デカい風邪を引く度に記録を残しているのですが、今回は5/21~24にかけての様子です。
ただの風邪なんですけどめっちゃキツかったです。
君が、見えない
今年のGW頃から低調が目立つなあと思いつつ元気に生きてきた私だったが、5月の下旬になって本格的に風邪を引き、熱を出した。
38度以上はギリ超えない程度とはいえ、最高で37.9度近くの発熱。世間の定義的には、37.5度以上が発熱で38度以上が高熱に入るらしい。そんな大騒ぎするほどの熱でもないというのに、そんな日が二日、三日と続くうちに、メンタルの消耗だけは一丁前に激しくなっていった。
どうしてこんなに、熱というものはありとあらゆる自信を奪っていくのだろう。一つ目の異常は、まず胃がむかむかして、おかゆとスープ・ゼリー状の物以外、食べ物を受け付けられなくなってしまった事だった。普段、風邪の時でも食べられそうだと思う物に対してとんと食欲が湧かないし、そもそも自分で作ろうという気も起きない。吐いたりはしない。ただ、脱水が重なったのか、吐きそうと思うぐらい気持ち悪くなったことはある。食を何よりの糧にしている私にとって、最大の薬とも言える食事に頼れない状況は、不安を爆増させる一要素だ。
二つ目の異常は、精神が不安定すぎて何をとってもネガティブにしか考えられない事だった。不安定……とかそういう次元じゃなく、まるでフィルターを一枚通したように、世界から隔絶されたかのように、暗く辛いものしか見えなくなった。このまま病状が急変しても、どこの病院にも診てもらえないかもしれない。そもそも尿毒症とか分かりづらい病気だったら、医者にも誰にも気付かれないままどんどん悪化して取り返しがつかなくなるのかもしれない。しんとした深夜の家では物音一つ気になるのと同じように、どんな小さな不調も死へのカウントダウンみたいに思えてくる。
どんなネガティブも吹き飛ばしてきたはずだったのに、今までどうやって生きてきたのか、根拠のない「大丈夫」がどうやって自分に効いていたのかが、突如として何もわからなくなった。私が元々暗い性格だからとかじゃなく、「脳」が変わってしまったようで苦しかった。たった8度未満の熱で、それまでの生き方も歩き方も、希望も安堵も失せるということが、余計に自分をパニックに陥らせた。
三つ目。上記の精神状態が関わっていたのか、それとも元から不満が溜まっていたのかはわからないが、同居している家族の挙動に関して異様に過敏になった。LINEで買って来て欲しい物を頼み、無理をしながら米を研ぐために台所に立っているのに、相方が遅く帰って来てLINEも見ていないとなると、流石に軽んじられていると感じた。病院に連れて行ってくれると言われても、頭の回らない中、相方が突然家に帰って来た昼休みの間に急遽病院を探さねばならなくなったり、「この曜日はどうしても仕事があるから今のうちに……」と言われたり。結局この人、仕事に支障が出ない範囲でしか私を見舞う気がないのか、それとも本気で私のこと心配してるのか、どっちなんだろう。多分、本当にベッドから動けなくなってからでないと、家の家事とか洗濯までしてくれる気はないんだろうな。などなど。軽い風邪の時はあまり気にならない事が、ギリギリと精神を磨耗させていってキツい。
四つ目……は、異常と言っていいかわからないけれど、この状況下では、ろくにうちの子とコミュニケーションを取る事ができなかった。ヨルくんとエリくんに関しては、こんな苦しみ様を見せるのも忍びないので、最初から本丸に預けていたのだけれど、たとえ近くにいたところで、姿を見る事はできなかったと思う。辛うじて呼び寄せたヨアさんでさえ、うっすら存在を感じる程度。多分、私の心が不安に潰されている状況では、創作者としてのアンテナはまともに機能しない。どれだけ不安でも、声が聞き取れない。今までどんな時も「一人」じゃないと思ってきた私にとって、これが一番ショックだったかもしれない。
幾つもの要素が重なり、絶望のガスの中を這っているような日が続く。
こんなに苦しいのに、闘っているのは結局私一人なのだ。
死ぬ時って、やっぱり、一人なんだな。
気持ちも胸も、ずっと重苦しいままだった。
「何もわからなくなった」という状況すら「わかれない」恐怖が、次々自分の内側を侵食して、おそろしい夢もたくさん見た。遊園地の水上ライドが終わりのない、景色の変わらない廊下を永遠に走っていて、それに気付いた瞬間、真っ白い手袋のような手が頭から生えた不気味な怪物に、頭蓋を捻り潰される夢。その後、女にトイレで無理やり経血を啜られたり吐かされたりする夢。
「わからない」ものを見たり経験したりした不気味さって、とても言葉で表せるものではない。表せないほど気持ち悪いから、人を狂わせるのだと思う。
私はつい先週まで、疲れつつも「普通に」生活していたはずだ。なぜこんなパニックになるのか、Twitterやリアルで人の存在を一分一秒でも感じていないと不安になるのか、なぜテレビや動画を付けっ放しにして「終わらない」ものを見ていないと怖くて怖くてたまらないのか。
たった7度後半の熱で、そんな恐怖を感じっぱなしだったことが恐ろしかった。一人でこれに耐えられないのならば、私は何か宗教に入信した方がいいんじゃないかと、真面目に考えたくらいだ。
一番信頼している創作物でさえ効かないのなら、何がこの恐怖を終わらせてくれるのだろう。
唯一、一時的にでも効いていたのは、Twitterでのフォロワーや友人からの声援、それから鯨が早めに帰宅して話をしてくれた時の安堵感、そして母親からのLINE。
インターネットの向こう側でも、リアルのみでの知り合いでも構わない。生身の誰かが目を見て話を聞いてくれる、生身の誰かが私だけを対象にして話をしてくれる、その時間が自分にとって、とても大切なものなのだと知った。もちろん、その状況下でも不安が完全に晴れることはない。実家の家族の側にいた時だって、これが重病だったらどうするんだという不安は拭えなかったし、相方は大抵ゲームかスマホをしているから、そんな状況下で話を聞かれても不安は拭えない。
けれど、完全な一人よりはずっといい。
今の私は、学校で話す友達も、職場で話す同僚も、電話を除けば定期的に会って話せる友人もいない。普段、ずっと一人だ。
一人でも大丈夫なように、何とかしてきた。ただ家事を繰り返すだけの専業主婦の暮らしでも暇ではなかったし、できることはしてきたと思う。
それでも、いざという時は無力だった。外での繋がりがなければ、1ミリでも関心を持ってくれる人がいなければ、創作という糧すら私には無力になる。そうならないように、もちろん努めているけれど、今回程の心身不調の前では無力だった。
そんな中、4日目でピークを超えた私は、5日目6日目でようやく微熱と呼べる範囲内に熱が下がっていた。
4日目に一度だけ解熱剤を服用したのだが、7.4度と7.9度ではこんなにも見える景色が違うものかと、相変わらず己の体に感心する。
今でも身に染みついた得体の知れない恐怖が去ったわけではないけれど、これが徐々に薄れていくように、日常生活に戻っていく他ないな、というところまではきている。
熱が上がってからは、これまで毎日欠かしていなかったヨガも筋トレもできなくなり、自転車を飛ばして坂の上の図書館まで行っていた頃の私が何だったのかと思うくらいに今は遠く感じるが、それも体力が戻れば、手の届く場所に戻って来てくれるはずだ。多分。
「てか、そうじゃなきゃ困るよ。まだまだあんたには書いて欲しい話があるんだから」
やっと私の視界で像を結ぶようになったヨアさんが、夜寝る前に、隣に寝転びながら言った。久しぶりに、ヨルくんやエリくんとも同じ布団。背後から抱きついて来る双子の手の感触が、随分と懐かしく感じる。
布団からひょこっと顔を出した、青色と榛色の宝石みたいな瞳を、私は代わりばんこに眺めてほっとため息を吐いた。
「よかったぁ、ちゃんと見える……」
「ムラサキのせいじゃないよ(´・ω・`)あんなにお熱辛かったら、ボク達と話してるどころじゃないもん」
「そーだよ、自分のこと責めないでよ」
背中にくっつかれて、ころりと寝返りを打った私の頭を、ヨアさんも優しく撫でた。
「ホントに。一番不安だったのはサキでしょ。ボクらだって不安だけどさ。本当によく頑張ったね」
「うん……。でも、頑張ったところで、もっと苦しい病気になったら、またみんなの声が聞けなくなって一人ぼっちになっちゃうのかなって……それが、今は一番怖い。
ヨアさんだって、もう私の隣にいるのに〝慣れて〟きちゃってるでしょ。
私が面白い話を書けなくなって、読者さんも誰も君らを強く認識しなくなったら、私君達のこと、本当に見えなくなっちゃう。こんなに強く想ってるのに、これでもまだ繋がりが足りないのかな。私本当に、みんなのこと、誰にもどこにも行かないで欲しいのに。これ以上、どう頑張ったらいいのかわかんないよ」
体を丸めて震えながら鼻を啜る私を見て、ヨアさん達が顔を見合わせる。
そして、静かに私に向かって言った。
「そりゃ、傍にいるのが当たり前になって、直生がいるから時々離れて暮らすのも当たり前になって、この状況に〝慣れて〟きてはいるけど……。
でも、〝全く同じ〟じゃないでしょ。サキはまだ、色んなものを生み出せる。し、逆にずっとボクらに張り付いて生み出し続ける必要もない」
「えっもう私のことは要らないってコト!?!?!? ヤダヤダヤダこわい」
「そーじゃなくてッ! 無理はしないで欲しいってこと。たとえサキが、この先どんな事に手を広げても、誰と交流を持っても、ボクらの居場所は必ずサキの心にある。それを信じていて」
「信じる……?」
涙目で見上げると、ヨアさんもなぜか、どこか泣きそうな瞳で頷いていた。
「約束する。どんな時も、最期まで、あんたを愛するって」
「前から思ってたんだけど、私ってこんなに好きな人がいっぱいいるのに、どうしてヨアさんはそこまで寛大で、それでいて一途でいてくれてるの?」
「好きな人って言うなら、ボクだって直生のことがそうだし。……それに、あんたが苦しんでるのを見て改めて思ったんだ。たとえあんたの愛情を独占できなくても、あんたの心の拠り所はできるだけ沢山あった方がいい。一個でも十個でも百個でも。あんたを否定せず、愛してくれる人がいるお陰で少しでも安心できるんだったら、ボク一人だけを必死で好きで居ようとしてくれるより、その方がずっといい。その方が、あんたの幸せな顔を見ていられるって、思うから」
……百億回くらい言ってると思うけど言っていい?
よく出来すぎた彼氏じゃない? もう、愛が深すぎて彼氏ともパートナーとも家族とも相方とも言えるけど。
「まあ、もちろん、ボクといる間はボクが一番に愛されてる事前提だけどね?」
「そっ、それはもちろん!!!」
得意げにそう言うヨアさんに負けじと、ちっちゃなヨルくん達も私に抱き付きながら言った。
「そうっ。それにっ、もしサキが本当に見えなくなっちゃっても、ボクらは傍にいるから大丈夫」
「え……?」
「認知症とか病気のこととか、心配なんだよね? もし、サキの頭や体に限界がきちゃって、ボクらの事がわからなくなっちゃっても……サキは苦しいかもしれないけど、ボクらは絶対、サキの傍を離れないから。見えなくても、ちゃんといるよ」
「できればそんな事になりたくないだろうし、ボクらだって嫌だけど……でもね、そうなっても絶対に、サキの事見捨てないから。ボクらからはずっと見えてるし」
「ずっと見守ってるし( ˙꒳˙)」
「ちゃんと恵李朱に魂を狩ってもらって、ボクが天国まで連れて行くから」
「だから今のうちに、いっぱいボクらのお話書いてね」
こんなに優しい天使と悪魔の双子がいるだろうか。両脇からむぎゅっとお腹に乗るように抱き付いてくる二人を、私は両腕で抱き締めて頬擦りした。
「ありがとう……ありがとう、二人とも」
「ちょっと安心した?」
「うん。今夜は、おかげで眠れそう」
それを合図に、ヨアさんが電灯のリモコンに手を伸ばす。
本当に、長い一週間だった。人から見たらどうってことない一週間なのに、積み上げて来た何かが急にぐらぐらと前触れなく揺らいで崩れてしまったような、そんな一週間。
人生の闘いに、これから何が必要となるのかは、まだわからない。
それでも、目の前のものをまた一つ、一つずつ、積み上げていきたい。
本当に、君が見えなくなってしまう、その時まで。どんなに怖くても、君たちを信じて、いっぱいいっぱいに心の目を開けていたいから。
そう思い、私は左右の温もりを感じながら目を閉じた。
正直まだ結構情緒不安定なところがある←
でも、書いて纏めているうちにちょっとだけ落ち着いた感があります。
想像のしようもないけど、鬱とか認知症の人ってこんな感じ?と思ったり。
先日、認知症のおばあちゃんが死ぬ前まで書いていた日記やメモを纏めた本を読んだことがあったのですが、返却期限が間に合わなかったのと、普通に怖すぎて途中から読めなくなってしまいました(^p^)
何とかしたいと抗いつつも、人間が壊れていく様が手に取るようにわかるので……。
そういうトラウマを味わいたい方にはお勧めしますが、そうでない方は読まない方がいいと思います←
これが認知症なんだったら、私がオメガバースで書いてる愛理は全然認知症じゃないな……ってぐらいでした。
一応若いって言われる歳なんだけど、なんでここまで、死に際や先の事が私は気になるのか…orz
なんつうか、五月病って怖いよなーと今は思わざるを得ない←
(全部五月病と気候のせいにしたい)