マルメロ家だいすき日記2022〜2023   作:大野 紫咲

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2022/3/22にPrivatterと同時投稿したもの。(以前はどこのジャンルに入れたらいいか分からなかったので、別のシリーズ放り込んでました←)
タイトルの表記通り、Skyの深淵の季節、ラストミッションにおけるレポ兼エッセイです。
ヨアさん視点。
※「Sky〜星を紡ぐ子どもたち〜」の季節のクエスト「深淵の季節」のネタバレを含みます
※諸々捏造設定あり
※2025年から、夜翰さん→ヨアさんの修正作業を始めました!


マルメロ家の日常1
深淵に光見ゆ(Sky深淵の季節パロ)


「最後の任務は、ヨアさんにお任せしたいんだ。

今までのクエストは他の子達に任せてたから、直接任務に関わってもらったことはなかったけど、ヨアさんなら何が起こっても何とかしてくれると思うし」

 

 そうボクに無茶振りしてきたのは、ムラサキ——我らがSkyマルメロ部隊の隊長だ。

 ボクが元いたバーチャル世界じゃ、ボクが隊長のはずなんだけど。まあ、ここではムラサキが指揮権を持っているから、従うより他ない。

 まったく、いくらこっちでの素潜りや、エビこと暗黒竜との接触に慣れたからって言って、いきなり高難易度が見込まれるラストミッションに参加させるなんて。横暴にも程がある。

 

「予想は何もつかないんだよね?」

「うん。何があるかは全然分からない。まあ前回スズに行ってもらったのがアレだったから、今度も暗黒竜絡みだろうとは思ってるけど……下調べは私と直生くんでやったし、もしそうでもしっかりガイドするからね」

 

 そんなヤバいところに行かせられるのかと思わずボクはげんなりしたが、その笑顔が眩しい。

 無条件にボクに寄せられる全幅の信頼も、眩しい。

 そんなんだから、ボクはまたあんたにホイホイ乗せられて、まだ見ぬ地へ赴いてしまう。

 結局、依頼主であるスカベンジャー達の甲板にやって来たボクの前で、任務が発表された。

 というか、隊員達全員がモロに慌てていたので、明らかだった。

 

「……何? 人探し? それならボクに任せてよ」

 

 どうやら、彼らの仲間である「豪快な砲手」がいなくなったらしい。

 この砲手、過去の資源採集のミッションでは、ムラサキやエリスに喧嘩を吹っ掛けて彼らを憮然とさせていたようだけど、行方不明で仲間が心配しているとなれば話は別だ。

 大事な仲間が欠けて困っている連中を前に見捨てられるほど、このヨア様は血も涙もない人間じゃないからね。

 

 狼狽えるスカベンジャーの隊長に勢いよく敬礼を返すと、ボクは颯爽と空へ舞った。

 灯台のふもとに、砲手が使っていたと思しき船があるのが見える。なんだ、船があるならすぐ見つかるじゃないか……と思いきや、船の中に砲手の姿はなかった。

 きょろきょろと見回すと、あからさまに船から垂らされた旗付きのロープが、下の方へと続いている。

 

「は〜ん……? これを辿って行けと?」

 

 大方、大見栄切って更に深い場所まで潜り、もっと珍しい資源を採掘しに行こうとしたけど、その途中で何かに巻き込まれたか力尽きたってところだろう。まったく、世話の焼ける。

 そして、あの経験豊富そうな砲手が帰って来なくなるあたり、少なくとも安全な場所ではなさそうだ。

 抜群の推理力でそう結論づけたボクは、ムラサキに通信機で報告を入れてから、環礁のイソギンチャクの森目指して潜水した。

 

「こちらヨア。今から潜水に入る」

『了解。旗が続いてる建築物のあたりは、底部にエビが徘徊してるから気を付けてね』

 

 ボクらの胸元にあるエネルギー源でもある星は、通信機兼ライブカメラの役割も果たしているから、どこに居ても離れている隊の本部に連絡できる。

 ムラサキからの指示とアドバイスに従いながら、ボクは酸素の素を切らさぬよう用心し、少しずつ光の届かない海底に近づいて行った。

 

(ここから先は、まだ行ったことがないな……)

 

 足元の水を、暗黒竜の青いサーチライトが舐めるように染めている。

 けれど、船から続く旗は、竜が徘徊するさらにその向こう側へと延びていた。真っ暗で、道も構造も見えない海の最深部へ。

 

「……行く?」

『もっちろん! 万が一当たっても潜れば振り切れるだろうし、どのみち奥へ行かなきゃならないんだろうから、限界まで息吸って、とにかく潜り続けて。止まらないで』

「了解」

 

 ボクも、ムラサキの指示が妥当なように思う。

 力強い返事に励まされるようにしながら、ボクは意を決して垂直に潜水し始めた。

 方向感覚を見失わないよう、無線越しの声を頼りにしながら、なんとか当たらずにサーチライトをかわし、一心不乱に水を掻き続ける。

 そうしているうちに、体がどこか知らない場所へと運ばれていくのが分かった。底がある……と思っていた場所よりも、さらにもっともっと深い方。その途中に、何かうすぼんやりとした浮いているものが見えた。

 暗がりの中、自分の放つ微かな光を頼りに近付くと、それは物ではなく人だった。特徴的な髪型に、厳ついガタイの精霊……探していた砲手だった。

 だらんと手足を垂らし、完全に力と意志を失くして漂っている。

 

「おい。おい、しっかりしろ」

 

 無事かどうか確認したいが、空気も光も届かないここでは、それすら判断のしようがない。

 それに、長居はこちらの身も危うそうだ。辛うじて通りすがりの魚に酸素をもらってきたが、これ以上はこちらの息も続かなさそうだった。

 

「こちらヨア。砲手を発見。一旦浮上する」

『急いで。とりあえず真上まで行けば、途中に酸素の素があるから、そこで休憩して』

 

 ムラサキの指示を頼りに、彼を担いで再び上へと戻ろうとした……その時だ。

 真っ暗闇の先に、幾つもの不気味な赤い光が灯るのが、目に入った。

 

(……マズい)

 

 何だか分からないが、身の毛のよだつような感覚に、圧倒的危機回避の本能が刺激される。とにかくあれはヤバいものだ。

 

『ヨアさん?』

「く……っ!」

 

 人一人を抱えた状態では、いくらボクでも水泳能力に限界がある。

 どう考えても上を目指した方がいいと分かっているのに、泳げども泳げども進まない。よほど深いところまで潜っていたらしい。

 そのうちに肌が粟立つような事実に気が付いた。……ボクが進まないのではなく、同じくらいの力で、後ろから吸い込まれているのだと。

 

『ヨアさん!?』

 

 間に合わない。

 赤い目玉をくっつけた巨大な頭が、ボクの泳ぐ速度を凌ぐ勢いでぐんぐん近付き、くわっと巨大な口を開ける。ムラサキの悲鳴と同時に、ボクらを飲み込む牙の揃った巨大な口が見えて、ボクの意識は一旦途切れた。

 

***

 

「う……?」

 

 どのくらい時間が経っただろう。

 ふと体の下の硬い感触に、ボクは身を起こした。這うようにして起き上がり、辺りを見回すと、何もない真っ暗な空間だった。

 いや……正確には、何もないわけじゃなかった。ボクが助けようとしていた砲手が、すぐ傍に転がっていた。慌てて近寄りながら、ボクは声を掛ける。

 

「おい……おい。しっかりしろよ」

「……」

 

 そっと体を揺すってみたけど、反応はない。

 近寄って触れたボクの体が、星屑のような光を浴びて俄にキラキラ輝き、ボクは息を飲んだ。押し寄せる波のように、触れた指先からケープの端まで、光のしじまが広がっていく。

 

(ということは、光のエナジーの反応はあるのか……)

 

 気絶しているだけで、この砲手は死んだ訳ではないらしい。とりあえずほっと胸を撫で下ろしたものの、さりとて状況が好転したわけでもない。どうしたものかと、ボクは腕を組んだ。

 記憶を辿る限り、あの水底から追い掛けてきた化け物クジラの腹の中と見て間違いないだろう。クジラか何か分からないが、とにかくバカでかかった。今も、ボクらを飲み込んだまま泳ぎ続けているのだろうか。

 

(それにしても……)

 

 ピノキオじゃあるまいしクジラに飲まれた事なんてないけれど、飲み込んだ海水や胃液に溺れたり、消化管に絡め取られたりせずに自分が無事に生きているあたり、驚きだった。

 生き物の体内って、普通もう少し、血が流れる音だったり内臓の蠕動運動だったり、心臓の鼓動なんかが感じられるものじゃないんだろうか。

 ここは、驚くほどしんとして寒い。虚無の空間だ。脱出するどころか、ここに永遠にいたら、自分が誰でここがどこなのかも分からなくなってしまいそうなほど、果てのない無機質の暗闇。

 不意に、ムラサキや仲間たちの笑顔を漠然と思い出した。

 訳もなく、あの場所に帰りたいなあ、と。

 ボクは常にこんな感傷に浸る性格をしてる訳じゃないけれど、何の前触れもなしに、しんしんと降り積もるような孤独の中で、そんな思いが頭の中を掠めていったんだ。

 

 その時突然、胸元の星が光り出した。ぱちぱちと電灯のように明滅したかと思うと、ピーガガガという通信機特有のノイズが入った後に、だんだん聞こえている声が鮮明になる。

 

『おーい? ヨアさん? おーーーーーーい!!! どうなった?おーーーーい! 大丈夫ー?』

「もしもしッ!?」

 

 よかった! 通信はまだ生きている!

 聞き覚えのある声に縋るように返事をすると、光の向こうの声が安堵のそれに変わった。

 

『よかったぁ。突然通信が途絶えるから、どうなったかと思っちゃった。無事だったんだね!』

「無事……と言えばいいのか、ますます悪くなったと言えばいいのか……」

『とりあえず、状況は?』

「砲手は無事保護。意識はないけど、命に別状はなし。ボクの隣にいる。

それで、その……保護して脱出する時に、海底から上がって来た赤目の謎の生物に襲われた。

ボクらに怪我はないけど、どうやら飲まれて完全に腹の中だ。脱出できない」

『何それ、超やばいじゃん』

「あのねぇ……」

 

 こンの、のほほん隊長……本当に状況がわかってんのか?

 この緊急事態を前にして「超やばいじゃん」ときたもんだ。危機感もクソもない。

 思わずボクは呆れてしまった。

 

「何ていうかさ……仮にも隊長でしょ? もうちょっと焦ったりしないわけ?」

『いや、隊長だからこそでしょ。焦ったり取り乱したりしても、何もいいことないんだもんさ。

それに、私は信じてるからね。ヨアさんは、何があっても絶対に何とかするし、ここへ帰って来てくれるんだって。だから、こんなに泰然としていられるの』

「ムラサキ……」

 

 思わず、胸がどくりと熱い音を立てた。

 全部。この緊張感のなさは、全部ボクを信じているから?

 ボクが掠れた声で名前を呟いたその時、ムラサキの後ろから、急にどたどたと足音が幾つも聞こえてきた。

 

『あっ! ヨアさん見つかったのー? よかった!』

『まあ、あいつがそんなに簡単にくたばるはずねぇけど……っと、おい、スズ引っ張んなって』

『だぁって、直生くんデカ過ぎて画面みえないー』

『あっちのモニターで見りゃいいだろ!』

『エビは、エビふらい……じゃあ、クジラ、竜田揚げ、すれば、売れる。一攫千金』

『ヒバリちゃん、さすがに釣り上げるのは無理よ!?!?!?』

 

 スズや直生、ヒバリ達の声まで、次々に聞こえてくる。こっちがこんな状況だってのに、マイペース極まりない奴らだ。

 けど、そのまったりした声を聴いていたら、不意に呆れと一緒に笑いが込み上げてきて、寂しい空間で悴みそうになっていた指先が、温もりを取り戻した。

 一人でここにいるボクをどれほど励ましたかなんて露とも知らないまま、通信機の向こう側の面々は盛り上がっている。

 

『赤目の生物か……スズが見たって言ってた奴かな』

『あー! いたいた! あのスイッチから鉱石抜いた時に、エビと一緒にどわーって泳いでたよ! ナウシカのオームのキレた奴バージョンみたいだったなぁ。赤い目玉がいっぱいついてたの!』

『そもそもお前があの門を封じてるスイッチを動かさなければ、こんな事にならなかっただろ……』

『てへ⭐︎ だって素材欲しかったんだもーん!』

『この間直生くんと下見した暗黒竜の回遊ゾーンにはいなかったけど、まさかこんな深海に潜んでたなんてね』

 

 後ろで何か言い合っているスズ達を放っておくことに決めたらしく、ムラサキの冷静な声がボクの耳に届いた。姿が見えなくても、彼女が顎に手を当てる様が、声音から目に浮かぶ。

 

『周囲に、何か脱出の糸口になりそうなものはない?』

「さっきから見回してるんだけど、ここホントに何もないんだ。生き物の中にいるはずなのに、地面は磨き上げられた鏡みたいにツルツルしてるし、他に目ぼしいものは何も……ん?」

 

 そう話しながら、通信装置の小型カメラをあちこちに向けつつ歩いていたボクの視線の先に、ふと見覚えのある青白い光が浮かび上がった。

 黄色っぽい斑点のついた、妖しく毒々しく脈打つ植物の苗……

 ボクは近付いて、背丈のニ倍ほどあるそれをしげしげと見上げた。

 

「……闇花か? これ」

『え、クジラの体内って闇花生えんの……?』

「もしこれが、ただの生物じゃなく闇の眷属なんだったら、有り得る話だとは思うけどね」

『んー……じゃー、とりあえずそれ、燃やしてみる?』

 

 他に何もないんだったら、とムラサキに言われて、ボクは頷いた。

 腹で小火(ボヤ)を起こしたところでクジラに大したダメージが入るとも思えないけど、何もしないよりはマシだろう。少なくとも、今までにこいつを燃やして損になったことは一度もないし。何かが起こる可能性に賭けるしかない。

 胸元の星から出した蝋燭の火を翳すと、溶けるように弱った闇花が焼け焦げていく。

 

「おっと……」

『大丈夫? 結構大きい花みたいだけど、一人でいけそう? 口で応援する事は出来るけど、さすがにお腹の中までは手伝いに行ってあげられないし……』

「このぐらいなら何とかなる。ボクを誰だと思ってるわけ?」

 

 それに、この大きさの花までは一人で燃やせるっていうのを教えてくれたのは、ボクの仲間達だ。

 足を滑らせないよう、慎重に三叉に分かれた枝を飛び移って、上から順番に燃やしていく。

 と、おしまいまで花を燃やし尽くした時、ボクは闇に混じるように、何かが花に覆われて存在していたことに気が付いた。おそるおそる手を伸ばして触ると、表面はつるつるして硬い。その全貌は真っ暗なせいでまだ何も分からないけれど、この感触、どこかで知っているような……

 そうだ。あの、開放前の石化してしまった精霊に似てる。

 

「花で埋まってた場所に、何かある。大きい……灯したら何かわかるかもしれない」

 

 そう報告したボクに、通信の向こうで喧嘩騒ぎをしていた連中まで、一瞬しーんとなった。

 ボクがキャンドルを翳すと、パキパキという、何かを殻の内側から突き破るような音に、ムラサキの声が重なった。

 

『気をつけてね』

「わかってる。でも、そんなに邪悪な気配は感じない……」

 

 そう言い終わる前に、灯していた物体はみるみるうちに頭から光り輝き、翼と尾のシルエットが青白く眩い光と共に現れ始めた。思わず息を飲んだボクの目の前で、完全に覚醒したそれは、闇を振り払い、大きな翼をはためかせて一鳴きする。

 

「これ、は……マンタ、なのか……?」

 

 蛍のような光を纏い、ゆらゆらと翼を動かすマンタと、ボクは真正面から向かい合う。

 このクジラほどじゃないけど、星の子の一人や二人軽々と乗せてしまいそうなほどに、巨大なマンタだ。

 ボクは思い出す。一番最初に、この島で潜水能力を授かったエリスから、このマンタが飛んで来て目の前に現れたという話を聞いたことを。本体は、このクジラの中でずっと眠っていたんだ。

 

「……ボクらを呼んでいたのは、あんただったのか」

 

 ボクの願いを、聞いてくれたのだろうか。

 それとも、マンタ自身の願いを叶えた、対価としてだろうか。

 嬉しそうに鳴きながら空間を旋回したマンタが、光を放ちながら戻ってくる。

 目も眩むほどの真っ白な光に、再び何も分からなくなった。

 気圧の変化が、急上昇を伝えてくる。辛うじて意識を保ったままで目を開けると、明るい海水の色が近付いてくるのがわかった。

 ボクと砲手を連れたマンタが、勢いよく潮の流れに吹き上げられる——と思った次の瞬間、ボクらは旋回しながら、クジラの口から海の中へと、勢いよく解き放たれていた。

 

***

 

「うわッ……!」

 

 さっき、飲まれた時と同じ場所だ。

 慌てて脚で水を蹴りながら浮上したけれど、クジラが追ってくる気配はない。

 それどころか、周囲を無尽の魚達が舞い踊るようにして泳いでいる。

 竜巻のように旋回する魚の群れは、一緒にクジラに飲まれていた奴ららしい。広い海に還ってきた歓びに満ち溢れているのが、ボクらの背中を押し上げるように泳ぐ動きで分かる。

 無数の魚に彩られた、水底から見上げる光の透けた青とモスグリーンの海は、なぜだか涙が込み上げそうになるほど、美しい眺めだった。

 

「……」

 

 この気持ちを、なんと表現したらいいんだろう。

 感動したとか、安心したとか、綺麗だとか、生きててよかったとか。ありきたりな言葉では言い表し切れないほどの、込み上げる感情を。

 今はただ、ムラサキと仲間達の元へ、無性に帰りたいと思った。あの笑顔が、これ以上なく見たいと思った。

 煌めく気泡が舞う狭間で、ぎゅっと強く、唇を噛み締める。

 しっかりと砲手を担ぎ上げたまま、魚達の動きにも後押しされ、ボクは暗黒竜の居なくなった海底神殿と岩場の細い帰途を、光を見上げて泳いでいった。

 

 元々海にいた魚たちも、新しくクジラの腹から吐き出されてきた魚たちも、一緒くたになってぐるぐる泳いでいる。自分まで魚になったような気分だ。

 途中、ふと肩にかかる荷が軽くなったように感じて振り向くと、意識を取り戻した砲手が、自力で脚を蹴って泳いでいるのが見えた。

 水中でサインをすると、ぐっと力強く親指を立てられる。

 魚たちのくれる酸素の素が、回復の手助けになったらしい。もう大丈夫そうだ。

 随分とプライドの高い奴だったけど、今は大人しく担がれてくれそうなので、ボクは彼に介添えするようにして泳ぎながら、魚たちの歓喜の声に溢れた色とりどりの環礁を見下ろし、砲手が船から垂らしていた旗を頼りに水面を目指した。

 

 泳ぎ切って安堵したのか、それとも疲れてしまったのか、船の傍まで浮上したら再びことんと意識を失ってしまった砲手を、ボクはどうにかこうにか水面から担ぎ上げ、船の中に転がして横たえる。まったく、最初から最後まで、面倒な奴だった。

 これは、非力なムラサキや小柄なヒバリ達には、絶対任せられない仕事だったな……。

 とりあえずこれで一段落したけど、任務は「砲手を見つけて連れ帰る」だったから、今度はこの船を、スカベンジャー達の乗った船まで押して帰るところまで、やらなきゃいけないワケか。

 

(マジで追加手当請求しようかな……)

 

 はー、と海面に背中から浮かぼうとした途端、遠くの方からボクを呼ぶ声が聞こえた。

 

「おーーーーーーい!!! 大丈夫かーーーーーー!!!」

「今、そっちに行くー」

 

 見れば、直生とエリスがこっちに向かってばちゃばちゃと泳いで来るところだった。

 その後ろから、船を漕ぐ探検帽姿のスズと、ヒバリの姿も見える。双眼鏡を目から外したムラサキが、こっちに向かって笑顔で手を振った。

 

「まったく、一家総出で出迎えとか、どんだけヒマなんだよ、うちの隊は」

 

 思わず笑いを禁じ得なかったけど、悪い気分じゃなかった。

 船を運ぶのを手伝いに来てくれた仲間達に、ボクは手を上げて応えながら、乗り上げた船の中にどっと仰向けで倒れ込む。

 ああ、本当に疲れた。

 気持ちよく身を乾かしていく風は塩辛く、太陽は目を刺しそうなほど眩かった。

 

***

 

 その後。

 ボクらに依頼をしてきたスカベンジャーの一団が、仲間の帰還に大喜びしたことは言う間でもない。

 一応今回の任務遂行者はボクなので、代表として面々に囲まれながら、面映さで若干気まずい思いをしていると、不意にあの砲手と目が合った。

 また煽ってくる気なら容赦しないと思って内心で即座に臨戦態勢を取ったが、彼は殊勝に頭を垂れ、胸元に手を当てただけだった。チームに心配を掛けてしまった自覚はあるのか、随分と大人しい。海底資源よりも何よりも、彼の命が助かったことをここの隊長は誰よりも喜んでいたし、その気持ちが彼にも伝わったのかもしれない。

 若干素直じゃないけど、その謝辞と礼を受け取って、ボクも軽く頭を下げた。行動とか態度はさておき、彼の勇敢さと体力と度胸には、ボクも一目置いていたところだったしね。

 

 隊長に合わせ、一斉に敬礼を返した隊員達が、空へと還っていく。

 高らかに吹き鳴らされた笛の音だけが、いつまでも耳の奥に反響する。任務中何度も聞いた、招集や合図の音。この季節とも精霊たちとも、もう本当にお別れなんだな。

 

「これにてミッションコンプリート……ってとこかな」

 

 晴れ渡った空を見上げながら呟き、ボクは目の前に残った最後の一人に問い掛けた。

 

「あんたは、戻らないのか?」

 

 スズによく似たその三つ編みの精霊は、おさげを揺らしながらボクに向かって頷く。案内人として、彼女はこの地に残るのだという。

 

「そっか。じゃあ……」

 

 たまには遊びに寄るのも悪くないかもね、と言おうとしたら、ボクより先に彼女の方から拳を突き出された。グータッチを重ね、ボクらは二人で笑い合う。

 彼らの物語はこれで終わるけれど、そこに残った記憶を、体験を、彼女が語り継いでいくのだろう。

 願わくば、その一連の物語に少しだけ与したボクらのことも、この地にいつかやって来る誰かが、伝え聞いてくれますように。

 ほら、別にボクは自分の功績を見せびらかしたいワケじゃないけど、あんなにみんなして頑張ったんだからね。少しくらい胸を張ってもいいだろう、とボクは潮風に向かって嘯いた。




おまけ
紫「ちなみに追加手当てってさ、何払えばいいの? 採集した鉱物はゲーム外のものに換金出来ないし、私あんまりお金持ってないんだけど……」
ヨ「別に、物とか金で払ってもらおうとは思ってない」
紫「そうなの? じゃあ肩たたき券とか、繕い物一回無料券とか?」
ヨ「なんでそう実用的な方向に行くかな……(呆)それでも十分だけどさ」
紫「……?」
ヨ「くれるって言うなら貰うけど、別に慌てないから今すぐとは考えてない。もう少し暖かくなってから、落ち着いてからで構わないし」
紫「え? そんなゆっくりでいいの?」
ヨ「まぁ、あんたが分割するつもりなら、とりあえず会える限りは、夜の時間を空けてもらおうか?」
紫「……。へ……あっ……エッッ」(ブワッッッ(察し)(赤面)
ヨ「あ〜あ、あっちの世界でも働いてるのに、今回の仕事大変だったんだよな〜。ボクが満足できるまでは、支払って貰おうかな」(薄い笑み)
紫(こくこくこく)
エリス「あーーーーーーーーーーはいはいはいはいはいはいごちそうさま( ˙꒳˙)」

深淵の季節、お疲れ様でした!
楽しいイベントをありがとうSky!
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