくれた。その時は大した返事も出来ずに誤魔化してしまったが…もしいつの日か彼女と一緒になる未来が来るとしたら、神威は新しい母親が出来る事を喜ぶんだろうな…

 

「…それはそうと鳳翔君、「今日の四人」はもう決まってるかな?」

 

「はい、こちらに」

 

居た堪れない思考を掻き消すように俺はある物を鳳翔に催促すると、彼女は「今日の四人」の名前が書かれたリストを手渡してくれた。これは俺達親子が食事を取る際の定位置の席で、俺達親子の両サイドに座るKAN-SENの事を指している。着任当初は誰が隣に座るかで毎朝喧嘩騒ぎになっていたので、毎朝くじ引きで決めるルールを作りこれを解決した。

 

「お父さん、今日は誰になったの?見せて見せて!」

 

「はいはい、一緒に見ようか…どれどれ…」

 

リストは俺と神威の二つに分かれており、神威のリストにはまさしく子供といった可愛らしい字で伊19と涼月の名前が書いてある。

 

「おっ!お前は良い組み合わせだな…イチャイチャし過ぎにだけ注意するんだぞ?」

 

「伊19の方が勝手に甘えてくるだけだってば」

 

「フハハ、ぬかしおる」

 

「それよりお父さんの今日のお相手は誰なの?」

 

「…ほれ」

 

対して俺のリストには書道家と見紛う程の美しい筆跡で…赤城と大鳳の名前が色濃く刻まれていた。

 

「あっ………」

 

「…お父さんもイチャイチャし過ぎに注意するよ」

 

見てはいけないものを見てしまった。そんな感じの困惑ぶりを見せている神威。だが所詮運なんてこんなもんだ…ちなみに昼食と夕食の度にくじ引きを繰り返しているとキリが無いので、「今日の四人」とは朝・昼・晩の三食ずっと一緒である。

 

「お、お父さん…その…」

 

「さぁ行こうか、朝ごはんだ…」

 

「うん…」

 

せめて、せめてどうか何事も無く食事を取れますように。それだけを祈りつつ、俺達は料理を持って定位置の席へと向かう。まだ何も物が入ってないのに早くも痛み始めた胃の事は考えないようにした。

 

____________

 

「ねぇねぇ神威!その髪飾りどこで買ったの?すっごく綺麗!」

 

「これは昨日ある人にもらったの!似合うでしょ?もう僕のお気に入りなんだ〜♪」

 

「ある人って?指揮官?」

 

「ノンノン、秘密にしてって約束なの」

 

「そうなんだ…でもいいな〜…わたしも欲しい!」

 

「伊19がちゃんと野菜食べるなら、もう一個買ってもらえるよう頼んでみてもいいんだよ?」

 

「うぅぅ…あーんして!」

 

「もう、甘えん坊なんだから…あーん♪」

 

「あー…あむあむ…うぅ、美味しくない…」

 

「贅沢言わない」

 

色々と心配は尽きないが、いざ食事が始まると早速伊19が神威にじゃれついていた。もれなく周囲からの羨望と嫉妬の視線を感じるのもいつも通りである。その中に普段にも増してうっとりとした表情を浮かべ、神威に熱い視線を送る愛宕(ある人)がいるのも何ら不思議な事ではない。そう、ここは重桜だから。

 

「………」

 

一方で反対席に座る涼月はそんな2人を羨ましそうに見つつ、黙々と食事をしている…この手の光景もよくありがちではある。

 

ピョンッ!タタタッ…!

 

「あっ、プー太ったら…!」

 

「ん?」

 

そんな飼い主を不憫(ふびん)に感じたのか、涼月の頭上からハムスターのプー太が神威の方へと駆け寄った。

 

「プ!」

 

「なぁに?どうしたの?」

 

「プ!プー!プー!」

 

「…ふむふむ」

 

「えっ?神威もプー太の言ってること分かるの?」

 

「あはは、なんとなくこうして欲しいのかな?って推測するぐらいだけどね…はいプーすけ、あーん♪」

 

「プー♪」

 

「ちょっと!プーすけじゃなくてプー太だってば⁉︎」

 

だがそうしたプー太のサポートさえも台無しにしてしまうのが我が鈍感息子である。本人に悪気が一切ないのがこれまた愛おしい。この子にはこれからもこうした日常の一風景に幸せを感じていて欲しい…いつか誰かに襲われないかだけが心配だが。

 

「おおっ、意外といい食べっぷり」

 

「プー太は野菜も好きなんだよ!でもあんまりあげちゃうとお腹を壊しちゃうから、その辺にしてね?」

 

「そうなんだ…伊19もこうだったらなぁ」

 

「うっ…でもほら、半分食べたよ?褒めて褒めて!」

 

「あと半分は?」

 

「神威にあげるね!」

 

「…仕方ないなぁ」

 

「わーい!」

 

「じゃあわたしは神威のベーコンを頂戴致す!」

 

「あっコラ!とってたのに⁉︎」

 

「貴方達、指揮官様の前ではしたないわよ…」

 

「まあまあ赤城君、子供らしくて良いじゃないか…」

 

一応大人代表として赤城が軽く注意したが、はしゃぐ3人には聞こえてなさそうなのでそれ以上言わないようにと赤城に念押しすると、彼女はやれやれといった様子で再びきつねうどんをすすり始めた。自分でも過保護だとは思うが、人の親になると急に子供が可愛く感じるものだ。あぁ、飯が進む進む。

 

「あら…指揮官様〜ほっぺたにご飯粒がついてますわ〜♡大鳳が取って差し上げますから、じっとしてくださいね〜♡」

 

「んっ?あぁ…じっとして?」

 

そんな中、実際に飯が進み過ぎていたのか頬に米粒がついていると大鳳が教えてくれたが、どの辺についているか教えてくれればそれで良かったのに、じっとしろと言われ…

 

「あ〜…んむっ…」

 

「ヒエッ」

 

生温かく、柔らかい大鳳の舌に頬を優しく(ねぶ)られて思わず変な声を出してしまった。流石に妻にもされた事ないぞ…

 

「あ、ありがとう大鳳君…取れたろ?」

 

「いいえ、まだついてますわ〜♡指揮官様のお口の周りにも…♡」

 

「おいおい…流石にそれくらいは…」

 

千載一遇のチャンスと思ったのだろうか。食堂の皆に見せつけたいかのように粘る大鳳の相手に必死になっていると、反対側から熱々の油揚げが再び俺の頬を襲った。

 

「あっつぅーいっ⁉︎」

 

「あら指揮官様、ほっぺにお揚げがつきましたわ」

 

「事後報告やめて⁉︎」

 

もしかして大鳳みたいに赤城も俺の頬を舐るつもりじゃなかろうか…そう思った瞬間、遠くの席で何か砕け散る音が聞こえた。

 

「…えっ?」

 

「あらあら私ったらつい…げほげほ…」

 

食堂中の視線が集中したその席では、赤城の実姉である天城が手に持っていた箸を粉砕していた。慌てて普段通りの病弱さをアピールしてはいるが、隣の加賀は早くも青ざめている。俺の息子(神威じゃないほう)も思わず縮み上がりそうだ。

 

「…い、いやーん、指揮官様〜天城姉様が怖いですわ〜」

 

(こ、こいつ…この状況で…⁉︎)

 

言葉の上ではともかく本当にある程度怖いのだろう、ちょっと震えながらも赤城が俺の腕を取って抱き付いてきた。普段なら絶対有り得ないが俺がいれば安心と思っているんだろうか?

 

「…あー…かー…ぎー…?」

 

(天城さん⁉︎ちょっと、まずいですよ!)

 

笑顔(目は全然笑ってない)のままふらりと立ち上がろうとする天城。姉を守ろうと咄嗟に止めようとするが、あっさり振り払われる加賀。ますます俺に強く抱き付く赤城。どさくさに紛れてこちらも抱き付く大鳳。両肘に触れる豊満。そんな中我関せずとばかりに味噌汁をすする神威に笑いそうになりながらも、俺は慌てて号令を掛けた。

 

「いやぁ何も怖い事はないぞ!食事ってのは楽しく取るもんだからなぁ!…なぁ皆⁉︎」

 

俺の号令を聞いたKAN-SEN達は互いに顔を見合わせていたが、数秒の沈黙の後にまるで何事も無かったかのように談笑を再開する。視線で加賀に新しい箸を準備させると、天城も渋々席に着いた。

 

「はぁ…寿命縮む」

 

「流石は赤城の指揮官様ですわ〜!」

 

「こら赤城君、そういう言い方は…」

 

「大鳳の指揮官様に決まっていますわ…ねぇ指揮官様?」

 

「助けて副官」

 

「皆の指揮官です…そうでしょお父さん?」

 

「大好き」

 

「や、やだもう…お父さんたら…皆見てるのにぃ…///」

 

(我が子よ、毎度のことながらチョロ過ぎるぞ…)

 

…息子のファザコンが進行したことを除いて、どうにか一人の死人も怪我人も出さず、穏便に(?)食事は終わった。

 

____________

 

重桜特有のちょっとしたトラブルに見舞われながらも何とか無事に朝食を終えた後は、出撃と委託を命じたKAN-SEN達を見送った。短時間で終了する委託組を途中で何度か出迎えに行き、戦果の確認と労いの言葉を送ってからまた違う面子で委託に送り出す。ここまでは普段通りだ。一航戦を含めた主力の大半が出払っているので昼食時にはさしたる問題も起きず、俺達も執務室で指揮官としての本業に精を出していた。

 

「指揮官…いえ、橘准将。貴官宛てに本部から通達事項が届いております」

 

父と子という関係が一時的に解消された上で、なお優秀そのものである副官が俺に一通の手紙を持ってきたのはまさにその時である。

 

「わざわざお上の名指しとはな…悪いが今は手が離せん。読んでくれ」

 

重桜がいくつか保有するそれらの中で最も強大であり、それ故に最も複雑怪奇な指示系統の元で運用される艦隊の指揮官とは、決して誰にでも出来るお飾りなどではない。かつて内地で教官を務めていた頃の経験を総動員してなお職務に忙殺されているのが現状なのだから、こうして躊躇い無く指示が出せる副官の存在というのは何よりも貴重である。

 

「はっ。前口上を省き要約しますと、以前攻略した海域を含め、新たにセイレーンの出現が確認された海域の調査・攻略を目的とした当該海域のセイレーン殲滅作戦を本艦隊で遂行せよ、との事です」

 

「普段通りだな…分かった、ありがとう」

 

セイレーンが人類に初めて牙を剥いてから十数年余り…その後のKAN-SEN達の内乱から時を経て、「指揮官」という存在が世界中で求められるようになった現在でも連中の脅威が完全に消えた訳ではない。本拠地を設けず、高度なステルス技術によって攻撃する場所と時間を常に選択出来るセイレーンの脅威に対抗するには、やはり同等以上の戦闘力と機動性を兼ね備えたKAN-SENの力がどうしても必要である。重桜の国民達がその血税をもって各地の艦隊運用を支えてくれている以上、俺達は平穏な日々を完全に取り戻す事で初めてその恩義に報いる事が出来るのだ。

 

「それと…これは私を通じて、KAN-SENの研究・開発チームからの提案なのですが…」

 

「分かっている…「特別計画艦」だな?」

 

「ふふっ、流石は指揮官。ご明察恐れ入ります」

 

その為には何よりも力が必要だ。この母港自体には俺と神威以外の人間は一人も在籍していないが、本部には多数のKAN-SENの艤装や、メンタルキューブそのものの研究と開発を行う機関が存在する。そしてその中のいくつかの支部に対して神威は直接指示を下せる権利を有しており、そうした過程で生まれたプランをこうして提案してくる事が度々あった。その際たる物がこの「特別計画艦」と言えよう。

 

「以前から「一期」と同様に「二期」も二隻の特別計画艦が存在すると伝えられていたからな…そうなるとこれで「二期」も終わりか」

 

そもそも特別計画艦とはかつての大戦において未成艦であったものを復元した存在である。その際に要求される膨大な資金と実戦データ収集こそ難点ではあるが、裏を返せばそれらを踏まえた上でも開発・運用出来ること自体が国力そのものを表す指標となり、世界各国でも日夜熾烈な開発競争を繰り広げている。当然我が艦隊でも第一世代に当たる「戦艦・出雲」並びに「重巡・伊吹」は主力の一つとして運用しており、つい先月第二世代として「駆逐艦・北風」の開発を終えたばかりであった。

 

「はい。ですが指揮官、今回の開発計画はこれまで開発してきた三隻を上回る困難さが予想されます。我々研究員やKAN-SEN達の尽力は当然として、指揮官にも多大な要求を強いる事になります」

 

一隻の特別計画艦を開発するまでに1ヶ月程を要し、その後も艦隊をフル稼働させて漸(ようや)く完成へと辿り着く。ましてやそれを上回る苦難の果てに産まれる存在であるならば、これまで以上の激務は想像に難くない。

 

「構わない。貴官がそうであるように俺も指揮官としての役目を必ず果たす…それに性能の方もこれまでの三隻を上回ると期待して良いのだろう?」

 

その分開発出来た時の喜びは筆舌に尽くし難いものがあるし、何よりかつての未成艦を現代に甦らせるという行為そのものが浪漫の極みなのだ。

 

「えぇ…最大強化が大前提ではありますが、カタログスペックで言えば既存のKAN-SENと比較になりません。それに我々がいち早く開発に成功した際には分類上世界初の艦種としてその名が知れ渡ることでしょう」

 

「…詳細な資料はあるか?」

 

「こちらに」

 

既存と比較にならない世界初の艦種…その正体は愛する副官が懐から取り出してくれた「B65型超甲巡(仮称)開発計画」という一冊の資料集が何よりも雄弁に語ってくれた。

 

「超甲巡…そうか、あの「吾妻」か…」

 

「…!まさか、ご存知で?」

 

「あぁいや、俺とて名前だけだ…」

 

超甲巡とは当時の甲型巡洋艦(=重巡洋艦)を文字通り「超える」巡洋艦として、そしてユニオンの重巡に対抗すべく二隻のみ計画されていたという。吾妻はその片割れにあたり、重桜だけでなく鉄血やロイヤルでも同規模の大型巡洋艦の開発が計画され…そして叶う事のなかった儚い夢の一つでもある。

 

「…とにかくまずはこれの内容を把握する。5分欲しい」

 

「畏まりました。では私は書類業務を再開しますので、終わり次第お声掛け下さい」

 

「副官、いつもすまなんだ」

 

副官(むすこ)ですから」

 

それらの話を語り出せば長くなるのでここらで割愛するとして、俺は隣で神威が羽ペンを走らせる音を聞きながら分厚い書類の束に目を通していく。それには確かにこれまでの三隻を超える膨大な研究工程や専用の主砲を必要とすること、更に可能であれば蔵王重工製の装甲板を用意して欲しいという研究員からの要望なども事細かに記載されていた。

 

「…よし、把握した」

 

「では…!」

 

「まぁ待て副官。急いては事を仕損じる…事前の準備も万全にしておく必要がある以上、計画発動は来週以降だ」

 

「ですが開発の承認は頂けるのですね?」

 

「無論だとも…来週から忙しくなるぞ?」

 

「望む所です!」

 

「うおっ」

 

承認を得たのとほぼ同時に神威は俺の手を握りしめて、ようやく副官ではなく無邪気な子供として満面の笑みを浮かべた。

 

「吾妻完成の際には、我らが橘の威光も更にその輝きを増すことでしょう!そうなればきっと…‼︎」

 

「…今の貴官は若い頃の俺に良く似ている」

 

「本当ですか⁉︎…光栄です‼︎」

 

(…これに限っては褒め言葉ではないんだがな)

 

…まあ当時の俺と違って今の神威の興奮は「良い事をして親に褒められたい子供」のそれと同じであろうから、これ以上余計な詮索は辞めてたまには父親らしい提案でもするとしよう。

 

「…さて、話は変わるがこれからの予定について俺からも一つ提案があってな」

 

「はい!何なりと!」

 

「今週の間は仕事を昼で切り上げて、余った時間で子供らしく皆と遊んできたらどうだろう?」

 

「……へっ…?」

 

俺からの提案()を聞いた神威は鳩が豆鉄砲を食ったようなキョトン顔を披露してくれた。可愛い。

 

「はははっ!なんだ、そんなに嫌だったか?」

 

「い、いえその…指揮官の心遣いは…」

 

「お父さん」

 

「…お父さんの気持ちは嬉しいんだけど、僕だって正規軍人なのに…」

 

「…まぁ確かにそうなんだが、お父さんはそういう(しがらみ)を少しだけ忘れてお前にのんびり過ごして欲しいのさ…もちろん来週からはバリバリ働いてもらうぞ?…前みたいに夜まで仕事してたらお父さん怒るが」

 

以前の開発中には俺からの期待に応えたい一心だったのか、神威は深夜まで平気で仕事をしていた事もある。大の大人なら致し方ない事もあろうがまだ10歳の子供にそれを強要したくはなかった。労基にも引っかかるしな。

 

「でも…」

 

「ならば今週の間一日一個だけ冷蔵庫にあるアイスなんでも食ってヨシ!」

 

「えっ、本当⁉︎分かった!」

 

俺渾身の承認によって社蓄に目覚めそうな副官像からようやく解放された神威は、嬉々として執務室に置いてある冷蔵庫へと向かって行き…

 

「よし、これにきーめた!」

 

バリッ

 

(むっ?)

 

そして何故かその場で袋を開けたかと思うと、たった二つしかない雪みてぇな大福を一つ差し出してくれた。

 

「はいお父さん、あ〜んっ♡」

 

「おお…はむっ…んんっ…」

 

「どうかな?美味しい?」

 

「…最高」

 

「えへへっ、やったあ!」

 

…知覚過敏で若干アイスが辛くなった事に老いを感じるが、満面の笑みを浮かべているこの子の前でそんな弱みを見せる訳には行かない。いつの世も父は強いのだ。

 

「…それにしてもお父さんに構わず二個食べれば良かったのに」

 

「一日一個だけって約束、ちゃーんと守ったよ!」

 

「…お前は本当にいい子だな…」

 

「ん〜おいひ〜♡」

 

「聞けーい」

 

…そしてこれからも愛する我が子の為に世界一素敵なお父さんであり続けたいと心から思う。

 

____________

 

(うーん…どうしよう…)

 

アイスを食べ終わって数分も経てばお父さんは先方達に連絡をするから、と言って僕に執務室から退室するよう促した。せっかくの粋な計らいを無下にする訳にもいかないんだけど、かといって特にやりたい事も無いので僕は暇を持て余している。

 

(…子供らしく、かぁ…)

 

綾波や龍驤と一緒にお菓子をつまみながらゲームする…という今時の子供らしい時間の過ごし方をしたら、何となくお父さんが悲しみそうな気がする。かといって素直に外で遊ぶのも気が引けた。嫌いではないけれど、単純に僕は体が弱いので全く体力がない。せいぜいかくれんぼが関の山といった程度だ。

 

(…とりあえず、誰か見かけたらその子に声を掛けてみよう)

 

そう思ってさっきから駆逐艦寮の辺りをウロウロしてみても、意外と誰にも会わない。出撃・委託で出払っているのは当然として、非番の子も既に外で遊んでいたり、のんびり自分の部屋でお昼寝でもしているのかな?…流石にこちらから特定の誰かの部屋に突然お邪魔するというのも、なんだか申し訳ないし…

 

(…ってあれ?珍しいな…)

 

そんな中、大事そうに紙袋を抱えている霞を見つけた。何やら「ふわりん」と話し込んでいるようだったが、霞は僕に気がつくと嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「神威…一人?珍しいね…」

 

「あはは…お父さんがたまにはお外で遊んできなさいって。霞もどこか遊びに行くの?」

 

「ううん、今お部屋に戻るところ…でも丁度いいタイミングで神威が来てくれた…ふわりんも喜んでる」

 

「そっかぁ…」

 

朝潮型の子は駆逐艦の中でも温厚で、大人しい子が多い。霞もその中の一人だが特にミステリアスだ。誰かと一緒にいる様子はあまり見た事がないし、何より「ふわりん」の存在にはそこはかとない闇を感じる。

 

「…ところで、その紙袋って何か入ってるの?」

 

話題を変えるついでにさっきから気になっていた紙袋の中身について尋ねてみると、霞からは意外な答えが返ってきた。

 

「これ…霞が大好きな、ふわりんみたいのがたくさん出る映画…なんだけど、誰も一緒に観てくれなくて…」

 

「えっ?…ちょっと見てもいい?」

 

「うん、いいよ」

 

霞に広げてもらった紙袋の中には、確かに一枚のDVDが入っている。思わず手に取ってパッケージを確認すると…

 

「…ひいっ⁉︎」

 

「神威、大丈夫?…どうしたの…?」

 

…不気味な女の人が写っているそれはまさしくホラー映画そのもの。「ふわりんみたいなの」がたくさん出てくると聞いて、僕はてっきり「もの○け姫」的な作品を想像していたから、危うく腰が抜けるかと思った。

 

「こ、これは確かに…中々一緒に観てくれる人は少ないかもね…?」

 

「…神威は一緒に観てくれないの?」

 

…しまった。丁度いいタイミングで来てくれた、というのはこれの事だったのか…というかますます何者なんだ「ふわりん」というのは…?

 

「え、えーっと…その…僕、おばけとかホラーとか苦手で…」

 

「これそんなに怖くないよ?前に霞一人で観たけど…やっぱり映画は誰かと一緒に観ないとつまらないから…」

 

これ一人で観たのか…⁉︎いや、霞が一人で観れたからって怖くない保証なんかないし…何とかうまく言いくるめないと…!

 

「…えーっと…その…夜中に一人でトイレ行けなくなったら困るし…遠慮していい?」

 

「…もしもの時は指揮官が一緒に付いてきてくれるんじゃない?」

 

ダメだった。気が動転してるのか小学生レベルの言い訳しか浮かばなかったし、一応言ってみたけどあっさり論破された。

 

「そ、そうだね…あはは…」

 

「…神威、霞と一緒に映画観るの…嫌だった?」

 

「えっ⁉︎いや、そんな事は…」

 

あぁまずいまずい…‼︎このままじゃただ霞を傷付けるだけの結果になるのは火を見るより明らかなんだけど、二人きりとはいえホラーは苦手だし…もうこうなったら…!

 

「あ、あのね霞!お願いがあるの!」

 

「…お願い?」

 

____________

 

(…もうすぐ5分経っちゃうな…はぁ、神様…)

 

霞としては僕と二人きり、趣味の映画を観て過ごす優雅な昼下がりの予定のはずだったろうけど、やっぱり怖いものは怖い。追い詰められた僕は奥の手として誰か他の大人を連れて来てもいいかと提案…いやひたすら懇願した結果、霞は渋々了承してくれた。ただし5分以内に見つからなければ二人きりで観るという条件付きで。

 

(…それともこれって僕も男になれ、っていうお告げなのかも…)

 

お父さんに頼ろうかとも思ったが、まだ仕事中なんだから副官として邪魔だけは絶対にしたくない。かといって他の大人のKANーSENの大半は出撃その他で出払っている。最終手段として非番の高雄型にすがりつくのも考えてはみたけど、そもそもあそこは全員ホラーがダメだった。愛宕お姉ちゃん辺りは多分失神するだろう。

 

(…腹を括ろう…)

 

いざ映画が始まったら、きっと僕は霞にしがみついて悲鳴をあげているんだろうな…憂鬱になりながら霞の部屋へ戻ろうと廊下を曲がった直後、大きくて柔らかい何かに僕は頭からぶつかった。

 

「…むわっぷ⁉︎」

 

それは信じられないくらいの弾力で思わず弾き飛ばされるかと思ったが、立派なそれの持ち主の物であろう細い腕に抱きしめられたので、怪我はしなかった。拘束されたとも言う。

 

「あらあら…うふふっ、捕まえた…♡」

 

「んーっ⁉︎んんんーっ⁉︎///」

 

大人だ。体格差から考えてまず間違いない。そして凄い豊満だ。大人の魅力が…凄すぎて…い、息が…息が出来ない…し、死ぬぅぅ…

 

「…翔鶴姉?神威が苦しそうだよ?」

 

「ぷはっ…」

 

あやうく窒息死するかと思ったところで、隣から聞こえてきた文字通りの鶴の一声によって僕は解放された。

 

「だってぇ…神威からぶつかってきたのよ?瑞鶴も見てたでしょう?」

 

「それはそうだけど…神威、大丈夫?」

 

「う、うん…その…ごめんなさい‼︎///」

 

大人だったら絶対逮捕される事案だけれど、幸い五航戦の二人は高雄型の四人と同じくらい、僕の味方といえる大人…そう、大人なのだ。

 

「神威、歩く時はちゃーんと前を向いてないといけませんよ?じゃないと怖ーい先輩達に捕まっちゃうかも…なーんてね♪」

 

「翔鶴姉もさっき捕まえた、って言ってなかった?」

 

「さっきのはお姉ちゃん特権です♪…ねぇ神威?」

 

元々霞の部屋に戻る途中でぶつかったから、これが最初で最後のチャンスだ。その…お、お…胸に飛び込んでしまった女の人相手に、ましてや一緒にホラー映画見てほしいなんて…ええい、ままよ!

 

「…神威?」

 

「…お、お願い!僕を助けて!助けてくれたら、僕に出来ることなら何でもするから‼︎」

 

ああああ言っちゃった…⁉︎で、でもこの二人なら大丈夫だよね?一応(僕に出来ることなら)何でもって断ったし…後で犬の真似させられたり、四つん這いにさせられたり、挙げ句の果てにアイスティーに睡眠薬混ぜられたりもしないよね…⁉︎

 

「ええっ⁉︎な、何かあったの⁉︎一体…」

 

突然こんな事を言い出したのだから瑞鶴お姉ちゃんが慌てるのも当然の反応だったけれど、翔鶴お姉ちゃんは手でそれを制すと妖艶な笑みを浮かべて僕に尋ねてきた。

 

「…本当に何でも出来る?」

 

…はい出来ますなんて素直に言うと後が怖いので、念のためもう一度断りを入れておこう…

 

「…ぼ、僕にも出来る事にしてね?…乱暴しない?」

 

「もー大袈裟なんだから…大丈夫よ神威、お姉ちゃん達はいつでも神威の味方だから!」

 

あぁ…地獄に仏とはこのことか…!神様ありがとう!さっきも思ったけどすっごく柔らかくて、正直嬉しかったです…///

 

「…それじゃあお願いしてもいい?」

 

「構わないよね、翔鶴姉!」

 

「もちろんよ瑞鶴…さぁ神威?お姉ちゃん達に何でも言っていいんですよ?」

 

「実はかくかくしかじかで…」

 

僕が全てを説明すると、途端に瑞鶴お姉ちゃんの顔が引きつりはじめた…僕と一緒でホラー苦手なんだろうな…罪悪感が凄い。

 

「…もしかして神威、お願いってまさか…?」

 

「…やっぱりダメ?」

 

「で、出来れば別の…」

 

「大丈夫よ、お姉ちゃん達はいつでも神威の味方ですから…そうよね瑞鶴?」

 

「い、いやーっ⁉︎」

 

…こうして嫌がる瑞鶴お姉ちゃんも強制参加する形で、五航戦の二人が一緒に映画を観てくれることになった。

 

____________

 

約束の5分はとっくに過ぎていたし、結局大人二人を連れてきた事で霞に若干嫉妬されたものの、どうにかホラー映画観賞会が始まった。霞はこの瞬間を本当に楽しみにしていたようで、日頃我慢してため込んでいたありったけのおやつをテーブル一杯に広げてくれた時は泣くかと思った。

 

「きゃぁぁぁぁぁーーーっっ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

(巻き込んだのにこんな事思っちゃダメだけど…うるさい…)

 

…そして映画が始まってまだ10分も経ってないのに、瑞鶴お姉ちゃんの悲鳴が凄い。部屋を暗くして冒頭が流れてた時からもう様子がおかしかったから、多分怖い雰囲気を感じるだけでダメなタイプだと思う…いや、僕も怖くないとは言えないけれど…

 

「…神威、まだ大丈夫?」

 

それでも僕の隣に座っている霞が度々心配してくれているからまだ大丈夫そうだ。

 

「うん、ありがとう霞…ごめんね、二人きりで観れなくて」

 

「ううん…霞、ずっと神威と映画観たかったから…神威が約束守ってくれて、良かった…」

 

(あっ惚れそう…///)

 

なんていい子なんだ…もっと早く一緒に遊べば良かった。そうだ、今度夕張たちとのゲーム同好会に誘ってみようかな…何が好きなんだろ…ホラーゲームじゃないといいな…

 

「きゃーっ、助けて神威〜♡」

 

一方で僕の隣に座っている翔鶴お姉ちゃんにとっては映画がつまらないのか、それともやきもちを妬いているのかは分からないけれど、時々こんな風にちょっかいをかけてくる。

 

「…翔鶴お姉ちゃん、まだそういうシーンじゃ…」

 

ピシピシッ…バリーンッ!!!

 

「ひゃっ…⁉︎」

 

…安心している時に限って発生するお約束の怪奇現象にびびった僕は、反射的に霞ではなく翔鶴お姉ちゃんにしがみついていた。

 

「あら、まだそういうシーンじゃありませんよ?」

 

「し、翔鶴姉‼︎私もう帰っていいかな⁉︎」

 

「ダメよ瑞鶴、約束は守らないと…ねぇ神威…?」

 

「う、うん…///」

 

…僕の方から近付いてきたのをいいことに、翔鶴お姉ちゃんは僕の腰元に腕を回すと絶妙な力加減でいろんな所を触ってくる。思わず声が出そうになるけれど、霞に気付かれたらまずいので僕は必死に我慢している…

 

(…そういえば神威、覚えてます?)

 

(う、うん?…覚えてるって?)

 

そんな中でも触れる手は止めずに、翔鶴お姉ちゃんは僕にだけ聞こえるような小声で話しかけてきた。

 

(神威がここに来た日に開いた宴会の事なんですけどね…)

 

(あーっ…懐かしいなぁ…)

 

実は副官としてこの艦隊に着任するまで、僕はまだKAN-SENを見た事が無かった。だからこそ初めて皆を見た時は相当びっくりした。モデルさんみたいな美人さんばっかりで、おまけに角とか耳とか尻尾が生えてて、まるでアニメの世界に迷い込んだ気分だったな…

 

(えーっと…確かその時に僕、二人の着物が綺麗だってはしゃいでたところまでは…覚えてるんだけど…)

 

だからこそ、角も耳も尻尾も生えてない五航戦の二人と初めてお喋りした時はついつい着物の方に目がいった。特に二人の名前にも入っている「鶴」を連想する程、大きくて綺麗な袖の部分に心惹かれたけど…二人にその話をした後の事が今でも全く思い出せない…なんでかな?

 

(あら、その後の事は覚えてないの?酷いわ神威ったら…せっかくお姉ちゃん達と約束したのに…)

 

(えっ、約束…?…ごめんなさい、どんなのだっけ…?)

 

本当に大切な約束だったら覚えてそうなものだけれど…その…例えば、本当に例えばの話として…お、大きくなったら…け、けっ…結婚する約束…とか…///

 

(んもう…ほら、いつか神威に私達とお揃いの着物を作ってあげる約束!…思い出した?)

 

あっ、全然違った。違ったけど…お揃いの着物かぁ…えへへっ、着て見せたらお父さんきっと喜ぶだろうなぁ…でも二人の着物って普通じゃまず手に入らないデザインだし、もしかして自分達で作った物だろうか?だとしたら凄いけれど…

 

(…あー、でも本当にいいの?僕の為になんて…その…材料とか高そうだし手間もかかるんじゃ…)

 

(ううん、それは大丈夫なんだけど…どうしても一つだけ問題があって…)

 

(問題?)

 

必要な道具の催促なら、お父さんに事情を説明すれば用意してくれるかな…なんて考えていると、翔鶴お姉ちゃんは小声で話しているのに口元を隠しながらこう言ってきた。

 

(神威の体格に合わせないといけないから…「採寸」をしたいのよねぇ…)

 

…前に瑞鶴お姉ちゃんから教えてもらったのだが、翔鶴お姉ちゃんは悪いことを考えているとき口元を隠す癖があるらしい。もちろん、言ってる事は何も間違ってない。間違ってないけれど…

 

(…その…お父さんに測ってもらうのは…)

 

(ダメよ、「採寸」しながら作りたいもの…そういう訳だから今度お姉ちゃん達のお部屋に来てくれる?「採寸」するだけだから、神威はなんにも心配しなくていいんですよ…)

 

翔鶴お姉ちゃんはそう言ってニコニコと笑っているけれど、今まで見たことがない表情だった。何を考えているかまでは分からないけれど、一つ確かなのはもう僕に逃げ道は無いってことだけ…

 

(…じゃあ…今度お部屋にお邪魔するって約束したら、もうくすぐるのやめてくれる?)

 

(はーい…うふふっ、嘘ついたら針千本…ね…♪)

 

僕が腹を括って言質を取らせると、翔鶴お姉ちゃんはようやくいつも通りの優しい笑顔に戻った。そして僕の腰元に回していた腕も引っ込めて、そのままテーブルのおやつをつまみ始めている。多分もう何もしてこないだろう…

 

(…はぁ…嬉しいような怖いような…)

 

キャァァァァァァーーーッ!!

 

「ギャァァァァァァァアーーーッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

(…喉大丈夫かなぁ…?)

 

…ところで全然観れてなかった映画の方はというと、女の人が幽霊のような何かに襲われている。霞の言う通りよく見たらそこまで怖くないように思えてきたが、襲われた女の人よりも凄い悲鳴を上げる瑞鶴お姉ちゃんには申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

(…ねえ、神威…)

 

(うん…?霞?どうしたの?)

 

そんな瑞鶴お姉ちゃんを心配したのか今まで静かに映画を観ていた霞が、これまた僕にだけ聞こえるような小声で話しかけてきた。

 

(瑞鶴さん、辛そうだから…霞が隣に行ってあげてもいい?神威は大丈夫?)

 

(あっ…うん、そうだね…それがいいよ。僕の事は気にしないで、瑞鶴お姉ちゃんの事…お願いね)

 

(…霞は気にしないから、神威も翔鶴お姉ちゃんとイチャイチャしてね?)

 

…黙っていただけで相当ご立腹だったらしい。茶化すような発言だけど全く目が笑ってない。

 

(ゔっ…⁉︎や、やだなぁイチャイチャなんて…そんな…)

 

(あとそれと…)

 

そしてとうとう光も消えた瞳で、僕をまっすぐに見つめて霞はこう言い放つ。

 

(ふわりんが神威の体にパクッと噛み付いてるよ)

 

(えっ⁉︎…ど、どこ⁉︎どこに⁉︎どこを⁉︎ふわりんは⁉︎)

 

そんな一種の死刑宣告を遺して霞は僕の隣を離れた。もはや映画や瑞鶴お姉ちゃんの悲鳴よりも、未だ正体不明の「ふわりん」の方がずっと怖い。結局映画が終わるまで僕は片時も心が休まらなかった…

 

____________

 

「…って感じで、今日は大変だったよお父さん…」

 

親心で遊びに行かせたまでは良かったが、執務室に戻ってから夕食を終えるまで神威はほとんど何も話さなかった。流石に心配になったので、親心水入らずで男湯を満喫しながらそれとなく探りを入れてみると、ようやくこれまでの事を白状してくれた。

 

「…お前がそうなったのはある意味お父さんの責任だ。だが俺は謝らない。そうした出来事を乗り越えて、必ずいい男になってくれると信じているからな」

 

「もーっ、うまい事言ってぇ…背中洗ってあげませんよ?」

 

「おっとそいつは困るな…またいつもみたいに頼むよ」

 

「全く、お父さんは僕がいないとダメなんですから…」

 

息子…というよりは外見も含めて(?)だんだんと女房役になりつつあるが、ひとまずは親子の団欒として普段通り背中を洗ってもらう事にした。

 

「お痒いところはございませんか〜?」

 

「いいえ〜相変わらずお上手です〜」

 

…未だこの艦隊では神威以外誰にも見せたことのない古傷塗れの身体であっても、神威は気にする素振りも見せずにこうして労ってくれる。愛する妻を失っても俺が正気を保っていられるのは間違い無くこの子のおかげだ。

 

「…ところで神威」

 

「なぁに?」

 

「お前、霞君にはちゃんと後で謝ったのか?女の嫉妬というのは恐ろしいぞ…特にここ(重桜)ではな」

 

だからこそ息子には絶対に幸せになって欲しいし、KAN-SEN達との交友関係も気になるのが親心というものだ。

 

「その…ちゃんと頭下げて謝ったら許してくれる、って言ってたよ」

 

「うむ。それが一番だな」

 

「ただその…今度こそ二人きりで映画観て欲しいってお願いされちゃって…」

 

「なんだ、またホラーか?」

 

「…ある意味」

 

「ある意味?」

 

神威は思わせぶりな言い方ばかりしていたが、やがて観念したのかある名作のタイトルを挙げた。

 

「…タイ○ニックなんだけど」

 

「おおっ⁉︎…神威、お前…!間違いない、まだ霞君からは好かれてる!お父さんが保証するぞ‼︎」

 

「えっ…急にどうしたのお父さん…?」

 

それを聞いた俺が急に一人で盛り上がり始めたので、神威は心底不思議そうにしているが…熱くなるなという方が無理な話である。何せまだ俺が若かりし頃、妻と一緒に観た思い出の作品なのだから…もちろん例のシーンも一緒にやった。所属していた基地に停泊中の軍艦の上で二人きり…後日発覚して当時の上官に減給を喰らった、ほろ苦い思い出だったな…

 

「いやーっ、あの時はレオ様がまだお若くお美しくてな…」

 

「そうらしいけど…そうじゃなくて!…タイ○ニックだよ?その…沈んだ船の映画をKAN-SENと一緒に観るんだよ⁉︎不吉じゃない…?」

 

「…お前、本当に女心分かってないな」

 

「えぇ…そうかなぁ…?」

 

確かに相当賢いのだが、こういう部分は年相応の男の子という感じで嬉しいような悲しいような…あの3時間15分にも及ぶ壮大なラヴ・ストーリーを一緒に観たい…これがどういう意味か、そこのあなたならきっと分かるだろう?おっと!分かってても言わないでくれ。お父さんとの約束だ‼︎

 

「…お父さん?」

 

「あっはいごめんなさい」

 

「背中流してもいい?」

 

「あぁ…頼むよ」

 

熱くなりすぎたテンションと一緒に背中を流してもらい、俺達は湯船に肩まで浸かる…が。今夜の俺はまるで人間火力発電所のように気分が高揚している。神威には申し訳無いが、第二ラウンドの幕開けといこう…

 

「……ところで神威よ」

 

「お父さん、今日しつこいね」

 

「まあそういうな。何だかんだでここに来てからもう半年も経ったんだが…そろそろ好きな娘でも出来たか?」

 

「えっ?好きな子?…たくさんいるよ?」

 

神威が迷いなくそう言い切ったので一瞬喜んでしまいそうになったが、この子にとっての好きな子とは良くて友達以上恋人未満の関係だろう。いや、それでも充分青春しているんだが…今夜は確信を突くぞ。

 

「あー…そうなんだけどそうじゃなくてな…例えば…ほら、ちゅーしたくなるぐらい好きな相手って事だ。ていうかもうしたか?」

 

「えぇっ⁉︎…せ…せっ…⁉︎///」

 

「セッ…?…おい待て神威。それもしかして…」

 

接吻(せっぷん)なんてまだに決まってるでしょう⁉︎もうっ⁉︎セクハラですよお父さん⁉︎///」

 

パシャパシャと俺にお湯をかけながら、顔を真っ赤にして神威は狼狽(うろた)えていたがひとまず安心した。流石にそっちはまだ許すつもりないぞ、お父さんだって。

 

「そうかそうか、まだか…まあ流石にまだだよな…」

 

「そ、そんなことよりも!…お父さんこそ、いい人いないんですか?」

 

…そして着任初日から今日に至るまで、神威から何度も言われた恒例の催促が始まった。

 

「やれやれ…新しいお母さんが欲しいのは分かるが、お父さん再婚するつもりはないんだってば」

 

「むーっ!またそんな事言って〜っ‼︎今日という今日は言質を取ってお母さんもゲットしますからね⁉︎」

 

「…はぁ…まあ一応聞くよ、今日のプレゼン…」

 

ちなみにこうした神威の訴えを、俺はプレゼンと呼んでいる。事実、何度か再婚しようかとも考えさせられた事もあるが…結局のところ毎回誤魔化してきた。

 

「…じゃあお父さんに質問です!」

 

「はいはい、何でしょうか?」

 

あの手この手で俺の首を縦に振らせようと神威が知恵を絞ってくるのは正直面白いのだが、今日のは俺の予想を遥かに超えた事を聞いてきた。

 

「…人って何のために生きていくのかな?」

 

「…‼︎」

 

…どこで知ったのだろうか…それはかつて、俺が愛する妻に問いかけたものと全く同じ言葉だった。

 

「…決まってる…人は皆幸せになるために生きていくもんだ…名言だろ?」

 

…そして妻がこう答えてくれたその時、俺は初めて人を愛する事が出来た。そのまま一緒になるのに時間はかからなかった…

 

「…ところでどこで知ったんだ?まさか偶然?」

 

「え?前にお父さんが酔っ払った時に自慢してくれたじゃないですか?」

 

「えっ…あ、そうだったっけ…あはは…」

 

「…でもやっぱりお母さん、お父さんの運命の人なんですね」

 

「もちろんだ…おかげ様でお父さん今も幸せだぞ?お母さんはいなくなっちまったが…今は皆とお前がいるからな」

 

「…寂しくもないの?」

 

「そんな事考えてる暇もないしなぁ…まぁ俺がジジイになる頃にはお前も巣立つだろうから、その時は寂しいだろうな…」

 

「…そうかな…」

 

「そうだ…親子ってのはそれでいいんだ」

 

「………」

 

俺の場合はガキの頃に既に両親とも死別したから、普通の家よりはずっと早かったが…どんな親子も、最後には離れて生きていくのが自然なのだ…神威にはまだ受け入れがたい事だったようで、すっかり静かになったが。

 

「…じゃあ今度は、お父さんからの問題です!」

 

「…えっ?…あ、はい…」

 

とはいえやられっぱなしというのも面白くないので、今度はこちらから打って出る事にしよう。

 

「執務室の机の一番下の引き出しに今日ある箱を入れました。それはなーんだ?」

 

「箱?…しかも今日…?」

 

…まあ今日と言っても正確にはこの子が遊びに出ていた昼過ぎに届いた、俺宛ての任務報酬の中に隠してあった物だから分かるはずはない。お上がわざわざ名指しで海域攻略を命じてきたのには「アレ」を使って戦力を強化しろ、という理由もあったのかもしれない。いずれにせよ、今日はそういう運命の日だったのかもな…

 

「うーん箱かぁ…ラプラス?」

 

「アカンやつ」

 

「分かった、シュレディンガー!」

 

「それ猫や」

 

「…うむむ…」

 

「…じゃあヒントだ。お前が遊びに出てる間にお上から重要な書類付きで渡された、とても大切で綺麗な箱です…」

 

「……えっ…はっ、ま…まさか…⁉︎」

 

俺のヒントも神威にとってはほとんど答えだったのか、すぐ正解に辿り着いたであろう神威は途端に嬉しそうな顔をしはじめたが…残念、俺自身は「アレ」を使うつもりはないんだぞ…

 

「…なぁ神威?」

 

「は、はいっ⁉︎何ですかお父さん⁉︎」

 

「そんなにお母さんが欲しいのなら…」

 

「………」

 

「お母さんになって欲しい人をお前が選んだらどうだ?」

 

「……へえっ?」

 

おそらくは俺が再婚する!…なんて言ってくれると期待しまくっていたからなのか、想定外の返事に神威は今まで聞いたこともないすっとんきょうな声を出した。

 

「は…へっ?お父さん?…それ、どういう…?」

 

「まあまあ、別に入籍しろとまでは言ってない…ただお父さんはケッコンしてもいいよ、と言っている」

 

「……ほ、ほとんど同じじゃない⁉︎///ぼ、僕まだ10歳なんだよ⁉︎そ、それに…それに…///」

 

「女の子とちゅーもしてないしな」

 

「わぁぁっお父さんのバカーッ⁉︎//////」

 

バシャーンッ‼︎

 

「ぬわーーっっ!!」

 

何事も煽り過ぎはよくない。近くの風呂桶を使って、俺の顔面目掛けて風呂の湯をぶっかけられた時に俺は改めてそう思った。神威は俺のエキセントリックな言動には慣れているが、流石に今回のそれは予測不可能だったらしい。弁明しようかとも考えたが、結局風呂から出た後は一言も口を聞いてくれなくなってしまった。

 

____________

 

神威には早々に不貞寝をされてしまったが、たとえ俺一人でも明日に向けた執務の調整と母港の見回りは一日たりとも欠かす訳にはいかない。最近は戦況が落ち着いてきたことで夜戦の回数も減り、川内辺りも熟睡する日が続く…しかしそうかと思えば、消灯時間を過ぎた後の夜更かしにスリルを覚えるKAN-SENも増えてきた。そういう時は夜更かしは身体と肌に悪いと説得したり、こっそりゲームしてたらセーブするまで待ってやったり、それでも愚図る子にはあんな事やそんな事もしてあげて何とか寝かしつけている。正直言って疲れる…が、だからといってこうした仕事が嫌いでもないあたり、俺も父親というものが少し板についてきたらしい。

 

「ふわぁぁ…やっと寝れる…」

 

ようやく全ての仕事を終えて神威の眠る自室に戻り、布団に潜り込んだらすぐに眠りに落ちる…と思っていたのだが…

 

「…お父さん、お疲れ様です…」

 

俺の隣の布団で寝ているはずの神威がこちらの方を振り向く事なく、けれども労いの言葉をかけてくれた。

 

「神威、お前…まだ起きてたのか…今日もありがとう、早くおやすみ…」

 

「……ねぇ、お父さん」

 

「なんだ…寝れないのか?」

 

「ううん?違いますよ…僕思い付いたんです」

 

「思いついた?…おいおい、一体何を…」

 

「気になる⁉︎」

 

「うおっ」

 

何やら嫌な予感がしたので寝る前に聞き出してやろうと思ったが、神威にとっては俺が食いついたと思ったのか、普段からは考えられない程の素早い動きでこちらに振り向いた。

 

「…聞きたい?」

 

振り返った神威の表情は、うっすら月明かりに照らされて普段よりも一段と美しく見える。昔一度だけ見せてもらった、妻の子供時代と瓜二つだ…

 

「お前のことだ…またすごい閃きだったりしてな?」

 

「ふふんっ、我ながら名案だよ?…その分お父さんには頑張ってもらわないといけないけどねー…」

 

「ふーん…具体的にお父さん何をどう頑張ればいいんだ?」

 

何を言われるかは皆目検討もつかなかったが、子供の考えそうなことだから何か甘えたいのだろうか…なんて気楽に構えていたものだから、神威の放った一言に俺は脳天を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

「お父さんが決めてよ、僕のお嫁さん!」

 

「……………」

 

全く意味が分からなかった。理解は出来るがしてはいけないと、俺の全細胞が警鐘を鳴らしていた。お父さんに決めてもらう…何を?お嫁さん…神威の?おおそうか、そうか…それはお父さん頑張…………はっ???

 

「…お父さん?」

 

「………な、なぁ神威…今夜はもう寝よう?明日になればまた考えも変わるんじゃあ…」

 

「いや!絶対にお父さんに決めてもらうの!僕のお嫁さ…」

 

「うるさい!誰かに聞かれたらどうするんだ⁉︎戦争だろうが⁉︎重桜なめんなぁっ⁉︎」

 

「んんんーっ⁉︎んんんーっ⁉︎⁉︎」

 

とりあえず内容が不味い。神威を自分の胸に抱き抱えて、ついでにほんのちょっとだけ締めて大人しくさせる。話はそれからだ…あぁ、今ならまだ間に合うから嘘だと言ってくれ、我が息子よ…

 

「ううっ…まだ頭痛いよ…」

 

「……すまない神威、お父さんにも分かるようにこれまでの経緯を詳しく説明してくれ…今、俺は冷静さを欠こうとしています」

 

「もう欠いてませんか…?」

 

「まだ大丈夫だ、多分問題ない…だいたいなんでそんな結論に至ったんだ?」

 

「その…お風呂の後からずっと考えてたんだけど…急にお嫁さんなんて決められないから…じゃあお父さんに決めてもらったら全部丸く収まるかなって…」

 

…つまるところ俺の無責任な発言を真に受けてしまった故の結論らしい。なんてこった…最初から最後まで悪いのは全部俺じゃないか…

 

「あー…その…神威…お父さんはだな?お母さんが恋しいんだったら、お母さんみたいな人とケッコンしてもいいよ?って言ったんであって、必ずしも今すぐケッコンしなさいなんてことは…」

 

「…お母さんは今すぐにでも欲しいもん」

 

そもそも子供とはこんな風に無邪気で我儘なものだし、神威がここまで意地になる事も珍しい。当然父親としてはこんな人生を強いてきた以上、叶えられる事は叶えてやりたいのだが…

 

「…誕生日プレゼントならすぐにあげられるんだがなぁ…こればっかりはなぁ…」

 

「むーっ…お父さん、そこをなんとか!ほら、我らが橘一族のさらなる繁栄の為にもお世継ぎ探しは大事な事でしょう?」

 

「おま…こんな時だけ都合良く一族の名前を出すんじゃないよ全く…ご先祖様に怒られるぞ?」

 

「そうかなぁ…僕が大人になってもいい人連れてこないまま、一族が絶えるのよりはいいんじゃない?」

 

「はぁ…今年のお盆はご先祖様のお墓、念入りに綺麗にしような…」

 

「…家族三人で?」

 

「だぁぁぁぁっ、もーっお前って奴は…⁉︎」

 

「えへへっ…ごめんなさい…」

 

若さ故の過ち…というには若過ぎるのだが、かといって冗談にも見えないのがこれまた考え物だ…ひとまず、一夜で結論の出る問題ではないし、出してもいけない。

 

「…分かった…考えておいてやる。いいか?考えておくだけだぞ…明日明後日に決められる事じゃないからな?」

 

「…でも約束はしてくれるの?」

 

「…はぁ…まあ、お前のお嫁さんはお父さんにとっても他人じゃなくなるからな…」

 

…実際問題その気になって考えれば幾人か候補はいるのだが、今現在ようやく上司と部下としての信頼関係を築けてきた相手が、数年後か下手したら今年中には愛する息子の伴侶になっているかと思えば思うほど父の心は複雑だ。ましてや選べなどと…

 

「…神威、とりあえず今日は寝よう…もう遅いし、明日からはまた忙しくなるんだからな?」

 

「…いい子にして、お仕事も頑張ったらその時は…」

 

「…あぁ…全部落ち着いたら、お父さんがお前を幸せにしてくれそうな人を見繕ってやるから…最後はお前が決めなさい、いいね?」

 

「…分かった!」

 

「はぁ…じゃあ、おやすみ神威…」

 

…自分の伴侶にするかどうかだけは自分で決めると神威も約束してくれたようだし、一旦全部忘れて俺も今夜は身体を休めよう…

 

「あっ…お父さん、お父さん!」

 

「なんだなんだ…指切りでもするか?」

 

「ううん、じっとして…」

 

「んっ?あぁ…じっとして?」

 

皮肉にも今朝と同じ事を言われ、嫌な予感を感じながらも言われた通りにじっとしていると…

 

…チュッ❤️

 

「…大好き♡」

 

「かっ……⁉︎///」

 

…意外にも人生で初めて…にしては割とマジっぽい口付けと共にこれまたマジっぽい愛の囁きを、よりにもよって愛する「息子」からプレゼントされた。一応断っておくが口付けは頬にされた。流石に深夜で親子のアッー♂は不味い。それだけは許されないし許さない。

 

「…かっ…ば、馬鹿野郎⁉︎初めては大切にしろってお父さんいつも言ってるでしょうが⁉︎」

 

「お父さんは男の人だからセーフでーす♪」

 

「…ええいっ、いいから寝ろ‼︎お休み‼︎明日は六時半に起こすからな⁉︎」

 

「はーいっ、おやすみなさーい♪」

 

よく分からない理屈は丁重に無視しつつ、何故か機嫌が良くなった神威に対して俺は突っぱねるようにして背を向けた。今の姿を見られるのはもっと不味い。父親としての威厳が完全に無くなるっ…‼︎

 

(くそっ…くそっ、くそっ‼︎情けない‼︎情けないぞ竜胆⁉︎かつて重桜の人修羅と呼ばれた男がこの程度か⁉︎いくら愛しているとはいえ、息子に!男相手にっ…⁉︎…うおおおお鼻血止まらん…⁉︎⁉︎⁉︎)

 

…やがて満足そうに安らかな寝息を立てはじめた息子とは裏腹に、俺は一晩中生死の境を彷徨うのだった。




ここまでのご高覧、ありがとうございました。
プロローグと一話は台詞のみの変更に留まりましたが、二話以降は細かな点も含めて手直しが入っております。
これからもどうか暖かい目でご愛好頂けますと幸いです。
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