入間さんといっしょ   作:パプリオン

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第2章 僕とオレ様のプログラム世界

 

その日の夜。僕はインターホンが連打される音で目を覚ました。

真夜中にチャイムを鳴らされるのは初めてではないけど……外の人物は『ピンポーン』の音が鳴り終わる前に連打しているらしく、『ピンピンピンピンピン』とけたたましいアラーム音のようになっている。

こんな風にせわしない人は何人もいないから、相手が誰なのか大体の想像はつくけれど……

 

「よぉ、ダサイ原!」

 

慌てて扉を開けた先にいたのは、やはりというべきか、入間さんだった。

彼女と会うのはいつも研究教室かコンピュータールームだったから、僕の部屋で話すのはこれが初めてだ。

 

「オレ様をおかずにしてるとこ邪魔するぜ!巨乳美人のお宅訪問だっ!」

 

「や、一応言っとくけどしてないからね。寝てただけだからね」

 

入間さんとは、つい先日に互いの想いを告白し合ったばかり。

それゆえに、もしこれから何かの過ちが起きたらどうしよう……と、変な想像をしてしまう。

 

「それで、どうして僕の部屋に?」

 

「そんなもん決まってんだろ。このウンコみてーな世界からおさらばすんだよ!」

 

おさらばって……まさか、この学園から脱出するってことか?

 

入間さんはここ数日の間、ずっとコンピュータールームに籠っていた。

僕も暇を見つけては彼女の元へ食事の差し入れに行ったりしていたけど、あそこで開発していた"モノ"がついに完成したということなのだろうか。

 

「ん?なんか浮かねー顔してんな。

……ははーん、さてはアレだろ。オレ様とあんなことやこんなことができるかもって期待したんだろ。そーなんだろ!?」

 

「……そうだね。ちょっとだけ期待してたかもしれない」

 

「えっ、ほ、ほんとにそうだったのぉ…!?

で、でもそういうのは、ちゃんと段階を踏んでからじゃないとぉ……」

 

ちょっとしたからかいあいの後、入間さんは「じゃ、あとでコンピュータールームに集合な!ナニしてる途中だったろうから後処理する時間くらいはくれてやるぜ!」と言い残して、そのまま出て行ってしまった。

まるで嵐の到来みたいだったな。

 

そういえば入間さん、僕が前にプレゼントした『がんじがらめブーツ』をちゃんと履いてくれていたみたいだ。

 

そこはかとなく湧き上がる嬉しさに頬を緩ませつつ、僕はいつもの制服に着替えると、不気味な静寂さを保つ夜の校舎に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

第2章 僕とオレ様のプログラム世界

 

 

 

 

 

コンピュータールームに入ると、そこには既に他の皆が勢揃いしていた。

 

「皆も入間さんに呼ばれて来たんだね」

 

「やっと来やがったか、ハメ原!いつもみたいにオレ様と二人っきりになれなくて残念だったな!」

 

「は、はは……」

 

いつもどおりの調子でそんなことをいう入間さんに対して、僕は思わず曖昧に相づちをうってしまう。

"二人っきりになれなくて残念"というのは、あながち見当はずれな話でもないからだ。

 

「おいおい、折角オレ様が話を振ってやってんのに、退屈なリアクションしてんじゃねーよ。

もっといつもみたいに、激しくツッコみまくってくれないとぉ……」

 

「いや言い方考えてよ入間さん!

あと僕が入間さんにツッコむのはよほどの時だって自覚してよ!!」

 

「ああんっ……それそれ!

最原のツッコミ……感じたくないのに、感じちゃうよぉ…!」

 

くそっ、キミには失うものが何もないのか…?

 

頼むから皆が僕らをゴミのような目で見ていることに気付いて!

今は自由行動で二人の絆を深め合うパートとかじゃないんだよ!?

 

「……ねえ、そんなことより早く話を進めてくれない?

私たちはあんたらの低俗な漫才を見に来たんじゃないんだけど」

 

「えっと……私たちは確か、入間さんからこの学園を脱出できるって聞かされて、このコンピュータールームに集まったんだよね?」

 

話がずれまくったところを春川さんと白銀さんが軌道修正してくれた。

地味に見事なフォローだ。

 

「そのとおりだぜ。なんたって天才のオレ様が言うんだから、間違いねーよ!」

 

「オメーが言うから不安なんだろうが……」

 

ああ、遂には百田くんまでがツッコミに回り始めてる。

 

「それで入間さん、一体どうやってこの学園から脱出するの?」

 

「へへ、知りてーか?そりゃ知りてーよなあ?

……だったら、オメーら全員土下座しろ!そうしたら教えてやるぜ!」

 

「ええ!?土下座って……何で急に?」

 

突然耳を疑うようなことを言い始めた入間さん。

白銀さんの疑問は至極もっともなものだ。

 

「うふっ……実は前に最原と赤松に土下座されたとき、クセになっちゃってぇ。

つーわけで、さっさと土下座しろっつ-んだよ、このクソドMどもがぁ!」

 

……ああもうやっぱり原因はこの僕か!

彼女のどうしようもなく悪い癖が、今日はこれでもかと出てしまっている!!

 

僕に対してする分にはどうとでもなるけど、クラスメイトの皆を相手取っての暴走はあまりにも無謀だよ入間さん!!

 

あ、ほら。隣にいる王馬くんがニタリと笑ってる!

まるで絶好のカモを見つけたような顔してるよどうか気付いて入間さん!!

 

「……は?いやいや土下座するのはビチ子ちゃんの方でしょ?

オレらに話を聞いてほしいんだったら、それが当然の流れだよね?」

 

「え……何それ、おかしくない?

だってオレ様は、みんなの為を思って不眠不休で──」

 

「いやいや何もおかしくないでしょ。だってオレらは、雌豚ビチ子ちゃんなんかのためにわざわざ時間を割いてここへ来たんだよ?

……ほら、さっさと土下座しろよ。しないなら解散だけど、それでもいいの?」

 

「ま、まま、待ってぇ!す、すればいいんだろぉ!?すれば……」

 

「はいどーげーざ、どーげーざ!」

 

「う、ううう……ううううう……」

 

ガクガクと震えながら今にも膝を折ろうとしている入間さん。

他の皆から見れば、こうなってしまったのもある意味当然のことだと思っているのかもしれないけど……

 

あいにくと、僕はそうじゃない。

 

好きになった女の子が他の誰かに土下座するなんて光景、望んで見たいやつがこの世にいるだろうか。

……いや、一部界隈にはいるかもしれないけど、少なくとも僕は違うと言い切れる。

 

 

 

──いいだろう。

 

 

 

「ちょっと待った!」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

──ここは、僕が犠牲になる。

 

 

 

「お願いします、入間さん。話を……聞きたいです…!」

 

 

 

僕は入間さんに対して、両膝を折り、深々と頭を下げた。

平身低頭。これこそがまさしく真の土下座。

 

「最原君!?一体をしているの!?ゴン太わけがわからないよ!!」

 

「うわ、ビチ子ちゃんの口車に乗せれてマジでする奴いたんだ。引くわー、超引くわー」

 

「最原オメー……プライドってもんがねえのか!?」

 

「さ、最原君、キミって人は……!」

 

「ううむ……これは、さすがのウチも見てられんな」

 

「見なくていいよ、こんな馬鹿」

 

「最原くん……それはちょっと、どうかなって……」

 

皆からは困惑、同情、侮蔑、呆れ、etc……と様々な声が上がる。

 

だけど、そんなことは当然覚悟の上だ。

入間さんが辱められるぐらいなら、土下座の一つや二つや三つぐらい、僕は簡単にすることができる。

それによって皆から冷たい視線を浴びさせられても、なんら動じることはない。

間接的にでも彼女を守ることができれば、それでいいんだ。

 

……うん、言われなくても分かってるよ。

ここまでして彼女に付き合おうとする僕も、大概だってことぐらい。

 

「ああっ…最原の土下座、また見れたぁ……いいよぉ…!」

 

そして僕の土下座姿を鑑賞して悦に入っている彼女に至っては、いい加減SなのかMなのかをはっきりして欲しいところだと、そう思う。

 

 

 

「じゃ、最原の土下座に免じて教えてやるぜ。こいつはな……」

 

そしてここから、『プログラム世界』についての講習が始まった。

 

入間さんの説明をざっくり要約するとこうだ。

・プログラム世界とはいわば仮想現実のことで、このコンピューターを使って僕たちの意識"だけ"を別の世界に飛ばす。

・プログラム世界には全員分のアバターが用意されており、転送された意識はアバターに移り、自由行動が可能となる。

・プログラム世界の基礎を作ったのは入間さんではなく、モノクマらしい。

 

彼女が最後の一つを言い終えた直後、一斉にブーイングの嵐が巻き起こった。

当然のことだろう。何せモノクマは、この学園内で"コロシアイ"の主催者をしているのだから。

そんな奴が作った別世界が、まともなものであるわけがない。

 

しかしそれでもなお食い下がろうとする入間さんと、"外の世界の秘密"を隠してきたというモノクマの発言によって、最終的には全員でプログラム世界へ行くことが決まってしまったのである。

 

 

 

「ねぇ入間さん。これ、本当に大丈夫なんだよね?」

 

「う、うん。なんたってオレ様が不眠不休で調整したんだし、危険物は全部排除したから……」

 

「……本当の本当の本当に大丈夫なんだよね?」

 

「な、なんだよぉ。最原のクセに、オレ様の言葉が信じられねぇのかよぉ…!」

 

「別にそういうわけじゃないけど。何だか今日は様子が──」

 

「酷いなー最原ちゃん。愛しの入間ちゃんの言葉を信じてあげないなんてさ」

 

異世界へ行く前に少しだけ入間さんと話をしておきたかったのだが……そこへ王馬くんが割って入ってきた。

いつもなら入間さんを散々コケにして罵倒している彼が、今日はやけに彼女の肩を持っている気がする。

 

「王馬くんは、随分と余裕そうだね」

 

「まーね。だってオレは、入間ちゃんのことを"信じて"いるからさ。

……口先だけの皆と違ってね」

 

「……」

 

まったくどの口が言うんだ。

そう言いたくなるのをなんとか飲み込んだ。

 

彼の掴みどころのない性格には、未だ慣れることがない。

普段あれだけ皆から嫌われるような言動をとっておきながら、学級裁判では僕らにヒントを与える発言をすることもある。

 

少なくとも僕には、王馬くんがこのまま何もせずに学園生活を終えてしまうとは思えなかった。

 

 

 

プログラム世界。

 

入間さんいわく「コロシアイが一切ない、平和で安全に過ごせる理想の世界」は……

 

忌憚のない意見を言わせてもらうのであれば、僕たちが想像していたものとは大分違うものだった。

 

「うーん……なんか、聞いてたのと全然違わない?」

 

「ガッカリなグラフィックじゃ!どこが現実以上の素敵空間じゃ!」

 

一同が口を揃えて文句をつけるあたり、皆も内心ではある種の期待をしていたのかもしれない。

 

で、さらにもう一つ。これは僕自身にも全力で降りかかっている問題なんだけど。

 

「なんで最原と入間のアバターだけ、本物とそっくりなワケ?」

 

そう。皆が二頭身のいわゆるデフォルメキャラと化しているにもかかわらず、何故か僕と入間さんだけが現実世界とそっくりな姿かたちで存在していたのである。

 

「……そんなのこっちが聞きたいよ、春川さん」

 

一応はぐらかしてはみたけれど、さすがにここまで露骨だと、いくら鈍感な僕であってもその真意には気付かされる。

 

──これは完全に、入間さんのえこひいきだ。

 

プログラミングをした本人は皆から詰められて、滝のように汗をかきながら「全然、そんなの、ただの偶然だろ……」と視線を逸らしていたけど、誤魔化せていたとは思えない。

 

そんなやりとりを挟みつつ……僕たちは入間さんから、この世界における追加の注意事項を聞くことになった。

・プログラム世界でアバターが受けた五感情報は現実世界の僕らにも反映される。

・プログラム世界にある「物」は壊れないよう設定されている。

・アバターの能力は平均化されており、それぞれの個体差は反映されないようになっている。

 

大事なことを次から次へ後出しするものだから、入間さんは皆から総スカンを食らっていた。

ごめん。さすがの僕も、こればかりはフォローしきれない。

 

「この世界の特別なところは、それで全部?」

 

「あ、ああ……全部だよ」

 

いつにもまして、歯切れが悪い。

今のところだって嘘じゃないなら、「オレ様の言うことが信じられねえのかこのチンカス!!」ぐらい強気にきてもおかしくないというのに。

 

入間さんを疑いの眼差しで見ることは、もちろんしたくない。

だけど状況が状況だけに、万が一のことを考えないわけにはいかないんだ。

 

これ以上誰かが命を落とすところなんて、絶対に見たくないから。

 

 

 

それから僕たちは全員で館の中を見回り、雪が降り積もっている外に出た。

この世界には今僕たちが見てきた館の他に、教会があるらしい。

 

話の流れからして当然そちらにも行かないといけないわけだが、道中であろうことか、王馬くんがゴン太くんを連れて別行動に移ってしまったのである。

百田くんは止めようとしたけど、本当にその説得を聞き入れてくれるなら、それはもはや王馬くんではないだろう。

 

こういう時って、別行動した組の方が何か重要なものを見つけてしまう……っていうのがオチだよな。

 

内心でそんなことを考えながら歩いていると、皆の足が同時に止まった。

何事かと思って状況を確かめると、教会へ続く道が縦線を流れる川によって断たれていたのである。

 

「オイオイ、これじゃ向こう側に渡れねーよ。一体どうすんだ?」

 

「宇宙級のバカは黙ってろ!川を渡る方法なら、ちゃんと用意してんだよ」

 

「そうなのか……って、誰がバカだ!」

 

「そんなのテメーしかいねえだろ!ロケット発射は股間のイチモツだけにしとけ!」

 

「ああん!?今なんつった!?」

 

「ひいっ…!ち、ちょっとした冗談を言っただけだろ。何マジになってんだよぉ…」

 

毎回思うけど、ビビるぐらいなら最初から煽らなきゃいいのに。

入間さんと百田くんのやりとりを生暖かい目で見遣りつつ、本題に戻る。

 

彼女曰く、この川の下流に看板があるらしく、それを橋代わりにするそうだ。

この世界には『物が壊れない』という謎ルールがあるから、例え木の看板でも安心して渡れるようになる、ということらしい。

 

「まぁ、どうせならオレ様に命令されて喜ぶドMに頼んでやるぜ!」

 

成る程ドMか……僕の推測によれば、クラスメイトの中にそんな性癖の持ち主はいなかったはずだけど。

 

入間さんはひとしきり皆を見渡した後、ある人物にビシリと指をさした。

 

「最原、オメーの出番だっ!」

 

……え、僕?

 

「ま、当然だね」

 

「うむ、最原はドMじゃからな」

 

というかちょっと待って春川さんと夢野さんのリアクションはおかしくない?

まさか入間さん以外の皆からもそんな目で見られてるのか!?

 

「ドМ認定されるのは心外だけど……とにかく行ってくるよ。看板を取ってくればいいんだよね?」

 

「なんなら四つん這いになって取りに行ってもいいぞ!

帰ってきたらオレ様のブーツを舐めさせてやるぜ。オメーにとっちゃ最高のご褒美だろ!?」

 

「やめい入間!そんなこと言ったら最原が本気にしてしまうぞ!」

 

「いやだからしないって。四つん這いになっちゃったら物理的に運べないでしょ?」

 

「それってつまり、出来るならするってことだよね。やっぱドМじゃん」

 

夢野さん春川さんコンビの当たりがやけに厳しいんだけど、僕は決してドМなんかじゃない。

ただ入間さんに振り回されるのが嫌いじゃないってだけだ。

彼女の無茶ぶりに応えるのが楽しいだけなんだ。

ご褒美だって別に……ぜんぜん、まったく、嬉しくないからね。本当だからね。

 

 

 

何にしても僕がやらなければいけなくなったということで、南の方角に放置されていた『ヒルズ・ミライ』と書かれている長い看板を運んでいく。

 

川の両端に看板の橋を設置した後、ちょうど王馬くんとゴン太くんが別行動から戻ってきたので、ここから先は再び全員で進むことになった。

 

ふと彼らを見やれば、ゴン太くんのアバターがこれ以上ないくらいに落ち込んだ表情をしている……ように見える。一体何があったのだろうか。

たとえば以前のように王馬くんからあらぬことを吹き込まれて、それを信じてしまっている、とか……

 

いや、まさかね。

 

「んあー……ドキドキしたが、橋が壊れないのは本当じゃったな」

 

「けっ、ちったあオレ様のことを信用しやがれ!」

 

そう言う入間さんだが、皆の反応はあまり芳しくない。

外の世界の秘密を探すために仕方なく付き合っている……そんな感じだ。

 

「な、なんだよぉ……折角このオレ様が、オメーらのために一肌脱いでやったのに……

あ、脱ぐと言えばオレ様の勝負下着は最原に渡し──」

 

「入間さん!!!!」

 

「ひぎぃっ!?」

 

「さっきの地図で波線が引いてあったのは、たしかこの先だったよね!!たしかそうだったよね!?」

 

どさくさに紛れてとんでもない爆弾を投下しようとする入間さんを制して、少々強引に話を戻す。

 

「あ……ああっ!そうだ。

こっから先はテメーら自身の童貞眼で確かめてみろ。そしたら嫌でも分かるはずだぜ?」

 

いや童貞眼ってなんだよ……ぜんぜんカッコよくないよ……

 

当然ながらそんな言われようでは誰も動こうとしない。

 

ここでも僕が先陣を切っていくしかないのか。

 

多分大丈夫なんだろうけど、入間さんの太鼓判は絶妙に不安なんだよな……

 

「……っ!?」

 

しぶしぶ東側に向かって進み始めた僕は、直後奇妙な感覚に襲われた。

瞬きをしたように世界が真っ暗になったかと思うと、先ほどまでエリア上の壁に阻まれて見えなかった空間が、視界の先に現れていたのだ。

 

「これはひょっとして……ローディング、ってやつなのかな?」

 

「ビンゴ!あ、間違った……チンコ!」

 

「入間さん逆!というか下ネタはいいから、ちゃんと説明して!」

 

「ひゃうっ!?せ、急かすんじゃねえよこの早漏野郎が。

今のが"マップ切り替えのポイント"だ。

この世界は大きく2つのエリアに分かれてる。

さっきの館があった場所と、これから行く教会のある場所だ」

 

つまり……2つのエリアを行き来するには、必ずこの切り替えポイントを通らないといけないってことか。

そして切り替えポイントを挟んでいると、先のエリアはもちろん見えないし、音も通らないようになっている。

本当に、ゲームの世界みたいだな……

 

「館の地図に書いてあった通り、この世界は2つのマップを見えない壁で囲んでんだ。それ以外の場所はねーよ。

ふ……不服か?オメーもこんなんじゃもの足りねえって、オレ様に乱暴するクチなのか…!?」

 

「それって、同人誌みたいに!?えっちな同人誌みたいに!?」

 

「いや勝手に僕を鬼畜キャラにしないでよ!……っていうか、なんで便乗してるの白銀さん!?」

 

 

 

第2エリアの建物──教会の中は、一言でいうと雑多な状態になっていた。

あちこちに用途不明の物品が散乱しているから、全てを洗いざらい捜索するにはそれなりの手間がかかるだろう。

 

まるでこの場所に、大事なものを隠していると言わんばかりだ。

……ここまでされると、流石に露骨すぎる気もするけど。

 

「けけっ、ようやくこっからが本番だぜ。いいかオメーら、手分けして『外の世界の秘密』とやらを探すぞ!」

 

「そうは言うが、肝心の目的物が何か分からんことにはな……」

 

「肝心のモノクマも、具体的なことは一つも言っていませんでしたね」

 

「うーん、そんなものを見つけられるのかな……」

 

相変わらず皆の士気は低いままだ。

この流れだとまた入間さんが弱気になってしまうだろうから、励ましの言葉を準備しておかないと──

そんなことを呑気に考えていると、どこからともなく鶴の一声が上がる。

 

「見つかるか見つからないかの問題じゃないだろ!?オレ達はやるしかないんだよ!」

 

王馬くんだ。

今日は本当に計らずも入間さんの肩を持っているな。

 

……いや、果たしてこれは偶然なのか?それにしてはやけに──

 

「あ、そうそう。手分けする前に入間ちゃんに確認しておきたいことがあったんだ」

 

王馬くんはそう言って、僕たちに聞こえないような小声で入間さんと話し始める。

きっと、込み入った話があるのだろう。それを邪魔するほど野暮ではない。

 

何を話しているのかなんて、別に気にならないけど……

 

嫉妬の感情なんて、一つも持ち合わせていないけど……

 

ちょっと、距離が近くはないだろうか。

 

入間さんもいつものなりを潜め、どこか真剣な表情で会話に応じている。

 

一体なんだというのだろう。

 

この胸が締め付けられるような、変な気持ちは。

 

「……さ、最原クン」

 

「へ…?あ、キーボくん。どうかしたの?」

 

「いえ、ボクの思い過ごしかもしれませんが、物凄い形相で王馬クンを睨んでいたような気がして」

 

「僕が王馬くんを?はは、やだな。まさかそんなことは──」

 

 

 

……ないとは、言い切れなかった。

 

 

 

「で、どうやって手分けするの?この教会とさっきの館とで半分ずつ?」

 

「ハルマキ、ここはオレに任せとけ。宇宙的解決策でビシッと決めてやるからよ!」

 

「いやいや、待て!

この世界のことを一番良く知ってるのはオレ様なんだ。だから、オレ様に決めさせろ!」

 

無茶苦茶な理論を翳しながら、結局は入間さん直々の指名によって、館を探すのは僕、百田くん、王馬くん、ゴン太くん、白銀さんの5人。そして教会を探すのは入間さん、夢野さん、春川さん、キーボくんの4人に決まった。

 

「どうだ最原、ここの世界は最高だろ?」

 

「う、うん。そうだね」

 

「なぁ、ここを拡張して"新しい現実"として過ごすってのはどうだ?

そうすりゃあ、体はともかく……心は自由だぜ!」

 

え…?

 

ちょっと待って、それはおかしくないか?

 

だって、入間さんは……

 

ここにいる誰よりも、外に出たがっていたはずなのに。

 

 

 

…………

 

 

…………

 

 

…………

 

 

本当に、このまま入間さんの言うとおりに捜索を続けてしまっても大丈夫なのだろうか。

 

突発的にそんな疑念を呈したのは、他ならぬ僕自身。

 

明確な根拠などは、どこにもない。

 

だけど……ここに至るまでのあらゆる要素が、僕に何かを伝えようとしていた。

 

このままじゃいけない。

 

また悲惨な事件が繰り返される、って。

 

 

 

それならば、僕は。

 

 

 

僕の選択は──

 

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