7月25日
第4回戦
薬師vs都立千草
青道の選手達は薬師の試合をビデオで見ていた。
薬師は市大戦に続きこの日も3番の三島 4番の轟 5番の秋葉が打ちリードを広げる。
『6番三野君に変わりまして真田君 ピッチャー 真田君』
「この後この投手が7回まで投げ抜き12対3で7回ゴールド。市大を破った勢いそのままにやはり薬師が勝ち上がりました」
クリスは結果を改めて告げると、ビデオに映っている投手について話す。
「市大戦でも後半から登板して2イニングを抑えたこの右腕。インコース主体の強気なピッチングに右打者の胸元をえぐるシュート。背番号18 真田俊平 このチームの実質的なエースはこの男で間違いないだろう」
「珍しいな。シュートか⋯」
「なんでこいつ先発しねぇんだ? 故障持ちかよ⋯」
クリスの分析に結城と伊佐敷が言葉を発する。
「それは分からない。が……エース格を温存していきなりクリーンナップを入れ替える常識外れの戦い方……もし計算された戦略だというのならウチの試合でも何か仕掛けてくる可能性も十分にあるな」
「どう見る? この投手」
「んー どうだろう⋯当てられそうな感じだね」
「なんかもう少しねぇのかよ」
御幸の問に興味無さそうに告げる涼太に倉持は苦笑いで聞く
「だって全然分からないからさー こんなに色々してくるチームが右打者には有利だけど左には逃げていくボールでしかないシュートしか投げないとは思えないし。それに⋯」
「それに?」
「この投手、白髪頭に似てそうだし」
その言葉に隣に座っていた倉持と御幸は頭の中で涼太の言う白髪頭を思い浮かべ、納得していた
「確かに気が強そうだしな」
「あいつも打たれた相手には絶対やり返そうとする奴だし」
「へーくしょん!」
「なんだ風邪か? バカエース」
「昨日は寝れたんだけどな⋯ は! もしかしてどっかの女の子が噂してるのかも!」
「⋯」
ミーティングは進み、クリーンナップの3人の1年について話していた
「クリーンナップ3人で7安打8得点……1年だからと言って油断出来ない相手です……」
「「⋯」」
この3人を見て降谷と沢村は表情を険しくする
「チームの盗塁数は7つか⋯」
「はい。バントをしない分積極的に走ってきていましたね……」
「積極的に動いてくるランナーを意識しつつ、強力打線にも注意をしなければならない。バントしてこない事が逆に投手陣へのプレッシャーになる事もある!」
片岡の言葉に投手陣は顔を険しくなった。
「思った以上に手強い相手かもしれんぞ⋯」
ミーティング終了後
涼太は1人残って薬師のビデオ見ていた。
(確かに3番も5番もいいスイングをしている。他の強豪校でもメンバー入り出来るぐらいだ。けど1番は⋯)
カキーン!!
ビデオには真中のスライダーを打ち返している轟 雷市が映っていた。
(あの真中さんのスライダーを完璧に捕らえた。それを支えるのはあのスイングスピード。恐らく今の西東京の中では1番のスラッガー⋯ )
「こっちの世界の住人か⋯ 」
一方その頃薬師高校では、注目のクリーンナップの3人が青道の投手陣のビデオを見ていた。
「こいつら俺らと同じ1年だってよ」
「この降谷って奴えげつない球投げやがる」
「あとはサイドスローに右の本格派か」
「4人とも違うタイプなのがめんどくせぇな」
三島と秋葉が言葉を出す中、轟はバナナを食べながら黙ってビデオを見ていた。
「なんだお前ら、まだビデオ見てたのか」
「あ……真田先輩。雷市の親父さんによーく見とくように言われたんで⋯」
「この親子ってこういうとこに妥協しねぇよな。市大の真中さんの時も穴が空くほど見てたし」
「あの人はちゃんとイメージ通りの凄い球だった」
ビデオを見続けながら轟は真中のボールを思い出す。
「⋯ふーん で今度の青道はどうよ⋯イメージ出来そうか?」
「カハハ! この2人面白い⋯」
ビデオには降谷、そして沢村が映っていた。
「2人? 降谷って奴は分かるけどこのサウスポーも?」
「ビデオだけじゃいまいちイメージしきれない⋯画面に写らない何かがある⋯カハハハハ 青道高校今すぐ⋯今すぐ戦いたい」
ブルブル震えながら笑顔でそう言う轟を見て、他の3人は笑みを浮かべていた。
(ったく⋯今時ここまで野球に飢えた奴いるかよ⋯)
「けど1人だけ気になる人がいる⋯」
「ん? 誰だよ。3年の丹波か? 2年の川上か?」
「違う⋯」
「青道の投手はそれ以外に居ないぞ?」
「⋯この人」
急に言い出した轟が気になったのは青道の投手では無かった。
カキーン!
「おいおい⋯気になるってまさかこいつか?」
「⋯」
真田の問いに轟は黙ってビデオを見る。
「天才 鹿野 涼太か⋯」
「俺たちでも知ってるよな⋯」
同級生の真田はもちろん、1つ下の秋葉や三島も涼太については知っていた。
「あの浪速シニアの3番⋯」
浪速シニア
元々関西の強豪シニアだったが、涼太を筆頭に実力者が集まり全国主要大会を圧倒的実力で全て制覇。中心メンバーは数々の強豪校から誘いを受けていた。
3番の涼太は西東京
ショートの山田は大阪
エースは大分
キャッチャーは愛知
4番は神奈川
5番は東東京
キャプテンは北海道
と各地の強豪校に進学している。
ビデオは昨年の夏 稲実と青道の試合 成宮鳴vs鹿野涼太の場面だった。
カキーン!
成宮のアウトコース低めのストレートをライナーでセンター右横のフェンス直撃の打球を涼太は放った。
しかし一塁から2塁向かう最中に足に痛みが走る。
何とか2塁には到達するも、そこで選手交代。
その時の片岡監督に肩を支えられながらベンチに下がる涼太の表情に心を打たれた人は多い。
「結果的にこの夏成宮鳴からあわやホームラン打ったのはこいつだけだからな。4番の結城さんも強烈なツーベース打ってるけど、ここまで飛ばしたのは鹿野だけだ」
「改めて見ると確かに雷市と雰囲気は似てるな」
「そんな奴のどこが気になるんだよ。雷市」
春大会の真中のスライダーをレフトにホームランを打った涼太の映像を見ている轟に三島が聞く
「ガハハ! この人凄い⋯」
「凄いの見たら分かるけどよ。何が凄いんだ?」
「それは分からない⋯」
「なんだよそれ!」
「けど⋯他の人と違う何かがある」
そう言う轟の表情は降谷と沢村のビデオを見ている時と同じ表情だった。
(聞いた事がある。鹿野がアドバイスをする時はめちゃくちゃ感覚で伝えてくるって。そこも雷市と一緒だ。もしかしたら雷市と天才 鹿野涼太は同じ場所にいるのかもな⋯)
コンコン
「失礼します」
ビデオを見終えて入浴後に部屋でくつろいでいた涼太は片岡に呼ばれ監督室にいた。
「なにかお話ですか?」
「⋯体の状態はどうだ」
ソファーに涼太を座らして片岡は涼太に聞く。
「問題は無いです。3回戦と4回戦休ませて貰ったので」
「そうか⋯」
片岡はソファーから立ち上がり、窓から外を見る。
「⋯鹿野」
「はい」
「⋯お前は次の薬師戦ベンチスタートだ」
「⋯え?」