「死にそうだった……なんでこのタイミングで腹痛なんだよ……」
4回戦を突破した青道の選手達は、恐らく準々決勝で対戦することになる選抜出場校の市大三高の試合を見ていくとこになった。
そんな時に涼太は腹痛が訪れ、トイレに篭っていた。
「さてどうなってるかな……」
涼太がスタンドに戻ると1回の裏の薬師高校が攻撃をしていた。
「うわー……もう市大6点取ってんじゃん……これは早く終わるかもな」
涼太はそう呟きながらグラウンドを見た。
その瞬間
カキーン!!
快音が響いた。
薬師の打者が真中のスライダーを完璧に捉え、その打球は球場の外の木の1番上に直撃した。
「ガハ……ガハハハハハ ス スゲェ!! ボールが手元でギューンって曲がった……野球ってすげぇ!!」
「おいおい……真中さんのスライダーを完璧に……しかもあそこまでって……」
グラウンドで驚く三高ナイン、観客、スタンド見ていた青道の選手達と同じように涼太も驚いていた。
薬師高校 4番 轟雷市のバッテングに……
試合は6回裏 薬師の攻撃
11対8で市大のリードで試合は進んでいた。
しかし市大がリードしていても、勢いは薬師にある事は一目瞭然だった。
「まさかここまで荒れる試合とはなるとはな……」
御幸が苦い表情をしながらそう呟く。
「……やはり初回のツーラン。あれで完全に真中のリズムは崩してしまった。平常心を失ったまま次の5番バッターにもソロホームランを浴びてしまったからな。一旦外野の守備につかせるしかなかった」
クリスも冷静に試合を分析した事を話していく。
「恐るべきは……たった1球で投手の心をへし折った。あの1年生スラッガー…… そしてここまで1度も試合で使っていない1年生3人をクリーンナップを任せるあの監督……」
そんな中、薬師のベンチでは監督の轟雷蔵と息子である轟雷市が掴み合いをしていた。
それを見ていた青道の選手達は呆れていたが、勢いがあるのは薬師でこのまま終盤までこのままの点差で行けばわからないような状況ではあった。
この回はサードの4番でキャプテンである大前のダイビングキャッチでダブルプレーを取り、1点で抑えた。
「リードしているのは俺たちだ!! このまま一気に押し切るぞ!!」
「「おお!!」」
「お前はどっちが勝つと思う?」
ベンチ前で大前が盛り上げているのを見た御幸は少し離れた所に座っていた涼太に声をかけた。
「……元々の自力は市大、けど今の試合は薬師のペース。難しいね。俺がやりたいの市大だけどね。秋大で負けてるから」
少し苦笑いをしながら涼太は答えた。
「……けど俺の願いは叶わないと思うよ」
涼太は遠回しに薬師が勝つと予想をした。
涼太の予想を御幸とクリスは無言で、1年生の3人は驚いた顔をしていた。
「まぁ俺の予想が当たるかどうかは、この人次第だけどね」
そう言ってグラウンドに目線を向けると、
「7回の裏 市大三高 選手の交代をお知らせします。ライトの真中くんがピッチャー……」
「あれ…… またあの人がマウンドに……」
初回にホームランを打たれている真中がマウンドに上がった事に沢村が驚いていると、
「当然だろ。真中さんは市大のエースなんだから」
「ここで立ち直ってもらわなければチームとしても先に進めない。エースとはそれぐらいの存在なんだ」
マウンドに上がった真中は薬師のベンチの中にいる、雷市の事を睨んでいた。
元チームメイトだった丹波は真中がマウンドに上がると心配そうに見ていた。
(俺たちはこんな所で足踏みしてるチームじゃねぇんだ。邪魔すんじゃねぇ!)
真中は3番の三島をインコースのストレートで空振り三振を奪った。
エースの投球を見て、市大ナイン、そしてスタンドは大きく盛り上がって、真中コールが起きていた。
「三振とったぐらいで大騒ぎかよ…… 気ぃつけろよ雷市。初回とは違うぜ」
三島は雷市に真中の変化について告げる。
雷市は三島の打席を見て、震え、笑いが止まらなかった。
「ガハハハハハ。震えが止まらねーぞぉぉお!」
この真中の投球に監督の轟は、
(フン……王者のプライドむき出しだな)
「……真田! 次の回から行くぞ! 準備はできてるな?」
後ろのベンチの後ろで頭にタオルをかけて、座っている男に声をかけた。
「……やっとですか……監督……」
「切り札は最後まで取っとくもんだろ」
「……って、負けてるですけど……」
(フン……王者のプライド? そんなもん吹っ飛ばしちまえ。雷市、お前のバットで)
ブン!!
初球、真中はインコース低めのボールゾーンのスライダーで空振りを奪う。
「OK、真中ボーイ。その球だ!」
市大の監督、田原も思わず声が出る。
(それこそがユーのウイニングショット。そのコースに投げていれば絶対に打たれない。自信を持って投げろ!)
2球目は厳しいコースを雷市はファールにした。
これによりカウントは0ボール2ストライク。
「……ハ……ハ……ハハ……スゲェ……」
「甘いコースには徹底して投げないな」
「それだけやべぇ相手ってことかよ」
(初回にホームランを打たれたこの打者を抑え、一気に市大ペースに持ち込むができるか……)
そして3球目、真中が気持ちで投げたボールはインコースのストレート。
(上手い! ボール球の変化球を振らせて最後はストレート)
御幸とクリスはその配球を絶賛した。
それ程までの完璧な配球だ。
(これは振り遅れ-)
カキーン!!
バチィ!!
雷市が振り遅れること無く、打ち返した打球はピッチャーの真中に直撃した。
(……お、……俺たちは春の王者 市大三高……こ、こんなところで立ち止まるワケにはいかねーんだ……)
真中は膝を地面につけながらボールを掴み、
「らああああ!」
なんとかファーストに送球した。
(待ってんだよ……あの舞台が俺たちを……)
そのボールをファーストが捕球し、アウトとなった。
「おぉぉぉお!! ま……真中さん!」
「今……当たったんじゃねぇのか……グローブか!?」
驚く雷市とマウンドで笑みを浮かべた真中は目が合った。
しかし、その瞬間、
「……ぐっ」
真中が腕を抑えだしたのだ。
「真中!」
「真中さん!」
それを見た市大の選手達はマウンドに集まる。
「ど、どこに当たった!!」
「肩か!?」
「腕か!?」
「真中!!」
この状況に監督の田原も、
「石川ボーイ!! 今すぐに肩を作れ!! 今すぐだ!!」
「は、はい」
「ハリア―ップ!!」
(マズイことになった。マズイことに……)
「一旦医務室に行きなさい!」
「だ、大丈夫です……」
「真中!!」
審判の言葉を聞かずに立ち上がった真中だったが、声は小さなものだった。
(真中ボーイが外野の守備に着いている間にもう既に2人の投手をつぎ込んでいるんだ……ここで真中ボーイにマウンドを降りられらたら……)
球場全体がざわめく中、青道の選手達も深刻そうな顔をしていた。
そんな中、
一人の男は真中では無く、轟雷市の事を見ていた。
(あれはモノが違う…… あのボールをセンター返し。それもあの強烈な打球…… 俺ならレフト線に落として二塁打を狙う…… だけど彼はジャストミート…… ヘッドスピードが早すぎる……)
ワァー!!!
「…… 薬師が勝つと予想したのは当たってたな」
「……勝つとは思ったけどまさかこんな結末とは思ってなかったよ……」
御幸と涼太の目線の先にはホームベース付近で喜ぶ薬師ナインと、マウンドで崩れている投手の近くに集まる市大ナインがいた。
「村上立て……整列だ」
キャプテンの大前がサヨナラヒットを打たれて、マウンドで崩れ落ちている村上につらい表情をしながら声をかけた。
ベンチでは真中が右肩を抑えながら泣いていて、立ち上がることが出来なかった。
「ス……スタンドアップ……スタンドアップ真中ボーイ……」
監督の田原も声が震えながら、真中を見れずに声をかけていた。
スコアは12対13
月刊「野球王国」の記者の峰と大和田もこの結果には驚いていた。
「ま、まさか市大が打撃戦で押し切られるなんて…… 先輩全員安打で17安打 13得点」
ベテランの記者である峰も薬師のこの強力打線には驚きしか無かった。
(真中君の負傷退場というアクシデントはあったが、最終的にはセンバツ出場校を打撃でねじ伏せたんだ。市大か青道で絞られていたこのブロックに
とんでもないダークホースが現れたぞ……)
青道ナインもこの結果に驚いて、立ち上がっていた選手もいた。
「この試合全員で見ていて良かったな。次の試合までに対策することが出来る」
片岡がそう言うと、クリスは頷く。
青道の選手達はバスに戻ろうとしていたが、丹波はその場でグラウンドを見ていた。
その視線の先には元チームメイト 真中が泣いている姿があった。
「……行くぞ丹波」
声をかけられた丹波は手を握っていて、体ば少し震えていた。