狐耳竜神と人間の、ふわふわな日常風景。
※この章以降の青雨は、作者の匙加減でタマミツネであったり、一次創作の竜神として描かれていたりしていく予定です。
今回は竜神枠での登場です。
青雨と夜明さんの出逢い
「ヨアさん。改めまして、この子が
「……」
「よろしくね」
「よろしくねぇ」
紹介する
紫咲の家の一室で、
紫咲には、「物語」の中の存在をこの世に導き出し、触れ合うことのできる力がある。夜明自身もそうやって紫咲達の側にいることを選んだし、今やいっぱしのパートナーだ。紫咲を想う人間は一人ではないが、こうして家族でいられ、他の仲間と知り合う機会ができる事を、誇りに思っている。
そんな彼女が、新たに家族に迎えたいと言う竜が、どんな奴なのか。
夜羽と恵李朱に、膝に座られたり肩によじ登られたりしていた青雨は、それを厭うこともなく、褐色の髪から伸びた赤い狐耳をこちらに向けながら、夜明にじっと視線を注いでいた。
ちなみに夜羽と恵李朱は、紫咲を主とする天使と悪魔の双子である。魂の年齢は成人しているはずだが、中身はまだまだ幼い。そんな弟分達にもすっかり気に入られているらしい青雨は、無口だと話に聞いていた通り、言葉少なに小さく頭を下げた。
「……宜しく」
「あっ、ああ」
こいつ、夜羽たちに適当に合わせたんじゃないのか、と思うくらい、表情からは何も読み取れない。
髪は赤褐色だし耳も尻尾も赤で、着物も暖色系統に合わせているので、見た目は明るいが表情はびっくりするほど冷ややかだ。
(昔のボクでも、もうちょっとぐらい愛想あると思うけど)
そう思いながら、無遠慮に夜明がじろじろと観察していると、青雨の尻尾がさっさと床を掃くように動いている事に気がついた。
(……狐のしっぽって、犬の奴と同じなのかな?)
だとしたら喜んでいる事になるが、特に自分が何か喜ばせるような事を言った覚えもないし、無表情すぎて全く信じられない。
コーヒーを淹れに紫咲が席を立つ中、気まずい時間を過ごしていると、青雨が袴のまま、滑るように床を移動してきた。
「……」
「な、なに」
思わず絨毯の上をじりっと後ずさるも、青雨は翡翠のような淡い瞳を逸らす事なく、まっすぐ夜明に注ぎながら、頭のてっぺんから爪先までを観察するかのように動かしている。
「……」
「……なっ、なんなのさっ」
「これは、匂いを嗅いでいますね( ˙꒳˙)」
半分声を裏返らせた夜明に代わりに答えたのは、側で見守っていた恵李朱だった。ちょん、と自らの鼻を得意げに触りながら、ふわふわの金髪を揺らして恵李朱が言う。
「悪魔や魔族が、匂いを使って他人の感情や思い出を判別するって話はした事あるでしょ。セイは竜だから、それなりに嗅覚鋭いと思うよ」
「え、何……? ボクは一体、今何を識別されてるの……?」
「仲間かどうか? ああでも、仲間なのは知ってるから、ヨアがどんな人か知りたいのかもね」
「普通に喋ればよくない!?!? そこは人間風でいいよ!」
すんすん、と顔のすぐ側で鼻を鳴らされるので落ち着かない。
おかしな人外との接触には慣れているつもりの夜明だったが、やはり緊張するものは緊張するらしい。おまけに、青雨は恐ろしいほど顔つきが整っているのである。
じりじりと後退し、匂いを嗅がれ、もうそろそろ床か壁に押し倒されるのでは……と夜明が嫌な予感を覚えていると、果たして青雨は、夜明の頬にふと顔を近づけ、そして——
「キャーーーーーーーーッッッッッ!?」
次の瞬間アパート中を揺るがせるのではないかと思うほどの悲鳴が上がり、サーバーから皆のコーヒーを注いでいた紫咲は、大慌てで台所から飛び出してきた。
「なっ、なっ何事!?!? どうしたの!?」
「ヨア、気絶しちゃった(´・ω・`)」
「なにゆえ!?」
夜羽から報告されて紫咲が視線をやると、青雨の腕の中でぐったりした夜明を、恵李朱が指先でつんつんしている。その夜明を抱き抱えながら、青雨は珍しく困惑した表情で、おろおろと耳を動かしていた。
「ヨアってばおこちゃまねえ。刺激が強すぎたのかしら( ˙꒳˙)」
「恵李朱くんのその唐突なキャラ変はどこから……ていうか、何があったの?」
「仲良く……なろうと、したんだが……」
どうも青雨なりに悪意はなかったようなので、縋るように見上げてくる彼を宥めて落ち着いて話を聞こうとしていると、夜羽が先に紫咲に説明した。
「ほら、青雨がよく、ボクとか紫咲のほっぺ、挨拶がわりにぺろってやるでしょ。あれをヨアに」
「あ、あ〜……」
それで何となく察しがついた。
元々竜である時の癖が抜け切らない青雨は、その振る舞いが獣人姿の時も出ることがある。
相手の匂いを嗅いだり、鼻をくっつけたり、側に寄ったりするのもそうなのだが、相手の体を舐めて毛繕いするのも、竜のコミュニケーションのうちの一つなのだ。
が、当然それを人の姿で初対面の相手にやれば、どうなるかは想像に難くない。
紫咲は、座り込んでいる青雨の頭をそっと撫でた。
「仲良くなりたかったんだねぇ。でもね、人間相手にそれはいきなりやっちゃダメよ? びっくりしちゃうからね」
「……うん」
顔に大した変化はないが、しょぼ、と頭上の耳が見事なまでにしょげかえっている。落ち込んでいるようだ。
とりなすように、夜羽と恵李朱も言ってくれた。
「ごめん、ボクらもずっと見てたから、あっと思って止めようとしたんだけど……」
「止める暇もないくらい一瞬だった( ˙꒳˙)」
「あはは、まあそれはそうよね……」
「すまない、つい……」
言っている間にも、やや意識を取り戻したらしい夜明が、青雨の膝の上で寝言のように呻いていた。
「うう……イケメンが……イケメンがボクをペロペロしに来る……」
「そう言う夜翰さんもイケメンでしょうが。ほら、しっかりして」
紫咲にそっと顔を触られて目を覚ました夜明は、閉じていた褐色の瞼を開くと、頭上に青雨の姿を確認するなり、声を上げて飛び上がった。
「うわぁっ!?」
「そんなに驚かなくても……まあ、無理もないか」
背後に隠れた夜明を見やって苦笑する紫咲の前で、青雨はさっきと同じように姿勢を整えて座っているが、耳も尻尾もしーんとして、明らかに元気がない。
その様を見ていた夜明は、紫咲からコーヒーカップを受け取ってふうふうと冷ましている間に、ちらちらと青雨の方へ視線を投げながら、こう言ってくれた。
「まあ……そういう事情なら、別にボクは構わないけど? 人前ならともかく、ここなら別に困る事もないし」
「……! 本当か」
ふわっと赤い尻尾が膨らんで、翡翠色の瞳が輝きを取り戻す。あまりの分かりやすさに、さすがの夜明も青雨のことをただの鉄面皮とは思えなくなったのか、コーヒーを炬燵机に置いてから、苦笑して両腕を広げた。
「別に、青雨の事が怖かったわけじゃないから。ちょっとびっくりしただけだよ。ほら、おいで」
呆れながらも寛容な姿勢を示してくれた事に、紫咲だけではなく夜羽や恵李朱までもが驚いたが、青雨は胡座をかいた夜明の元へ擦り寄っていくと、まるで前世からの家族や兄弟に接するかのように、くっついて甘え始めた。
頬を舐めたり、頭を擦り付けたり、寄りかかったり、尻尾をぐるりと夜明の体に巻きつけて包み込んだり、やりたい放題だ。
青雨が随分と大柄なので、超大型犬にじゃれつかれている様子に見えなくもない。
ようやく隣に腰を落ち着けてくっついている青雨を見て、紫咲はあんぐりしたが、楽しげに声を上げて笑い始めた。
「ふふっ……セイは、ヨアさんの事がすごく気に入ったんだね」
「なんで……? 別にボク、好かれるような事何もしてないと思うんだけど。今までそんな動物に懐かれた記憶もないし」
「でも、元の世界でことりちゃんには懐かれてたじゃない?」
「あれは半分鳥であって鳥じゃないみたいなもんでしょ……まあ、竜やら狐だって動物に勘定していいのかわかんないけどさ」
温かい尻尾を満更でもない様子で撫でてやりながら、夜明がそう話している横で、夜羽と恵李朱はひそひそと顔を寄せていた。
「セイは、ヨアが紫咲をだーいすきなの、きっとわかったんだね」
「気持ちがあったかい人の傍は、あったかいからだよね」
「水神って、舐めた汗の味からも相手の考えてることがわかるんでしょ?」
「だったら、ヨアどんだけエラそーでイジワルでも、優しいのバレちゃうね」
「そこ二人? なんか悪口を言ってる気配がするけど?」
「「いってなーい( ˙꒳˙)」」
白々しく答えた二人は、夜明にぐしゃぐしゃと頭を撫でられている。
和やかな風景にほっと笑みを浮かべながら、紫咲はなくなったコーヒーの代わりにお茶を淹れるべく、ケトルに水を入れに立ち上がったのだった。
本当はイラストや漫画にしたらインパクトあるんだろうなと思いつつ、手の負担とコストを考え、パッションが熱いうちに先に文章化してしまったものです←
でも夜明さんが手を広げて「おいで」って言うのは、妄想の段階では全然なくて、完全に予想外だった行いなのですごーくびっくりしました。
こんな子に成長するとは……すっかりお兄ちゃんになって……(涙)
これで、青雨が夜明さんの横で酔っ払ったら更に可愛い事になるんだろうなというのは、何となく想像がつく。
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