クリスマスイブの夜を街の喧騒が木霊する。子供の声、若者の声、大人の声、老人の声。色んな声が飛び交う中を一人の少年が歩いていく。真っ黒な短い髪が風に靡きその髪の下の同じ黒い目を晒す。全身黒いコートを羽織りその左手に細長い何かを入れた麻袋を持ちそのまま喧騒がなくなるほどに中心街から離れたところまで歩いてきた。
「ここか」
少年の口から比較的低い声が漏れた。少年は見上げている先にはよく見る雑居ビルが立ち並んでいるその内の一棟である。少年は迷うことなくその足でその雑居ビルの中に入っていく。
そんな時、その雑居ビルの中には十数人の男たちが一人の男を囲みボコボコにしていた。
「どうしてくれんだ、テメェ?」
「ボスが聞いてんだ、さっさと答えろやコラァ!!」
「ひぃぃぃ!?」
その中の頭らしき男が一人立ちながら男を見下ろし他の者たちがそれに答えるように蹴っていた足を止めた。ボスらしき男は足蹴りされボコボコにされ蹲っている男の目の前にしゃがみその髪を左手で持ち上げる。
「ひぃ!」
「テメェがやらかしたせいでウチの事務所から大金が盗まれ大打撃を食らったわけだが・・・・・もちろんテメェが責任取んだよな?」
「そ、それは・・・」
「アァ?
・・・・・言い訳できる立場かテメェはぁ!!?」
「ひぃぃぃ!?」
そう言いボスの男は懐に入れてた右手を取り出し頭を掴んでいる男の頭部に突き付けた。その手には黒光りした拳銃が握られておりそれをぐりぐりと頭に押し付けていた。頭を掴まれた男は恐怖のあまりその股間部分から大量の何かが垂れ流れる。その男の醜怪な様を見て周りの男たちはゲラゲラと大笑いしていた。
「とりあえずテメェの両手両足と・・・・
「た、助け・・・!」
そんなこんなで男を取り囲んでいた男たちが徐々に近づいていくと、その時突然事務所のドアがノックされた。
「あぁ?なんだよ、こんなときによ」
「外で見張りしてる奴らっすかね?」
突然のノック音に全員が足を止めその扉の方へ視線を向ける。その瞬間、蹲っていた男の口元がニヤリと歪んだ。そして鳴りやまないノックにいい加減しびれを切らしたボスの男は扉の方へ怒声を浴びせる。
「さっきからうるせぇんだよ!分かったからとっとと入ってこい!!」
その怒声が聞こえた瞬間ノックが止まった。そしてそのドアがきぃぃぃと少し錆で軋む音を響かせながら開いていく。そして徐々に開いていく扉の奥に見えたものに中にいた男たちはその目を見開く。
そこにいたのはまだ学生くらいの年齢であろう少年だったのだ。身長は比較的高く180はありその左手に細長い何かを持ったままその扉を開けてきた。そして彼は扉を開けきり中に入るとその口を開く。
「ここが桑木事務所で間違いないか?」
「あぁ?なんだ、ガキがこんなところに何しにきやがった?」
少年の口から出た言葉に男の一人が彼の言葉に返答を返すことなくそう聞き返した。だが少年はもう一度同じことを彼らに聞く。
「もう一度聞く。ここが桑木事務所で間違いないか?」
「ガキが!ぶっ殺すぞ!!」
「待て。ああ、お前の言う通りここが桑木事務所だ。俺が頭の桑木だ」
男の脅しも含めた言葉に少年は一切怯えることなく同じ言葉を繰り返した。全く相手にされていない男は逆上し銃を向けようとするとそれをボスの男が制止しその通りだと比較的平穏な話し方で接するがその右手には未だに拳銃が握られている。少年はそうかと言い左手にに握られていた麻袋が手を緩めたからかスルッと地面に落ちていく。そしてその中身が露になった。
その手に握られていたのは日本刀だった。真っ黒な鞘に黒い無骨なボロボロの柄巻、そして色あせた金色だったであろうシンプルな鍔。そんな一介の少年が持つには不相応な代物が彼の手には握られていた。
「あぁ?」
「依頼を受けた。
『桑木事務所を壊滅、その組員諸共皆殺し』」
そう言い少年は左手を少し上げ親指に掛けた鍔を少し押し上げた。そのわずかな隙間から銀色の刃が蛍光灯の光に照らされ輝いている。少年の真っ黒な目には自分たちなど映っていない。まさに深淵のような瞳だった。
「っ!殺せぇ!!」
背中にぞくっとした感覚を感じたボスの男はそう叫び声をあげ部下の男たちは一斉に懐の拳銃を取り出そうとした。
その時、軌跡が男たちを通り過ぎる。ボスの男は困惑した。なぜ目の前にドアの前にいた男が立っていたのか。そしていつの間にその鞘から刀を抜いて右手に持っていたのか。そして何故、下に蹲っている男以外の部下の首が宙を舞っているのか。それらの供給過多の情報量の多さにボスの男は発狂状態になり目の前の男に向けその右手の拳銃を向けた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「・・・・・・」
「あああぁぁぁぁ・・・・・あ?」
叫びながら目の前の男に拳銃を向けてそれを発砲しようとしていると男は再び困惑する。なぜ目の前の男はいつの間に振りぬいていたような構えからまるで振り下ろしたような構えになっているのか。何故、
「よ、よっしゃああああ!!やったぜ、この馬鹿どもがよぉ!!俺を馬鹿にするからこんなことになんだよぉ!!」
そう言い彼は喜んでいた。実は先ほどのボスが言っていた金が奪われたという話はすべて彼がしたことだった。この事務所はもう一つの別の事務所と抗争をしており彼はこの事務所を裏切ってそちらについたのだ。そして鬱陶しくなりある方法で消えてもらうことにしたのだ。
「いやぁぁぁ、助かったぜまったく。こいつらマジでうるさくてよぉ。
「・・・・・・」
「いやぁ、少し金がかかっちまったがここを抜けれると思ったら安いもんだぜ」
そう言い妙に饒舌になり先ほどまでおどおどした様子がなくなり下に転がっている男どもの死体を足蹴りして楽しんでいた。そして一通り楽しんだのか男は良い笑顔で未だに事務所内にいる少年に話しかける。
「そういえばいつまでいんだよぉ。俺はこれからこの事務所の金全部かすめ取らねぇといけねぇんだから邪魔なんだよなぁ」
「まだ仕事が残ってるんでな」
「あぁ、仕事ぉ?一体なにを」
そう口を開こうとした瞬間、その男のちょうど口の部分を横に水平に何かが通り過ぎ男の口から上の部分が宙に舞う。そこにはいつの間に抜刀したのか刀を振りぬいた格好をしている少年がおり彼は刀に着いた血を軽く振り払うとそのまま鞘に納めそのままドアの方へ歩き出す。
『桑木事務所を壊滅、その組員諸共皆殺し』
そして事務所内に無残な死体が転がっているまま少年はその場を後にした。
数日が過ぎると彼のスマホに誰かからの通知が入る。その名前を見た少年はめんどくさそうな顔をしながらも黒いスーツを身にまとい日本刀の入った麻袋を手に持ちある場所に向かった。そして彼がたどり着いたのは街の一角にある少し大きめのビジネスビルのような建物で彼は正面のドアから中に入る。
「っ!お疲れ、様です・・・」
「お疲れ様です」
彼を見た受付の男性は少し焦ったような顔をしおどろおどろしく年下であろう彼に敬語で挨拶をした。そんな彼に軽く返事を返した少年はそのまま少し厳重なゲートを通り過ぎそのままビルの中を歩いていく。そして上層にエレベーターで向かいある一室の前にたどり着いた。彼は扉をノックすることなく中に入る。すると中には一人の黒いスーツを着た男ともう一人同じくスーツを着ているが明らかに品のある男性だった。
「来たか。この人が今回の
そう言い黒いスーツの男は少年の隣を通りすぎ部屋から出ていった。そして少年は扉を閉めるとそのまま部屋の真ん中にある品のある男性の反対側のソファに座り日本刀の入った麻袋を膝の間に立て少し息をついた。
「まずは名前を聞いても?」
「ええ。初めまして。私の名前は
そういい男性は頭を軽く下げる。それだけでも品性が自分とは全く違うことに少年は自分と住む世界が違うのだなと認識した。
「
「ああ、実は君にある長期的な依頼をしたいんだ」
「・・・長期的?」
「その分依頼料は弾ませてもらうよ」
そう言い目の前の男、坂柳はその目をまっすぐ少年、篁に向ける。
「君に、私が管理している高校、高度育成高等学校に入学し三年間学校を、そして生徒たちを守ってほしい」
「・・・なんだって?」
坂柳のその言葉に篁はそう聞き返した。自分の耳に聞こえてきた言葉の意味が彼には理解できなかった。
「?私の管理している高校に入学し三年間学校を守ってほしいのだ」
「・・・アンタ、正気か?」
「ああ、私は正気だよ」
そうまっすぐ彼へ言葉を返す坂柳に篁は信じられないと言わんばかりの視線を彼に向けた。そして少しの間沈黙が訪れるが篁は一先ず彼の言葉の先を聞くことにした。
「・・・はあ、詳しく話してくれ」
「ああ。私が管理している高度育成高等学校は国が運営している学校なんだがこの学校には国の資金が使われている。それもかなりの額がね」
「それで?」
「そんな学校だからかなり充実した設備を兼ね備えている。生徒の基本的な生活を支えるコンビニにスーパー、生徒が遊ぶための娯楽施設も多数学校の敷地内に備えられている。それに加え、これは本来ならば入学した後に知らされることなのだが生徒には学校の敷地内でのみ使える毎月
「そいつはなんとも・・・・・?」
その坂柳の言葉に篁はその最大という言葉に少し疑問を覚えるが先に聞いておくべきことを聞いた。
「なんで学校の敷地内にそこまで大掛かりな施設を建てる必要があった?敷地の外に出ればいいだけの話だ」
「?君は知らないのかい?あの学校に入ると三年間完全に外との関係を断たれるんだ。外の誰かに連絡することも敷地外に出ることも許されていない。それと外部からの物の持ち込みも禁止なんだ」
「・・・なんでそんな学校を建てた?」
篁は初めて聞いたその日本の学校にしては異常な場所にそんな疑問が浮かぶ。
「そんな大金をつぎ込んで設立した学校なんだ。もちろん周りから反対の意見が出ないわけがない」
「それはそうだろうな。今の政府がどれだけ腐っていようとさすがにそんなものを設立しようなんて意見がそう簡単に通るわけがない」
「ああ。それでも政府のお偉い方はそれを無理やり抑え込みこの学校を建てた。だから」
「そんな学校に危害を加えようとしている連中が現れる、か?」
「その通りだ」
そう言い坂柳は少しソファに体を沈め少し疲れたような顔をした。
「この社会、善意だけでは決して生きられない。私も自分の身がかわいいからね。そういった存在は陰で消してきた」
「殺したのか?」
「いや、消したと言ってもそういった連中は設立に反対していた者たちが金で雇ったチンピラのようなものだ。そういった者たちの情報を国の警察に渡して逮捕してもらっていた」
「ならこれからも表の連中に任せておけばいい」
「無論これからも警察の手は借りるつもりだよ。学校の敷地内にも警察署を作ってるしね。
・・・・・でも、それじゃ足りないんだ」
そう言い坂柳は沈めていた体を前に倒しテーブルに両肘を乗せ篁に視線を送る。
「今まではまだそういった者たちだけにとどまらないかもしれない。
「・・・・・」
「学校のセキュリティはもちろん万全な状態だ。普通はこの学校に入ろうとも思わないだろう。でも、もしそんな裏の人間が雇われでもしたら学校のセキュリティや警察だけでは持たないかもしれない。
・・・・・だから、君に依頼をしに来たんだ」
「・・・・・・」
そう真剣な瞳で篁を見てくる坂柳に彼はその真っ黒な瞳を彼に向けた。
「依頼するときに君の情報を見た。年齢もちょうど高校に入学する年だったからね」
「・・・一つ確認するぞ」
「なんだい?」
「入学ということは、俺はその学校の生徒としてその学校に行けということか」
「ああ、そういうことだね」
その瞬間部屋の中を一陣の風が吹き荒れた。坂柳は次の瞬間には自分の首のすぐ真横に銀色に輝く刃があることに気づきその額に冷や汗を流すがその顔に平静を装う。その向かい側にはテーブルに右足を乗せその右手に日本刀を握った篁が真っ黒な瞳で坂柳を見下ろしていた。そしてしばらくの間沈黙が訪れ坂柳の首に添えられていた刃がそっと離れていく。
「こういうことだ。俺を表の世界に干渉させるというのは」
「・・・・・」
「俺も一応専門の学校にいたことがある。だがそこはあくまでも
殺し屋である俺を」
「・・・ああ。覚悟はできているよ」
そんな殺気すら感じる篁の言葉に坂柳は唾をのむがその言葉をはっきりと口にした。そんな彼の覚悟が揺らがないことを篁も察したのか小さくため息をつき刀を鞘に納める。
「いいだろう。その依頼を受けよう」
「!そうか」
「ああ、だがいくつか条件を出す。それが飲めないならこの依頼は無しだ」
「なんだい?」
「さっきお前は言ったな、外部からの物の持ち込みは禁止だと」
そう言い篁は坂柳に視線を向ける。坂柳はその視線の意図を察し少し彼が左手に持っている刀に目を向けた。
「今回は私からの特殊な依頼で入学してもらうことにしたんだ。一つだけ、物の持ち込みを許可しよう」
「ならいい。
それと、俺にとってはこっちの方が重要な条件だ」
そう言い彼はあることを彼に伝えた。その言葉を聞き坂柳は目を見開く。
「・・・・・」
「金は俺が出す。この条件が飲めないならこの依頼の件は無しだ」
「・・・いや、分かった。こちらの方で手配をしておくよ」
「よし」
篁はそう言うとスマホを取り出し連絡先を坂柳と交換した。そしてそのまま扉の方へと歩いていく。
「入学の手続きが完了したらまた連絡しろ」
「分かったよ。試験は受けてもらうけど」
「一般程度の教養はあるつもりだ」
「そうか。一応うちの学校はかなり特殊だから君のクラスもどこになるか分からないけど」
「?よく分からんが、その辺りは好きにしろ」
そして彼はドアノブに手をかけると坂柳は最後にあることを確認した。
「あっ、君の名前だけど」
「それはさっき言っただろ。篁だ」
「いや、そうじゃなくて、下の名前なんだが」
「ああ、そういうことか」
篁は坂柳のその言葉に合点がいったのと同時にそれならば先ほどと答えは変わらないと顔だけを坂柳に向けた。
「下の名前なんざ無い」
「え・・・・?」
「学校の名簿に書くならさっきも言ったとおりだ。
・・・篁。それだけでいい」
そう言い彼は部屋から出ていった。そして彼は帰路につき途中で買い物を済ませて彼は自分の家にたどり着いた。そこは少し小さめの二階建ての一軒家となっており彼はポケットから鍵を取り出し鍵を開けた。すると中の方からドタドタと慌ただしい足音が聞こえると彼はその音に頬を緩めた。そして扉を開けると彼の体に小さな体がぶつかってきた。
「おかえり、パパ!」
「ああ、ただいま」
ぶつかり、抱き着いてきたのは長く艶やかな黒髪をした華奢な可愛らしい少女だった。
その小さな体を彼は優しく支えるように抱きしめ返した。
「ほら、外がまだ寒いから家の中に入ろう?」
「うんっ!」
そう言い彼は少女と共に家の中に入っていった。