六等分の幸せ   作:アルフレイン

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第7話 指を結んで

俺と五月はお互いにひとしきり言いたいことを言いつくした。

 

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

 

2人揃って若干の前傾姿勢を取りながら、息を上げている。

 

「なんでこの2人は息が上がるまで言い続けてるのよ」

 

「フータローと五月だからしょうがない」

 

「それもそうね」

 

「おい、なんだ。

 そのまったくもって理解できない片づけ方は。

 五月はともかく、俺まで頭悪いみたいな言い方は辞めてもらおうか」

 

「ちょっと待ってください!

 私はともかくってどういうことですか!」

 

「お前がバカだってことだよ」

 

「はい、ストップ。

 そろそろ本題に入らないと」

 

俺と五月が再びヒートアップしてきたところを一花が止めに入った。

 

「そうです!

 上杉さんにまだその説明をしていませんでした」

 

そう言えばそうだ。

五月との言い合いですっかり忘れていたが、俺は今のところなぜここに呼ばれたのか全く理解できていない。

ここに来るまでは俺の出した答えがこいつらに対する裏切りだと思って、絶交する可能性まで頭には入れていた。

 

だが、ここまでの5人の反応を見る限り、どうやらそういうわけではなさそうだ。

挙句の果てにはこいつらは俺のことをだ、大好きとか言いやがる。

こいつらは何を考えてるんだ。

ここに来てそればかりを考えているが、全くわからない。

もし仮に、仮にだが5人が本当に俺のことを好きだったとしても、ここで全員が告白してくる意味がわからない。

ここで、1人を選べということだろうか。

もしそうならば、俺には無理だ。

何度も考えて俺は1人だけを選ばないという結論を下したのだから。

1人を無理やり選ばせて、俺が困惑する様を見ようというのだろうか。

流石にこいつらもそんなことは……。するかもしれないな。

 

「フータロー君は見事私たちを見分けることに成功したね」

 

「まあ、かれこれ1年半も一緒にいるんだ。

 さすがに見分けられるようにもなるさ」

 

「私たちを見分けるのに必要なものは時間だけじゃないわよ、フー君」

 

「問題だよ、上杉君。

 私たちを見分けるのに必要なものは何でしょうか」

 

「あ?お前たちを見分けるのに必要なもの?

 そんなも……の……。まさか」

 

いつかこいつらの祖父が言っていた。

五月も言っていた。

 

この5人を見分けるのに必要なもの、それは。

 

「思い出したみたいだね。

 私たち5人を見分けるのに必要なものは『愛』だよ」

 

「今回のゲームはフータローの愛を確かめるためのもの」

 

「だますような形になってしまってごめんなさい」

 

五月、三玖、四葉が順に話してくる。

愛?確かにそう言っていた。

だが、それを確かめるって一体どういうことだ。

 

「フータロー君、まだなんでこんなことをしたのかわからないって顔してるね」

 

「まあ、フー君じゃわからないでしょうね」

 

「多分、フータローじゃなくてもわからないと思う」

 

「私たち5人じゃないと多分、出ない案ですからね」

 

「それじゃあ、上杉君。

 答え合わせの時間だよ」

 

「フータロー君」

「フー君」

「フータロー」

「上杉さん」

「上杉君」

 

「「「「「私()()と付き合ってください」」」」」

 

「……は?」

 

多分、俺は今、生まれてから1番間抜けな顔を晒していると思う。

今、こいつらは何って言った?

()()と付き合って、って言ったのか?

 

その短い言葉が俺の脳内を何度も何度も駆け巡る。

だが、何度駆け巡ったところで、その言葉通り以外の意図を見つけることはできなかった。

 

「フータロー君は私たちのことが好きで」

 

「私たちもフー君のことが好き」

 

「お互い意中の関係で想いを告げあった」

 

「それはもう告白をOKしたのと同じだと思いませんか?」

 

「あとは上杉君の返事だけだよ」

 

今日何度思ったかわからないが、こいつらはいったい何を考えてるんだ。

 

「お前らは5人全員で俺と交際しようとしてるのか?」

 

「そう聞こえなかったのかしら?」

 

そうとしか聞こえなかったから聞き返したんだよ。

まったくこいつらは本当にバカだ。

 

「普通に考えてできるわけないだろ」

 

「普通じゃなくていい。

 私たちは5つ子なんだからその時点で普通じゃない」

 

「そもそも、同級生なのに家庭教師と生徒なんて関係はかなり普通じゃないよね」

 

「確かにそうかもしれないが、それでも6人で交際するなんて異常だろ」

 

「でも、それしか道はないんですよ。

 私たちもみんな上杉さんが好き。

 なのに選ばれなかった。

 他に好きな人がいるとかだったらまだ納得できました!

 でも、上杉さんは私たち全員が好きで1人を決められないと、そう言いましたよね?」

 

「5人で話し合って、それなら全員で付き合えば解決するね、と」

 

頭痛が痛くなる。

『頭痛が痛い』というのが重言(じゅうげん)だとわかっているが、それでも使ってしまうほどに頭が痛い状況だ。

一体、なぜこんなことに。

いや、なんでかはわかっている。

俺が誰も選ばなかったせいだ。

誰か1人を選んでいたら、きっとこいつらは自分の想いに蓋をして祝福してくれたんだと思う。

だが、俺の決断がああだったせいで、こんなことになってしまった。

 

「何ウジウジ考えてんのよ」

 

俺がわかりやすく頭を抱えていると二乃から激しい口調の言葉が飛んできた。

 

「そりゃ、うじうじと考えもする。

 こんなことになるなんて考えてもなかったからな」

 

「ああ、もう!じれったいわね!」

 

二乃がズンズンと俺の元まで足を踏み鳴らしながら、歩んできた。

 

「二乃?」

 

「何回も言ってあげる!

 私たちはあなたのことが好きなの!

 それはもうどうしようもないくらいね!

 暴走することだってある。知ってるでしょ!

 フー君が誰も選ばなかったのは私たちを傷つけたくなかったから、違う?」

 

違う、と言えばウソになる。

もちろん、俺が誰かを選ぶことで誰かを傷つけてしまうならと考えもした。

 

「私たち全員と付き合えば、あんたの不安材料はなくなるわ!

 何か問題ある!?」

 

俺が口をはさむ間すら与えず、二乃が激しく詰め寄ってくる。

 

「6人で付き合うなんて、今はよくてもそのうち壁にぶつかる」

 

「上等よ。

 今まで私たち5人。

 いえ、6人で何度壁を乗り越えたと思ってるのよ」

 

「周りにばれたら白い目で見られる」

 

「周りは周り。

 勝手に言わせておけばいいのよ。

 私たちは気にしないわ」

 

「それから」

 

「もういいでしょ、フー君。

 これ以上はムダよ。

 私たちだって色々考えて話し合って決めたの。

 何が起こっても大丈夫なように覚悟してるの」

 

……。これはどうやら詰みってやつかもしれない。

二乃の後ろを見ると他の4人も全員強い意志を持った瞳で俺を見つめている。

4人とも二乃と同じことを考えているのだろうか。

これは俺も覚悟を決めないとダメかもな。

俺は無意識にフッと笑った。

 

「フー君?」

 

「お前らやっぱそろいもそろってバカだな」

 

「この期に及んでまだ!」

 

「だが!」

 

今度は俺が二乃の言葉を遮る。

 

「俺もどうやら負けず劣らずのバカ野郎みたいだ。

 一花、二乃、三玖、四葉、五月」

 

「「「「「はい」」」」」

 

5人は俺の呼びかけに元気よく返事をした。

 

「俺と付き合ってください」

 

俺はそう言って、上半身を腰から90度に曲げ、右手を開いて前に突き出した。

 

「あれ?今、私たちが告白したんじゃなかったっけ?」

 

「まあ、けじめってやつだ。

 ここまでお膳立てしてもらっておいてなんだが、最後くらい男の俺に花を持たせてくれ」

 

「もう、仕方ないんだから」

 

一花のその言葉のあとに、5人が俺の伸ばした手の先に寄って来た。

 

「「「「「こちらこそよろしくお願いします」」」」」

 

一花が俺の親指を、二乃は人差し指を、三玖は中指を、四葉は薬指を、五月は小指を同時に握って、返事をしてくれた。

こういう時に、同時に寸分違わぬ言葉を発したり、握る指が被らなかったりするのはやはり5つ子だからなのだろうか。

 

と、まあ、かくして俺たちの奇妙な交際関係がスタートするのだった。




さばたつ様
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