入間さんといっしょ   作:パプリオン

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ところ構わず唾を飛ばしまくる自信家な入間さん好き。
打たれ弱すぎて頭からキノコを生やす入間さんも好き。
 


第4章 愛と青春の旅立ち

 

四度目のコロシアイ……それを"未遂"で済ませることに成功して以降、才囚学園には束の間の平穏が訪れていた。

 

プログラム世界の一件で僕と美兎さんの距離は急速に接近し、他の皆も今のところは間違った行動を起こす気配はない。

 

だけど、これまで目に見えなかった部分から、新たな火種が燻りつつあった。

 

「ゴホッ…!」

 

ある日の食事中、百田くんが突然血を吐いたんだ。

 

「百田っ!?あんた、その血…!」

 

「ど、どうしたの?一体何が…!?」

 

まさか食べ物に毒が入っていたのか。それとも別のところで──

 

「オメーら落ち着け。これしきのことで、騒いでんじゃねーよ…!」

 

ざわめく食堂内を一喝して黙らせたのは、吐血した本人の百田くんだった。けれど、誰がどう見てもその様子はただ事ではない。

 

「実は、風邪が悪化しちまってな……咳のしすきで、喉を切っただけだ」

 

百田くんはそう絞り出すように言いながら、一方的に会話を打ち切ってその場を去ってしまう。

その異常事態に、僕らはただ言葉を失うしかなかった。

 

「いったい何だってんだ、百田のヤロー。いきなり血をぶっ吐いちまうなんてよ」

 

「わからない、けど……あの様子はどう見てもただ事じゃなかったね」

 

「……やっぱ、やるしかねーのか。あのツルショタが言ってたとおり──」

 

「え…?」

 

美兎さんとの会話に出てきた"ツルショタ"とは、王馬くんのことだ。

なぜ彼の名前が出てきたのかはわからないけど、この時の彼女の瞳には、確かな意思が宿っていた。

 

 

 

 

 

第4章 愛と青春の旅立ち

 

 

 

 

 

数日後。

同じく食堂に集まった僕らの前で、百田くんからひとつの宣言がなされた。

 

「……オレは、モノクマと戦う。だから、オメーらの力を貸してほしいんだ…!」

 

細かい経緯などを一切省いた状態で、彼はそう結論だけを述べた。

だけど……この異常ともいえる環境の中で一緒に過ごしてきた僕たちは、それだけで百田くんの言いたいことを十二分に理解することができた。

 

これ以上のコロシアイは起こさせない。

なんとしても外の世界に脱出する。

 

僕たちの共通認識を実現させるために、必要なこと。

……それは、あのモノクマたちと戦うってことだ。文字どおり、命がけで。

 

事実として、今まではその覚悟がなかった。

モノクマーズが操る"高機動人型殺人兵器"こと『エグイサル』を相手にして、生き残れる未来があるとは思えなかったから。

 

だけど、もうそんなことを言ってられる余裕はない。

最初に16人いたクラスメイトは、コロシアイの果てに9人まで減ってしまった。

このまま2人(あるいは1人)が生き残るまで学園生活を続ける……なんてことになれば、果たしていかほどの悲劇を目の当たりにしなければならないのか。

 

「このくだらねーコロシアイを終わらせるためには……やるしかねーんだよ」

 

それゆえに。

神妙な面持ちで拳を合わせる百田くんの姿を前にすれば、僕たちもそれに同意せざるを得なかった。

 

大切な仲間を、これ以上失わないためにも。

 

 

 

「奇遇だねー。こんなところで鉢合わせになるなんてさ」

 

作戦会議と称して集まった体育館には、既に先客がいた。

ここ最近、ずっと姿を見せていなかった王馬くんだ。

プログラム世界でのいざこざ以降、部屋に籠りきりで声をかけても一切話をしてくれなかった彼が、不敵な笑みを浮かべながら体育館のど真ん中に鎮座していたのである。

 

「オレも、そろそろこのコロシアイゲームを終わらせたいと思ってたんだよ」

 

「王馬テメー、一体何のつもりだ!?」

 

「あ、動かないで。こいつの餌食になりたくなかったらね」

 

そう話す王馬くんの足元に揃っているのは、ピンク色のハンマーと……まさか、爆弾か!?

 

「そんな物騒なものを集めて、どうするつもりなの?」

 

「にひひ、知りたいよね。それじゃあ教えてあげるよ……オレの真の目的をさ」

 

──対モノクマ用最終兵器。

 

台車の上に人数分置かれていたハンマーと爆弾は、奴らと戦うために用意したものだと言う。

 

……にわかには信じがたい話だと、そう思った。

ゴン太くんを除いた周りの皆も同じ感想を抱いたらしく、怪訝な表情を隠しきれていない。

 

「皆して疑うなんて酷いなー。

だったらネタバラシするけど、こいつを作ったのはオレじゃない……そっちにいる"超高校級の発明家"さんだよ?」

 

「えっ…?」

 

それまで王馬くんに釘付けだった皆の視線が、一斉に美兎さんの方へと移る。

もちろん僕もその例に漏れず、驚きの眼差しで彼女を見やった。

 

「美兎さん、今の話は本当なの?」

 

「う、うん……でも違う、誤解なの!あれは、王馬のヤローが無理やりオレ様に迫ってきて…!」

 

「無理やりだって!?王馬くん、キミはなんて事を!!」

 

「……ねぇ最原ちゃん。なんか少し見ないうちに、そこの処女ビッチに毒されてない?」

 

「ひぐっ…!な、なんだよぉ……処女ビッチだって、ちゃんと需要あるんだぞ…!」

 

美兎さん、キミの意見に賛成だ!!

 

「そうだよ王馬くん。まさか超高校級の総統ともあろうキミが、知らなかったの?

美兎さんの言うとおり、需要はちゃんとある……僕自身が、その証拠だ!!」

 

「おい、アホなこと言ってねーで話を進めるぞ」

 

僕自身はいたって真面目な話をしているつもりだったんだけど……残念ながら周りの賛同を得ることはできず、話の主導権は再び王馬くんに移る。

 

彼の話を要約すると、実は僕たちと同じようにモノクマを倒してコロシアイを終わらせることを画策しており、美兎さんに"対モノクマ特効兵器"を作らせたのだとか。

 

それがここにある"エレクトハンマー"と"エレクトボム"で……それぞれ電子装置の機能を停止させてしまう効果と、直径50メートル内の通信電波を妨害してしまう効果が付与されているらしい。

 

また、これに関しては驚くべき……というより信じられない話なのだが、王馬くんはこれらをプログラム世界へ行く前の段階で美兎さんに作らせていたと言うのだ。

 

当人の反応を見る限り、その話はおそらく嘘ではない。

しかし、だとしたら……キミは一体、どこまで先の展開まで読んでいるんだ。

 

ともあれ、決行日は明日。

仲間同士で疑心暗鬼に陥っている場合ではない。

彼が首謀者であるという可能性も拭えなくはないけど、それならば今回のように中途半端な行動をとるとは思えなかった。

 

生き残った皆で外の世界に脱出する。

 

……今は亡き、赤松さんの想いを叶えるためにも。

 

僕たちは改めてモノクマと戦う決意を固め、ひとまずその場は解散することとなった。

 

 

 

夜時間まではしばらく時間があるな。

時計を眺めながらそんな風に思った僕は、なんの気なしに美兎さんの部屋を訪ねることにした。

 

彼女の部屋の前でノックをすると、「ひいっ!?」という怯えた声が聞こえてきたので、「安心して、僕だよ」と声をかければ直ぐに扉が開いた。

 

「し、しし、終一か。どーした、欲求不満を垂れ流してる面しやがって。

ひょっとして、オレ様を襲いに来たのか!?」

 

「……」

 

「え、ちょっ……もしかして、ホントに欲求不満なの…?

だ、だけど、このオレ様をイカせるのはそんなに甘いもんじゃねーぞ!?」

 

このまま放っておくとどこまでも話が飛躍していきそうだったので、良きところで彼女の暴走を止める。

それと同時に、一番気がかりな明日のことについて、美兎さんと気が済むまで話し合った。

 

「それにしても驚いたよ。知らない内にあんな凄い発明品を作っていたなんてさ」

 

「けけっ。オレ様にかかればあの程度の発明、朝勃ち前だぜ!」

 

それを言うなら朝飯前だろ……と思いつつ。

一見すると自信満々な彼女の視線が、明後日の方向へ向いていることに気付いた。

 

「美兎さんは怖くないの?モノクマやエグイサルと、戦うこと」

 

「ひゃーっひゃっひゃ、馬鹿言ってんじゃねー!

 

そんなもん……

 

コエーに、決まってんだろ…!」

 

うん……やっぱり、そうだよね。

 

「あの武器で残ったエグイサルに勝てる保証なんて、どこにもないし。

それに、みんなで力を合わせるって約束しても、誰かに裏切られるかもしれないし……」

 

「裏切りだなんて、そんな…!」

 

「も、もちろん、終一のことは信じてるよ?でも……」

 

普段の強気な態度とは裏腹の、臆病で疑心暗鬼な部分。

結果的にはそれが彼女を数日前の凶行に走らせてしまった訳であり、当然一筋縄に克服できるようなものでもない。

 

だけど、こうやって素直な気持ちを吐露してくれるようになったのは、あの時よりも互いの関係が前進した……と言えるのかな。

 

「本当はね、王馬に頼まれたものを作った時は、モノクマに逆らう気なんてなかったの。

だってアタシは、万が一にも死ぬ訳にはいかないから……なんとしても生き延びて、世界を変える発明品を作らなきゃいけないから」

 

「それでもキミは、僕たちと一緒に戦うことを決断してくれた。どうして?」

 

「ひぐっ…そ、それをアタシに言わせるの?

……だって、約束したから。終一と」

 

「美兎さん……」

 

そうだ。

僕は彼女と約束したんだ。

一緒にここから出て、デートするって。

 

あの時に貰った"美兎さんとデートできる権利(彼女の勝負下着)"は、今も肌身離さず持ち歩いている。

……無論、確実に変態扱いされるから公言はできないけど。

 

僕だってこんなにも大きい好意を寄せられて黙っているほど、落ちぶれてはないつもりだ。

 

 

 

 

 

美兎さんと別れてから数刻後。

時間帯は既に深夜へと差し掛かっているにも関わらず、僕は眠りに就くことができなかった。

 

否が応でも考えてしまうのは、明日起こりうる出来事。

 

彼女は表面上平気な素振りを見せていたけど、内面ではやはり怯えていた。

 

……当たり前、だよな。

 

いくら味方に有利な武器を揃えたからって、それで絶対に勝てるという保証はどこにもない。

むしろ少しでも判断を間違えば、エグイサルにあっけなく踏み潰される未来が待っていることだろう。

 

彼女にはあえて言わなかったけど、もしものことがあれば僕は身代わりになってでも美兎さんを守るつもりだ。

 

今なら、二回目のコロシアイで自ら犠牲になった星くんの気持ちが痛いほどに分かる。

彼はきっと、生きることを諦めたんじゃない。命の重さを測ったんだ。

 

たとえば僕ひとりだけが生き残り、脱出できたとして。

どのように荒廃しているかもわからない外の世界に、どれほどの貢献ができるだろうか。

"超高校級の探偵"という肩書を持つ僕が、いかほどの利をもたらすことができるだろうか。

 

美兎さんは過去にこう言っていた。「自分の死は世界規模の損失だ」と……

その言葉は、決して過大なものではない。

本当の意味で尊重されるべきものだったんだ。

 

とはいえ、もちろん僕だって簡単に死ぬつもりはない。

これだけ大きな愛情を向けられて、美兎さんを残して自分だけがいなくなれば……果たして、どれだけ彼女のことを悲しませてしまうことになるのか。

 

だから、僕を犠牲にしてでも生き残って欲しいとは言わなかった。

それは決して美兎さんの望むところではないからだ。

いざとなれば命を捨てる覚悟は出来ているけど……それはあくまでも最終手段であり、僕の胸のうちに秘めておけばいい。

 

「クン……最原クンってば……」

 

気のせいか、先ほどからやけに耳元がうるさい。

夢を見ているわけでもないのに、聞き覚えのある声の主が、僕に向かって何度も語り掛けているような……

 

じわり、と汗がにじむ。

 

恐る恐る目を開けると、そこにいたのはやはり──不気味な表情を浮かべている、モノクマの姿だった。

 

「うぷぷ……おっはよー!まだ夜だけど、さわやかに目覚めてくれたかな?」

 

「……っ!」

 

僕は驚きの声すら上げず、ただ押し黙ることしかできなかった。

 

この状況、かなりマズくないか?

 

昼間に皆で考えた作戦が、モノクマに筒抜けだったとしたら……それを未然に防ぐために動かれたとしても、何らおかしくはない。つまるところが、難癖をつけての口封じ。

僕らが今まさに反旗を翻すべく行動しているのと同じように、モノクマが突然危害を加えてきても何ら不思議ではないのだ。

 

「それで、何しにここへ来たの?ひょっとして、全員がちゃんと眠っているかの見回り……とか?」

 

僕はできる限り平静を装いながら、モノクマに問いかける。

 

「そうそう、抜き打ちで部屋に飛び込んで、まだ寝てない生徒がいたら叱りに──って違うよ!ボクは修学旅行の先生じゃありません!」

 

「……じゃあ、何で?」

 

「うぷぷ……それはね、オマエが"愛の鍵"を手に入れておきながら、一向に使おうとしないからさ!」

 

「は…?」

 

想定とは全く違う答えが返ってきたので、思わず拍子抜けしてしまった。

 

愛の鍵……って、確かカジノで手に入れた景品だよな。

『お宝発見!モノリス』をやり込みまくっていたおかげで入手することが出来たけど、メダル交換枚数がべらぼうに多かったんだ。

 

「使うって言われても、アレは他のプレゼントと同じで誰かに渡すためのモノじゃ──」

 

「ぜんっぜん違うよ!その鍵はね、カジノの近くにある"あそこ"の鍵なんだよ!」

 

「あそこって、まさか……」

 

ラブアパートって書いてあった、ピンク色の建物の事か?

 

「そうそう。さっすがムッツリスケベの最原クンだけあって、察しが早いね!」

 

ムッツリスケベってししし、失敬な!

僕がそんなんじゃないことは自明の理なのに。

 

「……」

 

その、哀れなものを見る目は止めてくれるかな?

 

「まあ、キミがムッツリだろうとオープンだろうとどっちでもいいんだけどね……

とにかく高校生にありがちなその煩悩を少しでも解消するために、愛の鍵の出番となるわけです!」

 

そこから、講師モノクマによる懇切丁寧な【愛の鍵 説明講座】が始まったわけだけど……ざっくりと要約すれば、これを使用することで他の誰かが僕に対して抱いている妄想を具現化することができる、という話だった。

 

結局モノクマは「じゃ、存分に妄想を楽しんできてね!」と言ったきり、姿を消してしまい。

一人取り残された僕は、命の危機がなかったことに安堵のため息をつきながら、まじまじと愛の鍵を見つめるのだった。

 

 

 

僕は決してムッツリなんかじゃない。誰が何と言おうとムッツリじゃないんだ…!

 

自分にそう言い聞かせながら、早速愛の鍵を使うべくカジノエリアへと歩を進める僕こと最原終一。

時間が時間だけに他の誰かとすれ違うこともなく、いつもならカジノに向かって直進するはずの分岐点を右の脇道へとそれる。

 

桃源郷をモチーフにしたような外観からは、()()()()()をする場所であるという事実のみがひしひしと伝わってくるわけで。

 

相手の妄想が具現化するなんて、普通だったらにわかには信じられないような話だけど……これまで数え切れないほどの"信じられないこと"が実際に巻き起こってきた才囚学園においては、あり得ることなのかもしれない。

 

期待と不安が入り混じる中で、僕は「ラブアパート」と書かれた建物に足を踏み入れた。

 

受付と思わしき場所でチェックインを行い、エレベーターで指定された階に上る。

長い廊下の左右には普通のホテルと同じようにたくさんの部屋が並んでいた。

 

愛の鍵を使えばどこかの部屋が開く、ということなのだろうか。

残念ながらそれ以上のヒントはないようで、ならば片っ端から鍵が合うかを試していくしかないわけだけど……なんかそれって、普通に恥ずかしいな。

 

さてどうしようかと逡巡していると、僕の背後からエレベーターの到着音が聞こえてきた。

ちょっと待て。このタイミングで僕以外の誰かが来ることってあるのか!?

 

とっさの事態に焦りを隠せない僕のことなどつゆ知らず、エレベーターの扉がゆっくりと開いていく。

 

中から出てきたのは──この学園で誰よりも見慣れ……そして、親しくなった人物だった。

 

「終一っ!?」「美兎さん!?」

 

驚きの発露と共に、互いの名を呼ぶ声が重なる。

 

「な、な、な、なんでオメーがここにいんだよ!?」

 

「そ、そそ、それはこっちの台詞で──」

 

何故だかやましいことをしているのがバレたような気分になって、言い訳を必死に考えていると……頭の中に一筋の光が走った。

もしかしてこれ、愛の鍵の効果が始まっているんじゃないのか?

 

冷静になって考えてみれば、こんなにも都合の良いタイミングで彼女が現れるはずがない。

つまり、目下では先ほどモノクマが言っていた「愛の鍵を使うことで理想の妄想が現実化する」という現象が発生しているのではないだろうか。

 

「ど、どうして急に黙り込むんだよ……何か言ってよぉ……」

 

「いや、その、ちょっとね。色々と思い違いをしていただけで」

 

「そ、そうか。実はオレ様も、ちょっとばかし勘違いをだな……」

 

「……」

 

「……」

 

「えっと……これから、どうしようか」

 

お互いにしどろもどろな状態が続く中で、このままでは埒が明かないと感じた僕は、思い切って美兎さんに問いかけてみる。

 

「あのね、終一。実は前々からしようと思ってた、スゴく大切な話があって……」

 

すると珍しく真面目な表情のままでそんな返答が返ってきたから、僕はいよいよこれが現実と夢の狭間であることを自覚した。

 

それならそれで、彼女の妄想に合わせて会話をしないといけないんだよな。

モノクマ曰く、むげに扱うと相手が苦しむことになるらしいから。

 

「かっ、かか、彼氏のオメーにとっちゃむせび泣くほど良い話だろうだから、心して聞けよ!絶対だぞ!?」

 

「う、うん」

 

なるほど、彼氏と彼女って設定の妄想か。

……あれ?でも僕らって、現実でも似たような関係性になっていた筈で……

 

「で、その話ってのはだな。お、お、おおおお、おお……」

 

「……お?」

 

「お、おお、オ、オレ様を……」

 

「……オレ様を?」

 

「だっだだ、だだだ、抱いていいぞ…!」

 

「抱いていいんだ……は?」

 

ごめん、言ってる意味がわかるけどわからない。

 

抱いて…?

だいて…?

ダイテ…?

代手…?

代金取引手形…?

 

「ああうん。手数料とか、結構取られるよね……」

 

いやそんなわけがない。

間違いなく美兎さんは僕を抱きたいと言っているのだ。

 

「突然何言ってんだよ、このチンコ!」

 

「ご、ごめん。美兎さんが突然そんなことを言うから、驚いちゃって」

 

「え?な、なんでぇ?」

 

心底意外だという素振りを見せる彼女に対して、残念ながら僕としてはいきなり抱かれてしまうような心当たりはない。

いやもちろん本当にそうしてくれるというなら一も二もなく喜んで受け入れさせていただくわけだけど、常識的に考えて『オレ様を抱け』→『はいわかりました』という流れにはならないと思う。

 

「わ、忘れたとは言わせねーぞ!?

"本当はオレ様と愛し合うのを期待してた"って……ま、前に、オメーが言ってたことじゃねーか!」

 

……なるほど。

非常に不本意な話ではあるが、彼女の妄想の中で僕はそんな過激発言をするキャラになっていたのか──

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ん?なんか浮かねー顔してんな。

……ははーん、さてはアレだろ。オレ様とあんなことやこんなことができるかもって期待したんだろ。そーなんだろ!?』

 

『……そうだね。ちょっとだけ期待してたかもしれない』

 

『えっ、ほ、ほんとにそうだったのぉ…!?

で、でもそういうのは、ちゃんと段階を踏んでからじゃないとぉ……』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

あ、違う。

これに関しては僕自身そう言ってたんだ。

プログラム世界に行く前、彼女が僕の部屋を訪れた時に。

 

つまり美兎さんはあの時の会話を覚えていて、それを妄想として実現させようとしている、ってことか……

 

「もしかして、ビ、ビビってんのか?ま、まぁそうだよな。やっぱオメーみてーなダサ童貞は、いざ本番となったら尻込みしちまうよなぁ!?」

 

そう言いながらもぷるぷる震えている彼女を見ると、やはり相当な決意をもってこの話を切り出したのだということが分かる。

果たして僕なんかで本当にいいのかという葛藤はあるけど……美兎さんがこうして覚悟を決めてきている以上、それを口に出すことは憚られた。

 

「それにアタシ、まだ終一にちゃんとお礼ができてない、から……」

 

「お礼って…?」

 

「お、男にとってこの世で一番の報酬と言えば、このオレ様の完熟ボディだろ!?」

 

「いやまあ、その点については頷ける話だけど一旦置いといて。そもそも僕、お礼されるようなことをしたのかなって」

 

「え…?おいまさか、本当にわかんねーってのか?ったく、それでもオメーはオレ様の彼氏かよ!」

 

う、確かにそれを言われると弱いな……

 

「察しが悪くてごめん。今回限りで良いから、どうしてなのか教えてもらっていいかな?」

 

「……」

 

「……」

 

再び訪れた長い沈黙は、有り体に言えば彼女の"迷い"を表していた。

 

「わ、笑わないで……くれる?」

 

「もちろん、笑わないよ」

 

「怒鳴ったりも……しない?」

 

「大丈夫。美兎さんがイヤだって感じることは、絶対にしない」

 

「はぅっ…!」

 

以前ならば絶対に言えなかったような照れくさい台詞を平然と口に出せるようになったあたり、僕も少しは成長できたのかもしれない。

 

そしてこちら側の真剣な気持ちが上手く伝わってくれたのか、美兎さんは己の心情を語り始めた。

 

「この学園に来てから、終一は片時も離れず側にいてくれたよね。発明品の実験をしたり、プレゼント交換をしたり……何をするにも、隣に寄り添ってくれた」

 

きっかけは、赤松さんが死んだ直後の時のことだったと思う。

もし最初にキミが声をかけてくれなかったら、きっとこんなにも深いつながりは持てていなかったんじゃないかな。

それからプレゼントと言えば、やはりあの髪の毛入りのアップルパイだろう。またあれを食べたいなんて言い出せば、いよいよ僕は周りからもヤベー奴認定されてしまうんだろうけど。

 

「アタシは、終一がいなかったらきっとダメになってた。今こうして一緒に居られるのも、終一のおかげ。

だから、何かお礼がしたくて……」

 

「それで、さっきの抱く抱かないの話になった、ってこと?」

 

「う、うん」

 

おずおずと話していた入間さんは、真っ赤になりながらうつむいていた。

当然僕の方も死ぬほど照れまくっているうえに、体が暑くてしかたない。

 

「パンツは前の時に渡しちゃったから……それ以上ってなったら、や、やっぱりこのヴィーナスボディをあげるしかないって、そう思って」

 

でも、と彼女は続ける。

 

「それはあくまでも口実で。ほ、本当はアタシ、終一の子供が欲しい……の」

 

「こっ、ここ、子供ぉ!?」

 

これ以上は何を言われても驚かないぞと決めていたにもかかわらず、その意志は食べかけの水切りヨーグルトのように脆くも崩れ去った。

 

"アタシを抱いて"からの"子供が欲しい"って、それはもう完全にアレをするって事だよね!?

エッチな発明品を試すのとはわけが違うんだよ美兎さん!少なくとも僕の理解の範疇を超えているよ美兎さん!!

 

「だ、だからね……わっかんねーのかぁ!?ったく、世話の焼ける彼氏だぜ!」

 

うわっ、いきなり強気モードに突入した!?

この状態でも僕のことを彼氏だと認定してくれるのは嬉しいけど、肝心の部分はそこじゃない。

 

「つまりだ。この天才美人発明家である入間美兎さまの才能とオメーの性格が融合すれば、完全無欠の子供が誕生するってことだよ!

で、生まれた子供に英才教育を施して発明を任せときゃ、オレ様とオメーの将来は安泰だろ!?ひゃっはー!これ以上ない最高のアイデアじゃねーかぁ!」

 

「……」

 

「な、なんだよ。オレ様の完璧な未来設計にケチをつけようってのか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……」

 

「それともよぉ……やっぱり、アタシじゃだめ?」

 

再度、彼女の雰囲気が変わる。

今日はいつにもまして情緒が不安定なんだけど……彼女の素って、結局どっちの姿なんだろうか。

 

「ねぇ、終一の彼女にはなれないの?アタシはいらないの?」

 

「いや、だからそれは──」

 

「い、嫌だよ……アタシ、終一に捨てられたくない。だから、子供を作らないと…!」

 

駄目だ、まるで会話になってない……

このままだとなし崩し的にとんでもない事になると、僕の第六感がそう告げていた。

 

「終一が、アタシから離れないようにしないと……アタシが捨てられないようにしないと…!」

 

「っ…!捨てたりなんかしないよ!!」

 

だけど、それでも僕は美兎さんを放っておけなかった。こんな風に言われて、黙っていられなかった。

 

切羽詰まった状況の中で、半ば無意識的に。

僕は彼女のことを強く抱き締めていた。

 

「捨てるわけ、ないだろ。ずっと一緒だって、約束したんだから」

 

「しゅう、いち……」

 

「僕は、何があってもキミのことを離さない。だからそんな心配はしなくていいんだ」

 

ぴくり、と彼女の肩が揺れる。

 

おそらく全力で向かって来ているだろう彼女に対して、僕も全力で接しなければならない。

その想いが、少しでも伝わってくれるように。

 

ようやく落ち着いてくれた美兎さんと、改めて向き合う。

 

彼女の暖かさと心臓の鼓動が体越しに伝わってきて、その感覚がとても心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

………………あれ?

 

 

 

「そ、それじゃあ……しよっか、終一」

 

ちょっと待ってくれまさかこれで終わりじゃないのか!?いい感じで締めの空気が出来てたよね今!?

確かに愛の鍵効果がどれくらい続くのかということは聞いてなかったけど、ここで終わらせてくれなかったら──

 

「いっぱいちょうだい……アタシの中に」

 

「なっ、ななな、中ぁ!?」

 

「ね?お願い。いいでしょ?」

 

「いや、あのさ……もちろんいつかはと思わないこともないけど、そういうのはちゃんと段階を踏んでからって、前に美兎さんも言ってたよね?だから──」

 

「……うっせー!明日をも知れぬ命だってのに、のんびりと段階踏んでる場合じゃねえだろうがっ!!」

 

「ええっ!?」

 

完全にうまく丸め込める流れだったのに、まさかの説得失敗である。

凶暴化した入間さんにはまるで手が付けられず、僕はなすがまま彼女に押し倒されてしまう。

 

「テメーにもチンコはあんだろ!今使わねーでいつ使う気だ!?」

 

その主張は、はっきり言って無茶苦茶だった。

だけど僕は、彼女のこんな傍若無人なところにも魅力を感じてしまったんだよな……

 

「いいから子作りだっ!オラァァァ!限界まで絞り出しやがれぇ!」

 

 

 

なすがまま、という言葉はあまり良くない意味で使われることが多いと、そう思っていたけど。

 

 

 

こんな風に、美兎さんからなすがままにされてしまうというのなら……

 

 

 

それって、単なるご褒美じゃないだろうか。

 

 

 

結局抵抗の素振り一つ見せなかった僕は、これ以上ないくらいに興奮している美兎さんと、一つに繋がって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでー!!!!」

 

「うわあああああっ!?!?」

 

「ひいいいいいいっ!?!?」

 

寸前のところで来襲したのは、現在この世で最も出会いたくない相手──モノクマだった。

僕は慌てて美兎さんを後ろに隠し、彼と対峙する。

 

「なななななななんだよモノクマ!こここここれは健全な妄想であって不純なんかじゃないし校則違反でもないぞでででで出ていけよモノクマ!!」

 

「そそそ、そーだよぉ…!あ、あとちょっとで、終一がアタシのモノになるところだったのにぃ…!」

 

しどろもどろな僕たち二人の言い訳など気にも止めず、モノクマは両手を上げて宣告した。

 

「ぶぁっかもーん!!()()()()使()()()()()()()、本当におっぱじめる奴がいるかー!!

オマエラのお陰で苦情殺到!作品はぶち壊し!!

ダンガンロンパは……コロシアイ学園生活は打ち切りだー!!!!」

 

「……えっ?」

 

「……は?」

 




 
【愛の鍵】
欲と性が渦巻く、とある場所の鍵。
誰かに渡す事もできるが、持っているといい事があるかもしれない。

※愛の鍵は自動的に使用されることはありません。
 あなた様が自らの意思で鍵を使い、()()()()()()()()
 初めてその効果が発揮されます。

以上、ご確認のほど、宜しくお願いいたします。
 
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