「なんか上級生チームのの勢いが止まったな」
「たった1球でもあの男が流れを変えたわけか……」
試合を見ているギャラリー達が言うように、初回に12点、2回に9点取っていた上級生チームが3回が3点、4回に1点と勢いが止まっていた。
その勢いを止めた男とは、1年生の降谷暁だった。
降谷はたった1球投げただけで、片岡から一軍昇格を伝えられた。
「あの高めの球に関しては勢いがありそうだな」
御幸は先程の降谷の投球について、涼太に話しかけた。
「1球だけだからまだ分からないけど、確かにそうかも」
「まぁ今日はもうすぐしたら終わりだろ。丹波さんも交代したし」
3年生チームはエースの丹波を交代していた。
その代わりに登板していたのは、2年生の川上憲史だ。
「ノリも1年相手なら打たれないだろうからな」
そう言って話していると、打席に沢村が入って行った。
「お! 沢村君来たじゃん」
沢村は川上が投げた、インコースのストレートに踏み込んで振っていった。
「今踏み込んでたな」
「ボールを怖がってないんだろう。ベンチの1年は笑ってるけど」
その後の2球目も空振りして、沢村は追い込まれていた。
そして、3球目
ブーン
沢村は変化球を空振りした。
(ちくしょう…… かすりもしねぇ)
沢村がそう思っていると、ベンチから
「まだだ! キャッチャー後ろに逸らしてるぞ!」
大きな声が飛び、キャッチャーを確認すると、ボールを後ろに逸らしていた。
それを見た沢村は全力疾走で一塁に向かった。
キャッチャーがボールを投げ、一塁に届いたのとほぼ同時に沢村が一塁ベースに到達した。
「セーフ!」
なんとかセーフになり、1年生チーム初めての出塁となった。
「おー! よく走ったなー」
沢村の激走を見ていた涼太達も純粋に褒めていた。
「けどまー他の1年はノリの球は打てんだろうしなー」
涼太の予想どおり、この後2者連続で三振をしてしまった。
「あーあ せっかくランナー出たのになー」
「プライドが邪魔してるんだろう。俺らがバントなんかしてたまるかー って言う」
「それだったら打ったら良いのに」
「そんな簡単に言えるのは涼太だけだからな」
そう言って2人が話していると、降谷が自主練をしていいかと片岡に言い、片岡はそれを許可した。
御幸が降谷に試合を最後まで見なくて良いのかと聞くと、
「もう終わってますよ。たった1人でチームを勝利に導ける程、野球は甘くないですから」
そう言った。
「よくわかってんじゃん」
涼太は降谷の言葉に笑いながらそう答えた。
すると
「代打オレ!」
そう言って、木製バットを持ったピンクの髪をした1年生が出てきた。
「あの子確か亮さんの弟だった気が…… 名前が春市って言ってた気がする」
「じゃあ期待できそうだな」
そう言って、2人は注目して試合を見始めた。
すると春市は急にサインを出し始めた。
春市の狙いはピッチャーを錯乱することだった。
しかし……
「え!? 何それ!? 何のサイン!? 俺それ聞いてねーぞ! 」
沢村が大きな声でそう言った為、作戦が台無しになった。
「ハッハッハ 腹痛い…… あ、あいつ、頭悪すぎだろ」
涼太はそれを見て倒れ込みながら笑っていた。
それを顔を赤くしながら、春市は右手を上げて、
「僕が絶対ホームまで返す! 2人で1点を取ろう!」
そう言い放った。
「おー 大きく言ったねー 」
御幸は未だに笑っている涼太を無視して、試合を見ていた。
そして涼太も大分落ち着いて、試合を見た。
川上が投げたのはアウトコースのボール
それを春市は今まで短く持っていたバットを、長く持って踏み込んで打ってきた。
その打球はライト線ギリギリに入り、沢村が打つ前からスタートをしていたのと、体をねじってベースにタッチをしたので1点をもぎ取った。
「凄いじゃん。よく打ったし、よく走ったねー。それにしてもあの子体柔らかいな。あんな体制でも全く痛そうじゃない」
涼太は沢村の体の柔軟さに少し注目していた。
「まぁそれでももう終わりだろ。ほら監督もそう思ってる」
御幸が言って、グラウンドの方を見てみると片岡が整列を促していた。
しかし片岡は1年全員が試合を続行したいと思っているなら、このまま続けると言った。
だが、グラウンドに出ているのは沢村と春市だけで、他の1年はなかなか出てこなかった。
沢村はそれを見て1年を鼓舞した。
しかし沢村に対して、他の1年生は、
「振り逃げで出塁した奴がない言ってるんだ……」
「そうだ……点差が開いたのもてめぇがバンザイしたからだろう」
と、文句を言い出して、
片岡に試合続行させてくれと志願した。
そして片岡は、
「小僧、この回から投手はお前だ。さっさとマウンドに行け!」
そう言って沢村に投げるように伝えるのだった