刺激的な初日を終えた次の日、篁は二日目の登校をし始めて一般人らしい授業を受けていた。
(JCCでも一般科目を一応教えてはいたがこうして普通の連中に混じって授業を受けるってのも中々経験できないな)
篁はそう考えながら黒板の前の教師が黒板に書いていく内容をノートに移し書きしていく。それだけならば本当に普通の学校となんら変わりないのだが今彼がいるこの学校、いやDクラスでは少し状況が変わっていた。
「それでさー」
「マジー!」
「それで昨日買ったのがよ!」
「おっ、今日やろうぜっ!!」
彼が静かに内容を移し書きしている中クラスの半数以上が授業中にそぐわない行動をしていた。ほとんどは隣の者と、はたまた少し離れている席の人間と授業中にもかかわらず私語が絶えずクラスは騒々しいことこの上なかった。ちょくちょくスマホをいじっている者もいれば居眠りしている者もいる。
「うぃーす」
「須藤、おせーよ!」
「寝坊した」
そんな騒々しいクラスの中に入ってくるのは赤い髪の男だった。当然登校時間をとっくに過ぎており明らかな遅刻なのだがそんなこと気にしている様子もなくガタッと音を立てて椅子に座りこみいきなり机に顔をくっつけ眠る準備をしていた。
(JCCだったら半分の生徒は死んでるな)
そしてそんな中真面目に授業を受けている生徒は数人しかいない。篁はクラス内を見回した。
後姿からもうかがえる好青年のような雰囲気を出している少年。見れば周りにいる女子たちからしつこく話しかけられており困ったような顔をしながらも邪険にすることがない。
ボブカットの明るそうな印象の美少女。彼女も少年同様に周りから声を掛けられてはそれを受け答えしている。そんな容姿も雰囲気も完璧そうな美少女だが篁にはそれがまやかしの様にしか見えなかった。
そのほかにも眼鏡をかけた少年に同じく眼鏡をかけている少女。そのほかにも数人は真面目に授業を受けている様子の生徒はいた。そしてそんな生徒は彼の左隣にも二人ほど見られた。篁がちらっと左を見ればそこには長い艶やかな黒髪のまさに大和撫子というような雰囲気を醸し出している美少女が真面目に授業を受けていた。
(・・・大佛さんに似てるが、あの人結構ぼーっとしてる人だからそこらへんは似ても似つかないな)
隣の美少女は彼の知り合いの女性に比べその釣り目も相まってどこか冷たい印象を抱く。そして彼はそのさらに奥にいるこのクラスでもっとも謎な人物を横目に見た。
その人物は一見パッとしない印象を与える茶髪の少年で今も真面目に授業を受けながらもその目はどこか虚ろで何を見ているのだろうという印象を与えられた。篁はそんな人物に対し興味を示す。
(・・・・・)
だがすぐにそんな興味もなくなってしまい彼は再び授業を聞くことにした。これだけ騒ぎまくっている生徒たちに一言も注意することなく淡々と授業を進める教師に対し呆れながら。
そしてそんな一日が過ぎていき昼休みとなり篁は昼飯を食べに食堂に行くことにした。廊下に出て歩きながら自分の端末を見る。そこには昨日少しだけ使った配給分と坂柳理事長に頼んでおいた以来の報酬分が映し出されていた。
「500、羽振りがいいな」
500万×12カ月を3年間、1億8千万を合計振り込むことになりその羽振りの良さに彼は少し目を見開いた。そして端末を閉じ食堂に向かう前に彼はあるところに向かった。それは昨日坂柳理事長のところに行って彼に頼まれた彼の娘が誰なのかを確認するためだった。そのために彼はAクラスへとその足を進める。そして目的の場所であるAクラスの前に到着した彼は扉の外から中をわずかにのぞく。中にはDクラスと同じように若い男女が同じようにごちゃごちゃ入り乱れていたがその様子はどこかDクラスに比べ知性のようなものが見て取れる。
(どこにいる?)
篁は少し見た程度では中の様子を全体見れないため扉を開けそのままAクラスの生徒に聞いてみることにしそのままAクラスの扉を開けた。すると目の前にちょうど教室を出ようとしていたのか女子生徒が一人だけいた。その少女は淡い色素の薄い髪をして何故かベレー帽のようなものをかぶっていた。そして彼女はその小さな体を一本の杖で支えている。
「・・・・・」
「・・・・・」
突然目の前に出てきた篁という身長の高い男子に目の前の少女は思わずその場に立ち尽くし彼もまさか目の前にいるとは思わず一瞬の間互いに無言になってしまった。そんな状況になってしまったからか彼らに少しずつAクラスの生徒たちの視線が集まってしまった。
「誰、あの人?」
「ちょっとカッコよくない?」
「だ、誰だよ?坂柳さんの知り合いか?」
「もしかして・・・彼氏とか?」
そんな周りの声が聞こえある男子の言葉と理事長からの話から聞いた特徴から目の前の少女が彼の娘なのだろうと確信したが念のための確認に彼は目の前の少女に尋ねる。
「一つ聞きたい」
「なんでしょう?」
突然話しかけられたにもかかわらず先ほどまで呆然としていた顔は一切無くなりその整った顔は微笑んでおり意外と図太い性格かもしれないなと篁は思った。
「お前が坂柳・・・理事長の娘か?」
「・・・父を知っているのですか?」
「ああ」
突然聞かれたその内容に微笑んでいたその顔は少しだけ目を見開き驚いたような表情をした。
「確かに私は理事長の娘です」
「そうか・・・お前が・・・」
目の前の彼女が坂柳理事長の心配していた娘と確信し篁はどうしてそこまで心配していたのかも納得がいった。とても整った顔立ちに華奢な体は吹けば今にも飛んでいきそうなほどに脆く感じる。
(なるほど。彼が心配するわけだ)
「あの・・・」
「?ああ、悪かったな。突然訳の分からないことを聞いて。それじゃあ、失礼する」
そう言い用事を終えた篁はそのまま食堂に行こうとそのまま体を翻そうとする。その時、彼の左手の制服の袖が掴まれる感覚を感じた。
「・・・?」
「待ってください」
そっちを見るとそこには自分の袖をつかんでいるとてもいい笑顔で微笑んでいる儚い美少女が彼に待ったをかけていた。
「これからどちらに?」
「腹が減ったから食堂に行くんだが」
「まー、それは奇遇ですね」
そう言いつつもその左手の袖を決して離すことなく美少女、坂柳は篁に話しかけていた。
「私もこれから昼食を食べようと思っていまして。よろしければご一緒してもよろしいですか?」
篁は面倒な人間に目を付けられてしまったと間接的な原因である坂柳理事長を恨んだ。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は坂柳有栖と言います。貴方がご存じの通り、坂柳です。よろしくお願いします」
食堂の隅っこにある小さなテーブルの席に二人は向かい合うようにして座っていた。そして目の前の少女坂柳有栖はそう自己紹介を彼にした。
「Dクラスの篁だ。よろしく」
「?下の名前は?」
「篁だ」
「・・・?よろしくお願いしますね、篁くん」
彼女は彼の自己紹介にどこか合点のいかないような表情を見せるが繰り返し同じことを言う篁にとりあえずといった感じで挨拶をした。そして篁はチラッと食堂内を見渡し違和感に気づくとそのまま立ち上がる。
「何が食べたい?」
「え、よろしいのですか?」
「さすがに足が悪い奴に自分で持ってこさせるほど趣味は悪くないつもりだ。それに、話があるなら飯を持ってきてからの方がいいだろ?」
「・・・ふふ、そうですね。でしたら焼き鮭定食をお願いできますか?」
「ああ、今持ってくる」
そう言い篁は麻袋を持ったまま食券機の前に並び坂柳の焼き鮭定食と自分は何を食べようかと悩んでいるとある一か所に目が留まりそのままそれを注文した。そしてしばらく時間が経ち注文した二つの定食が出てくると彼はそれを片腕で運び始める。その左手に麻袋と右手にお盆を二つ持った異様な姿に食堂の注目を独り占めしていた。そしてそんな注目の的の彼は帰るときにもわずかにその視線を周囲に巡らせ違和感を再確認したまま坂柳のいるテーブルに到着しそのまま丁寧にお盆を置いた。
「ありがとうございます。それにしてもすごいですね、片手でそんなものを持ってこれるなんて。お味噌汁もあるから私だったらできないですね」
「別にできなくていいと思うぞ、これは」
そうして二人合わせていただきますと言いそれぞれの定食に手を出すのだが坂柳は篁の選んだ定食を見て少し固まった。
「篁くん、それは?」
「山菜定食。無料だったから買ってみた」
篁は山菜の一つを箸で掴み食べる。
(味は無い。が、食えなくはないな)
そのままみそ汁を啜りご飯を食べた。目の前の坂柳も焼き鮭定食を堪能していた。
「それでお聞きしたいのですが」
「どうしてお前を知っているのか、か?」
「本当に聞きたいのは別の事ですが、そうですね。そのことも気になります」
「なら簡単な話だ。昨日お前の父親からお前のことを聞いた。気にかけてやってほしいとな」
「そうだったのですか」
篁の父親から聞いたという話に坂柳はどこか呆れたような、だが少し嬉しそうな顔をしていた。
「お父様にも困ったものです。この学校に入った以上そういった心配をしないで下さいとお願いしましたのに」
「そこは聞けない相談だろう。大切な愛娘、父親として心配しないわけにはいかないだろ」
「ふふ、そうですね」
坂柳はみそ汁を一回啜り篁を見つめた。
「それで篁さん。お父様とはどうやってお知り合いに?」
「秘密事項だ」
「むっ、ここまで言っておいて秘密ですか?」
「ああ。俺とお前の父親の関係に関して今後詮索するな」
「・・・分かりました。なにやら事情があるようですしこれ以上は何も聞かないでおきます」
そして篁は目の前の少女がどこか彼の事を見定めているような視線を送ってきていることに気づいた。見れば彼女の視線は彼の目の前にある山菜定食や食堂内を見回し彼女の視線の先を見ればそこには彼と同じように山菜定食を食べている上級生を見ていた。
(・・・まさか気づいてるのか?)
篁はそんな彼女の様子に気づき彼女に聞いてみた。
「この学校のシステム、お前はどう思っているんだ、坂柳」
「え・・・」
「お前は気付いてるんじゃないのか、Sシステムの事を」
「・・・ふふ」
篁の直球の質問に坂柳は一度呆けたような声を出して口元に手を当て上品に笑う。
「どうした?」
「いえ、申し訳ありません。まさかそんな世間話のように話を切り出されるとは思わず、つい」
彼女は彼が突然この学校の真実をいきなり会話に出されるとは思わず笑ってしまったようだった。しばらく笑いが止まらなかったためしばらく待っているとようやく落ち着いたらしく少し深呼吸していた。
「それで、この学校の、Sシステムに関してでしたか」
「ああ」
「驚きました。まさか私以外にもこんなに早くシステムを理解できていた人がいるなんて」
「まあ、俺は少しズルをしたがな。それで、感想を聞かせてくれ」
「そうですね。素直にとても面白い学校だと思いましたよ」
「この学校のシステムを理解しておいて感想が面白そうだは強者の考えだな」
この学校のシステムの真実、これは聞く人間によってはまさに天国から地獄に叩き落されたような気分にされるようなものである。それを面白そうだと答えられる目の前の少女は間違いなく強者の側なのだろうと篁は密かに思った。
「ふふ、ちなみにですが聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「一か月後、Dクラスの方は
坂柳はそんなことを問いかけてきた。その問いに彼は今日の朝からの授業態度などを見て客観的な答えを導き出す。
「2、1・・・・・下手したら0だな」
「・・・・・」
「本当だぞ」
「それは、何とも・・・・・相当ひどい状況みたいですね」
簡単な数字を出しその答えに坂柳は何のことか理解したのか呆然としその表情はどこかかわいそうな人を見るような目で篁を見ていた。
「まあ、そうはいっても真面目な人間も数人入るしそいつらがクラスを率いていくのに期待するしかないな」
「そんな状況にしては篁さんはとても落ち着いているように見えますが」
「まあ、俺は少し他とは違って特殊な立ち位置だからな」
そう言い篁は一度立ち上がり、食券機の方に向かった。そして持ってきたのは二つの紅茶だった。その片方を坂柳の前に差し出す。
「これは・・・」
「おごりだ」
「よろしいのですか?」
「ああ。いろいろ情報も教えてくれた礼だと思え」
「ありがとうございます」
そう言い坂柳と篁は紅茶を一口飲んだ。その香りの良さに二人とも小さく息をついた。
「それにしてもよろしいのですか?」
「なにがだ?」
「私とこうして話などをして。おそらく今後は」
「その辺りは俺には関係ないし興味もない。俺はお前の父親との契約を優先する。それだけだ」
「・・・・・ふふ。分かりました。これ以上は私から何も言いません」
「そうしてくれ」
やがて二人とも紅茶を飲み終わると、坂柳が右手をさっと出してきた。
「AクラスDクラスといったしがらみなど関係なく、これからよろしくお願いしますね、篁くん。」
「ああ、よろしく坂柳」
坂柳と篁は食堂を後にした。篁は去っていく坂柳の背中を見送り自分の教室へと戻っていくのだった。