マルメロ家だいすき日記2022〜2023   作:大野 紫咲

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※長義さんと陸奥守さんの就任一周年記念台詞に触れてるので、ネタバレ見たくない方は注意
※ほんのり兼さになような、そうではないような
※長義さんは名前しか出ません

風邪で寝込んだ主の近侍を務めた際、主がなんとなく陸奥守を避けている事が気になって理由を尋ねた和泉守。
当の陸奥守本人もその場に現れて話を聞いたところ、どうも主のとある勘違いが原因だったようで…?

(しぶverはこちら→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19980045


緊張の理由

「なあ、主」

「うん?」

「あんた、陸奥守となんかあんのか?」

 

 近侍兼看病に、布団に座った紫咲の枕辺へあぐらで控えていた和泉守兼定が、ふとそう問いかけた瞬間。如実にびくっと体を強ばらせた紫咲の湯呑みのお茶が、小さくちゃぽんと跳ねた。

 愛想笑いを増しながら、部屋着のジャージ姿の紫咲がおそるおそる尋ね返す。

 

「な、なんでそう思うの〜……?」

「いや……あんたは最近よくオレと話してくれるけど、なんかこう、他の刀連中とか……特に陸奥守とはオレもよく話すから、余計に目についちまうのかもしれねえけど、なんか緊張してねえ?」

「ほうじゃ! この前も遠征先の鱚を目の前で山盛りにしちゃったきに、主全然喜ばんかったろう!? 主は、鱚は嫌いじゃったか!?」

「うわーーッびっくりしたッ!」

 

 盗み聞きなのか、はたまた廊下を通った時にたまたま聞こえたのか、突然勢い良く開いた障子から乗り込んできた陸奥守吉行に、和泉守の方が飛び上がりそうな大声でびっくりしていた。

 同じく驚きながらあわあわする紫咲の前へ、陸奥守は目を好奇心で輝かせながらずいずい膝で進み出る。

 

「燭台切がおんしゃあ天丼が好きと言うちょったき、せっかく頼んで天丼にしてもろうてもおんしは何ちゃあ食べん言うし、わしは鱚が気に入らんかったんかと……!」

「ち、違う違う! 鱚も天丼も好きだよ! ただその時は、胃腸風邪に天ぷらが重すぎて食べれなかっただけで……」

 

 そこまで答えてから無意識に額に手を当てて俯いた紫咲の横で、和泉守が呆れながら、陸奥守の頭を背後からぽこんとはたいた。

 

「おい、大声出しすぎだ。熱は下がってきてっけど、頭痛がまだ引いてねえんだよ主は。大人しくしとけ」

「あ……す、すまんかった」

「いいのいいの! 謝らないで。私もちゃんと言えてなかったし……食べられなかったけど、その気持ちだけで十分嬉しいの。ありがとう」

 

 軽く横になって目を閉じる紫咲を、陸奥守は心配そうに見守っていたが、やや緊張しながらも拒絶の気配が紫咲にない事を見て取ってか、もそもそ体を動かしながら問い掛けた。

 

「なあ……主が寝込んじょってもわしはよう騒いどるき、おんしゃあ邪魔じゃないか?」

「ええ? そんな事ないよ。むしろ、あんまりレベリングとか付き合ってあげられなくてごめんね。もう本丸に来て長いのに、他の子ばっかでちゃんと使えてあげてなくて……」

「い、いんや、それはええんじゃ! こんだけ刀がおれば、無理もない話じゃき! ……けんど、主はちっくと、わしらの前じゃあ遠慮というか、線を引いて我慢しとる節があるんじゃなか? 当然信頼関係っちゅうもんがあるき、今すぐここで問いただそうとまでは思わんが、わしゃあそれが気になってのぅ」

 

 それは今聞いていい事なのか、という顔をしつつ、隣にいた和泉守も気になってはいたらしい。何も言わないものの、どこか答えを待っているような目を受けて、紫咲はもぞりと、掛け布団の中で身じろぎした。

 熱を出している今なら、甘えだからと許されるだろうか。

 

「あ〜〜……えっと……じゃあ言うんだけど……」

「おう、何でも言うちょくれ」

「あのね……審神者就任一周年の挨拶の時に、陸奥くんが『いつまでも新人面はできんのぅ』みたいな事を、言ったことあったでしょ?」

 

 そうなのか?という和泉守の視線を受けて、顎に手を当てながら天井を仰ぐ陸奥守。

 

「あ〜……そういえばそげな事も言うたような気がするのぅ。それがどうかしたがか?」

「あの……それがなんか……怖くて」

「へ?」

 

 きょとんとする二振の前で、布団にもそもそと潜り込みながら、紫咲は辛うじて続けた。

 

「一周年だったけど、私全然……何ヶ月も放置してて、催事の時しか来ないのが普通だったし……普段もちゃんと本丸に来れてなかったから」

「主……」

「それでも『新人卒業だ』って言われると、ちょっと重圧っていうか……『体が弱いのを言い訳に、いつまでも新人気取りでいられると思うなよ』って、物凄く怒られてるのかと……思っ……」

「はぁぁああ!?」

「ちょ、それは飛躍しすぎじゃろーーーー!?!?」

 

 先ほど頭痛に響くから声を出すなと言った張本人も含めて、紫咲は二人から盛大なツッコミを受けていた。

 布団の上でほんのちょっと涙ぐんですらいる紫咲を見て、和泉守は慌てて言う。

 

「おいおい、いくら何でもそりゃあ考え過ぎだぜ、主! こんな後先考えねえカラッカラの五月晴れみてえな刀が、わざわざあんたにそんな湿っぽいイヤミ含めて言葉を発すると思うか!? オレ相手ならともかく!」

「ほうじゃ! 和泉守のアホの言い分には腹ぁ立つけんど、主にそげな風に思った事なんか一度もないぜよ! 和泉守はともかく! 主はよう頑張ってくれちゅう! 和泉守はともかく!」

「さっきからオレの名前いちいち出しすぎなんだよお前は! はは〜ん、さては相当オレの事が好きなんだなァ?」

 

 ぽかんとする紫咲の前で、ニヤニヤ肘で小突く和泉守とそれを睨む陸奥守は勝手にヒートアップしている。紫咲に口元を寄せるようにして、陸奥守はわざとらしく言った。

 

「聞いちょったか主、イヤミっちゅうんはこげながを言うがぜよ。まっことおまんこそ、いつまでも修行に行かんとダラダラ本丸で過ごしゆう、新人気取りの刀じゃのお。わしにそのうち切れ味で抜かれても知らんきな」

「あァン? オレは主が心配でここに居るんだよ! 修行に行かなくともやれる事は山程あンだろうが!」

「おまん、その口もうちっくと素直に主に聞いちゃったらどうじゃ? わしも確かに気付いてやれんで悪かったが、わしだけじゃのうて、おまんじゃち主と変に距離を取ろうとするき、主をここまで不安にさせゆうがろう?」

「はああああ!? 元はと言えばおめーの口下手が全ての根源だろうが! はッ……いいだろう、そこまで言うなら表出ろ!」

「ふっ……ふふふ……わ、わかった二振とも、もういいから……ひひひ、おかしい」

 

 今にも掴み合いに発展しそうになっている陸奥守と和泉守が、不意に笑い声に気が付いて振り返ると、紫咲が布団の上で捩れそうになりながら笑っていた。

 いつの間にか涙は笑い涙に変わり、陸奥守達はそんな紫咲を見て、何で争っていたか忘れたとばかりにきょとんとしている。

 目尻の涙を拭いながら、紫咲が身を起こした。

 

「も〜〜……兼さんってば相変わらず喧嘩っ早すぎ。私の話なのに、なんで兼さんがそんな怒ってんの?」

「えっ? ああ、いや……あれ、何でだっけ」

「あっはっは! ようわからんけど、主が笑うたき、わしゃあ何でもええ。やっぱり笑うた顔が、主は一番かわええのぅ」

 

 陸奥守が無骨な手を伸ばして、くしゃりと紫咲の頭を撫でてくれる。それに驚きながらも、紫咲は少し縮んだ距離を喜ぶように、照れた笑みを浮かべて俯いた。

 

「まあでも、こいで主がわしの前で凝り固まっちゅう理由が、ようやくわかったき。主は繊細なお人じゃのぅ」

「うう、すみません……」

「何ちゃあ気にせんでええ。わしもそこまで気に病んじゅうとは思わんかったき。もうあれから半年じゃろ? 変に主に負担掛けてしもうて、すまなんだの」

「いっ、いいの! 私が至らないのはほんとだし……それで壁を感じて、みんなと馴染めないのも私のせいだから……」

 

 小さく溜息を吐いてから、紫咲はふと思い出したように遠い目になった。

 

「あー、でも……実は陸奥くんと同じく『初心者卒業かな』って言ってきた刀が、あの時もう一振いるんだけどね……山姥切長義って言うんですケド……」

 

 その名前に、勢い込んで陸奥守は食いついた。

 

「ほうじゃ! あいつもそんな事言うちょった。なんであいつじゃのうて、主はわしの言うたことばっかそげに気にして……!」

「でもさ、長義くんは元々そういう事言う刀じゃん???」

「……まあ、それはそうだな」

「それは……そうじゃな……」

 

 自分で聞いておきながら、自分で納得する陸奥守。

 山姥切長義は、いわゆる本科ーーつまり、「写し」として打たれた山姥切国広のオリジナルに当たる刀である。

 元々政府刀として、監査任務を遂行する為にやって来る監査官の役目を担っていた性質もあり、審神者への評定は良きも悪きもかなりきっちりしている印象がある。

 とはいえ、紫咲の本丸の長義は政府刀としてではなく、お正月に配布されるシールの交換品として迎えられた刀なのだが。

 

「だからまあ、そこから圧が掛かるのは想定してて、あまりショックではなかったというか……」

「なるほどのぅ。あいつはちっくと高慢なところがあるきのぉ……」

「まんばちゃんが修行に出て精神安定した後にお迎えしたから、まんばちゃんの方に余裕がある分、そこまで目立った衝突はしてなさそうなんだけど、かと言って私もそれ以上の事は何も知らないしなぁ。長義さんと仲良くなるのは、まだまだこれからかな。陸奥くんじゃなきゃ、ここまで甘えた事はなかなか言えないよ……」

 

 苦笑しながら、紫咲が布団の中で茶を啜る。その言葉に髪の毛がぴこぴこしそうな勢いで喜んだ陸奥守は、今度紫咲の食べられそうな菓子類を土産に持ってくることを約束し、部屋を辞そうとして、何かを思い出したようにぱっと振り返った。

 

「ほうじゃ。わし、この間ゆーちゅーぶとかいう奴で見よったんじゃが、『ふりーはぐ』っちゅうんがあるろう? あれを主もやったらどうやろうか。主もみんなと仲良うなれるし、霊力供給にもなるき!」

「この本丸で? フリーハグって書いた紙首から提げて、座敷に立ってるの???」

 

 してくれそうな刀とそうでない刀がいるな……と紫咲はぼんやり想像したが、陸奥守はさも名案だという表情でぱああっと顔を輝かせていた。

 

「それがええぜよ! そうと決まったら、全振に知らせて会場も日時も確保せんとのう! にひひっ」

「あらかじめ知り合いだったら『フリーハグ』の意味ねえんじゃねえの……? てかそうじゃなくても、主が主命だって言えば断る奴なんかいねえんだから、やっぱり意味ねえだろ」

「無粋じゃの〜、和泉守は。こういうのは歩み寄りっちゅうんが肝心なんじゃ。自分からやりに行くがと、待っちょったら向こうから来てくれるがは全然違うき」

「はぁ……そういうもんかぁ……?」

「それに、おんしゃあも主と『はぐ』する口実は欲しいじゃろ?」

「お前っ、まさかそれが目的じゃねーだろうな!?」

 

 にやりとした笑みを残して障子を締める陸奥守に、和泉守の言葉は届かなかったらしい。頭を抱える和泉守に、紫咲は頭痛の痛みを堪えながらも、まだ小さく笑いを漏らしていた。

 

「ったく、あいつはよー……騒がしい上に、次々面倒ごと持ち込みやがって」

「ふふ。兼さんって、意外と英語の発音慣れてるよね」

「へっ? ああ……土方さんが、外国の兵法書を読んでたこともあったからな。他の連中よりちぃと慣れてるってだけだろ」

「……鶴さんに、スタバのメニュー読み上げさせられまくってたからじゃなくて?」

「それもそうだけど! あれは単に鶴丸が横暴すぎるってだけの話だろーが!?!? ほら、無理して起きてんじゃねえよ。茶あ飲んだならさっさと休め。まだ痛むんだろ」

 

 少し赤くなった和泉守に促されて、紫咲は頷きながら布団に横になった。

 目を閉じたままの紫咲に、隣にいる和泉守の声が届く。頭を大きな手で撫でるように抑えられているせいで、表情は見えない。

 

「……なあ、主」

「うん?」

「あんまり、心配しなくて大丈夫だぞ。ここの連中は、あんたが思うよりずっと、あんたのこと信頼して気に掛けてる」

「……」

「それでも心配だったら、オレが何度でも言ってやるからさ。そんな事はねえって。何回聞かれても、オレだけは絶対に、嫌がったり呆れたりしねえ。居ることしかできねえけど、傍に居てやる。だから、その……。あんま一人で抱えんな。辛い時は辛いって、言ってくれよ」

 

 誤魔化すようにもぞもぞと動かす掌が、和泉守の精一杯を表している。それに応えるように、泣きそうに歪んだ唇を紫咲が辛うじて小さく動かした瞬間、ぽろぽろと涙が落ちた。

 

「……ありがとう、兼さん」

「ん。辛いなぁ。もうちょっとだぞ。必ずあんたもここ出て遊べるようになっから、もうちょっとだけ頑張れ」

 

 主の泣き顔を見ないようにと気を遣う和泉守だが、朱に染まった今の自分の顔も、とても主には見せられない。そんな心持ちで、和泉守は紫咲に寄り添い続けていた。




実はずっと心に引っ掛かっていた事だったんですが、ツイートで言及する機会があったので、折角だし纏めてみました←
土佐弁は、変換サイトも使いつつ頑張ったんですけど心の声で読んでください←
陸奥くんと兼さんの喧嘩が想像以上に平和で癒されてしまいました。
あと、兼さんの最後の言葉が熱すぎて思わず泣いちゃった…。
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