紫咲に会うため、魔法で水を辿り、人間に化けて侵入するものの、耳と尻尾を隠し忘れていた為にあっさりと堀川国広に看破されてしまい、本丸の中は大騒ぎに…!?
三日月が去った翌日。相変わらずない音沙汰を待ちながら、俺はふと、湖で空を眺めていた。
(……)
湖水を賑やかすように、少し強くなった風がざわざわと周囲の木を揺らす。ここと同様に風が吹けば、本丸の池に映る雲もまた揺れているのだろうか。それとも、向こうは穏やかなのだろうか。
三日月が言っていた。ここに映る月も、本丸の池に映る月も、同じ空に上がるもの。同じものを眺めていれば、縁もまたあるだろうと。
(……いや。待てよ)
頭の中を、月光に鱗粉を煌めかせながら舞っていく蝶の羽のように、閃きが過った。
三日月が、何の含蓄もなくこんなことを言うだろうか。
俺は思いつきで、青空を映す湖の中に顔を突っ込んだ。殊更澄んだ場所であれば、或いは。
普段泳いでいる時に使うのとは違う感覚に意識を集中させ、俺は目を見開いた。水底に縞を作って、ゆらゆら揺れる陽の光。その中に、ぼんやりと虹色に輝いて浮かんでくる光景がある。
(……主様の具合は……)
(まだ……安静にはしておられるが、熱が……)
(案ずることはない……本日も交代で任務を……)
途切れ途切れに、刀剣男士達が喋っている会話の音を耳と髭が捉える。更に意識を集中させると、座敷部屋に揃う男士達の姿と、側の布団に身を起こす女の姿が見えた。いつも結えていた髪を下ろし、楽そうな甚兵衛の上に、体が冷えるのか羽織を纏っている。
(ということは、これは枕辺に置かれた
よもや、この身になっても未だ使えるとは。
神竜であった頃、俺には水にまつわる術や力が使えた。そのうちの一つが、水を通して遠視をすることだ。ここより遥か遠方にある、水面の周囲に映る光景をこの目に見ることができる。水がある場所でさえあればどこでもいい。川でも海でも、それこそ三日月が言った本丸の池でも可能な訳だ。
それならばと、意識を別な場所に向けると、今度は水底の模様の上に、天井のない空が見えた。石が積まれた広々とした池が屋敷の方に面していて、その廊下を歩いている男士達や、庭の方で鍛錬に励む男士達の姿が見える。遠くから会話を拾おうと、俺は目を閉じて耳や髭に神経を集中させた。
「あるじさま、はやくよくなるといいですねえ」
「ええ。これだけ長引いては、体ばかりではなく、主君の気持ちも弱ってしまうのではないかと……」
「ぼくらだけでも、げんきでいないとですねっ。まえだがげんきをなくしては、あるじさまもしんぱいしてしまいますよ」
「そうですね。今日も、僕らは出来ることを精一杯やるのみです」
廊下を歩く、ちんまりとした短刀二振の会話が聞こえてくる。そうかと思えば、また別の声が聞こえてきた。
「主、ちゃんと大人しく寝てっかな」
「心配なら、兼さんが様子見に行ったら? 今日は近侍でしょ?」
「そうだけど、あんまり近くに居てもあいつは気詰まりだろうがよ。私のことは気にしないで鍛錬してきて、つってたし……」
「そうかなぁ。好きな人には、いつまでも傍にいて欲しいものじゃない? ただでさえ、今の主は病で心細いんだし」
「ばっ、違っ、オレは別にそんなんじゃねぇって……!」
「今のは主の話でしょー? なーんで兼さんがそんなに赤くなってんのかなぁ」
赤い襟巻きの奴と、青い羽織の奴はまだ記憶に浅いが、両脇のこいつらに揶揄われている長い髪の男士は、見覚えがある。思い返せば、見かける度にあいつは何故かあの女の一等傍に控えていた。名はたしか、和泉守兼定。
(人の身を得ておきながら、やるのはいっぱしに色恋の真似事か)
一度浮上し空中に顔を出して呼吸しながら、俺は湖の中に漂う手足を動かした。体の水気を振り落として陸に上がる。
とりあえず、あの女が死にそうでない事が確認できたならそれでいい。布団から出られぬと言っても、起き上がれるくらいの体力はあるのだろう。であれば、やはり多少は回復に時間が掛かっているだけで、俺の出る幕などない。
最初から、ここで大人しく待っている以外の選択肢など、俺にはないはずだった。わかっていて魔力を使い、光景を垣間見して、それで満足したはずだった。
(……)
けれど。それは明日も明後日も、続いていくことなのだろうか。
何かの間違いで、容態が急変したら。平気な顔をして、少し見ぬ間に冷たくなっていたら。
白日の太陽よりも、夜中の月よりも、人間は脆い。あまりにも脆すぎる。それを、何百年と生きた付喪神のうちの誰が、本当の意味で理解しているというのだろうか。苛立った爪が、ぎりりと地面へと食い込んだ。上下の顎から生える牙を、俺はしかと噛み締める。
(人間など……一人や二人、勝手に死なせておけばいいだろう)
あいつらは困るかもしれないが、俺は顕現が解かれて消えるだけの身だ。あると思っていなかった余剰の獣生が失せようと、何も困らぬし知ったことではない。
たとえ、泡のようにあの女の笑顔が消えようと——ふわりと吐き出した緑の泡を、俺は爪先でぱちんと割った。下手くそな歌が、泡の中から流れ出す。
どこで流れようと何も変えられぬまま、消えていくただの声だ。俺が記憶しているだけで、誰の得にもならず、何を照らすこともなく。淡く儚い。もし今を生き延びられたとしても、竜である俺よりは確実に、世を先立ってしまう。
(お前……本当に、それは今なのか)
俺を、また、置いていくのか。
幾つもの泡がぱちりと弾ける感覚に我に帰った。いつの間にか、昔の記憶まで引っ張り出して眺めていたらしい。
戦で勝手に死に、病で勝手に死に、寿命で勝手に死に、そうでなくても己の都合で俺の前から姿を消していく。人間は、勝手な存在だ。だから、人間のことは嫌いだ。
けれど。こうも思う。
俺が嫌ってきた“人間”と、俺が関わってきた“彼女”は、違うものなのではないか、と。
俺が見てきたのは、人間であり、大野紫咲という一人の女。
まだ、お前の全てを知りはしない。けれど、思うことが一つある。
(勝手に俺を顕現しておきながら、勝手に俺を捨てるのか)
以前なら、たとえうち棄てられようと忘れ去られようと、それを呑んだだろう。時の流れ行くままに、全てを諦めただろう。
だが、今の俺は昔の俺ではない。神の矜持も、聞き分けの良さも、人間への義理も、顕現されこの世に再臨した今では、もう必要もないものだ。
(「好きに生きよ」とお前は言った。ならば、多少の身勝手は許されような?)
言霊使いと言うのなら、己の言葉の責任くらいは取ってもらうとしよう。
感情に身を任せるがまま、俺の脚は自然と湖の底へと向かっていた。
***
昼下がりの光を受けて、水底の陽が翡翠色の模様の中でゆらめいている。
俺は一つ水を吸って、陽炎のようなその光の中に飛び込んだ。普通であれば鼻先から伝わるであろう湖底の岩盤の衝撃は襲って来ず、俺の体は光の揺れる回廊のような、柔らかく温かい場所へと滑り込んでいた。
(本丸は……こちらの方向だな)
鼻先に触れる水の香りを頼りに、先ほど見た光景へと繋がる場所へ、水流の中を駆け抜け泳いでいく。神であった頃は何度か潜り込んだことがある。水の世界へ触れる者だけに許された、水面と水面を繋ぐ水路だ。異空間移動を行う際の境目とも言えるかもしれない。虹のような光が、目の端に懐かしい残像を残していく。
(
水中花魔法——と、彼は呼んでいたのだったか。俺が教わったのは、まだその完成系を見る前の原型のようなものだったが、水から水へと旅をするのに支障はなかった。今でも使えるとは意外だったが、使えるのなら使わない手はない。
もしや三日月は、これを見越してあの言葉を残したのだろうか。
以前、山野を散策していた時には、本丸の屋敷がある手前あたりに獣避けの結界が張ってあり、それより先にモンスターが進めないことはわかっていた。害意があってやっている事ではなく、おそらく万一の時の害獣対策や、単純に俺のような図体で侵入して来られては、家屋を壊されて困るからだろう。
本丸の池を目指したのは、あれだけの広さがあれば、俺がこの水路を伝って侵入したところで、池ごと壊れることもないと思ったからだ。
(しかし……どちらにしろ、その後は問題だな)
池から上がったところで、彼女の部屋まで赴けば、屋敷が俺の体躯や重さに耐えられぬのは必須。言葉の通じぬ奴らに、襲いに来たと思われれば敵意も向けられることだろう。
であれば、最初から人の形に化けておくのはどうだろうか。
(……俺に、出来るのだろうか)
あれだけ嫌っていたとはいえ、人の形というのはもう嫌と言うほど見飽きている。変化の術さえあれば、化けることなど造作もないはず。
体表を撫でる水の流れを浴びながら、俺は目を閉じた。
(化けるには、その対象を強く印象付けることが肝要だと、鏡が言っていたな)
具体的な誰かを想像した方が、上手くいくかもしれない。そう思って脳裏に一番最初に浮かんだのは、鍛錬場で見た髪の長い刀剣男士だった。和泉守兼定。あいつがあの女の本意で傍に控える事が多いと言うのなら、あいつの姿に化けておけば、万が一見つかっても時間稼ぎ程度には誤魔化せるだろう。
人の形を思い浮かべた上に、あいつの特徴の仔細を俺は想像する。くるぶしまで届かんばかりの、絹のように長い黒髪。よく通る鼻筋に、凛とした若造らしい表情。目の色は……まあ、俺と同じでも大差ないだろう。体格は良いが長身のしなやかな手足に、袴と上着の姿。
ざっとこんなところか、と思ったところで、硬かった体表の鱗が随分と柔らかみを帯びていることに気がついた。もうそろそろ向こうの出口に着きそうだ。
「ぶはっ」
突然変化した自分の呼吸に戸惑いながら、俺は池から顔を出した。人間は、水の中で呼吸を保つことができない。不便な生き物だ。
水の中で揺蕩っている己の赤い着物と、灰色に変化した袴を見る。そういえば、あいつの着ていた羽織を化けさせるのを忘れていた。多少違うような気もするが、大体こんなもんだろう。
幸いにも、周囲に人気はないようだ。岸まで泳いでざばりと水から出ると、着物の端から垂れる水の重さに驚いた。
(なんだ。俺が命じねば、着物すら俺の思う通りには動かんのか)
己から湧き出る水の力を制御して、ある程度は重さを軽く、纏わりつく程度にしておいたが、それでも歩いた時に垂れてくる雫はどうしようもない。竜の体では、草地を歩こうが砂の上を歩こうが、体から垂れる水滴など気にも留めたことがなかった。
さて、このまま中に踏み入って良いものかと戸惑っていると、あろうことか縁側の廊下を曲がってきた刀剣男士に、声を掛けられてしまった。
「あれ? 兼さん、今日は加州さんや大和守さんと一緒に、鍛錬場じゃなかった? こんなところで何して……って、うわぁ、どうしたの!? びしょ濡れだよ!? っていうか、え、え、兼さんに、耳と尻尾……???」
(耳?)
驚愕の表情を浮かべる少年を振り返り、頭上を眺めて思わずはっとする。
そうだ。耳だ。普通、人間の耳はこうじゃない! 尻尾だって生えてはいないじゃないか! すっかり隠すのを忘れていた!
見事なまでに髪から突き出た、自慢の赤い紅葉のような耳を風に靡かせるほどの勢いで、俺はその場を逃げ出した。
「えっ、ちょっ、あっ!? 待っ……誰かぁー!?」
背後に間抜けな叫び声を聞きながら舌を打つ。思ったよりバレるのが早い。
こうなっては、一気に部屋まで突っ切るしかないようだ。
あちこちから響く誰彼の声を耳にし、せいぜい廊下で直面せぬようにと願いを掛ける間もなく、飛び出してくる男士の面々と鉢合わせる。
人に化けた時点で元々相手を害するものなど持ち合わせてはいないが、身に纏わせた水と泡で襲撃を躱し、せいぜい上手く避けながら、俺は慣れぬ二本足を操って、水鏡で見た階上の彼女の部屋へと急いだ。
***
「主、長い間起きていては、お身体に障りありませんか?」
「ううん、まだそんなには大丈夫……と言いたいところだけど、目も疲れてきたし、少し休もうかな。長谷部、疲れたら休憩してくれていいよ」
「いえ。主から頂いたお仕事をこなせるのも、この長谷部、至福の極みです。それに、休むと言っても一人ではご不安でしょう。お休みの間も、俺が傍を離れずしっかりとお守りしておりますよ」
「……それ、私が一人だと寝ないのを見越して言ってる?」
「さて、どうでしょう」
冗談めかして小さく笑う長谷部に合わせて、私も笑った。
相変わらず熱が出て体は怠いが、笑うとほんの少し力が出る。
病床にいると、体力なしで出来る事ということでついついネットや動画を見がちになってしまうが、いくら退屈とはいえ、目を閉じて休息の時間はしっかり取れと暗に促してくる長谷部に従って、私は大人しく横になる。
側の座卓で本丸の書類仕事を厭うことなくやってくれている長谷部に、私は手を合わせて感謝してから、二階の廊下側に敷いた布団に入り、薄いタオルケットを羽織った。が、横になって五分も経たぬうちに、何やら外の喧騒と足音が耳に入ってくる。
思わず寝返りを打つと、座卓に座ったままの長谷部も、不審そうな表情で私と目を合わせた。
「……どうも、外の方が騒がしいですね」
「でも、防衛システムは反応してないよね……? 急な襲撃や遡行軍なら、アラームが鳴るはずだし。また誰かが喧嘩や派手な遊びでもしてるのかな?」
まあ、それはそれで困り事だが、敵の来襲に比べれば、喧嘩で柱が折れたり悪戯で蔵が一つ吹き飛ぶくらいは可愛いものだ。恵李朱くんだって、しょっちゅう魔法に失敗してあちこち吹き飛ばしては歌仙さんに怒られてるし。
そう思ってのんびりと構えていると、私が寝転がっていたすぐ傍の襖が、スパーンといい音を立てて開いた。
「た、たたたたた大変ばい!」
「博多! 主がお休み中なのだぞ! 入る時はもう少し静かに……」
「それどころじゃなかとよ! 侵入者ばい!」
赤縁メガネが特徴的な男の子、博多藤四郎くんが口角泡を飛ばしながら慌てた表情で報告してくるのを見て、たまらず身を起こしながらも、私は困惑気味の長谷部と顔を見合わせた。その間にも、開けた障子の外からはわーわー言う声と足音とが、如実にここまで聞こえてくる。
「この本丸に侵入者だと!? だが警報は……」
「俺にもわからん! ただ、どこのシステムにも警報にも引っ掛からんと!」
「そんな馬鹿な……いやそうでなくとも、侵入者であれば邪な気配くらいは感じるだろう!? この俺すらも何も感じないぞ! 他の誰も、侵入を許すまで気付いていなかったと言うのか!?」
「一番最初に気付いたのは堀川しゃんやけんど、邪悪なもんは何も感じんかったって……その後誰が捕まえようとしても捕まらんばい。何か大事なもん盗まれたり、攻撃されたりはなかと。ただ逃げ回るばっかりやし、おまけに廊下中アワアワのドロドロやけん」
「泡?」
思わずぴんと来てそう答えた私に、長谷部が口を開きかける前に、ばたばたと黄緑の髪の男の子が飛び込んできた。毛利藤四郎くんだ。その制服も帽子も、ふわふわした髪の間まで、見事なまでに泡だらけになっている。目に入りそうになる泡に、彼は幼い顔を顰めていた。
「あ、主さまぁ、あいつ、速いです……今、極短刀のみんなが応戦してるんですが、動きが変則的な上に奇妙な泡と水の術を使ってきて! 見た目は和泉守さんそっくりなんですけど、この僕らが遅れを……うわぁっ!」
「ああっ! 毛利、しっかりするばい!」
言っている傍からズルッと滑って転ぶ毛利くんを、支えようとした博多くんが巻き添えを食らって、二人してつるーんと廊下を滑っていった。廊下が傾いているはずなどないのに、まるで坂道を転がしたのかというくらいの見事な滑りようだ。
思わず立ち上がって障子の傍から覗こうとする私の肩を、長谷部の手がそっと止めた。
「主、お気を付けを。うちの精鋭の刀がこんな目に遭うなど、今のところ実害がないとはいえ、敵は相当の手練かと」
「あ……いや。ねえ、長谷部。多分、私の知ってる子が来るよ」
目を丸くする長谷部の瞳に答えようとしたその時、この階を登ってくる階段の激しい足音が、廊下の向こうからどたどたと聞こえてきた。
「ちょっとぉ! どこへ行くのさ! ここから先は通さないよ!」
「主君の元へは行かせませ……うわぁっ!」
「なーにするんだよぉ! 服も靴下もどろどろじゃないか!」
乱ちゃん、秋田くん、包丁くんの悲鳴が次々と響き渡る。廊下に現れた三人が、泡でずるずる滑りながらも尚応戦しようと、壁を蹴りながら激しく体当たりで迫るその相手は、大柄で着物を纏っているとは思えないほど軽やかな動きで、身を捻りながらそれを交わす。床の滑りすら利用して、並の人とは思えぬ身のこなしで、上へ下へと宙返りしながら攻撃を躱す様は、まるで嵐に舞う紅葉のようだ。
ずだん、ずどんと力強い足音の響く音を聞きながら、私は確信を深めていた。
「貴様……主に仇なす者は斬る!」
「一体どうやって入ったか知らないが、よくもここまで俺たちを翻弄してくれたな。写しだからと侮った事、後悔させてやる!」
恐れをなさず、真正面から挑みにかかろうと走り出した長谷部の向かい側から、丁度階段を登ってきて追いついたまんばちゃんが、刀を構えて謎の侵入者に迫る。
さすがにこれはまずいと、その刃が届く前に私は腹の底から大声を振り絞って叫んだ。
「待って! その子はうちのタマミツネだから攻撃しないで!!!」
「……え?」
その場にいた全員が、刀を振り下ろす直前でぴたりと動きを止めた。狙われてまさに掌から泡と水噴射を放とうとしていた本人までもが、驚いたようにこちらをぽかんと見つめている。リボンのような大きな赤い耳が、私の声に応えるみたいに小さくひらんと揺れた。
「そうだよね。青雨。大丈夫だよ。仲間だとわかってくれたら、みんな君のことは攻撃しない。大丈夫。いい子だから、こっちにおいで」
さすがに廊下へ踏み出すのはすってんころりんの危機なので憚られたが、部屋の中からちょいちょいと手招きすると、ずだんっと男士達の間から脚を踏み出したタマミツネは、上手いこと化けたつもりらしいその山姥みたいな黒髪を振り乱して、一足飛びに目の前へとやって来ると、こちらを見下ろした。