血の医療は救いとなるのか   作:4R1ES

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今はまだ“狩人”の存在感が無いですが、次話くらいからヤバさを出していきたいです。


#2 星の瞳(懐玉2)

 

 

 

 

 

 廉直(れんちょく)女学院 中等部

 登校すると言って聞かない天内を授業に送り出した五条、夏油、黒井の三人が、学院の敷地内で隠れるように待機する。

 星漿体(せいしょうたい)を狙う輩に天内の居場所が割れている今、最も安全に過ごす方法は同化の時間まで高専の結界内に居ることだ。

 しかし、同化後は()()()()()()高専最下層で結界の基となる彼女のために、それまでは自由に過ごさせてやれというのが天元様のご命令。“家族”の黒井も同意見である。

 

 夏油が手持ちの呪霊を出し、校内と周辺を監視させる。

 天内を狙う輩、呪詛師集団の「Q」は、五条が今朝の襲撃時に最高戦力の術師を倒したため、組織としての機能はない。

 動きを見せない「聖歌隊」は天内の命を狙っている訳ではないが、天元様との同化も良しとしていない。

 目的が誘拐だとすれば、護衛役の三人のほうが危険に晒されていると言えるだろう。

 夏油が黒井から天内の話を聞きつつ、敵の情報を整理していた時、校内に放っていた呪霊の異常を感じ取った。

 

「……悟。急いで理子ちゃんの所へ」

 

「あ?」

 

 黒井に目配せをした夏油が、怪訝そうにする五条の肩を叩いて歩きだす。

 

「2体祓われた」

 

 襲撃者は「Q」の残党か、「盤星教」の差し金か……。半端に金や権力(ちから)を持った奴らなら面倒だ。

 特段気にする必要はないと思っていた非術師でも、金さえ積めば術師を動かせるのだから。

 

 

 

 

 

 学院襲撃の数時間前。

 呪詛師御用達の闇サイトに天内の情報を載せ終えた孔が、ターゲット写真と掲載内容が一致していることを確認する。

 それから、恵と共に昼食をとっているであろう甚爾に連絡を入れた。

 

天内理子(アマナイ リコ)

廉直女学院 中等部2年

生死問わず

 

 期限は2日後の午前11時までと短いが、居場所は割れている。この条件で非術師の中学生を相手に3000万円の懸賞金は破格と言えるだろう。

 ……五条悟がいなければ。

 五条が近くにいる限り、天内理子――星漿体(せいしょうたい)はまず殺せない。世話係の女についても、高専の連中が見殺すことはない。

 だから()()()()手付金を賞金にして、釣られた呪詛師を使い五条の周りの術師と五条本人の神経を削る。

 時間制限を短く設けるのも、“期間限定”だと、呪詛師に思わせることだけが目的ではない。

 電話越しに甚爾の計画を聞いていた孔が肩をすくめた。

 

依頼者(クライアント)を利用するだけ利用して潰そうとか、プロ失格だな」

 

 そんなことは欠片も気にしていない様子の孔の言葉を聞いて、甚爾が鼻で笑う。

 

「どうせ潰すなら、最期に役立てる。……まあ、今後の仕事のために上手く根回ししとけよ」

 

 依頼者殺しのうわさが立たないように。

 

「簡単に言うね」

 

「それに俺は役員だけで済ませてやんだから、お優しいもんだろ。“処刑隊”なら末端の一族まですり潰すぞ」

 

 医療教会が庇護せんとする、星漿体(せいしょうたい)に手を出した。処刑隊に粛清されるには十分すぎる理由だ。

 正義を掲げる奴らほど、狂っている者もいない。

 

「……恵。それ食ったら移動すんぞ」

 

 携帯電話を肩と耳で挟んだまま割り箸を割った甚爾が、テーブルの向かいに座る恵の持つたこ焼きの器に箸をのばす。

 器を両手で抱えた恵が身を引き、通話しながら姿勢悪く座っていた甚爾の箸は届かなかった。

 

 

 

 

 

廉直女学院 校門前

 襲撃者は、Qの残党でも、盤星教に雇われた術師でもない。

 呪詛師御用達の闇サイトで、天内の首に3000万円の懸賞金が懸けられている。

 

 夏油と合流し、状況を聞いた黒井は、先に天内の元へ向かうよう夏油を促した。

 五条の強さは聞いているが、万が一ということもある。

 

「……お嬢様からは何も奪わせない」

 

 彼女が小さいころから、事あるごとに胸に誓った言葉を呟いた黒井は、小さくなった夏油の背中を追いかける。

 しかし住宅街に入り、交差点に差し掛かったところで記憶が途切れた。

 

 

 

「めんそーれー!」

 

 元気な天内と五条の声がビーチに響く。

 自分が拉致されるという失態を犯してから、丸一日が経った昼。

 水着に着替えた黒井は、なぜか天内、五条、夏油の三人と共に沖縄の海にいた。

 

「まさか盤星教信者……非術師にやられるとは……」

 

「不意打ちなら仕方ないですよ」

 

 情けないと落ち込む黒井に、夏油が自分の責任でもあると声をかける。

 なぜ拉致犯が取引場所を沖縄に指定したのか、考えるべき点はあるが、楽しそうに遊んでいる天内を見ていれば、些細なことのように思えた。

 

 

 

 ナマコやヒトデを捕まえていた五条が、ふと天内が首から提げている星の瞳の狩人証(ペンダント)に目を向けた。

 

「……それ、どこで手に入れた?」

 

 片手でサングラスをずらし、現れた青空の瞳が、星空の石を捉える。

 鋭くなった五条の視線から守るように、天内がペンダントを握りしめた。

 

「ずっと前から持ってたから……。何かあるのか?」

 

 何か、と聞かれれば、今まで感じたことがない違和感がある。……気がする。

 だが、呪具や呪物という訳でもない。

 

「いや……。変わってんなって、思っただけ」

 

 サングラスを掛け直し、微妙な空気になってしまったことに五条が視線を逸らした。

 そんな五条の珍しい様子を見て、気まずいとか思うことがあるのかと驚いた天内は目を瞬かせる。

 それから、隙ありと叫んで五条の顔にナマコを投げた。

 

 

 

 

 

同化当日 15:00 (天内理子 懸賞金取り下げから4時間)

都立呪術高専 (むしろ)(ふもと)

 

 鳥居の立ち並ぶ階段を上り切った夏油は、五条、天内、黒井の三人を振り返って一息をついた。

 

「皆、お疲れ様。高専の結界内だ」

 

 高専に入るのは初めてなのか、少しはしゃいだ様子を見せる天内に苦笑して、一昨日から術式を解かず、睡眠もとっていない五条に向き直る。

 

「悟。本当にお疲れ」

 

「……二度とごめんだ。ガキのお守りは」

 

 夏油が声をかければ、憎まれ口を叩くのを忘れない五条が術式を解いた。

 今の五条になら、天内のビンタがよく効きそうだと、五条の言葉に反応した天内の声を聞きながら思う。

 夏油が三人を先導するために背中を向けようとしたとき、目の前で刃物の刺さる音が響いた。

 

 結界の内側に入っても感知されず、五条の背後をとった襲撃者。

 それは、報奨金が目当ての呪詛師とは比べ物にならない存在だった。

 

 

 

 

 

高専最下層 薨星宮(こうせいぐう) 参道

 襲撃者の相手は自分がすると言った五条の言葉に従い、夏油は天内と黒井を連れて天元様の元を目指す。

 昇降機の扉が開き、数歩進んだところで、黒井が立ち止まった。

 

「理子様。……私は、ここまでです」

 

 そう言って頭を下げた黒井を、天内が振り返る。

 

「理子様……どうか……」

 

 声を震わせて立ちすくむ黒井に、天内が抱き着いた。

 

「黒井。大好きだよ。ずっと……! これからもずっと!」

 

 泣きながら想いを伝える天内に、抱きしめ返した黒井も涙をこぼす。

 

「私も……! 大好きです……」 

 

 

 

 黒井を昇降機の部屋に残し、続くトンネルを抜ける。

 そこに広がるのは、天元様の膝元。国内主要結界の基底。薨星宮(こうせいぐう) 本殿。

 

「階段を降りたら門をくぐって、あの大樹の根元まで行くんだ」

 

 夏油の指さす先を、目をはらした天内が見る。

 そこは、高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側。招かれた者しか入れない。

 

「同化まで天元様が守ってくれる」

 

 大樹を見据えたまま何も言わない天内に、夏油も一度、口を閉じた。

 今回、夏油と五条の二人が夜蛾から聞かされた任務は、星漿体(せいしょうたい)の“抹消”。

 “同化”ではなく、“抹消”。言葉を変えるだけでは誤魔化せない、ひとりの少女を犠牲にしようとする罪の意識を持てという、担任からの回りくどいメッセージ。

 それが分かっているから、星漿体の少女が同化を拒んだらどうするか。何ができるか。

 天内と会う前に、夏油と五条の間で話し合いは済ませている。

 夏油が隣に立つ少女を見た。

 

「それか引き返して……」

 

 黒井さんと一緒に家に帰ろう。

 そう伝えようとした少女が、視界から消えた。

 

 

 

 乾いた破裂音が響き、天内が居なくなったと認識すると同時に、左足に痛みが走る。……撃たれた。

 夏油が固まりかけた頭を回し、盾にするための呪霊を出したところで、次の銃声が鳴る。

 今度の銃弾は防ぎ、トンネルを振り返った夏油が見たのは、五条が相手になった襲撃者の男。

 

「なんで、オマエがここにいる」

 

「なんでって……。あぁ、そういう意味ね」

 

 絞り出すように声を出した夏油を、首を傾げた男が見返す。

 

「五条悟は俺が殺した」

 

「そうか……死ね」

 

 それは嘘だと、叫んだ方が楽だったろうか。

 だが、“俺達”は最強である。それを証明しなければならない。

 手持ちの呪霊の中から、夏油が特に強力なものを複数召喚する。決死の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

医療教会 大聖堂

 信仰の高さに関係なく、一般人の立ち入りが許されていないその場所は、細かな彫刻が施された祭壇や大理石の柱に、絨毯の赤が映え美しい。

 しかし、参列者用の椅子もなく、ただ広い空間には、人を寄せ付けない何かがあるような、不気味な気配がある。

 荘厳よりも物々しいという言葉が似合うようだった。

 

 祭壇の前に立つ、“聖歌隊”の装束に身を包んだものが、親し気に甚爾(とうじ)に話しかける。

 

「誰も殺しませんでしたね」

 

 隣で見ていたかのような相手の発言に、甚爾はいつもながら得体の知れない気味悪さを覚える。

 

「呪霊操術のガキは、死後、取り込んでた呪霊がどうなるか分からん。……五条のガキは殺したぞ」

 

「そうですか?」

 

 楽し気に笑う様子に顔をしかめてから、甚爾が長椅子に横たわる二人の女性を示した。

 

星漿体(せいしょうたい)……“星の娘”天内理子と、その世話係の黒井美里。じゃ、もう一つの依頼も片付けて来るわ」

 

 これ以上話すつもりはないと背中を向け、大聖堂の入口へ進む。

 甚爾は礼拝のために教会を訪れたことは一度もないが、妻や息子がここに来ていれば、祈りの言葉を口にするだろうと考えた。

 

「……君たちは弱く、また幼い」

 

 礼拝に訪れたことはない。だが、二人の声でほぼ毎日聞いているせいで、祈りの言葉は覚えてしまった。

 

「恐れを失くせば、誰一人君を嘆くことはない……」

 

 それは、誰への警句だろうか。

 

 

 

 

 




■補足
「甚爾と孔の会話」
孔と甚爾で「依頼者を利用するだけ利用して潰そうとか、プロ失格だな」といった会話をさせました。

Q.仲介人がいる場合、殺し屋は依頼主の情報を知っているのか?
A.知らない。知る必要がない。ターゲットの情報と報酬額さえ分かればいい。

これが基本だと考えていますが、孔は甚爾がプロでミスするはずがないと信頼しているので、雑談代わりに色々話しているんだと思っています。

甚爾の「今後の仕事のために上手く根回ししとけよ。依頼者殺しのうわさが立たないように」の部分は、
・依頼失敗時、依頼主を殺して「依頼自体を無かったことにする」
・依頼主を強請る
・高い金を積まれて、受けた依頼をやめる/ターゲットから依頼主を殺す依頼を受ける
みたいな奴がいることを前提として書いています。
殺し屋は信用商売?なので、別の依頼達成のためとはいえ、プロの甚爾は気にするだろうなと。
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