「じゃあ、行ってくるな」
「行ってらっしゃい、パパ!」
そう言い篁は美玖の頭を優しく撫でて刀の入った麻袋を持ち玄関の扉を開けた。太陽が彼を照らしそれを手を遮り鬱陶しそうに顔を歪めた。扉の鍵を閉め校舎の方へと歩いていく。
部活動説明会から一週間が経ち学校での生活にも少しずつ慣れてきた篁はいつもと変わらない日々を過ごしていた。唯一変わったことと言えばそれは学校を監視する手段が少し楽になったことだろう。篁は手元にある端末を除く。そこには画面に合計四つの映像が映し出されていた。
「朝のこの時間帯、輸送なんかでトラックの出入りも多くなるな」
それは以前彼が生徒会長の堀北学と交渉し見ることができるようになった監視カメラの映像だった。完成したアプリを篁の端末に登録し現在の映像や過去の映像なんかもそれで見れるようになっており彼はそれで少し管理が楽になった。
「まあ、といってもそれ以上の情報は映像じゃ得られないが、ないよりずっとマシだな」
そう呟き彼は端末を閉じポケットにしまって校舎への歩みを早める。すると道中で生徒の数も増えていき彼はその中にまぎれるように歩いていた。するとそんな彼に声がかかる。
「篁、おはよう」
「綾小路か、おはよう」
彼に声を掛けてきたのは茶髪の髪の生徒である綾小路だった。彼はあの部活動説明を終えた次の日からも彼に声を掛けてきて、今では最初の頃のおどおどとした態度は無くなり普通に話せるようになっていた。
「一緒に学校に行こう」
「ああ」
篁も別に突き放す理由は今のところ無いため綾小路と話していた。そして校舎にたどり着きDクラスにたどり着くとそれぞれの席に向かう。
「おはよう、堀北」
「おはよう」
「・・・・・」
篁と綾小路はそれぞれ共通の隣の席の黒髪の女子堀北に朝の挨拶をした。彼女は一瞬二人に視線を向けて再び手元の本に目を戻した。綾小路につられ挨拶をした篁だったがこの一週間彼と会話しているうちに堀北の情報も少しだけ分かっていた。彼女は誰とも友達になる気は無いらしくそんな冷たい態度が出ているからか基本的に彼女に話しかけるのも綾小路と篁だけだった。
(友達がいらない、か。あの生徒会長の妹なんだろうが雰囲気が全然違うな)
「何か言いたいことでもあるのかしら?」
「いや?何でもない」
どうやら知らぬうちに彼女を凝視していたようで彼はそう言い彼女から目をそらして教室内を見回した。そこには一週間前と変わらず呑気に過ごしているクラスメイト達の姿が見えた。
見れば男子たちが妙にそわそわしていた。
「・・・・・?」
篁はなぜクラスの男子がそわそわしているのか理由がわからなかった。するとクラスの三バカと称される内の二人である池寛治と山内春樹が興奮気味だった。
「いやあ!授業が楽しみすぎて目が冴えちゃってさー」
「なはは。この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ!水泳って言ったら女の子!女の子と言ったらスク水だよな!」
(・・・なるほど。そういうことか)
興奮しているせいか心の声が駄々洩れで見れば周りにいた女子たちは大多数はドン引き、少数に至っては嫌悪の眼差しを2人に対し向けていたがその件の2人と言えばその視線に気づくこともなく1人の男子生徒『博士』と呼ばれた男を呼んでいた。そして斎の左側にいた綾小路も呼ばれていたが彼はこの教室内の雰囲気を感じ取ったのか適当な理由をつけその場を回避していた。
篁はそんな興奮している二人の気分がこれっぽっちも理解できなかった。
(スク水・・・女子が着る水着の事か。それのどこに興奮する要素がある?)
そして昼休みには家に戻り美玖とご飯を食べクラスに戻り午後の授業になった。男子たち念願の水泳の時間となり数人の男子がどこか興奮気味で着替えている場所から少し離れた場所で篁は少し考え事をしていた。それは彼が現在持っている麻袋である。
(水泳。水場での授業だ、さすがにこれは邪魔に、いや別に邪魔にはならないが教師に咎められるか?これならいっそのことポイントを払って公欠していた方がよかった。置いていったところで盗まれないだろうが、万が一ということもあり得る。バカなうちのクラスの人間が悪ふざけをするかもしれない)
そうなったとしても彼にその制裁として彼らに危害を加えるわけにはいかなかった。
仕方なく自分のロッカーに麻袋を入れそのまま着替え始める。彼が上半身の上着を脱ぎ始めた頃に先ほどまで騒ぎ立てていた周りの声は徐々に聞こえなくなってどうしたのかと思っているとなにやら周りの男子が彼の体を見ていた。
「やっべー・・・」
「マジかよ・・・」
そんな声が聞こえてきて篁はうんざりしながらも学校指定の水着を履き一足先に更衣室を出ていった。そして彼は屋内プールの脇を通り他の生徒たちや先生が来るまで座って待つことにした。彼はふと視線を向けられている方向を見るとそこにはクラスの三分の一ほどの人数のクラスメイトが見学をするための部屋にいてそこからプール内を見ていた。
「・・・・・・」
彼は特に興味もないためすぐに視線をそらし背中を壁に預けしばらく待っていた。すると彼が出てきた男子用の更衣室から他の男子も続々と出てきた。
「じょ、女子は!?」
そんな中、興奮状態の池が血眼でまだ現れていない女子を探していた。そんな様子を近くにいた綾小路が呆れた目で見ており彼は周りを見回し座っている篁を見つけると彼の方へと近づいてきた。
「・・・・・」
彼はそんな近づいてくる綾小路の体を見て少しだけ目を見開いた。そして綾小路は彼のもとまで来ると彼と同じように背中を壁に付きそのまま座り込んだ。
「どうした?」
「いや・・・・・さすがに今の池の近くにはいたく無くてな」
「だろうな」
今の彼や彼の友人である山内は同じ男子の目から見ても正直言って気持ち悪い。そんなこんなで篁と綾小路はプールの脇の方で座りながら待っているとそこに池や山内待望の水着姿の女子たちが現れた。
「おおおおおお!!」
「は、長谷部はっ!?」
池や山内は興奮気味に女子たちの方をガン見しておりほとんどの女子はそんな池たちの視線に嫌悪の感情をあらわにしていた。
「あれと友人なのか?」
「・・・今になって少し後悔してるかも」
そんな残念過ぎる二人組に篁は無感情の視線を向け綾小路は少し嫌そうな表情を浮かべた。すると他の女子たちが嫌悪の表情をしている中ただ一人嫌な顔一つせず池と山内のところまで歩いていく女子の姿があった。ボブカットの明るい茶髪の女子でその胸も大きく男受けする魅惑的な肢体をした女子だった。
「どうしたの?池君、山内君」
「く、櫛田ちゃん!?」
その櫛田と呼ばれた女子は目の前にいる彼女の胸ばかりに目を向けている変態二人に嫌な顔などせずに笑顔で話しかけていた。そんな女子に篁と綾小路は目を向けていた。
「あの女子は確か・・・」
「櫛田だな。というか彼女ほどのクラスで有名人は平田以外にいないから名前を憶えておいた方がいいぞ」
「櫛田・・・?平田・・・?」
「平田も知らないのか・・・」
聞き覚えのない名前に篁は頭にはてなマークを浮かべそんな彼に綾小路はどこか呆れたような視線を向けていた。そして綾小路は男子側にいた今現在女子たちに囲まれている爽やかな笑顔の好青年が平田であると教えてくれた。
「そうか」
「そうかって・・・・・お前、興味ないだろ?」
「ああ、別にないな」
やれやれと言いたげの綾小路は辺りを見回す。いつも見ている女子の顔が見えなかったからだ。
「誰を探しているのかしら、綾小路君?」
「ちょうどお前を探してたところだ」
「気持ち悪いから見ないでもらえるかしら?」
「開口一番にそれは効くぞ・・・」
そう言ってきたのは他の女子同様水着に着替えた堀北だった。彼女は座っている綾小路と篁を挟んだ反対方向から彼らの場所に歩いてきていた。
「今は持っていないのね」
「・・・・?」
「・・・あの麻袋よ」
「ああ。持ってきてもよかったんだがさすがに教師に注意されそうだからな」
「賢明ね」
そう言い堀北は静かになった。どうしたのかと綾小路が立っている彼女を見上げるとそこにはなにやら二人を凝視している堀北の姿があった。
「・・・どうした?」
「・・・貴方たち、何かしてた?」
「?何かって・・・?」
「武道、とか。筋トレ、とか」
そう言う彼女の視線は二人の体、正確には上半身を観察するように見ていた。
「ピアノと書道ならやってたぞ」
「そう言う割には筋肉がすごく付いてると思うのだけど」
「生まれつきじゃないか?」
そういつもの調子で答える綾小路の顔は嘘をついているのか識別しにくく堀北は諦めたようにその視線を篁に移動させた。彼はその視線を意味を理解したのか簡潔に答えた。
「人並程度に運動はしていた」
「嘘ね」
「別に嘘じゃないがな」
篁のそんな言葉に堀北はその場にしゃがみ込み座っている彼の腕に手を触れた。
「私は武道をある程度やってたから分かる。こんな筋肉の付き方、運動してただけでは絶対に付かないわ。それに、人並の運動をしてただけでこんなに傷跡が付くものかしら?」
そう言われた篁は自分の触れられている腕、そして体を見た。先ほど同級生たちからの異様な視線、それは彼の体に原因があった。彼の極限なまで鍛え抜かれた身体。ボディビルダーのような過剰な筋肉をつけているわけではなく表現するならば鞭のようなしなやかさを持った実用性のあるそんな筋肉の付き方。
そしてなにより、彼の身体にはいたるところにおよそ高校生ではまず、いや人間長い人生の中でこれほどの傷を負えるか分からないと言えるほどの生々しく、痛々しい傷が彼の体には刻まれていた。ほとんどが切り傷で傍目から見てもわかるほどに彼に体には存在した。
「たくさん転んだからな」
「・・・素直に答えてくれる気はないってことね」
「察しが良くて助かる」
彼の回答にため息をつきながらも二人と同じようにその場に残り壁に背中を預けた堀北は手を組み男子たち、正確には未だに興奮冷めずにいる池と山内に冷たい視線を送っていた。
(まあ、あんな視線には晒されたくは無いだろうな。あの女子同様に)
そう言い彼の目は少しずつこっちに近づいてきている一人の女子に向けられていた。その女子は水着の覆われた魅惑的な肢体を持ち笑顔を篁たちに向けながら迫ってきている。
「綾小路君!篁君!堀北さん!三人もみんなのところに行こうよ!!」
そう言い彼女は篁たちのところまで来た。そんな彼女に綾小路はいつもの無表情で、堀北は彼女の姿を見るとどこか冷めたような目をしだした。
「そうだな。そろそろ先生も来るだろ」
「・・・ああ」
篁と綾小路は立ち上がり堀北も少しうんざりしながら彼女の言う通りにみんなのところに向かおうとする。するとそんな彼ら、篁に彼女、櫛田が話しかけてきた。
「あ、篁君」
「・・・・?」
「篁君、だよね」
「ああ、そうだが」
さっきから自分で言っているだろと篁は思ったが目の前の女子はそんな篁に気づくことなく話し続ける。
(そういえば、どうして俺の名前を知っているんだ?)
「自己紹介してなかったよね?私、櫛田桔梗って言うんだ。私たくさんの人と友達になりたいんだ!」
「そうか。じゃあなんで俺の名前を知ってる?」
「あ、それはね。篁君って綾小路君が最近言ってるのたまたま聞こえちゃって」
「・・・そういうことか」
それで篁は合点がいった。どうやら彼女は綾小路とも少し話したことがある人間らしい。
(なるほど。よく
「これからよろしくね!」
「・・・ああ、よろしく」
そう言い手を出された篁は一瞬どうしようかと迷った。なぜなら遠くで見ていた池と山内の視線、それだけでなくクラスの様々な視線が彼らに突き刺さっていたのだ。
(どうやら彼女は相当クラスでも人気らしいな。外面の使い分けが得意な人間か)
彼にしてみればクラスの人間関係は至極どうでもいいことだが目の前の女子はまるで逃がさないと言わんばかりの笑顔を篁に向けていた。
(Aクラスの坂柳に綾小路、堀北、そしてこの櫛田といい中々個性的な人間が多いな、この学校は)
篁はそう思いながら彼女と軽い握手をした。その瞬間視線の鋭さが増したが彼には痛くもかゆくもないためそれらの視線を無視した。そして先生がその場に現れ点呼を取り始めた。
「見学者は16人か。随分多いようだが、まあいいだろう」
そう明らかにおかしい欠席の人数に教師はこれといった反応を見せずそのまま授業を続けることにした。
「俺が担当するからには、夏までに必ず泳げるようにしてやる。安心しろ」
「別に無理して泳げるようにならなくてもいいですよ。別に海に行くわけでもないし」
「そうはいかん。今はどれだけ苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば後で必ず役に立つ。必ずな」
「・・・・・・・」
やたらと役に立つという言葉を主張している教師に篁はその目をわずかに細めた。そして授業が始まり男子17人、女子10人の男女別の競泳が始まり先に女子たちが行われることになった。
「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん。はぁはぁはぁはぁ」
(もはや恐怖映像だな)
そして次々とスタートラインに並んでいくそんな中に堀北の姿があった。
「・・・・・・・」
笛が鳴り5人の女子がプールの中に飛び込む。なにやら男子陣がうるさい気がした。
「速いな」
堀北は一番早くたどり着いており28秒だった。気がつけば女子のレースは終わっており男子の番となっていた。第一レースには綾小路と赤い髪のヤンキーなどが泳いでおり一番速かったのはその赤髪のヤンキーだった。
そして第二レースに篁は入ることになった。他の男子たちと同様にプールの目の前に立つと嫌でも視線が突き刺さる。そして彼と同様に視線を向けられている男子が隣に立っていた。
「よろしくね、篁くん」
「・・・?ああ」
そこには爽やかな笑顔を彼に向けている男子がいた。見れば女子の大半が彼に黄色い声援を送っている。その顔を見た篁は先ほど綾小路が教えてくれた平田という男だと気づく。
「よろしく」
「うん。それにしても、その・・・・・すごい身体だね」
「そうか?」
「う、うん。鍛えているっていうのもあるけど、その・・・・いや、なんでもないよ。頑張ろうね」
「ああ」
会話はそれで終了し2人はプールに飛び込む体勢をとる。
先生の笛の音がなり次の瞬間男子たちが飛び込んだ。そして、篁は泳いでいるさなか隣に誰も居ないことに気付き、気がつけばいつの間にかその手は壁に手をついていた。
「もう終わりか」
なにやら静まり返っている気がするが彼は一先ずプールから上がることにした。そして彼に少し遅れて到着した平田が水面から顔を出す。平田は少し息を切らしながらもその息を整えていきプールから上がった。そして他の男子全員が到着し篁と平田は先生にタイムを聞きに行くことにした。
「平田は26秒13、そして篁だが・・・22秒24だな」
そして篁は最後の競争を辞退しあとは端の方で見学することにした。
それから数日が経ったある日、茶柱の授業の時間になり彼女は小テストをやると言い出しそのまま抜き打ちの小テストを始めることになった。それに対しクラスの殆どが嫌そうな声を上げるがそれでも小テストは始まってしまう。篁は小テストを解いていく。
(ん?)
問題なく解いていく中、彼は最後の数問がやたらと難しいことに気付いた。
「・・・・・・」
彼はわずかに目線を動かし周囲を見渡す。そこにはおそらく彼と同じように最後の問題に差し掛かったのかほとんどが手を止め悩んでいた。それは隣の堀北も同様で彼は担任の茶柱の方を見ればその顔は愉快な物でも見るようなものだった。
(・・・悪趣味な女だな)
篁は最後の問題を無視しそのまま小テストを終えた。
そんな小テストを終え変わり映えのしない日常を過ごしていき一か月、その日も朝から遅刻する者が後を絶えず騒がしい状態だった。そんな中茶柱先生が来たがその表情は何時にもまして険しい。
「せんせー、ひょっとして生理でも止まりましたー?」
そのデリカシーの欠片もない池の声にクラスの女子たちの冷ややかな視線が突き刺さるがそんなことをお構いなしという風の池だった。そんな中茶柱は真面目な話があり何か聞きたいことは無いかとクラス全体に問いかけた。
「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれていなかったんですけど、毎月1日に支給されるんじゃないですか?」
「本堂、前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に支給される。そして確実に支給されたことも確認している」
「え?」
その茶柱先生の発言に質問した本堂が素っ頓狂な声を出し徐々にクラス全体にざわめきが起こり始めた。ちなみに篁には学校側から支給されるものとは別に理事長のポケットマネーから依頼の報酬をちゃんと受け取っているため何も問題はなかった。
(・・・・・・)
いまだクラスの騒ぎが収まらないのをはた目で確認しながら彼は横に目を向ける。そこには他と違い騒がなくとも訝し気な顔をしている堀北といつも通りの無表情な綾小路がいた。
「・・・本当にお前らは愚かだな」
「愚か・・・ですか?」
「座れ、本堂。二度は言わん」
その有無を言わせない茶柱先生の雰囲気にクラス全体も尋常ではない雰囲気を察したのか徐々に黙り始めた。
「ポイントは確かに支給された。このクラスのみが支給されていないと言う事ではない。もう一度言う、ポイントは確かに支給されている」
「で、でも、ポイントは・・・・」
「・・・ここまで言ってもまだ分からんとは、本当に愚かな者たちばかりの様だ」
その嘲りと失望、そしてどこか悦びを含んだ言葉にクラスメイト達は驚きと不安を隠せずにいた。そんな中、金髪の男高円寺が喋り始める。
「ははは、なるほど、そういうことだねティーチャー、理解したよ、この謎解きが」
そして彼、高円寺はとても面白いと言うように言葉を続ける。
「簡単な事さ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」
「はあ?なんでだよ、毎月10万ポイント振り込まれるって・・・」
「私はそう聞いた覚えはないね。そうだろう?」
そう言い金髪の男は茶柱に問いかける。
「態度には問題ありだが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒントをやって自分で気が付いたのが数人とは、嘆かわしいことだ」
そしてそんな中、平田が手を上げ茶柱に質問する。何故ポイントが振り込まれていなかったのかと。
「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。一月で随分とやらかしたものだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果、お前たちに振り込まれるはずだった10万を全て吐き出した、それだけだ」
その茶柱先生の言葉に平田はそんな説明を受けていないと言う。
(JCCでもそのくらいの常識はある。わざわざ説明するとは思えないが・・・)
そして茶柱先生は手に持っていた筒の中から厚手の紙を取り出しそれを広げ黒板に貼る。そこにはこう書かれていた。
Aクラス 940
Bクラス 650
Cクラス 490
そして我らがDクラス 0
(ずいぶんきれいに並んだな。坂柳のクラスはちゃんと真面目だったってことか)
そしてそんな有り得ないものを見るような生徒たちを代表して池がどういうことだと叫ぶが茶柱先生はこれは公平で何の不正もない結果だと言う。そしてこれでお前たちがDクラスに配属される理由が分かったかと尋ねた。その言葉に適当なんじゃないかという答えが殆どのクラス内を見て茶柱先生は話す。
「この学校では、生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ、ダメな生徒はDクラスへ、と。まあ大手集団塾でもある制度だな。つまりここDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦と言うわけだ。つまりお前たちは最悪の不良品と言うわけだ。実に不良品らしい結果だな」
その茶柱先生の言葉に篁はちらっと左を見ると、そこには驚愕と悔しさで少し顔が歪んでいる堀北を見えた。
「・・・これから俺たちは他のクラスの連中にバカにされることか!」
突然何かを蹴ったかのような音がし見ればヤンキーの男が机を蹴ったようでイライラしてるのがよく分かる。そんな彼に茶柱先生はお前にも気にする体面があるんだなと意外そうにしていた。そしてそれが嫌なら下から上へ這い上がってみろとも言う。
「あ?」
「クラスのポイントは何も毎月振り込まれる金額と連動してるだけじゃない。このポイントの数値がそのままクラスのランクに反映されるということだ」
その言葉が意味するところは、つまりもしも490あるCクラスよりも多くポイントを保有していればこのクラスは丸ごとDからCに変更されると言う事である。
(・・・なるほど。これが全容か。進級によるクラスの変化はない。その代わりポイント次第で最高のクラスにも、最低のクラスにもなれるってわけだ)
そして茶柱先生は一つの紙を取り出した。そこには多くの数字が並んでいる。
「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろいで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何を勉強してきたんだ、お前らは」
それは小テストの結果だった。そして結果を見ながら茶柱先生の話を聞いていればどうやらこのテストが本番だったなら7人は退学していたとのこと。そのことに池や山内だけではなくクラスの殆どが困惑と衝撃、そして怒りが沸きだしたがこれがこの学校のルールだと言い茶柱先生は冷たく突け放す。
そして放課後、綾小路が三バカの1人に絡まれているのを無視し教室から出て行くことにした。その時なにやら焦ったような表情の堀北を見つけたが彼はそのまま帰路につき家に帰ってくる。
「おかえり!!」
「ただいま美玖」
「今日はどんなことがあったの!?」
「そうだな。今日は・・・」
そうして篁は美玖と一緒に家の中に入っていった。
これが篁が実力至上主義の学校生活の始まりの瞬間だった。