可愛いです。
※2025年から、夜翰さん→ヨアさんの修正作業を始めました!
それは、例によってムラサキの具合が悪く、ぐったりと寝込んでいた時のことだ。
「なあああああんで、お前はあんだけ必死で食ってるのにこんなバテるかな……
薬飲んだか? 寝る前の白湯の支度は?」
「うう、すみません……」
「別に責めてるわけじゃねーよ……色々工夫はしてんのに、栄養も貯まんねえし、家で掃除機かけただけで必ず熱出すし、気の毒だなって思ってるだけだ!」
じりっ、と布団から出てスマホを取ろうとする手を、オレはべしっと叩く。
「明日出品するお仕事の書き溜めくらいやらせてよおおお」
「ダ・メ・だ! 今日はさっさと寝る! わかったな!」
「う……せめて浮かんだネタのメモを」
「お前が一旦ネタだの設定だの書き始めたら、二時間は寝ねーだろうが!」
本人が気に入っているというカーディガンを引っ被せて、布団にサキを押し込む。
先に敷き布団に座って雑誌を読みながら待ち構えていたヨハネに、かけ布団を二重に被せられたサキは、うぐぐと唸ってオレのことを見上げた。
横では、夜羽と恵李朱が手を取り合って、フォークダンスを練習しながら、それを使い魔に撮影してもらっている。夜羽の使い魔は猫、恵李朱の使い魔は蠍。手は使えないが、流石は魔法使いの使い魔と言ったところか、尻尾を使って器用にスマホをぶら下げていた。
「おーい、お前らも寝支度しろよー」
「はーい( ˙꒳˙)」
そんなことを言っていたら、トイレに行くと言って起き上がる許可をもらったムラサキが、再び布団にもぞもぞと座り、持ち上げた掛け布団の陰からオレにこう問いかけた。
「ねー。直生くんはさ、どうしてそんなに私を気遣ってくれるの?」
「ああ!? んなもん決まってんだろうが!」
今更すぎて何を言い出すのかと言いたくなる。
ああ、でも、こいつにはずっと伝わってなかったんだっけ。悔しいことに、オレ自身もずっと自覚していなかった、芽生えてなかった気持ち。
だったら、当たり前のことだって、ちゃんと言っとくべきだよな。
思いっきり咳払いして、息を吸う。
そんなの、決まっている。お前のことが、大事だからだ。
作者としてのお前を、人としてのお前を、これからは大切にしたいから。
そう、伝えたつもりだったのだが……
ムラサキは、なぜかそれを聞いた直後にびっくりした顔で固まると、布団を鼻の上まで引っ張り上げて、ずるずると後ずさるように潜っていってしまった。
まあ何であれ、こんな一言ぐらいで大人しく寝る気になってくれるなら何よりだ、と思いながら溜息をついたオレは、何やら様子がおかしいことに気付く。
「……ん?」
変なのは、ムラサキだけじゃなかった。その隣にいるヨアは、唖然としたかと思えばにやついた面でこっちを見ているし、夜羽と恵李朱は、それぞれびっくりしたようなまん丸な瞳で、動くのを止めオレの方を凝視していた。
相変わらず、ムラサキは布団から顔を出さない。オレ、もしかして掛ける言葉間違えたか?
「……な、なんだよ、お前ら」
「へぇ……ふぅん、そうかそうか。なるほどね」
「お、おいヨア! 言いたいことあるんならさっさと言えよ! 気持ち悪ぃだろうが!」
「夜羽、恵李朱。あんた達、ビデオ回してたよね?」
「うん。ちょっと待ってね〜」
ヨアに目配せされた夜羽達は、その意図を汲んだようで、なぜか自分のスマホを親指で弄っている。それから順番にその画面を、ん、とオレの方に向けて再生ボタンを押した。
『そんなん決まってるだろ! お前のことが大好きだからだ!!!!!』
途端、ボリュームを上げてもないのにスピーカーから飛び出して音割れする大絶叫に、考えるより先に指が映像を止めそうになった。オレの手がスマホに届く前に、ひょいっとスマホを取り上げた恵李朱が、満足げに画面を弄っている。さっきからずっとそのボイスばっかり連続再生されているせいで、恥ずかしいなんてもんじゃない。
「ふふん。たまたま回してただけなのに、いい画が録れちゃった。なかなか熱烈な告白ですな、直生くん。ね、夜羽」
「うん。保存保存っと」
夜羽まで真面目な顔でこくこく頷きながら、スマホを操作している。
「だ……! っ、い、今のは! 大切って言おうとして、言い間違えた、だけでっ……!」
「く……くふふふふ。いつも澄ましてる奴の深層心理が暴かれる様って痛快だなぁ」
背後の布団でヨアが腹を抱えて笑っているのを、オレはぎっと睨みつけるが、もちろん毛程の効果もない。マジかよ。穴があったら入りたい。
夜羽と恵李朱も、繰り返し恥辱の映像が再生されるスマホを覗き込みながら、何やら好き勝手なことを言っている。
「直生くん、やるー」
「直生くん、だいたーん」
「おい、やめろお前ら……やめてくれ……頼むから……」
「えー、どうして?( ˙꒳˙) ストレートに言えるってかっけぇじゃん」
「たいせつもだいすきも、おんなじ意味だもんね。だから、大丈夫だよ」
「全ッ然大丈夫じゃねぇ……っていうかそれ流すな! 保存すんな! 消してくれよおぉぉぉ」
「えー、だめだよ。消したらボクらの踊りも消えちゃう(´・ω・`)」
「そうだよ。これ後で友達にも送るのに( ˙꒳˙)」
「だってさ。諦めるしかないね」
「おいいいいいい!」
尚更悪いわ!
と言い掛けて、オレはさっきから布団に篭りきりのムラサキをばっと振り返った。
もしかして急に大人しくなったのは……と布団を無理やりめくると、ムラサキはほとんど潜ったような状態で、そろっと仰向けの頭を出す。その顔は真っ赤になっていた。
「ご……ごめんね。あのその……まさかそこまで言ってくれると思わなくって」
「ちっ違っ、違ぇよ誤解だッ! やっ、違わねぇけどっ、勢いで言うもんじゃなくてだなっ……!」
「う、ううん。勢いでも嬉しいし。その……な、直生くんでもこんな言い間違いするんだぁ……って思ったら、お、可笑しくて……っ、ひひっ」
「あああああ! やっぱ笑ってんじゃねえかこのバカ! おい! 笑うな! 取り消すぞ!」
何が悲しくて、こんな話仲間内全員に聞かれてなきゃいけねぇんだ。
とんだ恥晒しになってしまって、オレはムラサキを寝かすこともすっかり忘れたまま、力を入れすぎない程度にぼかすかその肩を叩き続けたのだった。
年納めその2です。
その1がちょっと暗かったので、和める話にしてみました。
ネタは前から記録してあったんですが、この機会に。直生くんかわいい。