マルメロ家だいすき日記2022〜2023   作:大野 紫咲

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お久しぶりの雑記です。
体調を崩してからピルを飲むことになった紫咲ですが、何やらちょっとした変化があったようで…?
※2025年から、夜翰さん→ヨアさんの修正作業を始めました!


ムラサキと体重やら胸やらの話

 今年はどうにも、徹底して病院に通う年になったようだ。

 体調が悪いのだから仕方ないのだけど、とはいえ検査しても検査しても、原因らしい原因はわからず。一応、低体重による体調不良を疑って、人生でほとんど初めてのピルを服用することになり数日目のある日のこと。

 幸いなことに、以前飲んだそれのようなひどい副作用がなかったことには安心しつつも、私は微かな違和感を覚えて、お風呂場でぺたぺた自分の体を触り回していた。

 

「……」

「どうした?」

 

 既に一糸纏わぬ姿で先に湯船に入っていた直生くんが尋ねてくる。ヨルくんたちの魔法で多少は拡張しているものの、身長180センチを超える彼が入っていると、もうそれだけでお湯が溢れそうだ。

 寛いでいるその前側にちゃぽんと腰を下ろしながら、私はわしわしと自分の体、もといその胸部を触りながら、首を傾げた。

 

「……。いや、なんか……気のせいかもしれないんだけど、ピルを飲んだらおっぱいが大きくなったような」

「ほんとか?」

 

 言うや否や、後ろから回された手に思いっきり胸をわっしゃあと鷲掴みされて、変な声が出た。何の躊躇いもなかった。

 

「あひゃああああ!?」

「んー……んー?まあ、大きくなったと言われたらそんな気もすっけど……大きさはともかく揉み心地はまあいいな」

「あひいいいいいっ、ちょ、揉み心地って何! もうちょっと遠慮ってものをだね!?」

「オレとお前の仲だろ?」

「そーーだけど、心の準備くらいさせっ、おい揉みすぎ! どんだけ揉むねん!」

 

 なんかもう、大きさとか関係なく揉みたいだけでしょこの人。

 どデカい図体の直生くんから逃げられるはずもないので、捕まったまま慣れない感覚にばちゃばちゃ暴れまくっていたら、湯船の端の方に入っているヨルくん達から、羨ましそうな視線を感じた。夜羽くんと恵李朱くんとヨアさん、三人団子のように固まって、じーっとこっちを見ている。

 

「いやそんな羨ましそうな目をするもんじゃないよ!? ただの胸じゃん!?」

「お前らも触るか?」

「自分のものじゃないくせにあたかも自分の胸みたいに言うなあ!」

 

 触られるのは苦手ーとか、どうせ直生くん言うくせに。

 とはいえ、ヨルくんたちの場合は純粋にくっつきたい意味合いが強いだろうし、拒否る理由もない。すい〜と泳ぐようにやって来たヨルくんとエリくんは、次々と紅葉のような手を私の胸に当てた。

 

「ボクも触る」

「チェック失礼します( ˙꒳˙)」

 

 いやらしさなど欠片もない、すごい真剣な顔でぺたぺたと触っている様子は、聴診器を当てる小さなお医者さんに見えなくもない。なんだかかわいい。けど、絵面が絵面なので、私はちょっと恥ずかしくなってきた。

 

「う〜ん……」

「う〜ん……」

「そ、そんな神妙に触られても恥ずかしいんだが……」

「「よくわかんない( ˙꒳˙)」」

「でしょうね!!!」

 

 結局わからなかったらしい。無邪気な二人にじゃれつかれているヨアさんを、私は流れで見上げた。

 

「ヨアさんはわかる?」

「……」

 

 仕方がなさそうに近付いてきたものの、結局ヨアさんも触るらしい。洗い場に出た直生くんと交代して、抱き締めた私の後ろ側から、控えめにそっと綺麗な掌を添えつつ、ヨアさんも首を傾げた。

 

「確かに言われてみれば、ちょっと上側がお椀状になったというか、厚みがあるように感じるかも……? でも、ある意味ボクの感覚だから、それもよくわからないな」

 

 言いながらしれっと指先で胸の外側や腋の下を触っているが、戯れで触る誰かさんとは違い、これは乳がんチェックをしてくれているようだ。毎度のことながら、こういうヨアさんの無言の優しさというか甲斐甲斐しさに涙が出る。

 その一方、長い大量の見事なブロンドを洗い終えた誰かさんは、再び私の真正面からぎゅうぎゅうの湯船に入ってくると、胸をもにもにし始めた。どんだけ好きなんだ。

 

「ふーん……じゃあ念のため再チェックを」

「君は揉みたいだけだよな??? てかそんなに羨ましいレベルの豊胸がついてるんだから、自分で好きなだけ揉めばいいじゃん!?」

「自分の揉んだって別に面白くも何ともないだろ」

「他人のは面白いんかい!」

 

 嫌われているよりはいいけど、距離が縮んだ後の直生くんのスキンシップって大概だよなぁと遠い目になってしまう。まあ、私が相手だからこそここまでスケベ全開なのかと思ったら、それも嬉しくはあるんだけど。

 

「まあ、大きくなろうと小さくなろうと、ボクにはどうでもいいけどね……」

 

 ヨルくんたちの頭を泡だらけにして洗ってあげながら、ヨアさんが呆れたように小さく呟くのが、シャンプーを泡立てる音に混じって聞こえてきたのだった。

 

*****

 

 それから、さらに数日後。

 あの一日だけであれば、ピルの一時的な副作用だとか、たまたま胸が張っていただけだとも説明がついたのだけれど、数日に渡ってブラをつけた時の感触や張り方が違っているとなると、さすがに予想が確信に近付いてくる。

 

「やっぱりなんか、大きくなった……よな……?」

「うん( ˙꒳˙)」

「さすがに分かるようになってきたなぁ」

 

 洋服箪笥の前で着替えながら、自分の変化に驚いていると、綿のトップスを着た私をあっためるようにしながら、後ろから直生くんが抱きついてきた。暖が取れるのはありがたいが、しれっと回されているこの両手はなんなんだ。

 

「よく考えたらお前、学生の時はCカップのブラでも小さ過ぎる事あるとか言ってなかったか? あん時ゃあんまり触ってねえから分かんないけど、あんたからすれば懐かしいぐらいっていうか、やっとその頃の大きさに戻ったって感じじゃねえの?」

「だから揉むんじゃない!」

 

 愛理が元々あやめさんのおっぱい大好きなのは知ってたけど、この子たち、本当に人の胸揉むの好きだよね。あやめさんとか直生くんに比べたら、こっちは随分揉み甲斐のない胸だと思うのだが。

 どのへんがいいのだろう、と首を傾げていると、愛理と一緒に私を挟んだヨアさんが、正面からぺたっと胸に手を当てて、何やら衝撃じみた表情を浮かべていた。

 

「そ、そんな……今までボクが知ってるどのムラサキより胸が大きい……だと……?」

 

 喜んでいるというより、若干ショックを受けたような顔だ。今まで自分が知ってきた相手とは全然違う一面を目にしてしまった時のような。その反応に新鮮味を覚えつつ、そんなに驚くことだろうかと考えてから、私はすぐに気が付いた。

 

「ああ……よく考えたら、ヨアさんは私が痩せすぎになる前の体を知らないのか」

 

 むしろ私自身久しぶりに、胸がやや盛れてた時期もあったことを思い出して驚いたくらいだ。デフォルトであのサイズしか知らないヨハネさんが驚くのは、ある意味無理もないかもしれない。

 両側から押しくら饅頭のようにくっついたヨルくんとエリスくんが、ふにっと私の胸をつついていた。

 

「ボクたちも知らないけどね。でも柔らかくて気持ちいい〜」

「ヨアずっと宇宙猫みたいな顔になってるね(^ΦωΦ^)」

「宇宙猫て」

 

 思わず突っ込んだけど、たしかにそう言ってもいいような、何とも複雑そうな面持ちを浮かべている。今まで知らなかったからって、そんなに深く考えなくてもいいのに。

 そう思っていたら、ヨアさんは真顔でこんなことを言い始めた。

 

「ねえあのさ……もしかしてだけど、ムラサキって本当だったら、ボクと同じくらいか、ひょっとしてそれ以上に胸の大きさあr」

「ないないない! そんなこと絶対にないから! 二次元補正に勝てるわけないじゃん!?」

 

 こちらとしては、みんなと同じ世界にいる間だからこそ、ちょっとおまけで盛ってもらっているぐらいの感覚である。もし私の体をそのまんま二次元に落とし込んだら、胸の大きさは言わずもがな、その他もスタイルのいいヨアさんや直生くんなんかには及びもつかない事になってしまうのは間違いない。まあ、元々勝とうなんて思ってないけど。

 なので、ヨアさんには変なことを気に病まないでいただきたい。私はヨアさんの胸が大好きだ。

 ぶんぶん首を振った私に、じーっと視線を注いだヨアさんは、何を思ったか、そのままやれやれと肩をすくめてみせた。

 

「それにしてもさぁ……普通女性って、痩せる時は胸とかお尻から痩せて、太る時はお腹とか付いて欲しくないところから肉が付くから大変だ、とか言わない?

いきなり胸から太るって、あんたどれだけ痩せてたのさ……薬飲んでちょっとご飯の量が増えただけなのに」

「で、ですよね……」

 

 ピルを飲んでから、食欲が増した上にお腹も壊しにくくなったおかげで、心なしか食事の量は、普段の1〜2割ほど増えた気がする。

 でも、それ以外に大きく食生活で変わったところはない。生理前に胸の大きさが変わることはあったけれど、それでもここまで目に見えて膨らんだことは、ここ数年ずっとなかったと思う。

 やっぱり今まで女性ホルモンが正常に出ていなかったのかなあ、と自分の体の異常さに改めて思いを馳せながら、私は冬物のワンピースにもそりと頭を潜らせたのだった。

 

*****

 

 が、そんな改善の兆しにほっとしたのも束の間、私の身体異常は、どうやら女性ホルモンだけにとどまらなかったらしいということがわかってきた。

 女性ホルモンよりも更に上位に来る、下垂体からのホルモンが著しく低く、全く出ていないようだという検査結果が出たのは、それから間もなくのことだった。

 原因不明だが、これが今年どころか、長年私の人生を苦しませてきた体調不良の要因ではないかということまでわかり、何とも言えず狐につままれたような気分だった。

 今まで「虚弱体質」で自分も周囲も片付けてきたものだったので、治るかもしれないと言われても、そう簡単に信じられるものでもない。

 まあでも、ここまで検査に少なくはない時間とお金を掛け続けてきたのだから、体がおかしい原因がわかっただけ、光明が見えたし幸いと思うことにした。

 

 そして、検査が始まるまでの当面の治療方針として、これまた著しく低かったステロイドホルモンを補う薬を飲むことになった。

 それにより、1シート消化したばかりのピルは、どうやらお役御免になったらしい。

 ステロイドの補充でどれだけ体調が改善するかを見たいので、ピルは一旦服用中止という医師の判断だった。まあ、この指示を仰ぐためだけに病院内外をたらい回しにされ、患者としての尊厳を傷付けられ、酷い目に遭った話というのもあるのだが、それはここではどうでもいいので省略しておこう。

 皆には大いに慰めてもらった。

 

 とりあえずピルをやめなければいけないという話を伝えたその日、いつものように皆でお風呂に入りながら、私の両脇にくっついたヨルくんとエリくんは、名残惜しそうに胸をもにもにしていた。

 

「女性ホルモンが減ったら、やっぱりこの胸もしぼんじゃうよねえ」

「つまりこの胸ともあと数日でお別れか……」

「今のうちにふにふにしとかなきゃだね」

 

 すっかり気に入られてしまったらしい。本当に残念なんだろうなあ、と微笑ましくその様子を眺めていたら、ヨアさんがいつになく冷たいというか、呆れ返った目でこちらを見ていることに気付く。

 私はともかく、ヨルくんたちにまでこんな目を向けるのは珍しい。呆れるというか、何かを咎めているような視線だ。思わず目をぱちくりさせると、ヨアさんは若干苛立ちを滲ませたような声で、お風呂のお湯を蹴った。

 派手な水飛沫の音に、ヨルくんとエリくんが小さくびくっとなる。

 

「あのねえ……。あんたたち、もっと他に言うことあるでしょ?」

「……」

 

 ここまで聞くとわかる。明らかに怒っているようだ。

 容赦なく怒りの矛を向けられた夜羽くんと恵李朱くんは、ぱちぱちと瞬いてヨアさんを見つめる。

 

「……えっ」

「あっっΣ」

 

 けれど、すぐに何かに気が付いたらしい。二人であわあわしながら、大慌てで私に向かって申し訳なさそうに謝り倒してきた。

 

「! お姉さん、ごごごごめんね(´・ω・`;)、違うんだよ、お姉さんのおっぱいが小さくなるからがっかりしてるわけじゃないよ(´・ω・`;)」

「そっ、そうだよ!? サキの体のことが一番大事なのに、ごめんね、ボク達こんな……胸のことぐらいで勝手にはしゃいだり残念がったりして」

 

 ヨルくんに至っては、しょんぼりし過ぎて泣きそうな顔になっている。

 そんなことに気を遣わなくていいのに、本当にいい子たちだと思いながら、私は濡れた手で軽く二人の頭を撫でた。

 

「あはは、いいのよ二人とも。こんな胸でも、そんなに好きになってくれるなんて思わなかったし。

……それに、胸が減るかもって状況に一番がっかりしてるの、多分私だから……」

「わああああ(´;ω;`)」

 

 思わず乾いた笑いでずーんと肩を落とすと、大慌てでヨルくんたちが抱きついて慰めてくれた。

 ヨルくんたちの反省はどうやら正解だったらしく、大きく溜め息を吐いたヨアさんは、それ以上何も責めずに、私の後ろに回り込んだ。

 

「……はぁ。だからボクは最初っから、あんたの体型なんてどうでもいいって言ってるのに」

 

 ぎゅっ、と後ろから抱き締められる。綺麗な褐色の、細くも逞しい腕。ぴたりと頬を寄せられて表情は見えないけれど、静かでもはっきりと響く心地よい声で、心からそう思ってくれているのが伝わってくる。

 

「ヨアさん……」

「どうでもいいんだよ、胸の大きさなんて。大きかろうが小さかろうが、あんたの体だから最初から全部好きだって、ボクは言ってるでしょ。それでもまだ気にする気?」

 

 私の胸に一喜一憂した反応をみせる皆も十分可愛かったけど、そんな中で全く反応が変わらなかったのは、そういえばヨアさんだけだっけ。

 周りの反応に傷付いたわけではなかったけれど、知らないうちに自分で自分自身を傷付けるような真似をしていたようで、その優しさに思わず涙が滲みそうになった。

 

「うう……あ、ありがとうね。

いや大きいのが嫌って人もいるし、一概に大きいからいいなんて言えないのはわかってるけど、それでも私は大きいおっぱいが好きだから大きい方がよかったよお(´;ω;`)

全然ブラの肩紐落ちてこないから便利だったし!せめてヨアさんくらいあればよかったのにい(´;ω;`)」

「肩紐……実用重視なのが、あんたらしいというか何というか……」

 

 そこなの? と物言いたげな表情を浮かべたものの、ヨアさんはすぐ微笑んで、ちょっと困ったように自分の控えめな胸を眺めてから、私の頬をつついた。

 

「これでいいって、あんただいぶ薄欲じゃない? 大きいのがいいなら、もっとこう……直生とか、尋さんとか」

「君のおっぱいは、大き過ぎず小さ過ぎずやらしすぎず、形もいいし可愛いし柔らかいし、私の全理想が詰まった究極のおっぱいなんだが」

「そ、そう……? それに、ホルモン剤自体をやめるわけじゃないじゃん。

一番体に大事な作用を持ってる副腎のホルモンをこれから摂取してくんだから、それによる女性ホルモンの分泌次第じゃ、必ずしも胸が縮むって決まったわけじゃないでしょ」

「ん……まあ、それもそうか」

「縮んでから考えればいいじゃん。どんな形や大きさになっても、ボクは好きだよ。触れて気持ちいいことに変わりはないんだし。いくらでも触ったげるし」

 

 頬ずりをしながら、自分の腕と全身に私の体を閉じ込めてくる。

 細身だからつい忘れがちになるけど、ヨアさんも大概体が大きい。すごい長身の、くびれも肉の付き方もパーフェクトなモデルボディなのに、それでも私が好きだと言う。

 頭を撫でられてうとうと目を細めていると、とっくに後退して脱衣所で体を拭いていたヨルくんたちは、何やらこそこそ言い合いながらこちらを覗いていた。

 

「ボクらや直生くんじゃ及びもつかない、完璧な対応だった……」

「ヨアが全部お株持ってった( ˙꒳˙)ボクらが悪いのわかってるけどなんかくやしい

( ˙꒳˙)」

 

 ヨアさんの深すぎる愛情の見せつけ方が、素直に羨ましくもあり、悔しくもある様子だった。

 まあ、ここまでできる人ってなかなかいないような気もするけれど……。

 そして、そんな優しさの持ち主がすぐ傍にいてくれることに、どうしても今はニヤケが隠せない私なのであった。

 

*****

 

「うげひ」

 

 そうして、新たな薬を飲み始めて数日後の、お風呂上がりのこと。体を拭くのも早々にそろりと体重計に乗って、思わず変な声を上げた私の方を、先に出て着替えていたヨアさんが振り返った。

 

「どうしたの?」

「あぎゃ……」

「何、さっきからその悲鳴」

「た、体重が……増えてます……38だったのが、40.2キロに……」

 

 やや複雑な心境でそう報告すると、当然、何故嘆くのかと言いたげに、ヨアさんは形のいい眉を寄せた。

 

「なんだ。いいことじゃない。ずっと増やさなきゃって思ってたでしょ。やっと40キロ台に戻ったんだね?」

「うう……そ、そうだけど、ピル飲んでからの一ヶ月で2キロ近く……頭では分かってても、女子として太るのはやっぱ抵抗あるよお……」

 

 減るのはいいが、太るのはよくないみたいな刷り込みが為されてしまっている、己の脳内と慣習が忌々しい。

 たしかに、太っていると言われたことはない。むしろ細すぎだからもっと食えと言われたことの方が多いくらいだ。でもそれ、つまるところは太い人間は食うなということにならないか? その「細い」の免罪符が使えるのは、一体いつまでの話だ?

 とか色々考えてしまって、要は太り過ぎはよくないと言ってるのと同じ意味ではと思ってしまう。しかもまあ、大概は見た目的な意味で言うじゃないですか、みんな。

 

 お陰様で、最近の体調は波がありつつ比較的いい方だと思う。これも、体重が正常な方へ戻りつつあるからなのかもしれない。

 けれど、覚悟していたこととはいえ、それで重くなったとか言われたり思われたりするのは、女の子としてはなかなか複雑な気分にもなるわけで……。いや、私女の子って歳じゃないかもしれないけど。

 しおしおになりながら体重計を洗面台の下に戻し、私が毛糸のパンツと腹巻完全装備でパジャマに着替え、タオルを濡れた髪に巻いているのを、腕組みしながら眺めていたヨアさんは、準備ができるのを見計らって、ひょいっと私の体を両腕に抱え上げた。

 相変わらず、その細腕からは考えられない、すごい力だ。さすがは警備隊隊長。

 

「ちょっ、何してるの!?!? 重いよ!?!?」

「別に大して変わらないけど?」

「今は変わらなくても、この後2キロ3キロとか、45くらいまで万が一にも増えようもんなら、順調に重くなっちゃうけど!?

やだやだー、ヨアさんに重いとか抱えるの大変になったとか思われたくない! 悪気がなくっても傷付いちゃうじゃん!」

「バカじゃないの? ボクがそんなこと思うって本気で思ってるワケ?」

 

 暗がりの廊下でじたばた暴れてみても、全然離してくれる気配がない。

 離してくれないとなれば、暴れるのはヨアさんが余計大変になるだけなので、私は大人しく抱えられたまま、その胸元にぴったり顔をくっつけた。Tシャツの胸元は、お風呂上がりでほこほことあったかい。

 抵抗しないのを見て取ってか、ヨアさんは私を抱えたまま大股で寒い廊下をさっさと後にすると、自室の敷布の上に座り込んだ。本来お客様用だった、極上の毛足が長い新品を敷いたばかりなので、犬モードの直生くんの毛皮並みにふわふわだ。

 自分のあぐらの上に私を抱えたまま座っても、下ろしてくれる様子はなさそうだった。

 子供のように私の体を揺すりながら言う。

 

「もっと喜びなよ。あんたの体がおかしかったの、どう考えても低体重が原因の一つでしょ。これからは、これがあんたの『器』になるんだ。これまでのあんたの『普通』じゃできなかったことが、いっぱいできるようになるんだよ」

「うう……でもその『殻』、絶対今までのより重いんだよ……?」

「だから何さ。あんたの命の重さが増えたってことでしょ?

体重が増えるってことは、消えそうだったあんたの命が、だんだん重さを増すってことになるじゃないか。ボクは嬉しいよ。この手に感じられる、あんたの命が増えるんだから」

 

 体の重さは、命そのものの重さだと。燻んだ青の瞳が、真剣に説いている。

 丸ごと受け入れて、そんな風に言ってくれた存在に、私は思わず目を見開いて。

 心から感謝しながら、ぎゅっと抱きついた。

 

「ヨアさんって、なんでそんなイケメンなのかなあ」

「当たり前のこと言ってるだけだと思うけど……」

「その当たり前の考え方が素敵なの! もうほんと大好き、結婚して」

「はいはい」

 

 流れるように言いながらも、私を抱えたままバランスを崩して布団に倒れ込んだヨアさんは、一瞬きょとんとして私を見つめた後、楽しそうにくっくと肩を揺らして笑ったのだった。

 きっと大丈夫だろう。どんな自分でも愛してくれる人がいれば、私はまだ闘える。

 もう何度もわかり切ったことではあるけれど、感謝と優しさで胸がいっぱいになった夜だった。

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