※筆者は2023年1月にモンハンを始めたばかりのド素人です。できる限り調べてはおりますが、文中の記述が間違っている場合もございますのでご了承ください。
※モンハンライズの登場人物との間に夢要素やカップリングはありませんが、モンハンライズの「主人公」(女性)と夢主(女性)との間に夢要素があります。
※オリジナル設定多めにつき、モンハンの世界ではあり得ないことが起こっている可能性が多々あります。
※以上を踏まえて何でもいいよ!!!という方のみ、閲覧へお進みくださいm(_ _)m
ある時、ムラサキが夢の中で目を覚ましてみると、そこは一面の大自然。
見覚えのある風景に驚くものの、丸腰で野生のモンスターの出現地に置かれている状況に軽くパニック。
そこへ現れたのは、いつもムラサキのパートナーを務めるヨアにそっくりな女性で……
※2025年から、夜翰さん→ヨアさんの修正作業を始めました!
※ただ、設定が執筆当時のままなので、ヨアさんは暁人くんが自分の従兄弟だという事をまだ知らないまま、ものすごくびっくりするという展開になっています←(カクヨム本編では、二人は最初から従兄弟兼幼馴染同士です)
其は、いにしへの君【MH×マルメロ家】(1)
ぴちちと、何処かから鳥の囀る声で目が覚めた。
とろとろと微睡みをもたらす睡魔の中で、瞼をあたためる日差しが眩しい。
まだ朝には早いはずだけど……というか、磨りガラスの二重扉を閉めてあるアパートの部屋に、こんな眩しいほど朝日が差し込むなんて、よほど太陽が昇ってからじゃないとあり得ない。
おまけに、なんか体の下がチクチク……ちょっと待ってこれ布団じゃなくない?
思わず体を起こすと、ぶわりと顔面に風が当たって、ここが完全に屋外であることを思い知らされた。
広がった青空と、眼下に広がった大自然。遠くで川や滝が流れているらしい音がどうどうと鳴り響き、岩肌や森、草に覆われた地面や土をならした獣道で囲まれた風景には、現代社会で見慣れたコンクリートの建物など、影も形も見当たらない。
そんな中、樹上のてっぺんの巣のような場所にいる私は、袴着のまま身一つで放り出されていたのだった。
「あ〜〜……えーっと……?」
リアルで着ているパジャマじゃなくて袴姿ということは、今の私は「紫咲」だ。
枯れ草を持ち寄って作られたような巨大な巣に、そっと手をついて乗り出すと、太い根っこが張られた木の根元まではだいぶ高さがある。ビルの三階くらいはあるかな。
ひょお、と風が袖下を潜り抜ける中、見晴らしのいい場所にいるおかげでそれとなく全方位を観察したが、やっぱり見覚えのある場所のような気がする。
「大社跡……だよなぁ……」
ついさっきまで、ヨアさんが狩猟で駆け回っていたフィールドそのものだ。
訳もわからず、ある日突然カムラの里に魂が転移するようになってしまったヨアさんが、ハンターとして最初に狩場にしている場所。
私はそれを、背後から見ているだけのはずだったのに。
物語の創造主としての私・大野紫咲には、普段自分の住んでいる空間にみんなを自由に招くことができる代わりに、ある制約がある。
私自身は、決して元の世界を離れることができない。例外は、Skyの世界に行く時と審神者業を行う時、そしてセブンスコードにログインする時。今のところこの三つだけだ。あれだけ親しくしている直生くんの世界にさえ、私は行ったことがない。
それなのにここにいる……ということは、おそらくこれは夢。
それが物語となるか虚像となるか、まだ真か偽かも判然としない、曖昧な時期に見る夢。
夢の中ならば一定時間、しかもごく短い間しか私は世界に干渉しないから、こうやって本来は行き来の許されない世界にやって来たり、誰かと話したりできることもある。私はこれを勝手に「夢渡り」と呼んでいる。
それはわかったが……
(このままここに居たら私死ぬのでは???)
びゅうびゅう風が吹き抜ける高所から下を、私は覗き込んだ。
里の外側は、歴戦のハンター達でさえ命を落としかねない危険な野生の世界である。武器ひとつ持たない丸腰の人間が格好の餌であるのは間違いなく、地図もよくわからない中でモンスターに一度も遭遇せず里まで向かうなど、まず不可能に近い。
こんな高い樹上にまで登ってくるモンスターがいるかはわからないが……下に降りなければある程度安全だろうか。いやどちらにしろ、それじゃあ動けないことに変わりはないんだけど。翼の生えた翼竜みたいな奴だっていたし。
いくら夢だから問題ないとはいえ、私だって別に進んで死にたくはない。腹ペコのアオアシラに手掴みで食い荒らされるのも、イズチの群れにどつき回されるのもごめんだ。
夢よ、なぜ私をここに連れて来た。どう考えても場違いにも程があるだろう。
このひょろい体で武器を持てることは初めから期待していないが、せめて閃光玉とか毒けむり玉くらい持たせといてくれよ……と思いながら着物の袂を探っていると、不意に後ろからガサガサッと音がして、私はびくつきながら振り返った。
何かが蔦を登ってくる音がする。そうだった。こんな絶壁に近い高い場所でも、登る場所さえあれば四足獣はいとも容易く上がってくるのだ。何も鳥の巣っぽいからって、本当に鳥の巣だとは限らない。
何かのモンスターの巣だったら一巻の終わりだ。そう思って身構えるよりも先に、勢いよく獣の頭がひょっこりと下から顔を出した。
「ばう!」
「わっ! ……え、あれ、ガルク……?」
私を見てぺろりと舌を出した、青い目の大きな獣。見慣れたオレンジの襟巻きっぽい武具には見覚えがある。
しゅたりと器用に巣の上に降り立った垂れ耳の白茶っぽいガルクは、箒の房ほどある尻尾をぶんぶん振って、私が何か言う前に勢いよくのしかかってきた。どさりと巣の中に押し返され、危うく落ちる勢いだったので文句の一つも言いたくなったが、顔中ベロベロ舐め回されてもうそれどころではない。
「ばうわう!」
「わっ、ちょっ、くすぐったいっ! ひひっ、やめ……くすぐったいってばぁ」
顔も首も涎だらけだし、首筋にも背中にも枯れ草が当たってチクチクするしで、もう何が何やら。
容赦なしに舐めまくられて私が笑い転げていると、不意に樹の下の方から指笛の音がして、ガルクはさっと音のした方角に顔を向けた。
「おーい! 何か見つかったかい?」
「ばう!」
報告するように、元気よく吠えて尻尾を振ってみせるガルク。
草だらけになった着物で身を起こすと、そこにヨアさん——この世界にいる、もう一人のヨアさんの姿がある。
馴染みのカムラの里の装束を纏った、筋骨隆々の女狩人。でもおかしいな。今夜は私の傍で寝てたから、ヨアさんは今も元の世界で布団の中にいるはずなんだけど……。
その隣には、どんぐりの装束にヘルメットを被った、オトモアイルーことベルちゃんの姿もある。
てことは、やっぱりこのガルクは、いつもヨアさんのオトモガルクをしている直生くんだ。直生くんは、この世界では何故か人ではなく動物になってしまっていた。
不思議に思ってもっとよく見ようと顔を出したら、直生くんの隣に私の姿を認めたその狩人は、少し驚いたような顔で目を丸くした。そりゃ、こんな巣の上に人間がいたら驚くよね。
「なんてことだ。採集物だけのつもりが、とんでもないものまで見つけてしまったみたいだな」
「ばうばう!」
「あはは、どうも……」
「君、そこから下りて来られる?」
「いや無理ですが!?」
「大丈夫。その子の上にしっかり掴まって。落ちたら僕が下で受け止めるから」
「え、ええ……」
既に直生くんは、その横に身を屈めて乗れと言ってくれてるみたいに見える。
意を決して上に跨ると、狼みたいなその体がにゅっと立ち上がった。
どこを掴んだらいいのか、慌てて首周りに抱き付いて毛を鷲掴みにすると、直生くんは器用に体を反転させて、来たのとは逆向きに、お尻から蔦を伝って降りていく。
たしかに優秀な猟犬だが——カムラの里の優秀なハンターは、ひとつ忘れている。
ハンターではないごくごく普通の、しかも普段ろくすっぽ外に出ない引き篭もりに、90度の絶壁に蝉の如くくっついたまま体重を支える腕力など、あるはずがないということを。ちょっと待ってハンターの人っていつもどこ持ってガルクに乗ってるの??? わからん。
おまけにこの直生くん、ブラッシングが行き届いていてめちゃくちゃ毛がつるつるだ。掴んでも掴んでもよく滑る。
「わひゃあああ」
あとちょっとで地面につく、というところで手が滑って力尽きた体が、重力に従ってあっさりと落ちる。
思わず目をつぶったまま、次の瞬間、どさっという音と共に腕の中に飛び込んでいた。
「……」
「ふう。危ない危ない。よくぞ耐えた。素人にしてはいい乗りこなしじゃないか」
おそるおそる瞳を開けると、左右で色違いの瞳が、私を見て優しげに緩んだ。
今更だが、私の膝裏と背を支える両腕の筋肉の盛り上がりがすごい。うちのヨアさんだってお姫様抱っこくらいはできるし、この世界のヨアさんは修行で鍛えているのだから逞しいのは当たり前だが……なんというか、いざ身近で接すると、安定感が半端ない。腕や脚の太さからして全然違うもん。
後から降りてきた直生くんが、抱えられた私とヨアさんの周りをくんくん嗅ぎながら歩き回っている。
傾き始めた西陽に照らされる褐色の肌が美しくて、私はぼんやり見惚れてしまった。血色のいい肌色に、彫りの深いぱっちりした瞳……紺の頭巾が似合うボブの前髪は艶々として、この世界ならではの独特の味わいがある顔立ちだ。やっぱり、本人とは少し違う。
それでも、長時間見つめていられない顔立ちなんだよなぁ……と私はバクバクした心臓を抑え、ろくに目も合わせられないまま慌てて言った。
「っあのあの、ありがとうございます……」
「大丈夫? ケガはない?」
「いえ! 全然大丈夫ですおかげさまで!」
おまけにこの王子様みたいな声。ときめくなと言われる方が無理だ。
いくら揺るぎようもない体に抱かれているとはいえ、さすがに長時間私の体重を持たせるのは申し訳ないと思っていると、地面に降ろすのかと思っていたヨアさんは、そのまま私を持ち上げて、軽々とガルクの前方に押し上げた。
「あ、あの……?」
「とりあえず、ここに留まり続けるのは危ない。さっき、アオアシラの進路になってるところを見たからね。もうすぐここに戻って来る。その前に移動しよう」
「ガルクって二人乗りできるんですか?」
「君となら問題ないだろう。小さいし」
「小さいって言うな!」
言いながら私の後方に跨るヨアさんに思わず突っ込んだが、風のように走り出した直生くんに置いていかれないよう、鞍の背中にしがみついているのが精一杯で、それどころじゃなくなってしまった。
「しっかり掴まってるんだよ」
紫色の袴の裾が、なびいて後ろに流れていく。崖から崖に飛び移ったり、崩落した屋根の上に飛び乗ったり、ものすごい速さだ。ガルクに乗ったことのない私にはこれでもロデオみたいに感じるけど、こんなに高い位置や距離を移動している割には、地面についた時の衝撃も少なく、本当に風が走っているみたいだ。
いくら小柄とはいえ、人二人を乗せているのは大変だろうに、直生くんはヨアさんとのコミュニケーションもばっちりで、勝手知ったるとばかりに楽しそうに地を駆けていく。前に乗っているから、開けた場所や林の間にモンスターの群れがよく見えた。
多分私を拾ってしまったからだろう、時折速度を上げて距離を空けながら、ヨアさんは上手い具合にモンスターの群れを躱していた。背中に当たる武具に覆われた大柄な体が、頼もしいことこの上ない。
採集ポイントで、弾や薬草となる植物を手早く刈り取っていくヨアさんを待ちながら、私は尋ねた。
「あの……ごめんなさい。狩りの邪魔しちゃってますよね」
「気にするな。どちらにしろ、今日は足りない薬草と夕飯の材料を補充して帰るつもりだったんだ」
厚みのある唇で快活に笑い、ガルクの背に乗ったままで器用に骨塚を漁る。
土を掘り起こすその手つきさえぐっとくるものがあって、私は飽きずに小手の指先を見つめていた。
「それ、なんですか?」
「んん? これは怪骨だよ。何の骨かはわからないんだが、素材として使うに十分なほど強度があるのと、捻れているのが特徴でね。武器や防具の強化に使われている」
「へえ〜……あっ、あっちの黄色いのは?」
「あれはヒャクメマダラ。蝶の一種だ。鱗粉にスタミナ消費を抑える効果があってね。狩りの時は重宝するよ」
ついつい指差して聞いても、嫌がりもせず答えてくれる。
この世界においてはほぼ物知らずに等しい私を、珍しがる様子も訝しむ様子もない。
それどころか、あちこち子供のように指差す私を、微笑ましげに見つめていた。
(てことは……やっぱりヨアさんなの……?)
流れでここまで来てしまったので、名前すら聞けていないのだが。
でも、気になることはもう一つある。その瞳の色。
ヨアさんは、元の世界でかつて持っていた特殊能力の影響で、左目がオレンジに近い色をしていた。だから、こっちでも左右の目の色が違うんだと思っていた。
でも、間近で顔を見ていると……この人は右目が青で、左目は赤紫。ヨアさんとは根本的に色が違う。後天的に電解質の影響で目の色が変わったヨアさんとは違い、生まれつき片方の目の色が違うような、そんな印象だ。オッドアイ、っていうのかな。
まあ、異世界に転移すれば目の色が変わってしまうことくらいあるだろうと軽く考えていたけれど、何かが引っかかって。
時折首を傾げながらも、初めて見る風景と自然の空気に興味津々の私を連れ、ヨアさんはやがて、鳥居が崩壊したようなエリアの入り口へと、直生くんの足を向けた。
「さて。完全に陽が落ちてしまわないうちに、帰ろうではないか」
尊大で得意げな言い回しに賛同するように、直生くんが颯爽と歩を進める度、かさこそと足元の草が笑う音がする。その側を、ベルちゃんも離れずに着いてくる。
そうして私は、怪我一つ負うことなく、無事にカムラの村まで辿り着いたのだった。