無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
魔国連邦編はもう少し続きます。
「また貴様か、アノス・ヴォルディゴード!」
ローズバルトが拳を振りかぶる。振りかぶった拳に雷が纏わり、アノス目掛けて振り下ろされた。
「ベブズド」
アノスは右手を漆黒に染めて受け止める。それによって発生した衝撃波で敵味方問わず周囲を吹き飛ばした。
ベニマルはゲルドが構えた盾に身を隠してやり過ごした。
しかしガビル達はそのまま吹き飛ばされた。
「サーシャ。リムルの配下が吹き飛んだ、何とかせよ」
リークスによってサーシャに話しかけると文句の嵐だったが、サーシャは大人しく従った。
「ベニマル、ローズバルトは任せろ。お前は本陣に戻り指揮を執れ」
「しかし、アノス殿。俺は―――」
「リムルも異変を感じて駆けつけるはずだ。主が帰るまでこの国を守りきるのがリムルの右腕であるお前の役目のはずだ。違うか?」
ローズバルトの拳を受け止めてパワーが拮抗したままアノスは諭すように話した。
「…かたじけない!」
そう言い残すとベニマルは本陣へと後退していった。
「たとえ貴様でも今の我を止めることは出来ぬ!」
「また滅ぼされたいようだな、ローズバルト」
アノスは右手で掴んだままのローズバルトの拳を振り払うと、ローズバルトの顔面目掛けて回し蹴りを繰り出した。
アノスの足は確実にローズバルトの顔面を捉えたが、ローズバルトは繰り出された脚を掴むと勢いよく振り落とした。
アノスは地面に叩きつけられるが受け身を取って後退する。
そしてローズバルトへ向かってジ・ノアヴスを放った。
黒き雷撃がローズバルトに纏わりつく。根源、魂を喰い続ける雷撃を受けてローズバルトは苦悶の声を上げるが。
「効かぬ、これしき!」
体を振り払うようにして捻り、ジ・ノアヴスを払い消した。
「ほう、このレベルの魔法も効かなくなっているとわな。リムルの世界に侵攻したのも、その強さゆえの自信か?」
ジ・ノアヴスを払ったローズバルトに賞賛を送りながらもアノスは攻撃の手を緩めない。
すかさずローズバルト目掛けてジオ・グレイズを放った。
放たれた漆黒の太陽は真っすぐローズバルトへと迫る。しかし、その大きさは普段アノスが使用するときよりも小さかった。
「この世界では少し勝手が違うようだな」
放ったジオ・グレイズの違和感を探りながらアノスは嘆息する。
ジオ・グレイズはローズバルトの目前に迫る。そしてローズバルトに直撃した。
「効かぬと言ったはずだ!」
ローズバルトは右腕でジオ・グレイズを払うと地面を蹴ってアノスに肉薄する。
そのままの勢いのまま繰り出された蹴りをアノスもまた蹴りで受け止めた。
「前回とは比較にならんな。何があった?」
前回はアノス1人でローズバルトを倒した。そこまで苦戦せず、だ。
しかし今回、今アノスの眼前にいるローズバルトは前回より遥かに強くなっている。
生き返った際に強くなったと考えていたアノスだったが、少し違う理由だと考え始めていた。
「最早〝適応者〟は貴様達だけではない、ということだ!」
ローズバルトは答えた。答えても何ら損が無いからだろうか、それとも別に意図があるのか。
どちらにしてもアノスにとって今重要な情報は1つ。
「お前も〝適応者〟になったということか?」
「我は世界を渡る術を得た。龍神のいる世界、そしてこの世界にも侵攻した。この次は貴様の世界に侵攻する、そして蹂躙する。我等はまだ強くなる、貴様達が束になっても意味が無いほどにな!」
「させると思ったか?」
アノスがそう言った直後。4つの人影がアノスの背後に降り立ち砂煙を上げた。
降り立った人影の片方が砂煙を払うようにしてローズバルトに肉薄する。〝それ〟は鎧だった。いや、よく書籍で見る騎士のような鎧ではない。
細身とは言えないフォルムは若干ゴツゴツした見た目をしており、その左手には巨大な盾を持ち、右手には銃身が剥き出しのガトリングを装備している。
鎧は左手の盾でローズバルトを弾き飛ばした。
後方に弾き飛ばされたローズバルトにもう片方の人影が迫る。
その正体はローズバルトも知る者だった。銀髪と白のコートを靡かせて肉薄するその人物は。
「龍神オルステッド!」
ローズバルトは吹き飛ばされながらもオルステッドを視界に捉えていた。受け身を取り、迫るオルステッドを迎え撃つために構える。
しかし、左右に気配を感じたローズバルトは地面を蹴って跳躍する。
その気配はローズバルトを追うように上昇すると、ようやくローズバルトにも正体が分かった。
長い黒髪を靡かせて、学園の制服をマントのように肩に羽織った少女。もう一人は黒い軍服に身を包み、刀身の長い刀を抜刀姿勢で構える長身の男。
「武神と閃撃か!」
川神百代とリヒトー・バッハの2人であった。
リヒトーが放った光速の斬撃がローズバルトを捉える。ローズバルトは躱しきれないと判断して防御の態勢をとる。
リヒトーの斬撃による傷は浅いが、それによって空中での態勢を崩されたローズバルトは、続く百代の拳をモロに受けて地面に叩きつけられた。
叩きつけられる瞬間に受け身をとり、態勢を立て直すが、そこにオルステッドと魔導鎧を身に纏ったルーデウスが追撃する。
オルステッドが放った『光の太刀』による斬撃を手を合わせるようにして受け止めるが、防ぎきれずその身に斬撃を受けた。
そこにルーデウスが『岩砲弾―ストーンキャノン―』を連射して牽制する。
「小賢しい!」
両腕をクロスするように構えてストーンキャノンを防いでいたローズバルトだったが。そのままルーデウス目掛けて突進した。
「な!?」
突然のローズバルトの行動に意表を突かれたルーデウスにそのままローズバルトはタックルをくらわせる。
ルーデウスは後方に吹き飛ばされるが、どうにか立ち上がった。しかし、魔導鎧に与えられた衝撃が思いのほか大きいのか動きがぎこちない。
「援護をしろ、ルーデウス!」
その様子を見たオルステッドは即座にルーデウスを後退させると、アノスと並び立った。
ローズバルトの背後にはリヒトーと百代がいる。挟み撃ちの状況が完成した。
「…アノス」
オルステッドが隣のアノスに声をかける。
「お前の言いたいことは分かっているぞ、オルステッド」
アノスもオルステッドの言わんとすることを察していた。
「このままでは平行線だ」
「分かっている。仕掛けるぞ」
アノスの合図でオルステッド達も動いた。
1番に仕掛けたのはリヒトーだ。リヒトーはローズバルトに肉薄すると、握った刀を横薙ぎに一閃した。
光速で放たれた斬撃は衝撃波となってローズバルトに直撃した。しかしローズバルトの胸元に横一文字の傷を付ける程度だった。
続いてオルステッドが光の太刀を放ち肉薄すると、ローズバルトの両目目掛けて手刀を突き出した。
しかしローズバルトはそれに対応し、突き出された手刀を掴むと、投げ飛ばそうと振りかぶる。
「させるか!」
しかし百代が突き出した拳から放たれたエネルギー波によってローズバルトの全身の骨が軋みを上げる。
「ぐぅ!」
苦悶の声を上げたローズバルトはオルステッドを離すと攻撃対象を百代に変更した。
ローズバルトは雷撃を拳に纏わせると百代へと突き出す。
百代はガードするが、雷撃によって僅かに腕が痺れた。
しかし百代は構わず拳を打ち込んだ。
「川神流。無双正拳突き!」
高速で突き出された拳はローズバルトの腹部を捉える、深く抉り込んだ。間髪入れずもう片方の拳を叩き込む。
「その程度か武神!」
百代の正拳突きを連続で受けても尚、ローズバルトは反撃出来た。
繰り出された拳を避ける為に上体を逸らすが、突き出された拳によって発生した衝撃波が百代を吹き飛ばした。
「ぐぅ、クソっ!」
空中で受け身を取り着地をした百代に追撃するためローズバルトは地を蹴った。
しかし正面に回り込んだリヒトーがローズバルトの首へと刀を振るった。
閃光。光の速度で放たれたその斬撃は確実にローズバルトの首を捉え、そのまま滑るようにローズバルトの首へと刃を食い込ませる。
「フンッ!」
突如ローズバルトの首が金色に輝き、リヒトーの斬撃を弾き返した。
それでもリヒトーは斬撃を放つが、金色に輝くその肌に悉く弾かれた。
「〝金剛〟か。デヒブよりも強固なようだな」
アノスが漆黒に染めた指先をローズバルトの胸元へと抉り込ませる。ローズバルトは闘技『金剛・極―きわみ―』によって防ぐが、徐々に指が食い込んでいく。
「先程の発言は撤回しよう。我はまだ最強ではないようだ」
ローズバルトが拳を振りかぶる。狙いはアノスだ。
アノスは動かない。いや、動けない。アノスがベブズドで漆黒に染めた指先を食い込ませた胸元。徐々に突破されようとする金剛・極のその上、アノスの指に被せるようにローズバルトは金剛・極を重ね掛けた。
これまでとは違う金剛を見たアノスは僅かに驚いたが、それでも余裕の表情を崩すことはなかった。
「重ねた程度で。俺を捕らえたと思ったか?」
アノスが発したと同時に振り下ろされた拳をオルステッドが水神流奥義『流―ながれ―』によって受け流す。
振り下ろされた拳の威力をそのまま別方向へと受け流し、ローズバルトの態勢を崩した。
それによって金剛・極が解かれ、アノスは解放される。
「『焦死焼滅燦火焚炎―アヴィアスタン・ジアラ―』」
炎を纏わせた拳を振りかぶり、アノスはローズバルトに肉薄すると。そのまま拳を腹部へと打ち込んだ。
--------------------------------------------
時は少し戻り。
魔国連邦の南より進軍してきたローズバルト軍をゴブタやハクロウ達が食い止めていた。
ローズバルトがいる北西方面に次いで激戦区となった南方戦線にもベニマルの指揮のもと多くの戦力が割り振られた。
そんな南方戦線にもローズバルトは幹部を投入しており、ハクロウとゴブタがそれぞれ戦っていた。
敵幹部のミニッサ、グワッツェ、ガイコツの内。ミニッサの相手をゴブタが、グワッツェの相手をハクロウがしていた。
ガイコツの相手は遅れて合流したガビルがしていたが、3人とも決め手に欠け、徐々に押されてきていた。
「こ奴ら、前回の敵よりも強い」
グワッツェの剛腕から繰り出されるパンチを躱しながらハクロウが言葉を漏らす。
魔国連邦において最強の剣士であるハクロウでさえ、グワッツェの剛腕は脅威であった。
放たれた拳を回避しつつ剣戟を浴びせるが、グワッツェの巨体に僅かな切り傷を付けるだけに留まっていた。
「随分硬いのぉ」
「鍛えているからな。この程度では倒れん!」
グワッツェは一度ハクロウから距離をとると、両拳を腰だめに構える。
すると大気が揺れ、グワッツェを中心に渦を巻いていく。強大なオーラが発せられ、ハクロウの肌にビリビリと伝わる。
グワッツェは大きく息を吐くと、吐いた息を補充するように吸い込んだ。
そして息を止め、一拍置いた時だった。
「ワイド・ボーン!」
腰だめに構えていた両拳を同時に前方に突き出した。突き出された拳からビームのように白いオーラがハクロウへと放たれた。
ハクロウ目掛けて一直線に放たれたオーラ。ハクロウはそのオーラを横に飛び退いて躱すが、オーラは意思を持ったように軌道を変えた。
ハクロウが何度避けても軌道を変えて追尾してくる。
「貴様達が以前戦った魔王軍幹部は、ただの尖兵。ザコだ」
オーラを躱し続けるハクロウを眺めながらグワッツェは喋りだした。
その表情は実に下卑た表情をしていた。
「だが今回は違う。こちらの戦力は十分にあり、ローズバルト様は力を強くした。これから、〝惨劇〟が始まるぞ」
グワッツェの話をハクロウは流しで聞いていた。
ローズバルトの強さに関しては真実だろうとハクロウは思った。ベニマルが手酷くヤラレたという報告はハクロウにも届いていた。
アノスが加勢して撤退することが出来たと聞いたが、そのアノスでも1人では倒しきれなかったようだ。
「…たしかにお主らは強いのじゃろう」
ハクロウは回避を止めて立ち止まる。背後からはオーラが迫って来る。
「なんだ、諦めたのか?」
「そうではない。ただ逃げ回るのに飽きただけじゃ」
そう言い放ったハクロウは振り向きざまに刀を一閃した。
その剣筋は、オーラを切り裂き霧散させた。長年研鑽され、磨き抜かれた剣技をもって、ハクロウはグワッツェの攻撃を無力化したのだ。
「お主先程〝惨劇が始まる〟と言っておったの?」
「たしかに、言ったな」
自身の渾身の攻撃を無力化されたグワッツェは内心焦っていた。しかし平静を保ち、冷静に会話する。
「それをワシらが許すと思ったか?」
「許す許さないの話ではない。これはローズバルト様の計画を完遂するための道だ。そして、道に落ちている石は蹴ってどかすのが道理だろう?」
その言葉を聞いたハクロウ達の表情が怒りで険しくなった。明確な殺意を纏った表情を張り付かせ、眼前の敵を睨んでいる。
無論、その殺気は敵にも伝わっている。
そうやってハクロウ達を長髪するグワッツェを冷めた目で見ながらミニッサは嘆息する。
「悪趣味な挑発ですね。言っていることは正しいんですが」
「余所見とは、迂闊っスね!」
僅かに生じた隙を逃さずゴブタが仕掛ける。しかしミニッサはそれを難なく躱すと、二刀流による反撃を加えた。
攻撃を回避されたゴブタは一撃目は刀で受け流したが、続く二撃目をいなすことが出来ず腹部に裂傷を受けた。
「ぐっ!」
苦悶の声を上げながらもその場から飛び退き距離をとる。
「首を狙ったのですが。外しましたか」
ミニッサが剣を構え直しながら涼しげな表情で言う。
そんなゴブタを援護するためにガビルが駆けつける。
「お退がりを、ゴブタ殿!」
ガビルがゴブタの前に立ち、ミニッサを睨みつける。ゴブタは刀を構え直してガビルの横に並ぶ。
「大丈夫っスよ、ガビルさん」
「しかし無理をしない方が!」
「リムル様が戻ってくるまで、何としても死守するっス。こんなところで負けたくな―――」
「―――でぇもなぁ、お前ぇ弱いかぁらなぁ」
そんなゴブタの背後に先ほどまでガビルと戦闘していたガイコツが現れた。ガビルが駆けつけたことで手が空いたガイコツがゴブタに奇襲を仕掛けたのだ。
ゴブタはガイコツへと刀を横薙ぎに振ったが、振った刀は刀身を抉られるように消滅した。
「無意味だぁぜぇ、おぉとなしぃくしろよぉ~」
ガイコツの手がゴブタの頭へと伸ばされた。ゴブタは飛び退くが、次元の裂け目が目の前に現れて手を伸ばしてきた。
ガイコツの伸ばした腕の肩から先が次元の裂け目に飲まれて、実体的、物体的な距離を超えてゴブタの眼前に伸ばされたのだ。
ゴブタの頭に伸ばされた手は、どこまでも次元の裂け目の位置を変えてゴブタを追尾する。
「させぬ!」
ガビルがガイコツに攻撃するが、ミニッサによって妨害される。
「させないのはこちらです。邪魔はさせません」
「ミィニッサァ、もうぅ少しぃだぁ。持ぉちこたえてぇくれぇよぉ~」
「さっさとしてください」
ミニッサはそう言うとガビルの槍『水渦槍―ボルテクス・スピア―』の刺突をいなす。
突き出された矛先を二刀の剣をクロスさせて地面に固定させると、ガビルの顎を蹴り飛ばした。
よろめいたガビルの腹部を続けざまに蹴ると、ガビルの口から胃液のような物が漏れた。
その一部がミニッサの服に掛かると、ミニッサの表情が険しくなった。
「汚いですね、勘弁してもらいたいものです!」
ミニッサはボルテクス・スピアを地面に固定していた二刀の内、一振りを引き抜くと、ガビルの背後に回り込んだ。
顎を蹴られ、続けて腹を蹴られて意識が朦朧としているガビルだが。なんとか反応してボルテクス・スピアを勢いよく地面から引き抜きミニッサへと一閃。
しかし矛先は虚空を裂いた。
「どこを見ているのですか?」
ガビルの背後に回ったミニッサがボルテクス・スピアが引き抜かれた際に空に舞ったもう一振りをキャッチする。
そのまま剣を二刀とも上段に構えて。
振り下ろした。
振り下ろされた剣はガビルの翼を斬り落とした。両翼ともである。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
ガビルは痛みに悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
「ガビル!?」
「ガビルさん!?」
ハクロウとゴブタはガビルの元へ駆けつけようとするが、グワッツェとガイコツによって阻まれる。
「終わりです」
ミニッサが剣先をガビルの頭に向ける。
「や、やめるっス!」
ゴブタは必死の形相で叫ぶが、ガイコツの手がゴブタを射程範囲に捉えた。
「ひとぉの心配ぃを、してるぅ場合ぃかぁ?」
ガイコツのあるはずのない眼が、薄気味悪く光った気がした。
「クソっ! やめろっスゥゥゥゥ!」
ゴブタが必死の叫びを放った。
次の瞬間であった。
ガイコツとミニッサが突如、地面にめり込むように倒れ込んだのだ。
「随分と状況が悪いみてぇじゃねぇか」
「この国を守ろうとするその信念、見事だ」
「お節介でしょうが、手を貸します」
〝重撃の撃墜王〟道安武虎
〝アルシア王立軍総司令〟ジェイル・マードック
〝追撃の撃墜王〟園原水花
3人の戦士が加勢に来た。
お読みいただきありがとうございました。
それでは次回でお会いしましょう。