夏の大会が近付き始めて、練習試合の数も増えてきていた
青道の一軍は帝東などの強豪チームとの試合を勝ち、勢いに乗っているのだった
そして、夏の大会に向けてのメンバー発表も近付いて来ていた。
候補としては、天才的なセンスを見せる小湊春市、パンチ力がある2年の前園健太などが挙げられていた。
涼太の予想では、春市と2、3年の誰かの予想だった。
沢村は先日 二軍の試合で、気合いが入ってないようなボールを投げて、途中降板をしていたので、さすがに今回はメンバー入りは無いと思っていた。
「ウエイトってしんどいなー」
「何を当たり前の事言ってんだよ」
この日、二軍が黒士舘と試合をしていて、主力メンバーは自主練でウエイトをしていた。
涼太は白州と川上と共に、トレーニングをしていた。
「涼太はウエイト嫌いだもんな」
「ほんとに嫌いなんだよー。だから宮さんとか、凄いじゃん。あの人のトレーニングとか見たらもうね……」
涼太がそんな愚痴を零していると、
「おい! 二軍の試合にクリスが出てるぞ! 」
そんな声が室内練習場に聞こえてきた。
クリスは2年の時、肩を怪我をして、全治1年の怪我をしていた。
しかし実力はピカイチで、当時は関東でもトップの実力を持っている選手だった。
そんなクリスが試合に出ていると聞いて、ほとんどのメンバーが試合を見に行った。
「涼太は見に行かなくて良いの? 同室の先輩の復帰戦」
メンバーが大半居なくなった中、ウエイト場に残っていた涼太に、亮介が話しかけた。
「確かに気にはなりますよ。けど、今はそんな事をしてる場合じゃないんでね。あの人がもし帰ってくるってなったら怪我持ちの俺も簡単に見てられない…」
真剣に言う、涼太に亮介は、
「さっきまで文句言ってた人には見えないけどねー 」
亮介がそう言うと、涼太は苦笑いをしながら、
「ちょっとティーで打ってきます」
そう言って、出て行った。
その試合は、沢村とクリスがバッテリーを組んでからは沢村が無失点に抑えて、クリスも実力の片鱗を見せた。
春市も実力をアピールした。
そしてその夜、
選手全員が呼び出され、片岡から一軍の昇格メンバー2名の発表が行われた。
「一軍昇格メンバーは、1年、小湊春市、同じく1年沢村栄純。以上だ」
それを言われた瞬間、2人とも表情が固まった。
沢村は師匠とも言える、クリスがメンバー外なのに驚いていた。
そしてその後、メンバー外になった3年を残し、片岡は自分の想いを伝えた。
「これまでの二年間、お前らは決してくじけず、俺について来てくれた。これからもずっと……俺の誇りであってくれ」
そう言って頭を下げた。
その瞬間に3年生は今までの想いが溢れて泣き始めた。
クリスは片岡に投手陣をまとめる事を頼まれ、了承した。
そして他の3年も一軍メンバーを支えることを、片岡に伝えた。
しかし、その裏でメンバーに選ばれた沢村は考えていた。
今までの自分の実力を引き出してくれたのはクリスだと、そう思っているからだ。
そして自分よりもクリスがメンバーに選ばれるべきだ、そう思い、中に入ろうとした、その時、
「出て行って、どうする気だ?」
キャプテンの結城が沢村に声をかけた。
「辞退でもするつもりか? 誰がなんと言おうと、お前は監督に認められたんだ。ウチの戦力としてな。そんなお前が選ばれなかった者になんて、声をかける」
黙る沢村に結城は言葉を続けた。
「俺達が出来ることはただ1つ。選ばれなかったあいつらの分まで強くなる事だ」
それを見ていた涼太は、今までの1年半を思い出していた。
クリスの実力を始めて見て、驚いた時。
クリスの野球の知識の豊富さに、驚愕した時。
怪我が判明して、目の輝きが無くなって行き始めた時。
そして目の輝きを取り戻していた、ここ数日の事を…
(…絶対勝たないと…)
だが彼らの思いを背負い甲子園に行く事を改めて誓うのだった