無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
今回は異世界から舞台を変えての話となります。
どうかお楽しみいただければ幸いです。
青白い空間を飛空城艦が進む。
周囲には数多の世界が浮かんでいる。
真・魔王軍の軍勢は世界の奔流を進み、1つの世界に向かっていた。
「あの世界は!」
飛空城艦の艦橋にいたルーデウスは驚愕の声を漏らす。敵軍が向かっている世界は『ルーデウス達の世界』だったのだ。
「ルーデウス達の世界に向かっているのか。アノス、アレを追えるか?」
「問題ない。…ミサ、状況は分かっているな?」
『はい、アノス様。ルーデウスさん達の世界に向かいます』
ミサはリークスで返事をすると、飛空城艦を加速させた。敵軍が陣形を構築してルーデウス達の世界に向かっているが、その中央を飛空城艦が縦断する。
そのまま一直線にルーデウス達の世界に向かうが、すでに幾らかの軍勢は侵入に成功していた。
「ルーデウス。お前達の世界に敵軍を迎え撃てる戦力が残っているか?」
甲板に降りてきたルーデウスにアノスが訊ねる。
「います。このような事態を想定して、各国の要人にも伝達済みです」
「なら、俺達が到着した頃には征服されていた。などというような事は無いな」
「無い、と信じます」
ルーデウスは気が気ではなかった。オルステッドやアレクサンダー程ではないが、多くの手練れがまだ残っている。だが、ルーデウスの脳裏を過ったのは再び異世界に行く前のことだった。
骸骨の敵にエリスが成す術もなく敗れた。しかもアノスが割って入らなければエリスは死んでいただろう。
あのエリスが敗けた敵。残っている者達は確かに強いが、犠牲は出るかもしれないとルーデウスは考えていた。いや、考えてしまっていた。
そして何よりも、シルフィ達家族の安否が何よりも気がかりだった。
「ルーデウス」
おそらく暗い顔をしていたのだろう。エリスが隣から覗き込んできた。
「なんだい、エリス?」
「大丈夫よ。シルフィもロキシーも強いもの、絶対無事よ」
エリスは微笑んでルーデウスに話しかけた。愛する夫を安心させるために。
「…そうだねエリス。急ごう、みんなが待ってる」
「ええ!」
そうしている内に飛空城艦はルーデウス達の世界の目前まで辿り着いた。
『アノス様、どうしましょうか?』
「かまわん。ミサ、そのまま突っ込め」
『分かりました!』
飛空城艦はさらに加速してルーデウス達の世界に接触する。
強大な波動のような力で押し出されそうになりながらも、なんとか世界の壁を超えた。
--------------------------------------------
ラノア王国、魔法都市シャリーア
ルーデウス邸
ルーデウスの邸宅の周囲に侵攻してきた魔王軍の軍勢に敵対する人影があった。
ロキシー・M・グレイラット。ルーデウスの2人目の妻であり、魔術の師匠である。
「『静かなる氷人の拳。アイシクルブレイク』!」
ロキシーが放った氷撃が敵軍を吹き飛ばす。直後、ロキシーの横をすり抜けるように駆けだした者がいた。
エリナリーゼ・ドラゴンロード。ロキシーの旧友であり、シルフィの祖母にあたる女性だ。豪奢な金髪ロールを靡かせて氷撃を逃れた敵を倒していく。しかし、敵兵士は頑丈で1人倒すのも一苦労だ。
邸宅を挟んだ反対側では、リニアとプルセナが敵の軍勢と交戦していた。
邸宅の中ではシルフィが子供達と共にいた。子供とルーデウスの母のゼニス、アイシャの母のリーリャもいる。
「ルディ………」
ここにいない愛する夫の名を呟きながら子供達を抱き寄せる。
邸宅の外では戦闘の音が轟いていた。
「ロキシー。これが以前話していた異世界の敵ですの!?」
外で戦うエリナリーゼが訊ねる。ロキシーは攻撃魔術を放ちながら答える。
「おそらくそうでしょう、以前より強くなっているのが気になりますが。ルディ達が行っている状況で攻めてきた意図が分かりません」
「ルーデウス達は戻って来るんですの!?」
「この状況を知っていれば戻って来ると思います」
「倒してもキリがありませんわよ!?」
そこに大きな影がかかる。
ロキシー達は頭上を見上げて絶句する。
「なんですか、あれ!?」
「城が、飛んでますわよ!」
頭上に辿り着いた飛空城艦から2人の人影が降りてくる。
「ロキシー、無事ですか!?」
「助けに来たわ!」
ルーデウスとエリスだった。
--------------------------------------------
「ルーデウスはロキシー達と合流出来たな。…さて、俺達も行くか!」
ルーデウスとエリスが無事に降り立ったのを確認すると、リムルはアノスを向く。
「ルーデウスが言っていたアリエルとやらの元へ行くべきだろうな」
「そうだな。まずはそこに行こう」
飛空城艦はアスラ王国の方角へと向かった。
アスラ王国へ向かう道中に、敵の軍勢がアノス達と同じ方角を目指しているのが確認できた。
アスラ王国へ辿り着くと、既に戦闘が始まっていた。各地で散発的に戦闘が起きていたが、最も大規模な戦闘が繰り広げられているのは首都である王都アルスだ。
中央に位置する王城シルバーパレスから城壁と居住区画が交互に囲った大都市である。
その最も外側に位置する街並みは、この世界を蹂躙せんと進軍する真・魔王軍の軍勢で溢れていた。
活気に満ちた街並みは戦場と化し、魔王軍と王国騎士団が激しく剣を交える。
その最前線で戦っている戦士の中に、ギレーヌ・デドルディアの姿があった。
現在ルーデウス邸で戦っているリニアの叔母にあたり、ルーデウスの剣術の師匠でもある。
ルーデウスの世界にある剣術の流派の1つ『剣神流』の中で『剣王』の称号を持つ手練れだ。
「こいつらは、ルーデウスが言っていた敵か! どれだけいるんだ!」
敵を斬り倒しながらギレーヌは押し寄せる敵の軍勢を睨みつける。
敵軍は次々と押し寄せてくる。戦闘は消耗戦に移りつつあった。
王城から戦闘の様子を見守る者が2人いた。
国王アリエル・アネモイ・アスラと護衛のルーク・ノトス・グレイラットである。
「あれがルーデウス様の言っていた異世界の魔王軍ですか…。勝てると思いますか、ルーク?」
編み込みの入った綺麗な金髪を靡かせながら、アリエルは城下の戦闘を見守っていた。
傍に控えるルークも同じく城下を見ている。
「ギレーヌやドーガ達が戦線を食い止めてくれていますが…。このままでは消耗戦になります、見たところ敵の戦力は逐次増援されていますから、こちらの不利は変わらないでしょう」
「このままでは戦線を支えきれず、敵軍がこの城まで辿り着くかも、ということですか?」
「考えたくありませんが…」
ギレーヌ達がいる前線からは見えないが、アリエル達がいる王城からは増援の姿が僅かだが確認できる。
しかも、王城の警備にあたっている兵士からの報告では多方面から軍勢が迫っているという。
増援が到着すれば、現在の戦線は物量差で崩され、王城へと攻め込まれる可能性は大いにあった。
「しかし、この状況をルーデウス様やオルステッド様が黙って見ているとは思えません。なにか対策を講じているはずです、それまで持ちこたえましょう」
「ええ、そうですね。ここを持ちこたえ………、あれは?」
ルークが彼方からこちらへ向かってくる光を指さした。
それが人だと分かったのは、その〝光〟が自分達の目の前まで来たからだ。
「えっと、アリエル王女ですか?」
長めの銀髪に黒い軍服。リヒトーだ。
「そうですが…。あなたは?」
アリエルは表情を崩さずに答える。隣のルークは剣に手を掛けて警戒している。
「ルーデウスの知り合いのリヒトー・バッハと言います。あなた方の加勢に来ました」
「ルーデウス様の? 加勢は助かりますが、あなたお1人ですか?」
「いえ、他にもいますよ。もうすぐ到着します」
「…わかりました。では、加勢をお願いいたします」
「よろしいのですかアリエル様!?」
疑念をぶつけるルークに、アリエルは振り向く。
「この方達は、ルーデウス様の〝対策〟でしょう。なら、信じるしかありません」
「…分かりました」
ルークの言葉を聞き、アリエルはリヒトーに向き直る。
「ではリヒトー様、どうかお願いいたします」
「分かりました」
リヒトーはそう答えると、王城の窓枠を蹴って跳躍し。そのまま最前線へと降り立った。
--------------------------------------------
リヒトーに少し遅れる形でアノス達が乗る飛空城艦も王都アルスに辿り着いた。
『閃撃の撃墜王』と呼ばれるリヒトーは光速で移動することができる。
なので、リヒトーを先に行かせて、アノス達は魔王軍の増援を片付けながら来たのだ。
「なぁミーシャ、リヒトーの様子は見えるか?」
リムルがミーシャに訊ねると、ミーシャは王都の方角に魔眼を向ける。
「もう戦ってる」
「なら、アリエル王女に〝挨拶〟出来たってことだな。俺達も到着次第、加勢しよう」
「どうやら機甲部隊もいるようね。あれには銃弾が効かないわ」
トーカが双眼鏡で敵軍の一角にいる機工隊を見る。
「それはエルやノウゼン大尉達に任せよう」
隣のハルトが戦闘準備をしながら言う。トーカは「そうね」と短く言うと、自身の銃の準備にとりかかった。
「ミリーゼ。ノウゼン達の機体は、この高度からの降下に耐えられるか?」
アノスが艦橋に待機しているレーナに訊ねると、レーナは少し思案してから口を開いた。
「機体を牽引する土台のようなモノがあれば可能です。現に、その方法で戦場に投入されたこともありますから」
「〝土台〟とは、どのようなモノだ? 板のようなモノでよいのか?」
「形状は大まかに言うと板ですが。スラスター…、地面に対して反作用の力を発する必要があります」
「降下しつつ地面に対して何らかの力を発して、落下速度を減速するということか?」
「そうです」
「反作用か…。難しいな」
アノスとレーナの会話を聞いていたリムルが頭を抱える。
すると、レーナが何やら反応する。
「…いえ、しかし。その方法は現実的なのですか? …はい、はい、分かりました」
独り言のような、会話のような言葉を発していたレーナがアノスに視線を向ける。
「可能な限り高度を下げた後、レギンレイヴを投下してください」
「…いいのか?」
「大丈夫です。本人達も承諾済みです」
「今の独り言は、ノウゼン達との会話だったのだな?」
「アノス陛下にはお見通しでしたか…」
「俺達の世界で言うところの『リークス』のような技術がミリーゼ達の世界にもあるということだな」
「そのとおりです」
「では、高度を下げよう。ノウゼン達を投下した後、飛空城艦は上昇し、空からの支援にあたれ」
「はい、アノス様。高度を下げます!」
ミサの合図と操艦で、飛空城艦は高度を下げていく。艦底が地面に擦るギリギリのラインまで降下すると、レーナが指示を出す。
「『スピアヘッド戦隊』降下してください!」
「「「「「了解」」」」」
レーナの指示を受け、5機のレギンレイヴが飛空城艦から戦場に投下される。
シンエイの『アンダーテイカー』、ライデンの『ヴェアヴォルフ』、セオの『ラフィングフォックス』、アンジュの『スノウウィッチ』、クレナの『ガンスリンガー』が戦場に降り立つ。
着地姿勢をとり、機体への負荷を最小限に抑えつつ着地する。着地後、一拍置いた後、5機のレギンレイヴは敵機工隊へ向けて進撃を始めた。
先頭を行くのは『アンダーテイカー』。その後背に『ラフィングフォックス』と『ヴェアヴォルフ』が続き、最後尾を『スノウウィッチ』と『ガンスリンガー』が続く形だ。
その後、上昇する飛空城艦からエルネスティのイカルガが発進していった。
「大攻勢の時と同じようなことをするとはのぉ、ミリーゼ?」
艦橋にフレデリカが上がって来る。レーナはフレデリカを視界に収めて口を開く。
「前回よりも酷い方法ですが、現状ではこの方法が最適だと判断しました」
「シンエイ達も慣れたものなんじゃろうな。一切臆せず行ったわ」
「機工隊は彼らに任せましょう」
「では、俺達もそれぞれの戦場に降りるか」
「そうだな」
リムルとアノスは顔を合わせると頷き合い、艦橋を後にする。
「オルステッド様はどうされますか?」
リムル達に続いて艦橋を降りながら、アレクサンダーはオルステッドに訊ねた。
「アリエルに会ってくる。状況を全て把握してはいないだろうからな」
「僕は父さんの加勢に向かいます、よろしいですか?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます!」
アレクサンダーは喜々として降下していった。
「アノス、リムル」
降下姿勢に入った2人にオルステッドが声をかける。
2人は「なにごとか?」といって様子で振り返る。
「力を貸してくれたこと、感謝する」
オルステッドの言葉を聞いた2人は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔を浮かべて言った。
「仲間なんだ。お礼は無しだぜ、オルステッドさん」
「俺達は前回の戦いから、共に戦うと決めた仲だ。礼など不要だ」
そう言うと2人はそれぞれの持ち場へと降下していった。
そんな2人の姿を見送るオルステッドの口元には、僅かに笑みがこぼれていた。
お読みいただきありがとうございました。
帰省の為、次回の投稿も遅れそうです。ご容赦くださいませ。
それでは、次回でお会いしましょう。