無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
今回も楽しんで頂ければ幸いです。
降り立った〝モノ〟は〝巨人〟だった。
いや。〝巨人〟といっても人間を巨大化させたものとは違った。
鈍い銀色に輝き、ゴツゴツとした武骨な巨体。
人体のような曲線など一切無く、機能美を追求したかのような角ばったフォルム。
それはまさに。アニメに出るような〝巨大ロボット〟であった。
「デカいな」
リムルは巨大ロボットを見上げて固唾を飲む。
「いいぞ、いいぞ。獲物がデカいとワクワクしちゃうな!」
「うわぁ…」
呑気に感嘆の声を漏らす百代とは対照的にルーデウスは呆気に囚われている。
「ガモッサ、後は任せる」
ローズバルトは頭上のロボットを見上げてそう言うと、リムル達に背を向けて歩き出した。
「逃がすか!」
リムルは翼を展開して追撃しようとするが、巨大ロボットが立ち塞がる。
「図体ばかりで、邪魔だな」
リムルの背後からアノスが躍り出ると、巨大ロボットの眼前まで上昇してジオ・グレイズを放つ。
ジオ・グレイズを顔面にモロに受けた巨大ロボットは僅かに怯んだようだったが、それでも破壊までは出来なかった。
アノスに続くようにリヒトーと百代が跳躍する。
リヒトーが巨大ロボットの脚部と下腹部の付け根を一閃するが、浅い一本に傷を付けるだけだった。
「川神流、星殺し!」
百代が両掌を合わせてエネルギーを圧縮する、そして最大まで圧縮されたエネルギーを右手から巨大ロボットへ向けて放った。
放たれたエネルギー波はさながらビームのように巨大ロボット目掛けて一直線に進み、その腹部に直撃した。
しかしそれでも、巨大ロボットの腹部を僅かに焦がす程度であった。
巨大ロボットはその極太な腕を振り上げると、百代へ向けて振り下ろした。
巨大な拳は百代を正確に捉え、そのまま地面へと叩きつけた。
巨大な質量にものを言わせたその一撃は地面にクレーターを形成し、爆音と土煙を上げる。
巨大ロボットが地面から腕を上げる。
『まずは1人』
巨大ロボットから声が聞こえた。
「お前は誰だ?」
そう訊ねるアノスに対して巨大ロボットは向き直る。
『我は魔王軍幹部12柱の1人、ガモッサ。ここで貴様達を排除する』
そういうと巨大ロボットは再び拳を振り上げる。その視線の先にいるのはルーデウスだ。
『これで2人目だ。覚悟し―――」
「―――おいおい、勝手に殺すなよ」
ガモッサは声がした方向に視線を向ける。そこは先程、百代を叩きつけた場所だった。
砂煙が晴れて、声の主が姿を現した。
その者は地面を蹴って跳躍すると、巨大ロボットへと肉薄する。そして先程百代が『星殺し』を食らわせた腹部に張り付いた。
「『星殺し』が効かないなら、至近距離でどうだ?」
声の主、百代は不敵な笑みを浮かべると、自身の体にエネルギーを収束させる。
「川神流、人間爆弾!」
そして百代の体からエネルギーが放出される。それは大爆発となって周囲を揺らし、巨大ロボットをも揺らした。
怯み、よろめく巨大ロボット。数歩後退すると、地面を踏みしめて態勢を整える。
着地した百代の体はどこにも怪我が無く、ピンピンしていた。
「おい百代、大丈夫なのか?」
リムルが訊ねるが、百代は涼しい顔をしている。
「私には『瞬間回復』があるからな。自爆しても瞬時に回復するんだ」
「無敵じゃん!」
「流石に一回の戦闘で使用できる上限はあるけどな」
「頼りにさせてもらうよ」
そう言ったリムルは巨大ロボットに向き直る。
巨大ロボットは再び拳を振り上げるが、この戦場に割って入る者がいた。
「おぉ、巨大ロボット。リアル系ではなくスーパー系ですね! 無駄なものが無いシンプルなデザイン、たまりません!」
敵にさえ興奮を覚える者はリムル達側に1人しかいない。
自身も巨大ロボットを駆り、そして生粋のロボットオタク。
そう―――
「破壊するのは勿体ないですが、仕方ありません。あなたの雄姿は僕の心の中に生き続けます!」
―――エルネスティだった。
イカルガが巨大ロボットの拳を受け止める。それによって周囲に衝撃波が発生するが、リムル達はその場に留まった。
巨体同士の影が重なる。
エルネスティは受け止めた拳を押し返す為にイカルガを操縦する。イカルガはエルネスティの操縦に応えるようにガモッサの駆る巨大ロボットの拳を押し返した。
拳を押し返されたことで僅かにバランスを崩す巨大ロボット。
『なんだと!? 我が『ジャイアント・ガモッサ』の拳を押し返すだと!?』
ガモッサが驚愕の声を上げる。
(だ、ダセェ~)
その場にいるリムル達は1人の例外無く同じことを考えた。
無論。巨大ロボットの名称である『ジャイアント・ガモッサ』のことである。
「ネーミングセンスがなっていないな。そのまんまではないか?」
アノスがジャイアント・ガモッサを見上げて口を開いた。
アノスの発言に周囲の者達も「それ言っちゃう!?」的な視線を向ける。
『貴様。この名前を侮辱するか、許さん!』
再び拳を振り上げるジャイアント・ガモッサ。今度の標的はアノスだ。
『させませんよ!』
エルネスティはイカルガを操り、ジャイアント・ガモッサを突き飛ばした。それによりジャイアント・ガモッサは今度こそ態勢を崩して倒れた。
『フレメヴィーラの鬼神と戦うにはまだ足りないか。ここは、…退くべきかっ』
ガモッサの声が聞こえたと思った直後、ジャイアント・ガモッサは目的を果たしたかのように姿を消した。
そう、巨体は徐々に透明になり、消えたのだった。
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「潮時ぃだぁなぁ~」
南方戦線で戦闘していたガイコツ達も撤退を開始した。
ガイコツが開いた次元の裂け目にグワッツェとミニッサも撤退していった。
他の戦線でも敵軍の撤退が開始していた。
しかし、幹部でもない一般兵の多くはベニマルやエリス、ソウエイや清楚に倒され捕縛された。
ハルト達によって捕縛されたエンリクスの体も、塵となって消えていく。
完全に体が消える直前、エンリクスは捨て台詞が言えない代わりとばかりにハルト達を鋭く睨みつけた。
「防衛は成功、かな?」
エンリクスが消える瞬間を見届けて、ハルトはレナ達を振り返る。
「ねぇマスター。私達、勝ったんだよね?」
「この場においてはね。とにかく戻ろう、クリスが待ってる」
ハルト達SORDが参加したこの場の戦闘。その中でクリスだけは本陣で待機していた。
本来クリスは爆発物処理や陣地運営、医療活動など後方での作業を得意としており。この場の戦闘に参加せず本陣にて待機していたのだ。
「お腹すいたな~。早くクリスのご飯が食べたいよ~」
「ほんとだな姉さん。早く戻ろう」
レナとマキは特殊な出自であるため人より多く食べる、比例して燃費も悪いのだ。
そんな姉妹にとってクリスと、彼女の作るご飯の存在はとても大きいのである。
「その前にリムルさん達と合流して状況の確認だ」
ハルトは2人を振り返ってそう言った。
レナとマキは一刻も早く食事にありつきたい所だろうが、報告は必要だったため文句はなかった。
本陣に戻るとクリスがハルト達を出迎えた。
「皆さん、おかえりなさい。怪我はありませんか?」
「全員無事だよ。他のみんなは?」
そう訊ねたハルトにクリスは臨時の防衛本部の建物を案内した。
本部内にはリムル、ベニマル、リグルド、アノス、オルステッド、ルーデウス、シンエイ、レーナ、リヒトー、ジェイル、大和、一輝、刀華がいた。
「リムル様、こちらは?」
本部に入ってきたハルトとクリスを見たリグルドがリムルに訊ねる。ベニマルもリグルド同様、訝しんだ視線を向ける。
「今回から仲間になったハルトとクリスだ。仲間だからな、警戒するなよ?」
「ご紹介に預かりました、蒼井ハルトといいます。よろしくお願いします」
「鯨瀬・クリスティナ・桜子です。よろしくお願いいたします」
ハルトとクリスはベニマルとリグルドに自己紹介を終えると、中央にある大きな机を囲む輪に加わった。
「ハルト達も来たことだし、今後の方針を考えよう!」
リムルの号令で、今後の方針を決める会議が開始された。
「今回、魔国連邦が受けた被害は小さくありません。幹部を含む一部の国民が治癒不可能な傷を受けました」
ベニマルが全員を見渡しながら話し出した。
「特にガビルの受けた傷は深く、フルポーションをもってしても回復しませんでした」
「ガビルの容体はどうなんだ、ベニマル?」
リムルの問いにベニマルは表情を曇らせる。
「安定していますが、両翼を欠損したことが相当堪えているようです」
「先程ミサが治癒魔法を試してみたが効果は無かった。おそらく敵の〝武器〟に秘密があるのだろう」
アノスの言葉を受けてリムルは一度頷くと、今後の方針に関して提案する。
「敵の使用する武器には特に注意して、戦闘を展開する必要がある。これから再度、異世界に向かおうと思うけど、どうだ?」
「そう焦っても仕方あるまい」
アノスが反対する。それに同意するようにルーデウスが口を開いた。
「リムルさん。敵は前回の比ではないほど強くなっています。こちらも仲間を募って戦いに向かうべきではないでしょうか?」
「仲間を募るってのは、俺達以外の世界からということか? けど、それは難しくないか? 俺達と同じ境遇の者が新たに現れるのを待つのか?」
「いえ待ちません、俺達以外の世界を巡るんです。世界の向こう側にはまだ多くの世界があります、その内の全てとはいかないまでも共に戦ってくれる世界はあると思います」
「ルーデウスさんの言うとおりだと思います。焦って敵陣に突撃しても、確実に勝てる保証はありません」
ハルトが同意すると、さらに同意するように他の者も頷く。
無論、アノスもルーデウスもハルトもリムルの気持ちを無視する気はない。
自身の仲間と国が被害を受けたことの悔しさと怒り。一刻も早く異世界での決戦に臨みたい気持ちと確実に勝利するために戦力を欲する気持ち、今リムルはそんな気持ちの狭間にいることはこの場の全員が理解していた。
だからこそ、確実に勝つための準備をする必要があると考えたのだ。
「リムルの気持ちも分からぬでもない。だからこそ、ルーデウスの言っていることは正しいのではないか?」
アノスにそう諭され、リムルはみんなを見渡して頷いた。
「…そうだな、すまない。少し冷静じゃなかったみたいだ」
「確実な勝利を掴むための方法を探しましょう」
「そうだな。ありがとう、ルーデウス」
そう言うとリムルは隣のベニマルに目配せをする。それを受けたベニマルは一度頷くと、全員を見渡して口を開いた。
「それでは、今後の方針ですが―――」
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異世界・未踏大陸
真・魔王城
ローズバルト率いる魔王軍は一時帰還した。戦闘にて消耗した兵士の休息と補給のためである。
そして、魔王軍幹部『12柱』は魔王の間にて跪いていた。
横一列に、ただ一点に向かって。
12柱の跪く先にある玉座、そこに座すローズバルトはただただ黙っていた。
肘をつき、瞳を閉じて、ただ黙っていた。
「…次の侵攻目標は決まったか?」
長い、悠久とも感じる静寂を破りローズバルトが口を開く。
12柱は即座に答えることが出来なかった。
「…ロマール。どう考える?」
指名されたロマールはビクッと一瞬体を強張らせると、震える口をゆっくり開いた。
「魔法や闘技などが使えない適応者の世界が良いかと…」
「その理由は?」
「この短期間で〝侵攻〟した世界は4つ、デモンスライムの世界や六面世界など。異なる世界ごとの魔法が存在する世界でした」
「そうだったな。…それで?」
「一度、考え方を変えて別の概念に含まれる世界に侵攻するべきではないでしょうか?」
ロマールの考えを聞いたローズバルトはしばらく沈黙する。
「魔法が使えない適応者の世界、か…。いいだろう、準備が済み次第出発する」
ローズバルトの号令を受けた12柱が頭を垂れる。
「はっ! 必ずやご期待にこた―――」
「―――ただし」
ローズバルトが遮る。
12柱の視線がローズバルト1人に集まる。頬に添えていた右拳を肘置きに下ろしてローズバルトは言う。
「隊を分ける。ロンゴドルとガモッサとガイコツとブギョル、グワッツェとエンリクスとヴォイド、シュトライドとカシュロントとシティックの3組に分ける」
「ローズバルト様、私とミニッサはいかがすれば?」
「ロマール、お前はミニッサと共に我とここに残る」
「かしこまりました」
ロマールとミニッサが頭を下げる。
「隊を3つに分けることは分かりましたが、どこに侵攻するのですか?」
そう訊ねてきたのはヴォイド。魔国連邦への侵攻直前に合流した幹部の1人だ。
短く切り揃えられた黒髪と右手の篭手が特徴の青年だ。
「ある程度の候補はある。貴様では物足りないかも知れぬがな」
そう言うとローズバルトは右手を虚空に翳す。すると何もない空間に白濁とした球体が出現する。
その数は全部で3つ。
「これらの世界だ」
ローズバルトは口角を上げて笑みを浮かべる。
12柱は3つの球体を見つめていた。その球体の内部にはそれぞれの世界が映されていた。
「暴風竜ほどの敵はいそうにありませんね」
ヴォイドが落胆の言葉を漏らす。
先の魔国連邦侵攻時、ヴォイドは単独で魔国連邦の『暴風竜ヴェルドラ』を相手していた。
ヴェルドラはリムル達の世界で〝最強〟の一角を担う存在。
そんなヴェルドラを単独で抑えたヴォイドの評価は上がっていた。それはローズバルトからの評価も例外ではなかった。
「これらの世界は征服しても構わん。徹底的にやれ」
「しかし。ローズバルト、様!」
そこで口を挟んだ者がいた。ヴォイドと同じく魔国連邦侵攻の直前に合流したカシュロントである。
〝へ〟の字に結んだ口を尖らせるように突き出し、続きの言葉を紡ぐ。
「敵が攻めてくるかも、しれません!」
「その為にロマールとミニッサを残すのだ。貴様達も侵攻した世界で適応者と遭遇する可能性を考慮して行動せよ!」
ローズバルトが号令すると、12人の幹部が一斉に返す。
「必ずや!」
12人の決意の籠った声音が魔王の間に響き渡った。
お読みいただきありがとうございました。
次回から新章が開始します。
今後もお付き合い頂ければ幸いです。
5/18 追記:ローズバルトのセリフ(11行目)に間違いがあった為修正しました。
正しくは「ガモッサ、後は任せる」です。失礼しました。