無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
遅くなりましたが、第28話です。
「カシュロントがやられましたわ。撤退しますわよ!」
鞭を振るいステラを牽制するシティック。
シュトライドは頷くと、ステラと珠雫から距離を取り、後退していく。
「逃がすと思った?」
ハルトが二刀を構えてシティックに迫る。近づけまいと鞭を振るうシティックの背後に人影が見えた。
バニラ色の髪と赤を基調とした制服を着用した少女―――千束だった。
千束の存在にシティックはまだ気付いていない。そのチャンスを逃すまいと千束は愛銃『デトニクスコンバットマスター』の照準を定めて引き金を引いた。
放たれた銃弾は直線の軌道を描き、吸い寄せられるようにシティックの右肩と背中、それと足に命中する。
しかし、命中した銃弾はシティックを貫くわけでもなっければ体に食い込むわけでもなかった。
命中した銃弾から赤い粉塵が舞う。いわゆる〝非殺傷弾〟である。
しかし、銃弾をもろに受けた衝撃と激痛によってシティックは苦悶の表情を浮かべる。
「このまま返すわけないじゃん。大人しく掴まって、ね!」
千束がシティックに肉薄する。シティックは振り返りざまに鞭を振るおうとするが、背後からハルトの斬撃を受けて態勢を崩す。
そのまま構えたデトニクスコンバットマスターのマズルを腹部に押し当てて引き金を引く。
零距離で発射された特殊非殺傷弾が腹部に激痛を走らせる。シティックは再び苦悶の表情を浮かべるが、歯を食いしばり鞭を振るう。
シティックの周囲をなぞるように鞭は振るわれるが、千束とハルトはその軌道を呼んで躱す。
「何故ッ!? 何故、当たりッ、ませんの!?」
受けた傷と痛みによって言葉が途切れながら、シティックは自身と相対する2人に恐怖を感じていた。
「だって見えてるし。そりゃ避けるっしょ?」
千束は涼しげに答えると、照準をシティックの腹部に定めて引き金を引いた。何発も。
連続して腹部に鋭い痛みを受けて、白目を剥きつつあるシティック。鞭を振るう気力も体力も戦意も、既に無い。
「彼女の言うとおりだね」
ハルトが『不知火』と『陽炎』を振りかぶり、そして振り下ろした。
振り下ろされた刃はシティックの両腕を肩から切り落とした。それは水が川を流れるような、静かな斬撃だった。
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次元船に退避したシュトライドは、両腕を切断されて膝から崩れ落ちるシティックを視界に収める。
「シティック!」
視線の先ではシティックがリコリスによって拘束されている。
カシュロントも同様であった。リムル達の加勢に入ったレンヤにダルマにされて拘束された。
「シュトライド様! 撤退命令を!」
シティックの部下が甲板にいるシュトライドの元へやって来る。シティックから次元船の指揮を任されていた副官であり、次元船の艦長だ。
「何を言うか! 2人を助けに―――」
シュトライドが声を荒げながら振り返り、そして絶句する。目の前の艦長は涙を流し、憎悪と後悔にその表情を歪めている。
それもそのはずだ、シティックは部下に対しては優しかったのだから。
部下に対してシティックは公明正大であった。そんなシティックを慕う部下は多かった、艦長もその1人だ。
そんな艦長がシティックを〝置き去りにして〟撤退しようとする覚悟を無下にするシュトライドではなかった。
「………撤退だ! これ以上、誰一人欠けることなく真・魔王城に帰還する!」
無論、このまま帰還すれば魔王ローズバルトから厳罰を受けるだろう。
しかし、これ以上のこの世界での戦闘は無意味だと判断した。
なにより、覚悟を決めた艦長達を無駄に死なせることがシュトライドには我慢できなかった。
「…この借りは大きいぞ。必ず返してやるッ!」
上昇する次元船の艦橋からシュトライドは、既に見えなくなったリムル達を睨み続けていた。
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「敵は撤退したか…」
上昇し、撤退していく次元船を見上げながらリムルは独り言を漏らす。
次元船が可能性の奔流に出たことを視認すると、視線を落とす。視線の先には『粘鋼糸』によってグルグル巻きに拘束されたカシュロントが横たわっている。
カシュロントを囲むように周囲にはシオンとランガ、レンヤもいる。
「助かったよ。協力ありがとな」
リムルはレンヤの元に歩み寄ると、手を差し出す。レンヤはその手を握ると笑みを浮かべる。
「気にするな。共通の敵が相手だったみたいだしな、流れだよ」
「俺はリムル=テンペスト。共通の敵ってことはあんたも〝適応者〟なのか?」
レンヤはリムルの言った〝適応者〟という単語の意味が分かっていなかった。
「クナギ・レンヤだ。〝適応者〟ってのは初めて聞いたが。まぁ、魔王軍と戦っていることは確かだな」
「なら、目的は同じってことだな。よかったら一緒に戦わないか?」
「お前達とか?」
レンヤに訊ねられたリムルは一度頷くと口を開く。
「ああ。正確には俺達だけじゃないけどな。他の世界にも仲間が向かっていて、別行動してるんだ」
「一緒に戦うのは、俺は構わないぞ。魔王軍はどちらにしても1人では倒せそうにないからな」
「あらためて、よろしく」
「こちらこそな」
そう話している2人のところにリコリスの少女が1人近づいてくる。茶髪のツーブロックに紺色の制服を着用している。
「敵の撃退、協力感謝するっス。あとはこっちが引き継ぐっス、そいつを渡してもらえないっスか?」
「悪いけど、俺達もコイツには聞きたいことが山ほどあるんだ。まだそちらには渡せない」
リムルは頭をふって答える。
「そう言われても、ソイツを連れて来いってのは上の指示っスから。アシらも従うしかないんスよ」
リコリスの少女も引かない。そうしている内に少女の後方から数人のリコリスがやって来る。
(あまり揉めるのは良くないな…)
リムルは彼女達と事を構える気は毛頭ない。しかし、捕獲したカシュロントから情報を得たい気持ちもある。
「引き渡してくれないなら、気は進まないっスけど力づくで渡してもらうしか―――」
「―――サクラ、もういい」
声がした方向に全員が視線を向ける。
そこには茶髪をアシンメトリーに分けた少女がこちらに歩いてきていた。
少女は〝サクラ〟と呼んだ少女を手で制すと、リムルの元へと歩いていく。サクラとは違い、赤い制服を着用している。
そして、リムルの目の前に立つと手を差し出す。握手を求めてきたのだ。
「先の戦闘、協力感謝します。私達の仲間が別の敵を捕獲しています、その敵はそちらにお譲りします」
「いいんスか先輩!?」
少女の後ろにいるサクラが声を上げる。
少女はサクラを振り向くと「〝上の指示〟だ」と言いサクラを黙らせる。
「わかった、ありがたく譲ってもらうよ。ところで、そちらの上司と話は出来ないか?」
「理由を教えてもらえますか?」
リムルが訊ねると、少女が理由を問うてきた。
「さっきの敵の情報はそちらよりも掴んでいる。情報共有すれば今後の対策もとれるだろう?」
「…確認します」
そう言うと少女はリムルから少し離れたところで耳にはめたインカムで確認を始めた。
しばらくのやり取りの後、リムルの元に戻って来た。
「問題無いそうです。案内します」
少女に先導され、リムルは歩き出す。その途中で振り向き、シオンとランガに言伝を託す。
「ハルト達に『少し話をして来るからこの場を任せた』って伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
シオンの返事を受けて、再びリムルは歩き出した。
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ハルトの目の前でシティックが拘束される。
先のシティックとの戦闘で加勢してくれた千束と後から合流したたきなの2人が拘束用ワイヤー銃でシティックを近くの電柱に拘束した。
「え~っと、『リリベル』じゃないよね? どちら様?」
拘束を完了した千束がハルトを振り返り訊ねる。その後ろではたきなが警戒的な視線をハルトに向けている。
「SORD、と言ってもこの世界の組織じゃないから分からないよね?」
「聞いたことないな~。この世界じゃないって、どゆこと?」
「俺達はこことは別の世界から来たんだ。さっきの敵もね」
「うわぁ~、ほんとにファンタジーだなぁ」
千束が項垂れる。
そこにクリス達がやって来る。クリスは負傷したマキの手当を開始する。
「そういうわけで、敵じゃないから安心してほしい」
「まぁ、さっきの戦闘で協力してくれたし。わかった」
そう言うと千束は踵を返して歩き出す。
「東京を守ってくれてありがと」
一度振り返って礼を告げると、たきなと共にその場を去った。
千束とすれ違うようにリコリスが現着してシティックを連れて行った。
「ハルト!」
千束達が去って行った方向とは別の方向からシオンとランガがやって来る。ランガの背には拘束されたカシュロントが乗せられている。
その背後からアインズ、アルベド、ターニャとその部下、レンヤがやって来る。
「シオンさん。リムルさんは?」
「現地の司令官との話し合いに向かった。ハルトにこの場を任せると伝言を預かってます」
「それは構いませんが。リムルさん1人で行ったんですか? 危険は…、無いか」
「当たり前です!」
「ところで、そちらの方は?」
ハルトがシオンの背後にいるアインズ達を覗く。
「はじめまして。私はナザリック地下大墳墓の主、アインズ・ウール・ゴウン魔導王だ。アインズと呼んでくれれば幸いだ」
アインズが一歩歩み出て自己紹介をする。
それに倣うようにターニャ達もそれぞれ自己紹介をしていく。
最後にレンヤが挨拶を終えたところで、マキの手当を終えたクリスがレンヤに近づく。
「先程はありがとうございました」
そう言って頭を下げるクリスにレンヤは笑みを崩さず「気にするな」と言う。
「ところで、さっきの気骨のある若者はどうした?」
レンヤの問いにクリスは一瞬何のことか分からず『?』を浮かべるが、それが一輝のことだと分かり、答える。
「黒鉄さんなら、現地の方達にストレッチャーを借りて、安静にしてもらっています」
「そうか…。若いのに根性がある奴だったからな、どうなったか気になっていたんだ」
「はぁ………。若いの?」
現在クリスの目の前にいるレンヤも十分若いはずだ。なのに先程からのレンヤの口調は〝年上が年下を気にする〟ようにクリスには聞こえた。
以前読んだマンガにあった〝見た目は子供、中身は大人〟的なものなのだろうかとクリスは考えたが、詮無いことだと思い、考えるのをやめた。
「クリス達を守ってくれてありがとうございました」
そこに、アインズとターニャへのお礼を済ませたハルトが近づいてくる。
「なに、大したことはしていない」
ハルトから差し出された手を握りながらレンヤは頭を振る。
「立ち姿から見て、かなりの使い手とお見受けします」
「お前もこちらの同類だな?」
「ええ」
ハルトはレンヤの立ち姿勢を見て、〝剣術の心得があり、かなりの使い手〟と判断した。
お互い剣術を極めた者同士だからこそ分かり得たことだった。
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「まずは。先の戦闘への協力、感謝します」
DA指令室にてリムルは司令官の楠木から礼の言葉を受けていた。
「礼には及ばないよ。俺達もアノ敵には因縁があるからな」
「差支えなければ、敵に関しての情報を教えていただけますか?」
「わかった。その為にこの場を設けてもらったんだしな」
そしてリムルは魔王ローズバルトとその戦力に関して、持ちうる情報を開示した。
楠木達は最初こそ疑い半分で聞いていたが、話が進むにつれて先の戦闘との類似点なども判明したことで納得せざるをえなくなった。
「―――と、いうことなんだ」
リムルが話し終える。楠木は口元に手を当ててリムルの話を頭の中で整理している。
「俄かには信じられませんが。こうして今我々の前にあなたがいることが何よりの証拠ということですね」
「ああ。ローズバルト軍と戦う仲間は他にもいるが、現在別行動をとっている」
「他にも多くの仲間がいるのですか?」
「ここ以外の世界を巡って、ローズバルト軍の脅威を知らせて回っている。それと並行して、俺達と一緒に戦ってくれる仲間を集めているんだ」
「つまり、『我々にも協力してほしい』ということですね?」
「端的に言うとそうだ。出来るなら多くの世界と協力して対処したいと考えている」
楠木は少し考えると、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「では、我々の組織の中で最強のリコリスをお預けします」
そう言った楠木が視線をリムルの背後に向ける。
リムルもそれを追うように振り返ると、そこには千束とたきながいた。
「ちょちょちょ~い。楠木さん本気!?」
千束が素っ頓狂な声を上げる。その隣ではたきなが声を上げないまでも驚愕の表情を浮かべる。
「事は重大だ。お前とたきなに任せる」
「う~、分かったよ~」
「全力で任務に努めます」
千束とたきなはお互い反対の返事を返したが、納得はしたようだ。
そんな2人にリムルは歩み寄ると手を差し出す。
「リムル=テンペストだ。よろしく!」
千束とたきなはお互い目を合わせると、再びリムルに向き直り笑顔で握手を交わす。
「私、錦木千束です。よろしく!」
「井ノ上たきなです。よろしくお願いします」
お読みいただきありがとうございました。
今回でリコリコ世界での話は終わります。
次回からは別のチームの視点になります。
今後もお付き合い頂ければ嬉しいです。
それでは次回でお会いしましょう。