血の医療は救いとなるのか   作:4R1ES

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ブラボのキャラ、敵対者への罵倒が辛辣な暴言で好きです。


#9 連盟(矜持と教示1)

 

 

 

 

 

2017年 7月

 呪術師たちの任務もいくらか落ち着いてきた頃。

 飲み歩く人々で賑わう通りから一筋外れた、雑居ビルの一室。

 ガタついたローテーブルに積もった埃が、衝撃を受けて舞い上がる。

 無人のはずの廃ビルの三階で、締め切られた一室に充満するのは、不快な鉄の臭い。

 その発生源である()()()()()()()()の隣に、二つの影が立った。

 鈍く輝く銀の鎧と、黒のロングドレスという、この場に似つかわしくない装い。

“カインの兜”を脱いだ片割れの銀の鎧には、おびただしい量の返り血がついている。

 特に赤く染まったその右手は、遺体から何かを引きずり出したのか、絶え間なく血が滴っていた。

 

 

 

 血溜まりの前で、スマホを耳に当てたドレス姿の少女――里香が、現場の状況を通話相手に述べていく。

 

「壁は元から崩れていました。……はい。後の処理はお願いします」

 

 話を終え、()()()と表示された通話画面を切る。これで()()()()()()ことになると、一息をついた里香が乙骨を振り返った。

 

「早く帰ろう。憂太」

 

 差し出された里香の手をとり、エスコートするように一歩前に出た乙骨が、手すりの傾いた階段をゆっくりと降りる。

 錆びた鉄の扉の軋む音がして、灯りの消えた非常口のランプの方へ視線を向ければ、ビルの裏口が外側から開かれた。

 

 裏手にあるビルの街灯で逆光になったスーツ姿の男が、ドアノブに手をかけた状態で固まっている。

 目を凝らして顔を見れば、酔いのせいか赤く染まっているのが確認できた。

 彼が裏道を通ったのは近道のためか。酔いで気が大きくなり、聞き慣れぬ物音が気になったのだろうが……立ち入り禁止のテープが貼られたビルの扉を開くとは藪蛇だった。

 血に塗れた怪しい二人の姿を前にして酔いが覚めたらしく、目を見開いて凝視してくる男を、乙骨たちもこのまま帰す訳にはいかない。

 狩人として活動している今の自分たちにはどうしようもないが、呪術師たちが“帳”を降ろすのは、こういったトラブルを避けるためでもあるのか。

 そう納得しながら、とりあえず教会に連れて行くしかないと乙骨が足を踏み出したとき、別の誰かが目撃者の肩に背後から触れた。

 

「君……。嫌なものを見たな」

 

 這い寄るようにまとわりつく、心底同情しているようでいて、どこか他人事のような気怠げな声がかけられる。

 

()()()市民が殺されたとあれば……君は警察に通報しなければならない。それが市民の務めでもある」

 

 逃げないように掴んだ肩に体重をかけながら、後ろにいた人物が男の正面に回り込んだ。

 その身にまとうのは、学ランに似た上着の上からベルトを締め、丈の短いマントを羽織った官憲隊の制服――“連盟員”が好んで着用するものだ。

 

「だが、死んだのは人殺し……。君が危険を犯し、時間を割いてまで何かしてやる必要のない糞袋野郎だ」

 

 肩を掴む連盟員の手に力が入り、目撃者の男が顔をしかめる。その様子を見て、連盟員はすぐに力を緩めた。

 

「ああ、すまない。……君、酔いが覚めてしまったのだろう? ならば君がすることは一つだ。“悪い夢を見た”と思って、また酒でも飲んで忘れるといい……」

 

 そう言った連盟員が、男の胸ポケットに何かを押し込む。ポケットが膨れるほどに詰められたのは、すべて一万円札に見えた。

 掴んでいた肩を離し、路地裏から追い出すように男の背中を押した連盟員が、すぐに落とし物があると声をかけて呼び止める。

 緊張して振り返った男に、使い込まれた財布が差し出された。

 

「それから……これは君に出会った記念に貰っておこう」

 

 震える手で自分の財布を掴む男の前に掲げられたのは、名前と住所、顔写真の載った手のひらに収まるサイズのカード――運転免許証。

 

努々(ゆめゆめ)、忘れぬことだ……君は“悪夢を見ていた”ということをな……」

 

 声にならぬ悲鳴をあげて走っていった男を見送り、連盟員が廃ビルから出てきた二人を振り返る。

 

「君たちは“血の狩人”だな」

 

 射殺さんばかりの視線を受け止めた乙骨と里香に、連盟員が言葉を続けた。

 

呪詛師(クズ)が何人死んだところで、呪術師も警察も動きはしない……」

 

 だが、一般人に怪我を負わせたり、通報されるような事態になれば、彼らも黙っている訳にはいかない。

 

「迂闊にも捕まれば、嘆かわしいことに法はクズ共の味方だ。……慎重に行動したまえ」

 

 乙骨たちが“仕事”をした辺りを見上げた連盟員が、興味を失ったように踵を返す。

 

「あの……」

 

 声を掛けようとした乙骨に被せて、相手の言葉が発せられた。

 

「一般人に見られた時には、適当に金を握らせて脅しをかけるといい。これは先代の“狩人狩り”……殺し屋(プロ)の手口だ」

 

 

 

 

 

 高専に戻り、昨日の任務内容を報告する乙骨と里香を、五条が(いぶか)しげに見た。

 

「あの場所に“連盟員”がいた?」

 

 連盟員が狙うのは、主に一般人の呪殺を請け負う呪詛師。彼らの言葉を借りれば、「糞のような汚物」のいる場所である。

 

「今回の標的が潜伏していた以外の報告は、受けていないんだけどね……」

 

 ()()()一般人を相手に派手な行動をとった呪詛師は、ことごとく連盟員たちに潰されてきた。

 だが昨晩の呪詛師は、彼らの怒りを買うような呪殺はしていないはずだと、そう言ってあごに手を当てて考える五条に、同じく考え込んだ乙骨が声をかけた。

 

「……事故や事件も、あの辺りでは起きていないんですか?」

 

「それは何件かあるけど、残穢は確認されていない。……気になる?」

 

 何か企んだ顔をして身を乗り出してくる五条に、乙骨と里香がたじろぐ。

 

「気になっているのは、五条先生のほうでしょう?」

 

 五条がこの顔になった時には、いつも面倒ごとを押し付けられると、里香が少し不機嫌そうに返す。

 バレていることを笑って流した五条が目を伏せ、真面目な顔をしてから二人を見た。

 “連盟の狩人”は、乙骨の“血の狩人”と同じく、本来は狩人狩りを行うものであり――今は“呪詛師殺し”を行っている。

 

「“狩人”として、二人が高専のバックアップなしで活動する必要がある以上、同じ狩人である彼らから学ぶべきことは大いにある」

 

 久しぶりに教育者らしい風格を見せる五条に、二人も姿勢を正す。その緊張した様子を見て、五条がふっと息を漏らした。

 

「……というのは建前で、ちょっと行ってきてよ」

 

 急に軽くなった五条の態度に、乙骨と里香の反応は追いついていない。それを面白そうに眺めながら、五条は不敵な笑みをたたえた。

 

「今回は“呪術師”として、ね……」

 

 

 

 

 

 それぞれの任務を終え、一年生全員の顔がそろったため、交流を兼ねて呪力なしでの鍛練が行われる。

 竹刀を持つ乙骨との打ち合いを終えた真希が、グラウンド端の芝生に腰を下ろして狩人の二人を見た。

 

「お前ら、呪霊相手の時より動きがよくねぇか?」

 

 懐に潜り込んで短期決戦を仕掛けてくる乙骨と、逃げ回るように攻撃を避けて時間を稼ぐ里香。

 実戦での里香は飛び道具も使ってくるため、どちらかに気をとられ過ぎると、もう一人に仕留められる。定番の組み合わせだが、連携がよくて厄介だ。

 悔し気に声を掛けてきた真希に、乙骨が答えた。

 

「真希さんって、荒っぽく見えても型がきれいだから対応しやすいんだよね」

 

 本人に悪気はない。狩人として、人間の(なり)をしていながら人間ではない動きをする“獣”を相手にしているために出た、正直な感想だ。

 だが、それを理解していても、納得してくれるような相手はここにはいない。

 

「真希を挑発するとは、憂太も言うようになったな」

 

 しみじみとうなずくパンダに、里香と狗巻も悪ノリする。

 

「頼もしいわね憂太」

 

「高菜」

 

「……えっ?」

 

 すぐに腰を上げて前方に飛んだ乙骨の背後に、棍棒が振り下ろされる。

 怒気を帯びた真希の攻撃に、乙骨が慌てて言葉を並べた。

 

「いや違うよ! 僕の相手って、人間辞めてるようなのが多いから素敵だなって思ったって意味で!」

 

「私を人外と同列に並べるとは、いい度胸じゃねぇか……」

 

 清々しいほどに墓穴を掘る乙骨に、見ている三人もあきれ顔になる。

 追いかけっこの始まった二人を見守っていると、担任の男が気配もなく現れた。

 

「いやー。楽しそうで何よりだね」

 

 愉快そうな五条が明日の任務票を手にしているのを見て、パンダは狩人の二人が初日から鎧着用で登校し、学年そろっての任務後に、個別の任務も受けていたことを思い出す。

 異例の数々に最初こそ警戒したが、本人たちの気性はいたって大人しい。

 

「そういや狩人って危ない奴なイメージだったけど、憂太や里香を見てると普通だよな」

 

 パンダの言葉に、里香が不思議そうに目を瞬かせる。

 

「憂太は優秀な狩人よ?」

 

 同じようにパンダも疑問符を飛ばし、会話のずれが生じていることを解消する前に、五条が口を挟んできた。

 

「優秀な狩人――“よい狩人”っていうのは、『狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている』ものらしい。それとね……」

 

 素直に自分を注視した三人に、五条がにこやかに述べた。

 

「これは呪術師の僕が言うのはおかしな話だけど……“まとも”に見える狩人ほど、狂っているものだよ」

 

 

 

 

 

 

 

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